(4)一気に書く ①小論文に求められる「表現力」とは


さあ、残すは、考えた構成に従って実際に文章を書き上げる段階だ。

考え考え書くのではダメ。

書く内容も順番もあらかじめ決めておき、途中で迷ったりせずに一気に書き上げることが大切だ。


とはいえ、材料がそろい、構成まで決まっていても、そこから字数制限に合わせ、文章として完成させるというのはひと仕事だ。

盛り込むべきキーワードは決まっているのに、文章としてうまくつながらなかったり、自分ではわかっているつもりでも、他人にわかるように説明できなかったり。

さらに、具体例の説明などに思ったよりも字数を費やしてしまい、結論の段落に割ける字数がわずかしか残っていないという字数配分の失敗や、考え考え、のんびり書いていたら、あっという間に時間が足りなくなるという時間配分の失敗もよくある。


材料集めや構成決めの練習がある程度進んだら、このように時間配分を考え、その通りに書けるのかどうかを確かめる練習にも入ろう。

最初のうちは時間が足りないと感じていても、慣れるに従って、よく使うフレーズが頭の中に蓄積されてくるので、材料を膨らませるスピードも上がってくる。

字数と時間の設定は大学によってさまざまだが、100字5分ほどのペースで書けるようになるのを一応の目標にしておこう。



箇条書きで作られた構想を文章にふくらませていくこの段階では、芸術的な表現力とは違う、他人にわかりやすくものごとを説明する力が問われることになる。


そもそも、文章のうまさには、さまざまな要素がある。

読み手に合わせた言葉選びに始まり、リズムの整え方、効果的な比喩の使い方など、古今東西の名文と呼ばれる文章には、読み手の心を打つためのテクニックが駆使されている。

小説や詩では、そのような表現力がその価値を左右するが、実は小論文ではそのようなテクニックはほとんど要求されていない。

不特定の読者に向けて作品を発表する作家と違って、受験生の書いた答案は、読み手を引きつけるための工夫を凝らさなくても、確実に最後まで採点者に読んでもらえるのだから、安心して普通の表現で語っていこう。



採点基準に「表現力」という項目があっても、そこで求められているのは、小説家のような芸術性ではなく、問題にされるのは、主語と述語が対応していないとか、誤字脱字だらけだとか、慣用句が間違って使われているとか、そういうレベルのミスがあるかどうかだけだ。

技巧を凝らした表現のうまさを評価する場ではなく、心に残るような印象的な言い回しを使ったからといって得点に結びつくことはないので、気取らず、わかりやすい表現を心がければそれでいい。


文章力をつけるために新聞の社説を読ませたり要約させたりする学校もあるけれど、新聞の社説や教科書に載っている評論文には、上から目線の言い回しが使われていることも多く、受験生が使うと生意気な印象を与えかねないので、あまり真似しないほうがよい。

そんなふうに背伸びして難解な熟語や大げさな比喩を使うより、ごく普通の高校生が理解できる程度の平易な言葉で簡潔な表現を心がけるほうが好感を持たれやすい。


たとえば、ひねりの効いた、インパクトのある書き出しにしようと、頭を悩ませなくても、「課題文では、……が指摘されているが」といった、定番のフレーズをそのまま使って構わない。

自分の意見を述べるときも、「……べきである」、「……が大切である」、「……が求められている」といった、お決まりの表現で充分だ。

大切なのは、わかりやすさだ。

(3)構成を決める ⑦~⑨


選んだ材料の最終確認


構成を考えて材料を選び終わったら、以下のような点に注意して、選んだ材料をチェックしよう。


自分の考えた結論が、課題文の主張や設問の要求にきちんと対応しているか


自分の考えた結論と、後付けの問題提起が対応しているか


結論に加えた具体的提言が、先に挙げた具体例のような問題の改善につながっているか


こうした点を押えておけば、一貫した流れを守ることができる。


 
ほかには、自分の選んだ具体例が適切かどうか、以下の点もチェックしておこう。


具体例が個人的過ぎないか自分の体験を語りすぎていないか


一般的な話にすべきところで、極端な例やめったにないケースを取り上げていないか


言葉で説明しにくい例や、どうしても説明が長くなるような例ではないか


段落構成と字数配分を決める


段落構成については、工夫を凝らしたからといって、特に高得点がもらえるわけではない。

「おっ、うまいな、この構成は」と採点者をうならせたところで、全体的な評価にはほとんど影響しない。


というのも、盛り込まれている内容が悪ければ、構成なんかいくら工夫したって合格ラインには届かないし、構成のうまさにまで目を向けさせるくらい、内容もしっかりしていれば、構成の工夫がなくても余裕で合格圏に入っているからね。


工夫の甲斐がないと言い切ってしまうのもなんだけど、要するに、第2章で挙げたような構成上の失敗さえ防げればそれでよいので、わかりやすい、すっきりとした定番パターンをそのまま使おう。

たとえば、「①問題提起 → ②問題の具体例 → ③問題の背景などの考察 → ④問題改善のための具体的提言」という4段構成。

600字くらいの短めの小論文なら、これが最も使いやすい。


字数配分は、①の問題提起と②の具体例を短めにして、③の考察や④の提言により多くの字数を回すとよい。

目安としては、①②合わせて、全体の3分の1くらいに収めておこう。

①②で全体の半分を使ってしまうと、評価を決定付ける③④が掘り下げ不足、説明不足になる。


800字、1000字と長くなるに従い、③の分析や考察の内容を分けて2段落にしたり、④の結論を、抽象的な理念と具体的な改善策に分けて2段落にしたりして、後半の掘り下げに字数を多めに割くようにするとよい。


たとえば、「①与えられたキーワードとその定義課題文の筆者による問題点の指摘 → ②自分にとって身近な例そこで問題になっているもの・問題があると思う部分 → ③問題がほかに及ぼす影響 → ④問題の背景の分析 → ⑤問題の改善の方向性 → ⑥具体的な改善策」のような6段構成になってもいいし、④や⑤の中に、自分とは異なる側からの意見と、それに対する反論を盛り込むという手もある。


一段落の長さにははっきりした決まりはないものの、盛り込む要素ごとに段落をかえようと思うと、長くても200字くらいになるだろう。

それ以上に長くなっているときというのは、もっと簡潔に説明できるはずの内容をだらだらと語っているか、分けて示すべき内容を一段落に入れているかのどちらかといってよい。



制限字数に収まらないときは


入試では、試験時間の制約もあって、制限字数が600~1200字ということが多く、与えられたテーマについてじっくり掘り下げて論じるには厳しいこともある。

それでも、その中で、自分の主張に充分な字数が充てられているかどうかが重要だ。

余計な部分に字数を割いてしまい、肝心の主張が言葉足らずになっているのが一番まずい。
 
では、どういうところに気をつけて、無駄な説明を削ればよいのか。
 
まずは、具体例の長さを見直すことだ。
問題の具体例にばかり字数を割き過ぎていないだろうか。

批判の対象となる、問題視されるものごとは、読み手にもすぐに理解される内容でなくてはならない

長々とその説明に多くの言葉を費やさなければ理解してもらえないような話なら、それだけでもう、小論文には不向きなネタだということだ。

そのようなネタを選んだ段階で、すでに大失敗。

多くの人が「これではいけない」とわかってくれるようなものごとであれば、その説明は簡潔にまとめられ、その改善の必要性と改善策のほうに充分な字数を充てることができ、高得点を得やすい。


また、みんなが知っていて当たり前のような常識的な内容をわざわざ説明するのも字数の無駄だ。
たとえば、環境問題など、自分が多少なりとも知っている分野が取り上げられている場合、自分の知っている知識を並べて字数を埋めようと、今その設問で何が要求されているかも考えずに、地球温暖化やリサイクルについての説明をだらだらと続けてしまう人がいる。

しかし、こうした問題では、そのような知識は持っているのが当たり前で、それを書いたからといって、得点にはつながらない。


大事なのは、知識の披露ではなく、そこから何を考えるかなので、「今、何が問題になっているのか」、「どのような議論が戦わされているのか」、「論点となるのは何か」といったことを簡潔に指摘して、自分の主張の掘り下げのほうに字数を割こう

(3)構成を決める ①~⑥



材料の取捨選択


材料が集まったら、その中から、答案に使うものを選んでいこう。


せっかく集めた材料だし、どれを書けば点がもらえるかわからないから、できるだけたくさん詰め込んでおきたいと思う気持ちはよくわかる。

でも、あれこれ詰め込んだからといって、その分、点数が増えるわけではないからね。


何でもかんでも入れようとすると、かえってまとまりのないものになってしまうので、どれとどれをつないでいくと一貫性のある流れになるかをよく考えて取捨選択することが大切だ。

一枚の答案にすべてを盛り込もうと欲張りすぎないこと!



材料を選ぶ順番と、書く順番


何かを主張するときには、具体的な問題点を見て、そこから原因を探り、どのように改善していくかを考えていくものだけれど、小論文の構成を考えるときの手順は違う。

まず結論を決める。


次に、その結論を導くために一番効果的な、問題視される具体例と、その改善につながる具体策を選ぶ。


そして、その具体策によって改善が見込める部分を、問題の背景や影響の中でも特に重要なものとして挙げるようにする。


最後に、結論に対応した問題提起を考える。


あとは順番をひっくり返して、「問題提起 → 問題の具体例 → 問題の背景などの分析 → 問題改善の方向性と具体的提言」という流れにするだけだ。



論点を絞り込むのは、結論を選んでから

論点と結論は、言い換えれば、何について考察し、結びで何を訴えるのかということだ。

それが自分の主張の中心になる。


普通に考えれば、まず論点があって、そこから思考をめぐらせた結果、結論にたどり着く、ということになりそうなものだが、小論文の攻略法としては、論点を先に絞り込まないほうがよい


というのも、小論文は、「結論まで書き上げて、なんぼ」の競技だ。

論点を見つける段階で、いくら目の付け所がよくても、説得力のある結論を示すことができなければ、合格ラインに届きはしない。

「論点はよかったのに、残念でした」という結果に終わるだけだ。


材料集めを進める中で、論点になりそうなものをいくつか見つけたら、それぞれからどんな主張に持っていけそうか検討してみよう。

そして、その中で一番説得力を持たせやすいものを選んで、結論を作っていくんだ。



結論を決める


結論は基本的に、抽象と具体の二本立てが望ましい。

目指すべき方向性を示した抽象的な理念と、問題改善のための具体的取り組みの例だ。


目指すべき方向性としては、これまでの考え方の見直しという形を取るのが簡単だ。

価値観や意識の変革といってもよい。

何を大事にすべきか何に目を向けるべきか、あるいはどのように受け止めるべきかといった、そこに関わる人々の姿勢を問題にしよう。


具体策は、上記のような人々の価値観や意識に変化をもたらすために、どのような取り組みが有効だと考えるかを語ればよい。

まったく新しい画期的な取り組みを思いつくのはまず無理なので、すでに一部で取り組みが始まっているような例でもかまわない

全国的にもっと広まってほしいと思うもの、そして個人任せではなく、社会としてその後押しをすべきだと思うもの

そんなものを二つ、三つ挙げれば充分だ。

多すぎるとむしろ焦点がぼやけるので、どうしても絞りきれないなら、「AやBのほか、CやDといった取り組みも必要だが、特に力を入れるべきはEだ」のように、自分が特に重視しているものを明確に打ち出すようにしよう。


このようにして、まずは結論をしっかり作ろう。


 
論拠をそろえる


結論が決まったら、その結論に持っていくために、どのような具体例で問題点を指摘し、その背景や影響のうち、どこを重視するのかを考えよう。


まず、自分で選んだ具体的提言について、「なぜそのような取り組みが必要なのか」、「その取り組みにどのような効果が期待できるのか」を考えれば、そこから、先に指摘しておくべき現状の問題点は明らかになる。

そして、そのような現状の問題点を訴えるために、どのような具体例がふさわしいかも見えてくる。


こうやって、先に結論を決めてから、そこに説得力を持たせるために効果的な材料を選んでいき、論拠に仕立て上げるのが、論理的な構成を作るコツだ。



問題提起は後付けで


さあ、結論も論拠もそろったら、あとは問題提起を決めるだけだ。


自分の選んだ提言や問題点にぴったり合うように、言わば後付けで、問題提起を考えよう


「○○が問題ではないだろうか」という問いかけの形でも、「○○について考えてみる必要がある」という形でもかまわないので、自分の結論のキーワードをはじめのうちに示してしまおう。

すでに結論が決まっているのだから、これなら問題提起と結論がずれる心配もない。


こうして、一貫した話の流れができ上がるわけだ。



(2)材料を集める ②提言に求められる「若者らしい前向きさ」


材料の中でも、一番重要なのは、結論となる提言だ。


その問題について知っていることを並べただけでは、小論文にならない。

課題文から読み取ったことや、そこから考えたことを書いたあとは、自分なりの提言で締めるのが基本だ。


社会に対して、自分が訴えたいことは何か

問題の改善のために、これからどうしていくべきなのか

こうした自分なりの提言を見つけなければ、材料集めは終われない。


しかし、問題になっているものごとは理解できていても、それに対してどのような意見を出せばよいのかがわからないという受験生も多い。

「正解」が一つではないだけに、何を書いたら点数がもらえるのかわからなくて不安だというんだ。


自分なりの提言といっても、難しく考える必要はない。

そもそも、小論文で取り上げられる社会問題は、これまで大勢の大人たちが一生懸命知恵を絞ってきて、それでもまだ解決できていない問題ばかりだ。

構想を練るためのたった5分や10分で解決法をひらめくような単純な問題なら、最初から小論文の題材にはなっていない。


また、研究者の論文と違って、先人が主張していないような新しい発想で独自性をアピールする必要もない

受験小論文は、たくさんの受験者の中で、ある程度上位に入り、合格ラインを超えればそれでよく、奇をてらったから高評価を得られるというものでもない。


こう考えれば、提言といっても、それほどたいしたものは期待されていないことがわかる。

そこに求められているのは、社会を変えていこうという、大学関係者が好む「若者らしい前向きさ」にすぎないと言ってもいい。

これからの社会を担う前途有望な青年として、こうした社会問題をどれだけ真剣に受け止め、どのような価値観に基づいて、どういった方向での改善に希望を持っているのかをアピールすることが求められているわけだ。


そこには、「若者らしい前向きさ」をアピールするのに、ふさわしいパターンと、ふさわしくないパターンが存在する。

憶えておくと得をするそれらのパターンについては、改めて詳しく説明するので、必ず頭に入れておこう。


(2)材料を集める ①キーワードからの連想



課題文の読解を終え、設問の要求の再確認が済んだら、今度は材料集めだ。

では、いったいどのような材料を集めればいいのか、わかっているかな?


もちろん、課題文や設問の内容によって、答案に必要な材料は変わってくるけれど、ここでは、一般的な社会問題について論じる場合を、3つの段階に分けて考えていこう。
 
まずは課題文の内容の整理から。

設問の中にあるキーワードか、課題文の話題の中心からスタートして、課題文の中で指摘されている問題を整理してみよう。

筆者が何に注目し、何をどのような理由で評価したり批判したりしているのか、あるいは何について考えてみることを求めているのかを、箇条書きで書いておこう。


ただし、筆者が述べていることをなぞるだけでは意味がないので、あくまでこれは出発点。

答案では軽く触れる程度にとどめ、課題文の要旨に字数を割き過ぎないようにしよう。



次は、そこからの連想

課題文から書き出したキーワードから連想されるものごとを、箇条書きで次々に書き出していこう。


のんびり考える暇はないよ。

材料集めは瞬発力勝負だ。

何時間もかけてじっくり考えるのではなく、わずか数分間で主張をひねり出さなければいけない。

どれだけ多くのことを連想できるかも大事だけれど、具体例ばかり連想するというのではなく、問題の背景だの、問題の影響だの、問題点の改善策だのと、なるべく多くの要素を思い浮かべることが必要だ。


あらかじめ知識を仕込んであった分野であれば、ただの連想だけでもかなりの材料が集まる。

しかし、課題文からすぐに思いつくような材料だけでなんとかなるということはめったにない。

論点になりそうなものが見つからなかったり、論点にしたいものはあるのに、どうやって議論に深みを持たせればよいのかわからなかったりするものだね。


実は、本格的な材料集めはここから。

論点にすべき問題点がわかっている場合はそこに絞って考えていけばよいけれど、どこを掘り下げてよいのかわからないときには、第6章で紹介する3つのアプローチを試してみよう。


(1)問題を読む ②設問の確認、課題文の読解、設問の要求の再確認



さあ、準備ができたところで、問題に取りかかろう。


といっても、課題文を読む前に、まずは設問に目を通そう

課題文を読んだあと、どうしなければいけないのかを知ってから課題文を読むほうがいいからね。


何の指定もなくても、課題文を読むときには、話題の中心や筆者の主張の中心に印をつけていくものだけれど、たとえば、課題文の要約も必要であれば、要約の制限字数に合わせて、ふだんより少し多めに線を引きながら読まないといけない。
また、設問において、「○○について考えた上で」、「○○の意味を明らかにして」などの条件がつけられているときは、その手がかりになる部分を探しながら読んでいかないとね。



設問を確認したら、いよいよ課題文に取りかかるよ。


でも、頭から読み始めるのではなく、まずは終わりのの2段落を先に見て、その中のキーワードに印をつけておこう


というのも、冒頭がただの前置きや具体例でしかない課題文も多く、話題の中心となる語がそこには出てこないことも多い。

書き出しから読み始めて、Aの話かと思ったら、途中からAについてはまったく触れられず、いつのまにかBの話になっていた、というのもよくあることだ。

また、結論が最後の段落にあるかと思うと、最後の段落が、結論を述べたあとのおまけでしかないことも多いので、最後の段落だけを読んだのでは、結論がつかめないおそれもある。


そのため、現代文の評論文や、小論文の課題文を読むときには、終わりの2段落を先にチェックしたほうが、話題の中心を押さえやすいんだ。



話題の中心を押さえたら、書き出しに戻って、キーワードなどに印をつけながら読んでいこう。


キーワードの見つけ方についてはいずれ改めて詳しく説明するけれど、以下のような基本的な読解テクニックは必要だよ。


・筆者の主張の中心とともに、その論拠になっている部分も必ず押さえておく。


・時間がないので、具体例を詳しく述べている段落はさらっと読み流し、その前後にある、何の具体例なのかが示されている部分に注目する


・かぎかっこや傍点がついている語があれば、それが日常とは違う、特別な意味で使われていないかに気をつける。


なお、課題文が与えられた場合、その中に自分の知っているキーワードが出てきたからといって、前に読んだことのある文章と同じ方向性の文章だと早合点しないように気をつけよう。
たとえば、「科学」が取り上げられていても、それを評価している課題文もあれば、批判している課題文もある。

また、批判している場合でも、批判している点やその根拠まで同じとは限らない。

その課題文において筆者が、何を、どういう理由で、評価あるいは批判しているのかを、落ち着いて確認し、思い込みでものを言わないように自重しよう。



課題文を読み終え、筆者の主張を理解したら、設問をもう一度丁寧に読み直し、何を問われているのかを慎重に考えよう

今度は筆者ではなく、出題者が何を考えているのかが問題だ。


具体的には、このようなことを意識してみるといい。


・このような内容の課題文を使って、受験生に何を考えさせようとしているのか


・課題文のどこに注目させようとしているのか


・そこで取り上げられている問題の、どういう側面について考えさせようとしているのか


・何を説明させたがっているのか


・どういう内容に踏み込ことを期待しているのか


たとえば、環境問題について考えさせたいだけなら、それについて書かれた文章は世の中にあふれている。

けれど、その中から、あえてその課題文を選んできたのには、出題者なりの計算があるはずだ。

環境問題をめぐる議論の中でも、どういうところに注目している文章だからこそ、それを読んだ上で、何に思いをめぐらせてほしいと思っているのか。

議論の出発点として、その課題文を持ってきたということは、そこで終わらせず、その先のどういうことまで考えてもらいたいと思っているということなのか。


難しいテーマになればなるほど、こうした出題者の意図の読み取りが答案の出来を左右する。

ここで勘違いしてしまうと、取り返しがつかないので、出題者の意図を探りながら、答案の中心になるキーワードを見つけ、構想を練るための紙に書き出していこう。


と、ここからは、次のステップだ。





(1)問題を読む ①問題文を読む前に


試験開始の合図とともに、問題文の1行目から読み始めるようではまずい。


まずやらなければいけないのは、問題用紙と解答用紙の確認だ。受験生なら当たり前のことだけど、試験開始の合図があったら、まずはこの確認作業から始めないと。


落丁や印刷ミスの確認も兼ねて、問題用紙と解答用紙を広げ、課題文の長さや解答の制限字数を見て、練習してきた形式と比べて変更がないかを確認するんだ。

変更があったら、予定していた時間配分も変えないといけないからね。

小論文入試は変更が多く、試験時間は変わらないのに課題文や制限字数が倍増しているなど、予想外の変更に当たることだってあるよ。


時間配分に関しては、たとえば、試験時間60分で600字の小論文を書き上げなくてはいけない場合、単純に10分で100字埋めればよいというものではないよね。

課題文の読解を5分で片付けたとしても、材料集めに5分、構成決めに5分かかれば、残り45分。

読み直しと修正の時間を残そうと思えば、100字5分ほどのペースで書くつもりでいないと、時間切れになりかねない。


このように、試験時間から、課題文の読解や材料集め、構成決めにかかる時間と、最後の読み直しと細かい修正に必要な時間を引いた残りが、実際に小論文を書く作業に充てられる時間になるわけだ。

時間がないからといって、構想を練る時間を削って、漠然と方向を決めただけで書き始めてしまうと、あとで行き詰まって結局は時間を無駄にしてしまうことになるので、構想を練る時間はしっかり取るようにしよう。


実際に文字を書くスピードはもちろん、選んでおいた箇条書きの材料を膨らませて文章にするスピードも、個人差が大きいので、練習を通じて何度か時間を計ってみて、自分のスピードを把握しておこう。

万が一にも時間切れで未完成のまま提出という事態を招かないためには、調子のよいときで○分△字、調子が悪いと●分▲字というように、自分のスピードを考慮して時間配分を考えることが必要だ。

ここで、解答用紙に書き始める前の手順を確認しておこう。
頭の中で考えて、いきなり解答用紙に向かうなんてのは論外。
まずは、「問題を読む」→「材料を集める」→「構成を決める」の3ステップで、しっかり構想を練り、内容を決めてから一気に書こう


構想を練るというのは、「あれやこれを取り上げて、なんとなくこういう方向で書こうか」といった、漠然としたものではなく、与えられた課題に対し、自分が書くべき内容とその順序をじっくりと考え、問題の掘り下げや材料の取捨選択、さらに段落構成や各段落のおよその字数配分まで決めておくことだ。


この段階をサボって、「早く書き始めなきゃ」と、思いつくままに書き出してしまうと、結局は着地点がわからなくなり、行き詰まって時間を無駄にすることになりがちだ。
たとえ試験会場で、周囲の受験生が試験開始直後から書き始めたとしても、焦らずに、構想にきちんと時間を割くようにしよう。
書き始めるまでに多少時間がかかっても、どの段階でどのキーワードを入れるかまで決めてから一気に書き上げるほうが、結局は速い。



まず、「問題を読む」とは、単に設問や課題文に目を通すことではなく、課題文の主張の中心を押さえ、どのような問題を、どのような立場や視点から論じているのかを理解し、設問の要求から、出題者の意図を考えることを指す。

常識や教養と呼ばれるような知識の有無に左右される部分が大きく、国語における一般的な読解力も問われるステップだ。


大事なのは、出題者の意向に沿った、正確な読み取りだ。
入試問題として与えられるのは、題名やテーマだけの場合もあれば、長文や図表の場合もあるけれど、いずれにしても、与えられたテーマや課題をしっかりと受け止め、出題者が何を書かせようとしているのかを見抜く力が試される。


この段階で、出題者の意図を離れて、自分の得意な話題にこじつけて書こうとしてしまうと、たとえ一見まとまった文章であっても、「論点がずれている」の一言で切り捨てられ、ろくな評価はもらえない。
あくまでも、その問題において問われていることを正確に押さえる読解力こそが、小論文の前提なんだ。



続いて、与えられたキーワードから連想を広げていく材料集めと、答案の軸にする主張を決めて材料を選び、全体の流れを考える構成決め


材料集めは、課題文に出てきたキーワードを紙の中心に書き出し、筆者の主張の要点を整理するところから始めよう。
そして、そこから連想される材料を周囲に書き出していく。

行き詰まったときは、あとで説明する3つのアプローチで、さらに深く掘り下げて材料を集めよう。


そうして集まった材料から、自分が論点にしたいことや結論として打ち出したいことを絞り込んだら、散漫な印象を与えないために、その結論を導くために必要な材料を選び、定番のパターンに沿って段落構成と各段落のおよその字数配分まで決めておく


ここまでやって、答案の設計図を完成させておくのが、「構想を練る」ということなんだ。


それが終われば、あとは一気に書き上げるだけだ。
ひとたび書き始めたら、絶対に途中で方向転換せず、決めた通りに書き進めよう。



では、各ステップの作業の進め方をさらに細かく見ていくよ。 

(5)全体の構成や説明の仕方が悪く、言いたいことがわかりにくい。


せっかく主張と論拠がそろっていても、それらを示す順番がおかしいと、話がごちゃごちゃしてわかりにくくなってしまう。
構成の考え方については、小論文を書く手順の説明のところで詳しく扱うけれど、どんな構成になっているとダメなのか、代表的な失敗例を知っておこう。
 


冒頭の問題提起と結論がきちんと対応していない


最初の段落で、「……なのではないだろうか」と自分で問題提起しているのに、それに対する答えが示されないまま終わっているもの。
これが意外に多いんだ。


自分で示した問いには、自分で答える」、これが鉄則。


問題提起を書いてから結論を考えるのではなく、構成を考える段階で、結論を先に決めてから、それに対応する問題提起を考えるようにすれば、このような失敗は防げる。



同じような内容を繰り返して字数を無駄にしている


論説文でも、筆者の主張が形を変えて繰り返されるのはよくあることだし、冒頭と結論で、自分の主張が形を変えて繰り返されるのは問題ない。


ただ、字数の少ない小論文の中で、段落をまたいで同じ話が続いていたり、すでに説明したはずの例がまた繰り返されたりと、一つにまとめられるはずの内容が出てくると、話の流れが悪くなる。
そうした繰り返しで字数を無駄にしているということは、入れるべき大事な内容が入っていないということでもあるので、話の掘り下げ不足にも直結している。



分けて論じるべき複数の問題を、ひとくくりにして論じている


たいていのものごとには、さまざまな面があり、そこには多くの因果が絡み、複雑になっている。
しかし、字数の限られた小論文では、そうした状況を軽く指摘したあとは、その中の一点に焦点を当てて掘り下げていくことが求められる。
その際、論点に選んだはずの問題とは別の問題に話が行くと、ごちゃごちゃした印象を与えるだけでなく、結局はどちらも掘り下げ不足に終わってしまう。


たとえば前述の節電の問題と、原子力発電の問題。
節電というのは、原子力発電を支持するかどうかと関係なく、みんなで心がけていくべきものだ。
どのような電力源に頼ろうが、限りある資源の有効活用が大切なのは変わりないからね。
それなのに、節電のあり方を論じるときに原発の是非に絡めてしまうと、原発推進派か脱原発派かで、節電のあり方まで変わってしまうような、間違った印象を与えてしまう。


このように、「今ここで取り上げないほうがいい問題」というのもあるので、材料を絞り込むときに気をつけておこう。



グループ分けなどの整理ができていない


問題の原因や影響を列挙するときや、具体的な改善策をいくつも挙げるときは、思いついた順にただ書けばいいというものではない。


材料集めの段階で思いついたものが多ければ、「これは書かなくてもいいかな」と思うものを削り、共通点のあるものは一つのグループとしてまとめ、なるべく3つくらいのグループに整理して示すと、読み手が情報を把握しやすくなる。


「まず、A。次にB。そしてC。またE。さらにF……」と、多くの要素を並べて話を続ける代わりに、「それには3つの理由がある」と、先にグループの数を示しておき、「まずAとBのような①。続いてCとDという②。最後にEの③だ。」のように整理するんだ。


たとえば節電に関しては、①電化製品の使用を控える、のほか、②夜間電力を利用した揚水式水力発電、③需要のピーク時を避けて製品の使用時間帯を変える、④送電ロスの縮小、⑤消費電力の小さい製品に替える、といった具合に、さまざまな取り組みが考えられる。
しかしこうした取り組みを、ただ思いついた順に挙げていったのでは、ごちゃごちゃしてわかりにくい。
「電気を作り出す段階では、②(略)というしくみがあり、電気を送る段階では、④(略)という課題がある。そして、電気を使う段階では、①(略)・③(略)・⑤(略)という取り組みがある。」というように、集めた材料を整理してから示すようにしよう。



抽象的な表現と具体的な表現を組み合わせていない


抽象的な表現ばかりだと、具体的にはどうなのか、詳しい説明が欲しくなるし、細かい説明ばかりだと、抽象的な表現でそれらをまとめてみてもらいたくなる。


表現は、具体と抽象を織り交ぜるのが一番だ。


特に結論が抽象的な理想だけで、それを実現するための具体的な取り組みに触れていないものは評価が得られない。


これからの社会がどうあるべきか考える際、抽象的な理想ならいくらだっていえる。
しかし、それをどうやって実現するのか、そこを考えることが肝心なんだ。


よくある理想で、「一人一人の個性が大事にされる」、「患者の自己決定権が尊重される」といったものがあるけれど、このようなフレーズを示しただけでは、何が言いたいのかよくわからない。
何がどうなることが、「個性が大事にされる」、「自己決定権が尊重される」といえるのか、そしてまた、具体的に何をどうすれば、それが実現できるのか。
こうした部分が説明できていないと、主張としての評価は得られない。


ほかにも、「バランス」、「両立」、「調和」などの抽象的な言葉だけで、実際にどのようなバランスで調和させ、両立しようというのか、具体性を欠いているものはダメ。
連携」、「協力」というだけで、具体的にどのような形でどのような役割を果たすのかがわからないのもよくない。

こうした抽象的な言葉は必ず、具体的内容とセットで使うようにしよう。



(4)主張の論拠が乏しく、説得力に欠ける。


「説得力がない」というのは、言っていることが間違っているとか非現実的だとかいうことに限らない。

主張自体は正しかったとしても、その正しさを他人に納得してもらうための材料がそろっていなければ、やはり説得力を感じさせることはできない。


自分の主張に説得力を持たせるためには、「なんとなくそんな気がする」というのではなく、読み手を納得させるだけの論拠を示さなくてはいけない。


理系の研究論文ならば、実験による検証で、仮説の正しさを証明することになるけれど、小論文では、そうした科学的なデータが手元にあるわけではないし、そもそもそうした検証が難しいテーマが多いので、とにかく論理的な思考の跡を示して論拠とすることになる。

因果関係や影響・効果などの考察を言葉で示し、どのような事実から、どのようなことが考えられ、どういう道筋でその結論に至ったかを、言葉で説明できているかどうかが問題になるわけだ。 


自分の主張を展開するときは、必ずその論拠を示すのを忘れないようにしよう。
「○○はよくない」というのであれば、それがなぜよくないのかが、ほかの人にもはっきりと伝わるように説明しないとダメだ。
ただ「こうすべきだ」というのではなく、「なぜこうすべきなのか」がわかるようになっていなければ、読み手を納得させることはできないからね。


たとえば、「ゆとり教育の見直し」を主張する場合は、ただ「見直すべきだ」というのではなく、「なぜ見直すべきか」を説明することから始めなければいけない。
「ゆとり教育」というのがどういうもので、どこにどのような影響を及ぼし、それがどう問題だというのか。
そして、一口に「見直す」といっても、どこをどう変えるべきだと考えているのか。
さらに、そのように変えることで、どういった効果が期待されるのか。


このように、自分の主張に説得力を持たせるためには、改善の必要性や、自分が提示する具体策の意義などを、解答の中にきちんと盛り込んでおくことが大切なんだ。


ふだん、このような論拠を気にしたことがない人も、ある現象や取り組みに対し、自分がよいと思う理由、あるいは悪いと思う理由を考えるところから始め、「なぜ今のままではいけないのか」、「ではこれからどうしていくべきなのか」を考えてみる練習をすると、論理的な主張ができるようになるよ。
 
当然、賛否両論がある話題などで、単なる自分の好みでものごとを語るのも厳禁。
個人的な話題(自分の志望理由など)でもない限り、自分がそれを好きかどうかは問題ではない
「私は好きではない」などと、書く必要もないし、そんな断り書きはむしろ目障りだ。


大切なのは、社会にとっての意義
社会にとって有益か有害か、直接・間接の影響を考慮して、冷静に判断するようにしよう。


また、自分の体験したできごとや自分の感想を語る場合でも、あまり感情的にならないことが大切だ。
特に、いじめや差別など、自分が不快な思いをした体験や、憤りを覚えたニュースが絡むと、つい攻撃的なフレーズを使ってしまいやすい。

けれど、大事なのは、自分がどんないやな思いをしたかではなく、それが社会全体にとってどのような悪影響があるかだ。
一個人の感情の問題ではないので、論じるときはあくまでも客観的で冷静な姿勢を崩
さないようにしよう。