408 2017.12.26 診察日「意地の結果」
今年最後の診察日になる。前回のことがあって、僕の心は完全に主治医から離れてしまった。一時は転院を考えるほど憤った僕だったが、転院のいろんなリスクを考えると簡単には踏み切れず、引き続き教授先生のもとで治療を進めることにした。苦手な人はいてもここまで人を嫌いになるということが珍しい僕だけど、教授先生にはもう愛想笑いすら出てこない。朝、自宅からタクシーで病院へ向かう。すでに病院前の道路はいつものように駐車場待ちの車列が、左折、右折ともに長くできていた。一般車の後に続いて右折レーンに並んだタクシーの運転手さんが、「ホントは右折できるのはタクシーだけなんだけど、この病院は頑としてガードマンをおかないね。左折車が右折する車を簡単に入れてくれるわけがないのに。」とぼやいた。確かに門の横には「右折進入禁止」の看板が立っていたが、これじゃ気づかない人も多いだろう。僕がセキュリティプランを立ててやろうか・・・と一瞬思う。採血は約20分待ちで、その後はいつものように院内のドトールで30分ほどコーヒーを飲んで過ごした。それから血液腫瘍内科の前の大きな待合いへ移動して自分で体温と血圧を測定するが、血圧はここ最近はなかったほどのいい数値だった。前回の件があってから極端な食事制限をした。スープや野菜ジュース、たまにコンビニのサラダチキンしか摂らなかったので、1日の摂取カロリーは1,000キロカロリーにも満たなかっただろう。ただ神戸ルミナリエの期間中は10日間毎晩お弁当が支給され、また手の届くところにはいつもお菓子が置いてあったので、ついついつまみ食いをしてしまった。さらに終わってからは立て続けに忘年会があったので、不本意ながら意地を貫き通すことができなかった。それでも1ヶ月ぶりに体重を計ってみると4キロ減っていた。つまみ食いさえしなければもう少し減っていたに違いない。ただこういうことは長続きしないことはよく分かっている。せいぜい数ヶ月続けばいいほうだろうけど、ま、僕の気が済むまで続けるさ。いつもなら受付の前の大きな待合いで自分の番号が呼ばれるのを待つのだが、今日は教授先生の診察室の前に置いてある椅子に妻と座って待つことにした。モニター表示に番号が表示され、患者さんが次々にそれぞれの診察室に入っていく。「おはようございます、お待たせしましたね」「お大事に・・・!」など、どの診察室からも大きな声が廊下にまで響いてきた。妻の顔を見ながら、「いいね、教授先生以外の先生はきちんと挨拶するんだね。」と皮肉を言う。1時間ほど待ってようやく自分の番号がモニターに表示された。ノックしてから診察室の扉を開けると開口一番、「どうかね、数値は改善した?」と、いつものようにモニターから目を離さずに、ニヤニヤしながら僕に声をかける。僕が血圧の数値はよくなり、さらに体重が4キロ落ちたことを話すと、「それは大したもんだ。0.5キロ落ちましたって言われてもどうしようもないぜ」と、教授先生なりに褒めてくれたが僕はちっとも嬉しくなんかない。また前回のように笑いものにされるんじゃないかと思うと、一刻も早く診察室を出たい・・・それだけしか考えていなかった。体調は変わらないことを話すと左右の鎖骨を触診し、胸に聴診器を当てるが、それがポーズでしかないことはもう見抜いている。次回の予約と処方薬を確認し、ランマーク注のGOを出して今日の診察が終わった。気になっていたのは上昇傾向にあったと思われる腫瘍マーカーのことだった。診察室を出てから血液検査の結果が記されたプリントを確認すると、いつもは2枚綴りなのに今日は1枚しかくれなかった。妻が診察室に戻って教授先生に尋ねてくれたが、同じ月に腫瘍マーカーを2度検査することができないので、今回は検査していないとのことだった。どうりで採血用のスピッツが1本少ないと思った。気になるけど仕方がない・・・結果は来年に持ち越しか。実は11月からの咳がまだ止まらなくてね、心なしかいつものとは違うような気がするけど・・・まさかね。その後はいつものようにケモ室でランマークとポートへの通水をしてもらった。顔なじみになったナースから「よいお年を」と言われて、慌てて年の瀬のご挨拶をした。そういえばスキンヘッドになって初めての外出だったのに、教授先生もケモ室のナースも僕の頭を見て何も言わなかったな。オンコロジーではさすがにスキンヘッドに言及することはNGなのか、それとも日常風景過ぎて珍しくないだけなのか。