こないだの東京マラソンの記事にも書きましたが、コースの途中で神保町~駿河台下を通過する時「ここを左に行けば母校なんだよな…そういえば2月に閉館した山の上ホテル、一度は行ってみたかったけど行けないままだったなぁ」と思いながら走っていました。
多くの作家が「カンヅメ」になって小説や評論を書いていた山の上ホテル。今はどうなっているのか気になったので、水曜日(祝日)の早番勤務のあと、行ってきました。
私の職場からだと、青山一丁目まで歩き、地下鉄半蔵門線で4つ目が神保町です。
東京マラソンでは、東京ドームを左に見ながら水道橋の駅の角を右折して、白山通りを少し行くとこちら、神保町の交差点まで来ます。右の白いビルには、惜しまれつつ閉館した素敵な映画館『岩波ホール』がありました。マラソンの時はここを左折。
ちなみに、いわゆる「神田古本屋街」というのは、この交差点を左右にまたがる数百mほどのエリアです。しかも、本屋さんはこの写真でいうと道路の向う側にしかなく、こちら側には1軒もありません。そのわけは…?いつかお話しますね。(もう書いたかな?)
神保町の交差点を左折して、次の大きな交差点が「駿河台下」↑です。東京マラソンではここを直進して神田方面に向かい、左折して秋葉原~上野広小路へ向かいました。今回はここを左折します。
お茶の水の駅に向かってダラダラ坂を登ると、ありました!あの看板、そのまま残っていたんだ。良かった! ここを左に曲がって…
坂を登ったつきあたりが、山の上ホテルです。
ああ、もうフェンスで覆われてしまっていますね。
「古色蒼然」という言葉が似合う雰囲気。建物は竣工86年だそうです。ホテルとして創業70年を迎えた今年の2月、老朽化への対応のため「当面の間、閉館」となりました。でも「このまま取り壊して消えてしまうのでは」という噂も飛び交っています。
正面玄関から横に回ると、すぐに下り坂。本当に「山のてっぺん」にあるんだなと分かりますね。
このモニュメントは、古参のお客さんには懐かしいだろうなと思います。
坂をくだって振り返るとこんなふう。この界隈は猿楽町(さるがくちょう)と言いますが、びっくりするほど急な斜面なんです。建てるのは苦労したことでしょうね。
地下にあったワインのお店「モン・カーブ」の窓。ぶどうがモチーフになっています。いやぁ、私は今回初めて気がつきました。50年以上も前からこの前を行ったり来たりしていたのに。
チャペルもあったんですね~。ホテルの教会で純白のウェディングドレスを着て永遠の愛を誓う…憧れた女性も多かったでしょう。ちなみにこの教会はカソリック?プロテスタント? まぁその辺は何でもアリだったのかな(笑)
そして狭い道を挟んでホテルの真向かいにあるのが、マイ母校の校舎(10号館)。記憶があやふやですが、確か私がいたゼミが一時的に?この建物内の教室で開かれていたように思います。母校のお茶の水校舎は大部分が建替えられましたが、この10号館は当時のまま残っています。今はいろんな部の「部室」が集まっているようでした。
この建物の斜め前には、私が所属していた学部の事務館があったので、それこそ授業がある時は必ず山の上ホテルを横目でみながらこの坂道を登り下りしていたのでした。上の写真の道を右のほうへずっと行くと「アッサム」という紅茶専門店があったっけ…さらに行くと画材屋さんの「レモン」。これは今でもありますね。
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ちなみに、私が大好きな作家の故・吉行淳之介さんも、執筆のためにたびたびこのホテルに宿泊したそうです。山の上ホテルが舞台になった「不詳の弟子」というエッセイがありますのでご紹介します。『犬が育てた猫』(文春文庫)に収録。
いまでも、はっきり覚えている情景がある。15年ぐらい前だったか(マサミ注:昭和40年代前半のこと)、お茶の水にある「山の上ホテル」に仕事でこもったものの、やる気が起きないまま夕方になった。腹がすいたので、ホテル附属のてんぷら屋に出かけると、店はほぼ満員でカウンターの隅に中野先生(マサミ注:吉行さんが東京帝国大学時代に教わった、英文学者の中野好夫)が一人で腰かけて、食事しておられた。眼が合うと、先生は私を眼で制するので、黙礼しただけでもう一方の隅に腰かけた。ゆっくり時間をかけて酒を飲みながら、てんぷらを食っていると、そのうちほかの客がしだいに去り、二人だけになった。
「もう、いいよ」
と、先生がおっしゃるので、席を移動して隣りに腰かけると、
「ああいうとき、センセイ、なんて呼びかけられると眼もあてられんからな」
と、おっしゃった。
(略)
「ところで先生、ここでもう一本お酒を飲むと、たいへんいい気分にはなりますが、今夜は仕事になりませんね」
と、私が言うと、
「そうなんだよ、君、いま、そのことを考えておった」
先生が、そうおっしゃり、結局「あと1本ずつ」と注文することになった。
(以下略)
上に挙げたホテルの看板の裏に、このてんぷら屋さんの写真があったので撮って来ました。
ああ、このカウンターの向うとこっちに、吉行さんと中野好夫が座っていたんですね…一度は行っておくべきだったなぁ。ホテルのてんぷら屋さんなんて高いでしょうけどねぇ(笑)
左がシェークスピアをはじめ多くの英文学の翻訳などで知られる中野好夫。右は東大の英文学科でその生徒だった吉行さん。
(なお、山の上ホテルが経営するてんぷら屋「てんぷら山の上」は、今でも銀座、六本木、日本橋で営業を続けているそうです。地名を聴いただけで「高っ!」と叫びたくなりますが、一度は行っておかなくては)
そんなわけで、私が山の上ホテルに特別な思いを抱いているのはお分かり頂けたかと思います。ホテルが営業している間に一度は行きたいという願いは叶いませんでしたが、こうやって懐かしい風景の中をぶらぶら歩いて、満足できました。
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そして時刻は午後4時頃。せっかく神保町~お茶の水かいわいにいるんだから、ここはやっぱりカレーですよね? そう思って、駿河台下の交差点のほうへ少し下ってみました。
このあたりは「カレーの街」として有名ですが、なかでもこの一角には集中しているんです。左から時計まわりに、
「カリー&ワヰン ビストロべっぴん舎」
「スープカレー屋 オオドリー」
「インド料理 スパイスキッチン3」
「マジカレー」
「カリーライス専門店 エチオピア」
の5軒が並んでいます。本当に「並んで」いるんですよ! どのくらい「並んで」いるかというと…
文字がどうしても寝ちゃうんですけど、こうです↑。「マジカレー」「オードリー」「エチオピア」の三軒は本当に隣同士! しかもこれらのお店の間に、私も学生時代にお世話になった定食屋「カロリー」とか、オムレツ専門店も並んでいます。ほんの50mほどの間に5軒のカレー屋さんだけでも驚くのにね。
私は「神保町~お茶の水カレー食べ歩き」をライフワークとしていて(笑)、これまでに何度も記事にして来ました。「マジカレー」と「エチオピア」はご紹介済みです。今回は「スパイスキッチン3」に初めてお邪魔しました。
私が歩いて来た「カレーの旅」の中では、初めて“インド料理“をうたうカレー屋さんに入りました。
メニューが豊富で迷いながら決めたのは「ハンディ・チキンカレー」。中辛にしました。ライスは半分ですが、それでもかなりのボリューム。「ハンディ」とは、カレーが入っている容器のことだそうです。
「チキンと野菜をじっくり煮込んだ本場インドカレー」とメニューに書いてありました。1,100円。
お米も、なんかちょっと違いますよね。外米っていうの? 中辛なら意外にマイルドに感じました。でも食べていると汗が噴き出ます。鶏肉にも、トマト・ピーマン・玉ねぎなど野菜類にもカレーの味が深く染み込んでいて、「じっくり煮込んだ」という言葉が納得できる。
いやぁ、美味しかったです!私はどっちかというと、カツカレーやアジフライ定食、メンチカツ定食なんかがある「定食屋」さんのカレーが好きなんですが、「スパイスキッチン3」はまた来たくなりました。お姉さんの明るく優しい接客もナイス! というわけで、久しぶりにランキングを更新します。
<神保町~お茶の水カレーの旅 最新ランキング>
1位 キッチン南海
2位 スパイスキッチン3 ←イマココ
3位 カレー屋ジョニー
4位 マジカレー
5位 仙臺
6位 ボンディ
7位 ガヴィアル
8位 ボーイズカレー
9位 GOGOカレー御茶ノ水店
10位 まんてん
11位 スマトラカレー共栄堂
12位 エチオピア
おーっと! いきなり上位に食い込みましたねぇ。でも正直なランキングです。あの味、あのボリューム、そしてメニューの豊富さ、丁寧で気持ちの良い接客。しかも比較的安い! 1位の「キッチン南海」は“終身1位”なので仕方ないですけど、「スパイスキッチン3」は何度も通ってお馴染みになりたいと思えるお店でした。
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東京マラソン~山の上ホテル~吉行淳之介さん~カレーの旅と、テーマがどんどんブレていってしまいましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか?最後までお読みくださり、ありがとうございます。