当別荘で時々出てくる、地方都市で元気に活躍する路面電車の姿
路面電車が現存している街では昨今、その長所が次第に見直されつつあり、近年では路線を延長したり、LRT(※次世代型路面電車)へ改装する所も出てきています
そんな中、大きく報道もされましたが今年、全く新規に路面電車を敷設した都市が現れました。
栃木県の県都・宇都宮市です
東京/大阪/福岡を始め、かつて全国各地で走っていた路面電車でしたが、高度成長期のモータリゼーションにより廃止される都市が相次ぎ、現在では北海道や西日本を中心に10数都市程で走るのみです。
しかし宇都宮市には、元々ありませんでした。
我が国で、新規に路電を敷いた都市が出たのは、なんと75年ぶりだそうです。
全く新たにスタートした宇都宮の路電とは?Wo流に乗ってきました。併せて、宇都宮市内のプチ街ブラもご覧頂きます
↑JR宇都宮駅・東口側です。
同駅はどちらかというと西口が昔からのメインで、東口は裏手というイメージでしたが、この度路電が出来た事により大規模にリニューアルされました。
宇都宮市で走り出した、新たな路電の名は、
『宇都宮ライトレール』です
東口からライトレール電停へは、新たにできた商業施設への連絡通路を通っていきます
このライトレール、『ライトライン』という愛称や、『芳賀・宇都宮LRT』という呼び名もありますが、単に『LRT』でも大丈夫です^
(※当別荘では以下、LRTといいます)
ちなみに、乗り合わせていた乗客の会話で漏れ聞こえてきた呼び方は、高齢者の方々は"新しい電車"、現役世代は"路面電車"か"ライトレール"が多かったように思い、同社推奨の"ライトライン"はほとんど聞こえてきませんでした
連絡通路から見下ろすと、↑真新しいLRT車が入ってます
早速、乗場へ
ここで、芳賀・宇都宮LRTの概要を纏めます
宇都宮ライトレール、↑路線図の通り、宇都宮駅から東へ向けて延びています。全長約15km、起終点入れて全19駅(電停)あります。
途中、芳賀台駅以東は芳賀郡芳賀町に入るため、『芳賀・宇都宮LRT』という名です
この後ご覧頂きますが、宇都宮市東郊には大規模な工業団地があります。そこへのアクセス安定化、とりわけ朝夕は通勤の車で渋滞が常態化していたとの事で、構想が90年代頃から持ち上がり始めました。
モーダルシフトを標榜し、新交通システムやモノレール、BRT等が検討された結果、2000年頃にはLRT(※次世代路面電車)での建設が決まりましたが・
しかしいざ準備に取り掛かると、栃木県/宇都宮市間での齟齬や、県会/市会や地域住民も賛成派・反対派に二分。費用負担でも県/市/芳賀町/民間/財界の割合をどうするのか揉め、県が設立当初は出資しない事になる等、紛糾しました。
又、地元バス会社との調整にも難航し、LRT計画は一旦暗礁に乗り上げかかりました
"やっぱりBRTにしとこうか"等の議論も再燃しましたが、2016年に推進派の市長が接戦の上当選。反対だった地元バス会社が協調姿勢に転じた事もあり、2018年、困難な諸課題を乗り越えて、ついに着工に漕ぎ付けました
コロナ禍の間にも着々と工事や試運転が重ねられ、ついに本年(2023)、待ちに待ったLRTが宇都宮の街を走り始めました
電停付近で撮影していると、乗る予定の便が入ってきました!
駅前で北へ90度カーブし、電停へ進入します
LRTは3連接車、『HU300型』です。
HUは"Haga-Utsunomiya"から命名されました。新潟鐵工所の後継会社が製造、国産です。
宇都宮駅東口電停の↑ホームは1面2線。
ホーム北端に定期券売場があります
普通乗車の場合、基本ICカード利用が推奨されています。
↑ドア横の読取部で乗車/降車時の両方でタッチします
現金の場合は、各電停にある発行機で整理券を取り(※車内に無いので注意)、降車時は運転士がいる一番前の扉から降ります。
なお、LRT車のドアは計4ヵ所あり、ICカードの場合は全ての扉から乗降共できます
丸みのある流線型が格好いいLRT車ですが、こういう形を宇都宮で見ると餃子をイメージしてしまうのは僕だけでしょうか^w
ちなみに↑車体色の"黄"は、稲と雷をイメージしているそうです
(※栃木県は通年にわか雨が少なからず降り、雷もよく鳴る)
通勤帯は過ぎた時間でしたが、入線と同時に多数ドドッと乗り込み、始発から満席
集客状況は好調だそうで、開業前の予想に比べ平日で約1割増、休日で約3倍乗っているとの事です
運行間隔は平日と土日ではかなり異なり、日中は平休日とも12分毎ですが、朝夕は平日が頻発されるのに対し、土日は大幅に減便。又、沿線に繁華街を擁する他都市の路電に比べ、夜間帯が少なめで、工業地帯への通勤を主目的に敷かれた性格がよく出ているダイヤです
なお、僕が行った当時のダイヤは"開業時暫定ダイヤ"だそうで、近い将来には快速列車の運転や最高速度の引上げ(※開業時は全線40km/h)、需要に応じた本数の見直しも行うとの事です
発車しました!
東口側の駅前通り、鬼怒通りの併用軌道を走ります
↑路上の途中電停は全て半屋根付、道路側には柵、新規だけあってよく整備されています
5停ほど鬼怒通りを東進し、南側に大型モールが見えると・
↑専用軌道区間に突入!
ちなみに軌間は1067mm、JR/東武と同じ狭軌です。
専用軌道に入ると、緑豊かな車窓になってきます
そして次停は、初めて待避線付の大き目な感じ
ここは・
車庫と本社がある、平石電停です
途中下車してみます
前述しましたが、将来的には快速列車の運転を予定しているので、この平石で退避させると思われます。
ここで、"快速列車"がどうなるのか?という僕の予想ですが、同線を全線乗った感じでは、途中駅で"特にここが主要"というほどの電停はないように思え、例えば"3つに1つ停まる"といったパターンで設定するのは難しく、この後見ていく工業地帯への足という事ならば、平石以外はほとんどノンストップにして、終点の工業団地近くになると数駅連続で停める"区間快速"みたいな形になるのでは?と考えます
又、途中駅の中で待避線があるのは、平石を含め2駅だけで、仮に快速が運転され始めても、そんなに時短はできないような気もします
車庫へは、平石電停の東から分岐します。↑本線から入庫線/出庫線が複線で延びている機能的な配線です。
平石電停周辺には住宅が少なく、↑自転車置場がありましたが閑散としています
↑車庫は、余裕の敷地に広々と造られていました
↑車庫内にある本社ビル。ここで定期券を売っています。なお、定期券を発売している所はここと、宇都宮東口電停のみです。
平石電停を出ると~
↑鬼怒川を渡ります
専用軌道の区間も、↑電停は路面と同じ造りです
先程の鬼怒川橋梁もですが、途中何ヵ所か急勾配な所があり、意外と変化に富んだ沿線です
そろそろ終盤か?というあたりで、再び路面になります。
沿道には郊外店が立ち並び、再び賑やかな感じに
次第に沿道は、工場も現れてきます
そして~
2駅目の↑退避可能駅へ。
グリーンスタジアム前電停です。名の通り大きなサッカー場が横にあります
上写真の通り、退避可能駅ですが単純な2面4線ではなく、中線式の3線駅を上下線別に千鳥に設置し、試合開催時に臨時列車の折返しがしやすい構造になっています
そしてLRTは、宇都宮市を出て芳賀町へ
芳賀町工業団地管理センター前電停では、↑JRバスのターミナルと接続します。ここから真岡鐡道の駅までバスで行く事が出来ます。
LRT開業の際にバス路線が再編され、他にも途中5駅で、バスとの接続が図られています
そして路線は、次第に北へと方向を変えます
↑けっこうアップダウンがきつめの箇所があり、意外と変化ある走りも楽しめます
終点の一つ手前が、かしの森公園前電停で、大きな公園の緑が車窓に
終点近く、車窓の外は工場とその駐車場だけ
そして宇都宮駅から約50分、LRTは・
終点、芳賀・高根沢工業団地電停に到着しました
1面2線、きちっと造られた印象の終点駅ですが、無人で窓口等はありません。
同電停は広い道路の真ん中にあり、↑ホームへは歩道橋で繋がっています
周辺には大工場が林立、近くにはホンダのテストコース等もあります
宇都宮市の東郊に、自治体を複数跨ぐ一大工業団地の威容。おそらくLRTが開通していなければ、僕はこの光景を見る機会は無かっただろうと思います^
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宇都宮駅に戻ってきました
東口に出来た↑新たな商業ビル、LRTや鬼怒通りの整備と相まって、東口側の見事な街づくりぶりは、宇都宮のイメージを大きく変えたという印象です
ここの飲食店街で餃子を食べた後w、後半少し、西口側をプチ街ブラします
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西口側へ廻ってきました
↑駅前に立つのは"餃子のビーナス像"、同市特産の大谷石で出来ています
ここから、約1km西にある東武宇都宮駅まで歩いてみます
↑LRTは将来、西口側への延伸が予定されています。
しかし西口側の駅前は旧来からの市街地で、道路改造による車への影響やバス路線の調整等課題山積で、2023秋現在、未だ着工されていません
西口側の↑駅前通り(※馬場通り)、東側の鬼怒通り同様広幅ですが、歩道にはアーケードがあったり、年輪も感じる雰囲気
同市で有名な↑二荒山神社、この馬場通り沿いに鳥居があります。
そして、同神社の向かい側から南へ曲がり、↑バンバ通りへ
この近くにある、宇都宮城址へ行ってみます
その途中に、↑東武駅へ続く"オリオン通り"商店街の入口(※後程通ります)
バンバ通りが突き当たる三叉路のむこうに、↑櫓が見えてきました
↑空堀のむこうは本丸土塁、そこに立つのが清明台櫓(※復元)
同城の天守は一時期あったとも伝わりますが詳細は不明で、存城期の多くは↑の清明台櫓が天守の代りをしていたとの事です。
いくつかあった門は、市内各地や埼玉県の寺や民家にいくつか現存しているものがあり、将来復元する計画もあるそうです。
本丸内跡地は2007年に城址公園として整備され、きれいな緑の広場になっています。
日中は櫓内も見学出来ます
城址公園にはもう一つ、富士見櫓も復元。
この両櫓を結ぶ通路が↑土塁の上にあって、ここを歩くと眺望もきいてなかなか楽しい^
そんな緑のオアシス・城址公園内には~
『清明館』というミニ資料館があります
行った日にちょうど、Wo的に興味深い企画展をやっていたので見ていきます
その企画展とは、明治期に走っていた『人車鉄道』について。
これはなかなか見応えありました
"人車鉄道"とは、軌道上の客車や貨車をなんと人間の力で押して動かしていた(!)交通機関で、明治期に全国で運営されていた、現代では信じ難いような、隔世の感ありというしかない乗り物です(驚)
同展では↑全国での分布図もあり、繰り返しですがホント興味深かったです。上図では、主に東日本で多く敷設されていた事がわかりますが、その中でも特に多かったのが栃木県だったようです。
現宇都宮市内でも、野州人車鉄道や宇都宮石材軌道等数社が存在し、同市特産の大谷石輸送や旅客輸送等、現在の鉄道と同様に活躍していたといいます。1世紀前にこんな時代があったのかという驚きの感想しかありません。
実は当別荘過去作で一度、人車鉄道が登場した事があります。
それは・↓
「た」シリーズで大宮の鉄道博物館へ行った時、同館で展示されている人車鉄道の車両を取り上げました(08.9up vol.33)
↑は現宮城県大崎市で走っていたもので、鉄博展示の実物です。
しかし明治といえど文明開化の世、こんな前時代的な動力方式が長続きする訳もなく、次第に馬車鉄道や、一般鉄道同様の内燃機関動力等へ転換していきました。
前出の宇都宮石材軌道もガソリンカーへ転換した後、1931(昭和6)年に東武鉄道と合併、消滅しました。
思わぬ所で、知られざる宇都宮鉄路の歴史と出会いました。
人車鉄道から1世紀、宇都宮は我が国最新鋭のLRTで、新たな鉄路の歩みを始めます
東武宇都宮駅まで、オリオン通りを歩いてみます
古くから同市の中心だった場所です。
広いアーケード街を生かして、店前にテーブルをせり出して営業している飲食店が多く、意外な程の開放的な印象でした。スマートな都市景観の東口側に比べ、庶民的な香りもある西口側です
オリオン通りの西端を出ると・
東武宇都宮駅/宇都宮東武百貨店があります
ここまで来たので駅を覗いていきます^
改札は2階、日光線から新栃木駅で分岐する宇都宮線の終着駅です。
日中毎時2本で各停のみの運転ですが、そのうち1本は南栗橋まで日光線へ乗入れます。南栗橋駅では東京メトロへ直通する電車が来ているので、ここから乗換1回で都心まで行けます^
(※東武特急は新栃木駅で乗換)
西口側プチ街ブラでした^
JR駅へ戻ります
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ラストに纏めです^
構想から開通まで30余年かかり、"これぞ紆余曲折"という経過を辿って走り始めた宇都宮LRTですが、僕はこの"開通が今年・2023になった"というのは、意外とラッキーな面もあったのでは?とも思います。
折しもコロナ禍が一応落ち着き、バス運転士不足問題が深刻化してきた今、まさに路電の出番にふさわしい年に開業したのかもです
一方、改善すべき課題もいくつか残っているように思います。
冒頭前述の通り、乗客数が予想を上回って好調なスタートのようですが、一方、事前予想よりも現金客が多く、電停での乗降にダイヤよりも時間がかかり、開業当初はかなり遅延したそうです
なお、宇都宮市には『totra』という地域ICカードがあり、利用額に応じてポイントが付くほか、バスとの乗継割引もあるスグレものですが、もっと各電停で時宜に応じて臨時に手売りする等、より普及に力を入れる必要があるでしょう
又、西口方面への延伸計画も、まだ課題山積かと思います。
道路をLRTのために1車線減らす影響は、東口より大きいと考えられ、バス路線も西口側のほうが多岐に亘るため調整も大変でしょう。
ただ、実現すれば東武駅と直結できるメリットは多大で、丁寧に進めていけば良い街が出来るのでは?と期待もします
あと、これは予想されてた事ですが、これまで宇都宮に無かった路電に慣れていない自動車との事故が、今作up時点で既に5件以上起きているとの事。併用軌道は全区間車乗入禁止になっていますが、車が右左折する時の事案が多いそうです。標識の視認性見直しや、交差点等の区分カラー舗装、防護ポール設置等、改善の余地がありそうです
それと、僕が電停で感じたのは、ひとたびホーム内へ入れば案内表示等がこまめに設置されていますが、始発の宇都宮駅電停を除き入口に駅名の看板が無い事。
まぁ線路があって、各電停に立派な半屋根もあれば、そこがLRTの駅だというのは「見りゃわかるだろう」という事でしょうけど、ホームへの入口に何も表示が無いというのは、僕はちょっと不足に感じました
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LRTと餃子を堪能しw、宇都宮をあとにします
ともあれ走り出した芳賀・宇都宮LRT、長短をWo流にダラダラと書き並べましたが、出来たからにはしっかり地域に根を下ろし、末永く活躍してほしいと思います。頑張れ!ライトライン
☆過去作リンク
(※宇都宮市周辺)↓
vol.194 2015ツーリング始め 栃木・大谷 石と歴史の街・産業遺産が芸術の場へ・ | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
vol.428 「た」現る 第37の巻 た、SLに生感動!真岡鐡道に乗る【鉄道150年企画 ③】 | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
vol.446 2023ツーリング始め 鬼怒流れる いちごの里 桜咲く"さくら市" ツーリング | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
(※LRT関係)↓
vol.57 JR線が路面電車にリニューアル 富山ライトレール (岩瀬浜プチ街ブラ付) | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
vol.223 世田谷をのんびり走る ちょっと(?)上品な路電 東急世田谷線 沿線ブラ付 | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
vol.457 2023秋・九州 (前) ”筑豊版LRT”で訪ねる直方 殖産興業の原点伝える街 | 旅ブログ Wo’s別荘 (ameblo.jp)
(※2006年開通の富山ライトレールが、日本初のLRTと言われています)