『毒殺の科学』 | 日々ぶらぶぶら

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『毒殺の科学 世界を震撼させた11の毒』
2023/7/   ニール・ブラッドベリー  訳:五十嵐加奈子
 
 
 
タイトルからして物騒。
タイトルの通り、毒殺に使われた……11の毒とそれを使った殺人事件(または未遂事件)を紹介する本となっています。
 
作者がイギリス人(勝手に最初アメリカ人かと思いこんでいた、スマヌ)なので、イギリスあたりで起きた事件がメインとなっています。ので……ああ、あの事件ね……と全くならない、けどこんな事があったんか!?となるスキャンダラスな事件となっています。
 
まずその毒についての歴史や基本的な知識。
そして、その毒を使って起きた事件。
次にタイトルに“化学”とある通りその毒はどの様にして人の命を奪うのか化学的に詳しく説明し、更にこの毒薬使われた事件……または、毒だったモノが薬として作用する話について……大体このパターンで書かれています。
 
外国で起こった、ゴシップ的毒殺事件に興味がある人。毒の作用、またはどの様にして毒は人を死に至らしめるのか?知りたい人…毒に興味がある人。どちらの方も満足出来るんじゃないかな?的な本となっています。
 
 
 
 
1、インシュリン
インシュリンと言えば、糖尿病患者の薬として有名。糖尿病って名前が、こうだから甘い尿が出る……のが、名前の通り一番わかるけど他にも失明してり肝臓が悪くなったりする恐ろしい病気……それを正常にしてくれるのは、まさにインシュリン様々。
藤原道長も尿に蟻が集ったとか書いていて、糖尿病だったとかで有名。
そんなありがたいはずの薬、インシュリンを使った最初の殺人事件。
まさに毒にも薬にもなる事件。
前の奥さんが死んですぐに結婚した新しい奥さんは旦那さんにインシュリンで殺されたみたい……もしかして、前の奥さんも??……的な事件。
……なんだろうな?上手く行ったからもう一度やりたくなったのだろうか??
前の妻の葬儀後二ヶ月後に結婚って普通は怪しすぎると思われ……イギリスじゃ普通なの??
 
 
 
2、ベラドンナ
アトロピンとは“ベラドンナ”の成分。ベラドンナはトリカブト並に昔から有名な毒草。
 
怖っ!と思ったのが、瞳を大きく魅力的にみせるため女優や娼婦がベラドンナの実の汁を目に垂らしていたらしいこと。もちろん毒なので使い続ければ失明することもあったらしい。……いやー今も昔も女性の美に関する関心は変わらんなーと感心してしまう。
整形手術か寒い中でも生足ミニスカ姿の女性と同じモノを感じる。(違う!と怒られそう)あれは寒くないんじゃなくて、寒くてもガマン。己の寒さよりもした可愛さを優先しているだけらしいからね。
……でも、リスクを承知の上……では無くて、自分は大丈夫、他の人がなっても自分はならないというよくある勝手な思い込みだろうか?
 
“ジントニック”って最初は医療……いわゆる“おくすりのめたね”だったんか……マラリアの予防薬、キニーネの苦さを誤魔化す為に作られたものだったのか……
 
ふぇーー木を隠すには森……殺人を隠すには無差別殺人と言う、アガサ・クリスティのミステリーみたいな話だなアレとかソレとか(ネタバレ防止)を彷彿させるな……あっ!だから、最初にクリスティ作品の一部を引用してたのか!
いや、でもこの本クリスティ作品の引用かなり多いからな……
 
効果の後、アトロピンに関する2つの事件を紹介しているが、最後の一つはつい最近でしかも元ロシアスパイが、イギリス側に寝返ったために起きた殺人未遂で……ゾゾッゾッ!とした。地下鉄サリン事件みたいな話。だけど、昔から殺すために使われてきたアトロピンによって命を救われた話で、毒は薬にもなる……という話を改めて見せつけられました。
 
ベラドンナは古代ローマから使われて、政敵や夫が要らないときに当たり前のように毒殺されていたようで「家庭内毒殺禁止令」が出てたとあって、平安貴族と変らないじゃん!そんなところで人間の万国共通をみせてくれなくても……と思ってしまった。
古代の人々はアイツが死ねば万事解決って思考がバーサーカーすぎる。
 
 
 
3、ストリキニーネ
ストリキニーネの名前の由来、ストリクノスの名前つけたのリンツだったかーへー、最近読んでる本や博物館で目にしたので、こういったのが出てくると嬉しいよね。
 
切り裂きジャック最後の事件から3年後……同じくロンドンにて、今度は毒殺魔が現れ次々と娼婦達を……という、まるで小説や映画のようなマジな話らしい。
ジャックの二番煎じだからか?解決したからか?はたまた切り殺すより毒殺は一見地味だったからか?日本ではあまり有名ではないよね?私はこの本で初めて知りました。
 
そして、クリスティ処女作『スタイルズ荘の怪事件』ではこの毒の作用がとても正確らしいとのこと……今度読むとき注意して読まなくては。(忘れてそう)
 
 
 
4、トリカブト
『光る君へ』を観てる人ならわかるとは思うけど、トリカブトは日本にも昔からありました。
漢字で書くと“鳥兜”。我楽で使われた鳥の頭を模した兜にこの花が似ているということでこの名が付けられた……有名な『百鬼夜行絵巻 真珠庵本』にもこの妖怪が描かれているので興味ある人は見てみよう。(……以上、百鬼夜行絵巻で得た豆知識)
 
英語名は“モンクフード”中世の修道士(モンク)のフード付き外套の様にみえるから……らしい。大体日本名と同じ由来。
“ウルフベイン(狼の毒薬)”“デビルズヘルメット”など中二を彷彿させるようなヤバイ呼称も多々ある「毒の女王」。
 
本当にキレイな花なので、知らん人は摘み取ってみたり触ったりしてまうかもしれないけど……根っこから花まで全て毒の危険物です。注意。
私の知人で野草が好きな人が、写真を撮っていたら知らんおばちゃんが近づいてきて、
「あらーこの花キレイねー」
と触ろうとしてたのか、摘もうとしてたのか……したので、
「それ、トリカブトです」
と言ったらビシッと固まったそうで……
 
日本でも、一昔前トリカブトを使った殺人事件が起きワイドショーを賑わせたおかげでトリカブトの名前は毒草として一気に広まった。
 
トリカブトを扱って、世間を賑わせた2つの事件をメインに紹介してるが、一つは2009年って最近じゃん!と驚愕した。
ワイドショーが賑わいそうな事件。
いつの時代もこういった事件の主軸は金や男女関係といつの時代でも変わらんなー。
 
19世紀初期までは毒を検出する技術が足りて無かったから、毒殺犯の方が警察よりはるかに優位だった……とあって、だから毒殺が多い『名探偵ポワロ』は状況証拠を並びたて犯人を自白に追い込むよう仕向けるしか無かったのかな?……などと思った。
 
 
 
5、リシン
鉄のカーテン…冷戦時代の暗殺の話。
国に不利になる人物は殺すぜ、でも国の関与がわからないように……あくまでも自然死に見えるようなそんな薬を……という、恐ろしい話。
傘が暗殺の道具……なんていうと、『マスターキートン』を思い出すけど、この話は傘で毒が入った金属球をいれてそこから……という話。どっちにしても恐ろしい。
 
医学探偵の事件簿』でも、ソ連の生物兵器の研究所の話が載っていたけど人を殺すための研究をする所があるなんて怖い話だよ。
 
メインの事件の他に、自分で毒薬を精製したおばあちゃんの話もあるけど、自分に使うために、まず他の人で効果を試してみよう!……という思考回路が恐ろしすぎる。
しかも、さらに強力なのを“友人”に与えた……というのが……本当にそれは友人だったのか?本当に自分で使うつもりだったのか?いつも一緒に暮らしていた人たちを……と、これまたゾッとする話。
 
 
 
6、ジゴキシン
ジギタリスまたはキツネノテブクロという、植物に興味ない日本人には馴染みがない植物に含まれる毒。
 
これまた、毒薬だったが薬として使われるようになった。やはり多く使うと害になってしまう薬。
患者をわかっているだけで40人……実際は400人以上殺したであろう、看護師……「死の天使」と呼ばれた男の事件。
病院で看護師に「注射です」と言われたら普通に信じるよなー……それが、己を死に至らしめる毒薬が入ってるとも知らずに……
恐ろしい事に、既に殺人を犯し……彼は怪しいとなって病院を解雇されていたにも関わらず、他の病院では彼の経歴をキチンと調べずに雇い、そこでまた多くの患者が犠牲になったらしい……
 
でも……まぁ殺人者を雇っていたと世間にバレたら、警察沙汰になったら……そこの病院に行く人は居なくなってしまうだろうし、患者の親族からは訴えられるから経営は逼迫するし最悪潰れる……それに今だと変な正義感を持つ人が電話なりなんなりで攻撃してくるし……で大変な事になるから、公表したくないというのはわかる。……が、患者……人の命ではなく経営や世間体をとってしまったために多くの病院で起きてしまった大量殺人事件。
 
 
7、シアン化合物
……といっても、ピンと来ないと思うけど、その内の一つが“青酸カリ(シアン化カリウム)”と言われれば……
ミステリ物でお馴染みの毒薬。
 
へー浮世絵の北斎ブルーでお馴染みベロ藍って、使う予定だったカリ(炭酸カリウム)と違うカリを使うことによって偶然生まれた色だったんかーー……えっ?カリ?大丈夫なん??死使って死んだりしないん???と思ったけど、なんやかんやで致死性は失うらしい(詳しくは本書で!)
青色の“シアン”てもしかして……ここから?
 
愛人に渡す金が惜しくなって、女を殺したが新しく出来た電信システムにより御用となった男の事件。
もう一つ、大学教授が同じ大学で働く妻をこの薬を使って殺した事件……これは動機がイマイチよくわかってないのかな?
 
 
8、カリウム
聞いたことがあると思ったら、普通に食品などに含まれているので、ラベルや箱にある原材料名をみると書かれていたりする。ペットボトルの水だと大体この名前がみえる。
生きていくためには必要な成分だけど、摂りすぎると命取りになる。
え!?……危なくないの?と思うかもしれないけど、カリウムが多いらしいバナナですら一度に400本食べれば過剰摂取として、まぁ死ぬかもしれないね……とのこと――いや、それ別件で死ぬから。
普通に生きている分には過剰摂取はまずないらしい……そう、故意にカリウムだけを摂取させない限りは……
 
小児科の看護師が2ヵ月半の短い間に13人の子供に毒を投与しその内の4人が死亡した事件。
しかも、毒を投与しておきながらその子供、家族を親身になって世話をするという……犯人はミュンヒハウゼン症候群と代理ミュンヒハウゼン症候群を患っていたのでは?と言われている。
知らなかったけど、病気や体調不良を訴えて注目や心配されたい人らしい……ああ、たまに居るよなそんな人……と思ったり。代理ミュンヒハウゼンはそれが子供に向けられ、子供の病気や怪我を故意に引き起こしたりして、注目を集めたい人の事……
確か『闇の少年』という漫画(長崎尚志『邪馬台国と黄泉の森 ―醍醐真司の博覧推理ファイル―』の中で出て来た同名漫画を基に描かれた作品、ややこしいので詳しくはググッてくれ)にこの症状のお母さん出てきたな……と思い出しました。病気の説明はされてなかったと思うけど、恐ろしくて妙に憶えてました、今回の本読んで納得いった。幽霊よりも人間の方が怖いという話だった。
 
 
 
9、ポロニウム
いわゆる放射能。キュリー夫妻が見つけ、名前を付けた物質。
ほこり粒子一粒で人を殺せる恐ろしい殺傷力を持つ。
 
元KGBのスパイでイギリスに亡命した男がこの毒薬で暗殺された。
遺体は放射能汚染され、解剖するとき防護服で厳重に身を包み検死したらしい。
 
 
 
10、ヒ素
ちょうど今FGOのイベントで、(復刻版だけど)ネロや毒薬キノコ女が出て来てタイムリーだなー……と思いつつ。
ネロをローマ皇帝に押し上げた毒薬はヒ素らしい。
 
“カンタレラ”……確か『毒と薬の世界史』でも出てきたなー。名前の響きがが良いんだよな。しかし、教皇が金を巻き上げるために作ったヒ素による猛毒だったのか……ブタの内蔵並みに腐敗してるよカトリック……(ブタの内蔵を腐らせて作る毒のため)
 
はぁはぁ、なるほど。ヒ素中毒の症状が普通の病気と間違えちゃうのが魅力なのね……とくに、少量ずつ盛ると……
溶けやすく特有の味も無いとくりゃあ、そりゃ使われるね。と思いました。
「ヒ素入りカレー事件」を思い出すなーあれでヒ素を覚えた。
 
身分差がありながら恋人同士になった男女……女が自分の身分に相応しい男性と婚約したことにより、男が邪魔になって……とのことだが、なんと裁判では有罪にはならなかった。……どうして?と思ったら本書を読もう。
それになんと、ヒ素を食べても元気に生きてる人達がいるらしい。
 
ナポレオン毒殺説もヒ素でしたね。
 
 
 
11、塩素
“まぜるな危険!”でお馴染み。
プールに入ってたり、家庭内で使われる漂白剤やコロナ禍により消毒が推奨されて有名になった“次亜塩素酸”もコレ。“次亜塩素酸水”と間違えないように……
私も最初違いが分からなかった。
簡単に言えば、手の消毒にも使えるのが“次亜塩素酸"水"”の方で、手に使ったらヤバイ事になるのが“次亜塩素酸”。
 
看護師が透析中の患者の透析ラインに塩素を注入し五人も殺傷した事件。
その犯人の看護師が嫌っていた五人が被害にあったと言うことで……なんというか……
 
 
しかし、こうして見ると犯人は看護師が多いな。まぁ一般人よりも比較的毒薬が手に入りやすい環境だし、薬に精通していて患者に触れても注射しても基本怪しまれないからね。
でも、こういった人はごく一部と言うか……まれだから!それはわかってるから。
病院での対応いつもありがとうございます。
 
 
毒殺……とあるから勝手に18〜20世紀はじめあたりの事件かなー(ポワロさんが活躍した時代あたりの)……なんて思っていたけど最近(2017年)のまで紹介されていて、毒殺って女性でも簡単に屈強な男性を殺せるから……なにかしら、人を魅了するなにかがあるのかもしれない。
いやでも思い出してみればを『毒と薬の世界史』でも、現代…昭和から平成あたりの事件をズラリと紹介していたからな……日本でもあれだけあったんだから、世界でみたら……略……
 
あの手この手を使ってなんとか毒殺の証拠を突きつけようとして、果ては人が舐めてみたりして毒が使われたことを証明しようとした……なんてことをやってた一昔前と違って、今はほぼどんな毒でも検出出来るようになったから毒殺犯の方がめちゃくちゃ不利になってしまった。
とても良いことだと思いますね。古代人の様に気軽に毒殺しちゃアカン。
こういった本読んでると、中世の人たちは銀のスプーン使って毒物の反応を見たとか、ユニコーンやサイの角は解毒作用かあるから身につけていた……とか、現代の人からすれば過剰反応すぎる備えも、その時代では日常だったんだろうね。
怖すぎる。
 
 
ちょろっと毒薬の知識…反応や症状を覚えたあとで『名探偵ポワロシリーズ』読めば、今までと違った読み方が出来るんじゃないだろうか?と思いました。
 
こんな本ばかり読んでいて、なにか身のまわりであったら要注意人物として警察に目をつけられてしまうかもしれない……と余計な心配をしてみる。
 
 
 
Part1 死を招く生体分子
1、インスリンとバーロウ夫人のバスタブ
2、アトロピンとアレクサンドラのトニック
3、ストリキニーネとランベスの毒殺魔
4、トリカブトとシン夫人のカレー
5、リシンとゲオルギー暗殺事件
6、ジゴキシンと死の天使
7,シアン化合物とピッツバーグの大学教授
Part2 土壌由来の死の分子
8、カリウムと悪夢の看護師
9、ポロニウムとサーシャの無差別な腸
10、ヒ素とムッシュー・ランジュリエのココア
11、塩素とラフキンの殺人看護師
結、死神の楽園
付録 お好きな毒を