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What a wonderful world and life

イギリスでの生活や、大学院の授業、そしてphysiotherapyについて


前回からかなり間が空いてしまいましたが、今回は半側空間無視の治療についてのレビューを読んだ感想を書いていきます。

治療のメカニズムはトップダウン、ボトムアップ、抑制プロセス、覚醒などに分類されています。といっても厳密に分類することは難しく、それぞれの要素が混ざり合っている場合が多々あるようです。レビューないでも多くの治療方法が記載されているので、抜粋しながら述べていきます。

①visual scanning training: トップダウン
無視側にある外部情報を用いて、visual scanningをreorientationさせる(随意的に眼球運動を行う)。この治療はトップダウンに分類される。

②Limb Activation: ボトムアップ、抑制プロセス
麻痺側(左)の上肢を外在的な手掛かりとして用いる。随意的に用いる中で、あまり参加していないボディスキーマを活性化していく。またこの治療では、非麻痺側(右)上肢を同時に動かさなければ、非傷害半球からの抑制も減弱しているかもしれない。

③Repetitive trans-cranial magnetic stimulation(tTMS)
Spatial orientationに関して、半球間の非対称が右側への注意のバイアスを強力に強めているかもしれない。この仮説に対し、rTMSをおこなった場合に半側空間無視が改善しうる。

④Vestibular stimulation:ボトムアップ
Caloric stimulation(以前のブログ参照)により、半側空間無視が短期間軽減する。かなりシンプルな治療であり、認知障害が高い場合にも適応できる可能性があると述べられています。また、この治療は、自己中心枠(egocentric flame)の内部表象が修正されると考えている研究者もいます。

⑤Neck muscle viblation and trunk rotation: ボトムアップ
左頚部筋への電気刺激(TENS)を与えることで、抹消テスト、左空間の視覚推定テスト、などが一時的に改善したという報告がいくつも出ているようです。またshoulder strapもしくはコルセットを用いた体幹の回旋を行うことで、左空間の視覚推定、探索、そして線分二等分試験において改善がみられている。
(感想)他にもプリズム眼鏡などの治療も述べられていますが、個人的に気になったものを挙げました。

また、これらの治療結果から考えられることは
① 麻痺側(上肢)を積極的に左空間で用いる、感覚入力を行うことで改善する可能性がある。またこれは半球非麻痺側の過活動を抑制することにもなる。
② 前庭系のシステムへの介入により、半側空間無視は軽減する。ただし、その感覚入力は一側性、つまり麻痺側に与えられる場合に効果がある。

もしかしたら、徒手による頚部筋への介入でも効果はあるのかもしれません。

これだけ書きましたが、前回に述べた半側空間無視のネットワークについてはあまり述べられていません。(個々の文献にはもしかしたら載っているのかもしれませんが。)

ネットワークを考慮した上で具体的に新たな治療を考案した場合には、症例報告を出して、その情報を共有、吟味する必要があるかもしれません。


(参考文献)
Luaute, J. et al., 2006. Visuo-spatial neglect : A systematic review of current interventions and their effectiveness. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 30, pp.961–982.
半側空間無視は臨床上、左片麻痺(右半球の損傷)の患者に多く見られます。
では具体的にどの領域が関わっているかについて述べられた論文を紹介します。
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定義としては、眼球・頭部のオリエンテーションが常に障害側側(右半球障害ならば、右側)にバイアスがかかった状態と言われています。
また、この症状は完全に暗い部屋の中で探索する際にも見られるようです。
かつ、このシフトしてしまった自己中心の(眼球、頭部)の元のポジションに気づけません。

ではどういった神経回路がこれに関わっているかというと、

perisylvian network

temporo-parietal uinction (TPJ)
inferior parietal lobule(IPL)
superor/middle temporal cortex(S/MTC)
insula
ventrolateral prefrontal cortex(VPC)

これらの領域はdiffusion tensorを用いた研究などで解剖学的にコネクションがあることがわかっています。下図参照




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右半球のSMTとIPL、VFCは空間のオリエンテーションの経路に関連していると考えられています。
また、頭部、身体のオリエンテーションにも重要な役割を果たしています。

過去の研究から、
このネットワークは、前庭、聴覚、頚部の固有感覚、視覚情報を空間表象に収束し変化させます。

半側空間無視は他の皮質下の部位(内包など)でも見られますが、これらは、構造的にはダメージはなくとも、上記のネットワークが機能不全(diachisis etc)に陥っている状態であると考えられています。

半側空間無視の際によく使われるのが、線分二等分テストです。しかし、半側空間無視をもつ患者約40%はこれに関しては障害されていません。

線分二等分テストではallocentric(物質中心)な表象の障害を見るものであり、
空間無視の主要な障害というのはegocentric(自己中心)の表象の障害であるからだろうと言われています。
これらは別々の領域で処理されており、

allocentric neglectはsuperior temporal gyrusの障害であり
egocentric neglectはIPLの障害と関連しています。

TPJの障害は聴覚刺激と関連しているようです。

タスクの実行時、安静時にの脳活動も調べられており、
背側頭頂皮質、前頭皮質の活動のバランスが崩れているようです。

(感想)
以前のブログに書いたように、前庭の刺激などはマルチモダルな領域で処理されています。今回示された部位もバイモダルニューロンが関係する部位が含まれているので、
治療をすすめるのであれば、視覚情報だけでなく、麻痺側への固有感覚入力、聴覚刺激などと組み合わせて、複数の感覚を同時に入れながら治療を進める方が注意がそちらに向けて行きやすくなるのかもしれません。

システマチックレビューで半側空間無視の治療について述べられていた論文もあったので、いずれ読んでまとめようかと思います。


(参考文献)Karnath, H. & Rorden, C., 2011. The anatomy of spatial neglect. Neuropsychologia. Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuropsychologia.2011.06.027.
前庭システムは外部環境に関連して身体の位置、動きに関する基本的な信号を提供しています。
しかしながら、前庭皮質だけの部位というのは特定されておらず、マルチモダルな感覚野で、視覚、体性感覚と統合されています。

その部位は頭頂-島 前庭皮質、体性感覚野、ventral intraparietal areaが挙げられます。

いくつかの研究から前庭は、他の感覚モダリティの元となる基本的な参照枠を提供しているのかもしれないと示唆されています。

この研究では、前庭への刺激の前後で、体性感覚、視覚の刺激を推定するタスクの結果に変化が出るかどうかをみています。

前庭への刺激はCVS(cold caloric vestibular stimulation)を用いており、これは冷たい水30mlを外耳道(左)に流し込み、頭部を水平面に対し30度後方に傾け、外側半規管を垂直軸に対し30度右に傾ける30秒保持したあとに排出します。

その結果(詳細は省略)、CVSは体性感覚推定タスクの知覚の感受性を向上させることがわかりました。かつ、この刺激は片側だけでなく、対側でも改善がみられました。
考察では、左のCVSは主に右半球を刺激しており、右半球が左右両方の表象を含んでいるためと考えられています。また、脳梁を介したコネクションにも影響を与えている可能性があるとも示唆しています。

前庭システムの影響については二つのメカニズムが考えられています。
①ボトムアップ:bimodal neuronに対し、表在入力、前庭入力が収束し、環境内における身体のコード化に対して有効な機能的なマルチモダルな相互作用を向上する。
この場合、体性感覚の推定は純粋に単一の刺激に対するものではなく、統合されたものが推定に影響している。
②トップダウン:身体の内在的な情報を提供することで体性感覚の過程を向上させている。
この場合、前庭刺激はまず身体の表象を作り、その後、表在の知覚に影響を与えると考えられます。

感想:私自身CVSの刺激がどのような作用を実際に前庭に及ぼしているかをはっきりと調べていないのでわかりませんが、頭部の位置の変化などで、当然前庭に対して刺激は加えられます。前庭への刺激が、体性感覚刺激よりも先行して与えられると、患者さん自身がその後表在感覚を知覚しやすくなるのかもしれません。(あくまで推測ですが)
ただし、脳卒中患者さんでは座位でも不安定であったりすると頸部を固定されてしまい、前庭への入力が少なくなっていることもあれば、歩行時場面では過剰に活動しているような場合もあるかもしれません。
外部の環境、課題に対し、前庭システムが適切に使われているか、またその刺激が正常に近いものであるかを考えていかなければいけないのかもしれません。

Bottini, G., Haggard, P. & Ferre, E.R., 2011. Vestibular modulation of somatosensory perception. European Journal of Neuroscience, 34(July), pp.1337-1344.