美濃焼のふるさとを訪ねて(1日目、2日目) | マサミのブログ Road to 42.195km

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お待たせしました。やっと書けます!

昨年12月11日(月)から14日(木)まで3泊4日で岐阜県にお邪魔して、多治見~可児(かに)~土岐(とき)という美濃焼の産地を歩いて来ました。そのレポートを2回に分けてお送りします。最近の私のブログは「やきものブログ(笑)」と化してますが、まぁ、どうぞ。

 

 

 

川端康成の小説に出て来るやきものがきっかけで興味を持った私が、美濃焼の人間国宝となった故・荒川豊蔵さんの資料館(岐阜県可児市)を訪れたのは2022年5月のことでした。その時はやきもの以外にもたくさんのテーマを抱えた4日間の旅でしたけれど、今回はズバリ「やきもの」に絞った旅を計画した次第です。

 

出発までの間に、美濃焼に関する本を何冊か読んで勉強しました。

 

これらの本のほか、岐阜県の東京事務所が千代田区の平河町にあって、観光案内もしてくれるというので行って来ました。都道府県会館というビルの中なんですけど、なんと、私が仕事で使う赤坂見附の駅から徒歩数分なんです。

私がお邪魔して「やきものを見に岐阜まで行くので、美濃焼に関するパンフレットを頂きたいのですが」と頼むと、係の方がとても嬉しそうに次から次へとパンフレットをどっさり出してくださって、それがとても役に立ったのでした。現地にいけばもらえるパンフレットもありましたが、事前に読み込んでおくと全然違いますからね。

 

ここまでが事前準備。

 

 

12/11(月)

家を出て市営地下鉄で新横浜へ。新幹線で名古屋。中央本線に乗り換えて多治見のひとつ手前「古虎渓」で降りました。

 

前回岐阜県に訪れた時は通過した駅なんですが、その時に車窓から見えた駅名と周囲の景色がものすごく印象的だったんです。だって「古い虎の谷(渓)」ですよ? 見える景色は、かなりの川幅の川と鬱蒼とした木々ばかり。たまたま今にも降り出しそうな曇り空だったこともあって、すべてがモノクロ。まさに「寂滅」という言葉が思い浮かぶような寂しい光景でした。

ところがトンネルを抜けて次の多治見に着くと景色は激変して、大きなショッピングセンターやマンションなどが立ち並ぶ都会になってしまうんです。その変化の激しさがものすごく印象的で脳裏にこびりついて「今度は絶対に『古虎渓』の駅で降りてみよう!」と決意したのでした。駅名の由来など調べたのですがちょっと分からず残念。

 

 

線路のすぐ下に土岐川が流れています。前回来た時と違って気持ち良く晴れていたせいか、あまり寂しい雰囲気はありませんでした。川沿いの道を歩きます。

 

 

すぐこの看板を発見。「市之倉」というのは窯元が多い町で、その真ん中を通る道は「市之倉オリベストリート」と呼ばれています。それを目指してここを右折。いきなり坂を登ることになります。

 

 

 

 

だらだらした坂を30分ほど登ると、なんとなくそれらしい町並みに入りました。

 

 

こういう建物なんかもあって、見るからに「やきものの町」らしいんですけど「どうぞいらっしゃい、見てって!」的な、観光客を引き込もうとするフレンドリーな雰囲気(商売っ気とも言う)が感じられないんです。「工房」はあるけど「お店」はないから、なんか入りづらくてスルーしてしまいました。

 

 

そのうち、地図に出ている「市之倉さかづき美術館」の看板を発見。入ってみようと近づくと…この建物は東濃信用金庫でした(笑)これはトラップだよなぁ。

 

 

東濃信用金庫の奥にあるのが、こちらの「市之倉さかづき美術館」。この地方では古くからやきものが栄えましたが、各地で同じようなものを作って共倒れしないように、作るものを分担したんだそうです。市之倉はさかずきを担当したんですね。入館して見学しましたが、写真はなし。

 

 

美術館を出て多治見方面を目指します。あの鳥居が気になり、行ってみました。

 

 

「陶祖」と読める字が彫ってありましたから、ここでやきものを始めた人を祀ってあるのでしょうか。でもなんの説明もなくて残念。

 

 

峠道をどんどん歩くと、こんな標識がありました。どうやらこの辺は岐阜県と愛知県の県境に近いみたいです。そういえばさっき私が降りた古虎渓の駅は多治見市ですけど、すぐそばが愛知県の瀬戸市と春日井市なのでした。

 

 

夕方近くなって、山の中からやっと市街地に出ました。さっき別れた土岐川と再会。

 

 

橋の名前が「陶都大橋」というのもいいですね。多治見市民の誇りを感じます。ここを渡ればすぐ正面に多治見駅。

 

 

今回3泊続けてお世話になった「ホテルトーノー」さん。駅から50mという便利さで助かりました。この写真の左下隅に多治見駅の駅舎が写っています。はじめ「トーノー」の意味が分からなかったんですけど「東農=東美濃」なんですね。

 

ホテルに入って一服していたらあっという間に夜。けっこう歩いて疲れたので、この日はホテルの近くの食堂に飛び込んで夕飯を済ませ、早めに眠りました。

ちなみに私のことですから、今回の旅でも本能的な嗅覚を働かせて、美味しいものをたくさん頂いて来ました。「グルメ編」は後日まとめます。この日は家を出てからホテルまで27090歩、18.6km歩きました。

 

 

ーーー

 

 

12/12(火)

 

朝食は多治見駅構内の「ヴィ・ド・フランス」でパンとコーヒー。多治見は名古屋から快速で30分なんですけど、名古屋のような「喫茶店文化」は無いように感じました。個人経営の古くて小さな喫茶店でモーニングとか食べたかったんですけど、無かったのは少し残念。

 

この日は駅前からバスで南のほうへ向かいました。目的地は…

 

「多治見市モザイクタイルミュージアム」です。変わった形でしょう? このデザインは、やきものを作るための土を山から削り出した後の断面がモチーフだそうです。大きさが想像しづらい写真になってしまいましたが、4階建てです。

 

 

すぐ隣には、公民館、図書館、スポーツ施設、駐車場などをまとめた大きな建物を建設中でした。

 

 

中庭に置かれたベンチも、タイルで彩られています。

 

 

これも。昨日訪れた「市之倉」は杯が名産でしたが、このモザイクタイルミュージアムがある「笠原」という地区はタイル生産では世界的に有名な場所なんだそうです。現在も日本国内でのシェアは90%近いとか。

 

 

お土産だって「食べられるモザイクタイル」ですから!(笑) ここ、行きそびれちゃったなぁ。

 

 

入館すると順路の最初は、懐かしいタイルが見られます。

 

 

ああ、こういうタイル張りのお風呂、ありましたねぇ。私の記憶の底にかすかに残っています。

 

 

「流し」と言ったら今はステンレスですけど、昔は流しもタイル張りでしたよね。懐かしい!

 

 

そして私が「あーっ!」と心の中で叫び声をあげたのは、このカウンター。もう見るからに「角のタバコ屋さん」じゃないですか。この曲面が泣かせるなぁ。実際にタバコ屋さんで使われていたものを保存してあるんだそうです。

この曲がったガラスを作れる職人さんがいないらしいので、とても貴重なもの。そしてふと思って、この裏側に回ってみると…

 

 

これはなんと!「鉄人28号」のシールがところ狭しと貼ってあるじゃないですか。いや、シールじゃなくて、上からこすって転写するやつですね。タバコ屋さんのお子さん(私と同世代でしょう)がイタズラ半分でやったんでしょうね。グリコのおまけに間違いないです。泣けるなぁ。

 

ちなみにこの美術館は大部分が撮影可でした。懐かしいタイルは4フロアあるうちの最上階で、他はタイルの生産方法の変遷や最新のタイル事情などいろいろ。なかなか楽しい美術館でした。

 

 

モザイクタイル美術館を出てから、北の方向へかなり急な坂をずんずん登ります。バスはあるのですが本数が少なくて、歩くしかない。30分ほど歩いて向かったのは、山のてっぺんの平らな土地に開けた大きな工場でした。

 

「カネキ製陶所」。知る人ぞ知るタイルの大手メーカーです。ここに来たかったのは…20年以上前に知り合ったサザンファンつながりの女性AMさんのお祖父様が、ここと関わりがあると聞いたからなんです。

 

こちらの会社の創業は大正時代と古いのですが、第二次大戦後に会社を拡張するにあたって人手不足で悩んでいました。この会社の経営者一族だった人の軍隊時代の上官がAMさんのお祖父様で、その人は熊本にお住まいだったのですが、かつての部下から「人手が足らないのでなんとかなりませんか」と頼まれたお祖父様は「よし分かった。俺に任せろ」と一肌脱ぎ、自らこの地に住まいを移して熊本から多くの人材をこちらへ送り込んだのだそうです。

「それはかなりの年月にわたったので、岐阜県多治見市のこの周辺では熊本にゆかりのある人が多いんですよ。私もじっちゃんの家には何度も遊びに行きました」と、AMさんは私に熊本からLINEで教えてくれました。

 

行ってみるととても大きな工場で、写真には撮り切れません。私は事務所のドアを開けて、受付の女性に声をかけてみました。まったくのアポなし、飛び込みです。上に書いたような経緯を話して、AMさんのお祖父さんの名前を出してみたのですが、知っている人はいませんでした。会社の役員になっていた時期もあったのではと思いましたが、そうでもなかったようです。

 

ただ「この周辺には、確かに熊本にゆかりのある人が多いですね」というお話は聴けました。いきなり入って来て「すみません、横浜から来てるんですけど…」という私の話には相当にとまどったようでしたが(そりゃそうでしょうねぇ)、丁寧に答えてくださり、有難かったです。今回の旅ではこれを確かめるのが大きな目的のひとつだったので、達成しました!

 

「来て良かったな」と思いながら、こんどは坂を下ります。

 

 

坂の途中に「聖観音菩薩 毘沙門天王」と書かれた柱を発見。お寺でしょうか。行ってみました。

 

誰もいないけれど、いちおうお参りしてお賽銭をあげて来ました。

 

 

住宅地の中にあるごみ捨て場もタイル張り!さすがですね。

 

 

かと思うと「Record’s」というお店もありました。中古レコード屋さんでしょうか。このお店の看板も綺麗なタイル!

 

 

めっちゃ気になるお店だったんですけど、ドアに鍵がかかっていました。お休みだったのかな? 入ってみたかったですねぇ! ご主人さんに会えたら、めっちゃ楽しいお話が出来たと思うんですが。いつかまた来れるといいなぁ。

 

さらに歩いて歩いてモザイクタイルミュージアムまで戻り、ランチの後、バスで多治見駅まで戻りました。

 

次の目的地は「多治見市美濃焼ミュージアム」。多治見駅構内にある観光案内所でバスの乗り方を聴き、行きと帰りのバスの時間を詳しく教えて頂いてから向かいました。

 

美濃焼の一大産地である多治見市にはいくつもの美術館があります。そのなかでも(おそらく)もっとも大きいのがこちら「多治見市美濃焼ミュージアム」。

 

 

エントランスから見える中庭を囲んで、いくつかの展示室があり、それぞれテーマが分かれています。さっとご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあって楽しめましたが、なかでも惹かれたのは「成瀬誠志」という作家さんの特集。江戸末期に生まれ関東大震災の年に亡くなりましたが、明治時代にこれほどの作品を作った人がいたとは知らず、驚きでした。

 

成瀬さんは3年の月日をかけて日光東照宮の「陽名門」を模した作品を陶器で制作し、1883(明治26)年にアメリカのシカゴで開かれた万国博覧会で展示するために船で発送(おそらく横浜からでしょうね)。しかし途中で荷崩れを起こし、作品は壊れてしまいました。作者としてはどんなに無念だったことでしょう。

しかしその壊れた作品の一部を現地で展示したところ絶賛を浴び、工芸部門で一等賞を受賞したのでした。うーむ。「春日局と曜変天目」もそうですけど、私はこういうエピソードが大好物なんですよね。残念ながらこの展示室だけは撮影禁止でしたが、「えっ!」と目を見張るものが並んでいました。興味を持たれましたら、ぜひ調べてみてくださいね。

 

1時間ほどかけて展示を見終わり、ミュージアムショップを除いていたら、小さなポスターが目にとまりました。撮影しなかったのが心残りですけど、「美濃を代表する作家のお茶碗で一服しませんか?」という内容でした。人間国宝が焼いた茶碗で飲む抹茶は800円。美濃を代表する作家が焼いた茶碗なら500円です。

 

そして人間国宝の作家さんの名前を見ると、なんと!荒川豊蔵さん、鈴木藏(おさむ)さん、そしてもう一人の名前があるじゃないですか!鈴木藏さんは志野茶碗、荒川豊蔵さんともう一人は別の茶碗でした。私はやきものに興味を持った最初のきっかけが志野茶碗だったので、迷わず鈴木藏さんの志野でお茶を頂くことにしました。

 

 

(鈴木藏さんの作品展を見た時の記事はコチラ↓)

志野茶碗を観る | マサミのブログ Road to 42.195km (ameblo.jp)

 

 

ショップの奥に小さな部屋があって、そこで立礼(りゅうれい)…椅子に座るかたちでお茶を頂けます。待っている間、ドキドキしました!

 

 

来ましたよ!人間国宝、鈴木藏さんが焼いた志野茶碗!

 

 

のぞいて見ると…「ああ、こういうことか!」と私は深く納得しました。志野の優しい肌色と、お抹茶の美しいグリーン。なんという美しい調和。私は今まで茶碗そのものしか見て来ませんでしたが、お茶を淹れた時の表情がこれほど美しいとは。当たり前のことを忘れていました。

 

 

係の方に記念に撮って頂きましたが、緊張してますよね。そして茶碗の大きさ、お分かり頂けるかと思います。意外に大きいでしょう? そして私はこの時、生まれて初めて本物の志野茶碗を手に持ったのですが、印象は…「軽い!」というものでした。大きさからくる予感よりもずっと軽く感じました。

 

お茶そのものは、味わうほどの余裕もなく、すぐに飲み終えてしまいましたあせる あとで気がつきましたが、茶の湯の作法では、お菓子を先に頂くんですよね。そんなこともすっかり忘れていましたが、まさかここでこんな体験が出来るとは知らずに来たので、幸せな偶然に感謝しつつ時間を過ごした次第です。

 

お茶 お茶 お茶

 

 

軽い興奮に包まれながら美濃焼ミュージアムを出て、またバスに乗り多治見駅まで戻ってから今度は徒歩で多治見市役所があるエリアに向かいました。パンフレットを見ると、この周辺に「ながせ商店街」「本町オリベストリート」「多治見銀座商店街」というのがあって、見どころらしいんです。駅からは歩いて10分ぐらい。

 

 

ながせ商店街。右端に、ちょっと突き出したショーウィンドウがありますよね?その下のほうもタイル張りです。

 

 

本町オリベストリート。

 

ここもオリベストリート。うーん。パンフレットでは街いちばんの賑やかな場所のように紹介されていたので、私は鎌倉の小町通りを想像しながら行ったんですけど、もう夕方に近かったせいか、人通りが少ない、というよりほとんど無い。最終日にまた来るつもりで、さっと見ただけで済ませました。そして、多治見で最初に出来た商店街という多治見銀座商店街へ。

 

 

あ、私の大好きなアーケード商店街ですね。

 

 

しかし、ほぼすべての店がシャッターを降ろしていました。開いていたのは1軒の八百屋さんと…

 

 

 

ううう。めっちゃクセの強そうな喫茶店「モリタ」さんだけ!ここは…さすがの私もドアを開ける勇気が無かったです(笑)。でもなんでこんなにお店が閉まってるんだろう?きっとこの日は商店街全体が定休日なんだなと思いました。私の地元もそうですけど、アーケード商店街にはよくあるパターンなので。

 

 

また土岐川を渡っていったんホテルに戻り休憩。夜になってから、かなりの距離を歩いて晩ご飯を食べに出かけ、お腹いっぱいになって眠りました。この日歩いたのは24554歩、16.9km。

 

(後半に続く)