東京弁護士会の会報「LIBRA」の2020年5月号に東京三弁護士会主催の研修会「成年後見実務の運用と諸問題」についての記事が掲載されています。⇒コチラ
この研修会は、東京三弁護士会が、令和元年12 月19 日、東京家庭裁判所後見センターの浅岡千香子裁判官、戸畑賢太裁判官、島田壮一郎裁判官を招いて行った研修会です。
この研修会は、事前に質問を募ってそれに対して裁判官が回答をしていますので、実務的に気になる事柄を扱っていて、かなり充実した内容です。
今回参考になったのは、次の3点です。
①本人情報シートの活用状況について
②後見類型の判断の具体的方法について
③親族による記録の閲覧謄写について
①本人情報シートの活用状況について
昨年4月に運用が開始された「本人情報シート」が、実際どの程度活用されているか、私も興味があったところです。
「本人情報シート」とは、後見等開始申立てにあたって、本人の判断能力等に関して医師が診断を行う際の補助資料として活用するとともに、家庭裁判所における審理のために提出する福祉関係者作成の書類です。
東京家庭裁判所本庁において、令和元年11 月に終局した後見、保佐及び補助の各開始事件については、総数265 件中142 件(53.6%)で本人情報シートが提出されたとのことです。
半数以上で提出があるというのは、それなりに浸透してきているのではないでしょうか。
では、裁判官は「本人情報シート」を審理においてどのように参考にしているのでしょうか。
これについては、
「鑑定の要否の判断については,本人情報シートが提出されている事案でも基本的には診断書を参考にしている。 ただ,鑑定の要否を判断するための補助資料として,本人情報シートを利用することはある。」
「類型判断については,本人情報シートが提出されている事案でも基本的には診断書を参考にしている。」
とのことです。
「本人情報シート」は、医師の診断の参考になり、主として診断書を通じて裁判官の判断の参考になるわけですから、必ず提出するように心がけたいものです。
②後見類型の判断の具体的方法について
後見類型(後見・保佐・補助)の判断にあたり、長谷川式認知症スケール(HDS-R)、ミニ・メンタルステート試験(MMSE)などの点数をどのように考慮しているのかということですが、これは私も前から気になっていたところです。
診断書に長谷川式認知症スケール(HDS-R)、ミニ・メンタルステート試験(MMSE)などの結果を書く欄があるのですが、これを裁判所は参考にしているのでしょうか。
これについては、「各種検査の点数を類型判断の参考にできる類型の精神上の障害、例えば、認知症を理由に申立てがされている場合については、甚だ抽象的な説明となってしまうが、診断書のその他の記載、例えば、所見欄、あるいは、判断能力についての意見の欄、判定の根拠の欄などの記載も併せて考慮して、類型判断を行っている。」ということです。
やはり、判断の参考にはしているんですね。
以前、診断書に長谷川式認知症スケール(HDS-R)、ミニ・メンタルステート試験(MMSE)などの結果が書かれていなかったため、鑑定をすることになったというケースがあると聞いたことがあります。
認知症の場合には、診断書にこれらの検査結果を記入してもらうよう医師に頼んだ方が安心かもしれません。
③親族による記録の閲覧謄写について
親族が、後見記録の開示を求めて閲覧謄写申請をした場合、開示に関して、何か基準等があるかということですが、これは親族の方は興味があるのではないでしょうか。
これは、親族が「当事者」か「利害関係を疎明した第三者」かによってちがってくるとのことです(家事事件手続法第47条)。
「当事者」 (申立人・参加人)
原則:許可
例外:不許可事由がある場合に不許可
「利害関係を疎明した第三者」
相当と認める場合に限り許可
以上をふまえた上で、
「本人の親族から記録の謄写請求があった場合には,記録の謄写請求の対象となる事件がどういう事件なのかに応じて,当該親族が「当事者」と「利害関係を疎明した第三者」のいずれに該当するかを判断した上,前述の家事法47 条の要件に照らして,事案に応じた個別判断を行っていくということになる。また,許可するか否かの判断に際して,後見人等に意見照会を行う場合もあり,その場合は,後見人等の意見も考慮した上で判断を行っている。」
とのことです。
記録の閲覧謄写を求める親族は、ほとんどが「利害関係を疎明した第三者」でしょうから、裁判所がどういう場合に相当と認めて許可するか知りたいところですが、結局は事案に応じて個別に判断するということです。
裁判所が後見人等に意見照会を行う場合もあるとのことですが、私も意見照会をされた経験があります。
親族がいきなり裁判所に記録の閲覧謄写を請求するのではなく、事前に後見人とやりとりをしたうえで請求することが多いでしょうから、後見人は裁判所に経緯等を説明し、意見を述べることになります。
この記事においては、以上の3点以外にも成年後見実務において疑問に思う事柄について、裁判官の見解が示されています。
成年後見実務に携わる方には必読の記事ですね。
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(東京ジェイ法律事務所 司法書士 野村真美)
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