キッチンの奥で揺れるもの
強がってみせる日ほど
キッチンの壁に飛んだ油の薄い点が気になる
大丈夫じゃない日もあるのに
予定がひとつあるだけで
体のどこかが重くなる感じを
まだ上手く扱えないまま
流しの前でフリーズする
鍋を洗う手を動かすだけで済むはずなのに
そこに触れる前のわずかな間が長く伸びて
呼吸の位置までずれていく
深く沈み込むように
油の点を
指でなぞってみても
何かが
軽くなるわけじゃない
ただ
今日をどうにか続けるための何かを探している
換気扇の風がゆっくり降りてきて
温度が少しだけ整っていくのを感じた
そのわずかな変化だけで
世界が静まる気がした
キッチンの奥で
誰にも見えないはずの影が
ゆっくり形を変えていくのが見えて
その静かな歪みだけが
こちらの空気に混ざっていく