立位での上肢トレーニングの姿勢コントロールへの影響 | What a wonderful world and life

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近年では理学療法士も、脳卒中患者の、より麻痺が強い側の上肢の治療に積極的に取り組む場面が増えてきているのではないかと思います。今回紹介する論文では、上肢のトレーニングにより、バランス能力の改善が見られるという論文です。

(はじめに9
立位でのリーチ課題には、姿勢の安定のための予測的姿勢制御、重心移動、対象の視覚的な固定、随意的な把持、リーチ、リリースなどが含まれている。
予測的姿勢制御は異なる、並行の下降経路によって制御されると考えられている。


そのため、リーチ課題は課題の要求の文脈で行われるべきであり、上肢機能と姿勢制御に関与する異なる機械的、感覚、運動、goal orientedのシステムの統合のための基礎となる神経コントロールネットワークは「暗黙的」に従事することが必須であるだろうと筆者らは述べている。

このような仮説の上で、今回の研究が行われています。

対象は慢性期の脳卒中患者9名。Fugl-Myer test中等度の重症度(mean 27±10)に分類された方が参加しています。

評価は
sensory organization testing(SOT):異なる感覚条件にで体性感覚、視覚、前庭システムの使用を同定するために、静止立位で6つの課題を行う(詳細は述べられていない)

Limits of stability(LOS):8方向に随意的に随意的にCOPをその方向に移動させ最大距離を数値化

Rhythmic weight transfer(RWT):動く視覚ターゲットの方向(前後、もしくは左右)へ、3つの異なる速度で重心移動を行い、重心移動の能力を数値化。


臨床的なスケールとして
Berg Balance Scale(BBR)

Activities-specific Balance Confidence Scale (ABC)
が用いられています。


トレーニングは1時間、週3回、6週間実施。
内容は、(直訳なので少々わかりづらいですが)
1)把握、前方リーチ、ボールをターゲットのバケツにリリース
2)把握、(上肢を)輪っかを通して前方へリーチ、ボールをターゲットのバケツにリリース(肘関節の伸展、回外を強調)
3)回内した状態で把持し、そこから回外して輪っかを水平のポールに通す
4)手掌でつかみ、上肢を屈曲外転し輪っかを水平のポールに通す
5)ペグボールを回外した状態です髪、前方へリーチし、上方のペグボードに置く。

これらを30回ずつ繰り返しします。

動作のパフォーマンス(上肢の運動方向等)に対するフィードバックは与えます。初めは適切な運動を行うためにアシストやガイダンスを行う。

ただし、これらの指示はあくまで「上肢」の運動に対するフィードバックであり、姿勢コントロールに関与する外在的な情報(足の位置、姿勢の制御の戦略)は与えない。

ターゲットの距離は前後、左右への重心移動が起こる位置で、かつこれらの課題が達成できる位置に設定します。


One-way repeated ANOVAがSOT、BBR,ABCの統計処理のために使われ、
Two-way ANOVAは重心移動のそれぞれの方向に対する速度、時間の比較のために使われています。Post-hoc testはTukeyが使用された。
LOSに関しては、baselineのテストでno scoreがあったため実施できなかった。


(結果)、
SOTのスコアは優位に向上(P<0.05)
RWSでは方向のコントロールが優位に改善(P<0.05)特に中等度、速い速度での前後方向へのコントロールの改善が著明
しかし左右への重心移動に対しては優位な改善は見られなかった。
また速度の改善は左右、前後共に優位ではなかった。

BB(P<0.01)S、ABC(P<0.05)は共に優位に改善している。

(考察)
今回の結果から姿勢コントロールに関する外部からの情報がない条件にて、麻痺側上肢への介入後に姿勢コントロールの改善が見られることがわかった。これはimplicit postural leaningが起こったことを示唆している。

統合された運動スキルのリハビリテーションにおいて、このような戦略は特に効果があるのではないかと筆者らは示唆している。

このように、上肢の課題に注意を向けた状態では、バランスに関するより自律的、無意識のプロセスが使われたのではないかと考えられる。

姿勢の準備、コントロールは通常意識的、随意的なコントロールではないので、機能的課題の一部として姿勢反応にチャレンジすることは皮質下の神経回路を動員しているのかもしれない。

過去にも意識的な姿勢コントロールに注意を向けることが、無意識下のコントロールを混乱させることがあるという報告もある(1)

その一方で、慢性期脳卒中患者において、意識的に注意を姿勢制御に向けることで歩行速度、耐久性、バランスの臨床指標が改善したという論文もある。(2,3、4)


(感想)
この論文の筆者らは、どういったメカニズムが上肢の運動の基礎に有り、どのような条件が必要であるかを本人らの意見としてきちんとイントロダクションで述べています。かつ、考察では彼らの結果と相反する結果もちゃんと述べているので、個人的に感心しながら読んでいました。

今回の論文では、上肢運動により、バランス能力が向上したという結果が得られていますが、ただ上肢トレーニングをやればいいのかというわけでなく、その基礎となる神経ネットワークの理解が必要です。それがなければ、現時点では本当にその人にとって効果のある治療を提供することは難しいように思います。

学校を卒業する段階での神経学的な知識というはやはり、脳卒中の方の治療を考える上ではやはり不十分かなと思います。かつ情報はどんどん新しいものが出てくるので常にアップデートする必要があります。

それらの知識と合わせた上で、
臨床的に見られる反応、認知、知覚、注意、本人の性格、ニードなどを加味しながら構築してくことが重要ではないかと思います。


(今回の文献)

McCombe Waller, S. & Prettyman, M.G., 2012. Arm training in standing also improves postural control in participants with chronic stroke. Gait & posture, 36(3), pp.419–24. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22522046 [Accessed October 13, 2012].

参考文献
1)Wulf G, Hoss M, Printz W. Instructions for motor learning: differential effects of internal versus external focus of attention . Journal of Motor Behavior. 1998: 30 (June 2): 169-79

2)Eng JJ, Chu KS, Kim CM, Dawson AS, Carswell A, Hepburn KE. A community- based group exercise program for persons with chronic stroke. Medicine and Science in Sports and Exercise 2003;35(August (8)):1271–8.

3) Leroux A. Exercise training to improve motor performance in chronic stroke: effects of a community-based exercise program. International Journal of Rehabilitation Research 2005;28(March (1)):17–23.

4)Dean CM, Richards CL, Malouin F. Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized, controlled pilot trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2000;81(April (4)):409–17.