ちょっとタイトルからはわかりにくいですが、
今回の研究では、母指の運動の運動学習において、
事前に与えられた固有感覚の統合の調整が運動学習に影響を与えるかどうかを調べたものです。
これでも少しわかりにくい表現ですが、
要は
運動学習の前に感覚識別課題を行い、
どの感覚に注意を向けるかということに焦点が当てられています。
この実験では
固有感覚(振動刺激の変化)
もしくは
表在感覚(かすかな電気刺激を使用)
いずれかの感覚刺激に対して注意を向けることで、その後の運動学習に影響を与えるかを見ています。
結果としては、
固有感覚に注意を向けた場合には、運動学習は促進され、
その一方で、表在感覚のみに注意を向けた場合には、運動学習は妨げられる傾向にありました。
これは、トップダウンでsensory gating processを制御しているためだと考えられています。
本来であれば、フィードフォワードの情報と固有感覚のフィードバック+視覚情報を元に、母指の運動の表象が作られます。
固有感覚のフィードバックにはノイズが混ざっており、選択的に注意を向けることで、それに対してフィルターをかけ、運動皮質に対して容易に接続できるようになると考えられています。また固有感覚は3a野だけでなく4野での入力されることも原因のひとつとして挙げられています。
逆に、皮膚感覚のみに注意を向けるということは、固有感覚から注意をそらすことになり、運動学習を妨げる結果となるようです。
運動感覚(kinesthesia)には皮膚からの感覚入力が重要であることは他の論文で示されていますが、実際の運動学習、プログラミングに関しては固有感覚の情報の方が重要度は高いのかもしれません。
Rosenkranz, K. & Rothwell, J.C., 2012. Modulation of Proprioceptive Integration in the Motor Cortex Shapes Human Motor Learning. The Journal of Neuroscience,, 32(26), pp.9000-9006.
今回読んだ研究は、スポーツ分野のPTの研究ですが、脳卒中患者にも応用して考えられる部分もあるのではないかと思います。
過去の研究では足関節に不安定性がある患者(FAI)では運動感覚の障害や、筋の動員パターンの変化が見られています。FAIの患者では、足関節からの変化した求心性入力が全身の神経システムの適応戦略に影響があるかもしれないことが示唆されてきました②
まだFAIの患者では、股関節伸展時の臀部筋の動員が遅れる、歩行時に大腿直筋の動員が変化するなどの現象が見られています。
この研究では対照群12名と足関節に不安定性がある患者(FAI)群12名において、Foot and Ankle Disability index、垂直ジャンプ時(片足で着地)のTime to stabilization (TTS)、体幹筋反射テスト(脊柱起立筋、腹直筋)などを調べています。
結果、FAI群では足関節の知覚が低下
TTSはFAI群内で非障害側、障害側を比較したところ、内側・外側方向
へは、障害側がTTSが優位に長い。しかし前後方向へは優位差はありま
せんでした。
FAI群と対照群を比較した場合も同様に、左右へのTTSは優位に長く、前後方向では差は見られなかった。
体幹筋の検査では、FAI群では対照群と比べ、伸展・屈曲方向ともに
優位に遅いという結果になっています。
回帰分析ではTTSと体幹筋(伸展)の潜時の間に優位に相関があると示されています。ただし、屈曲方向では優位ではありませんでした。
考察:過去の研究2では、FAI患者では代償的に股関節の適応戦略が見られる。また、15では、体幹筋の硬さが、適応戦略により長い時間をかけることを可能にしていると述べています。
しかしながら、今回研究からは、メカニズムは結論づけることができないと明記していました。
感想:この研究から、足関節からの固有感覚入力、運動感覚が、正常に入力されないと、体幹筋の反応時間などにも影響を及ぼすことが予測されます。
脳卒中患者では当然、足関節、体幹ともに不安定性がみられる方や、運動感覚が低下している方も多いです。
コアスタビリティの重要性はすでに多くの勉強会でも述べられていますが、
抹消からのアプローチがなければ、体幹の機能も十全には回復しないかもしれません。逆に言えば、足関節において、出力だけの問題でなく、運動感覚、知覚などの要素を評価し、治療に組み込むことで、体幹の活動に影響を及ぼすこともありえるのかもしれません。
今回の研究では体幹筋でもより表層の脊柱起立筋、腹直筋の活動が測定されていましたが、姿勢制御の観点から考えると、腹横筋、多裂筋などの活動をみると、さらに予測的姿勢制御への影響もみれるのかもしれません。
今回の論文
MARSHALL, P.W.M., MCKEE, A.D. & MURPHY, B.A., 2009. Impaired Trunk and Ankle Stability in Subjects with Functional Ankle Instability. Medicine & Science in Sports & Exercise, pp.1549-1557.
参考文献
Hertel J. Functional anatomy, pathomechanics, and patho- physiolgy of lateral ankle instability. J Athl Train. 2002;37(4): 364–75
Bullock-Saxton JE. Local sensation changes and altered hip muscle function following severe ankle sprain. Phys Ther. 1994; 74(1):17–28
Pintsaar A, Brynhildsen J, Tropp H. Postural corrections after standardized perturbations of single leg stance: effect of training and orthotic devices in patients with ankle instability. Br J Sports Med. 1996;30:151–5.
Nudoらの研究でもよく知られていますが、体性感覚野は感覚入力や、運動により領域の大きさは変化します。
運動を伴わない感覚の経験でも、関連する領域が広がるという報告が過去にありますが、passiveな感覚入力だけでは、体性感覚の変化にはつながらないという報告が出てきています。
Ostryらの研究では、能動的な運動(学習)が体性感覚の変化につながり、運動学習を伴わない場合(ロボットによる他動運動)には知覚の変化がみられなかったと報告されています。
つまり、体性感覚システムを変化させるには、運動学習が主要な役割を果たす可能性が示されています。
また、体性感覚の知覚には、運動と感覚の両方のシステムが必要であるという考えも、この筆者らの研究により信憑性が強まっています。
学習により、運動指令の変化、感覚の変化、またそのコンビネーションを通して知覚が変化している可能性があります。
運動と知覚は切り離せるものではないということが改めて示されています。
Ostry, D.J. et al., 2010. Somatosensory Plasticity and Motor Learning. Learning, 30(15), pp.5384-5393.