ゆっくりと、しかし着実に時は進む。


↓本編








満月が昇る夜。

幻想郷の各所では眠らない騒ぎが起こる。


妖怪や妖精、はたまた吸血鬼や鬼まで。

幻想郷に住む人間以外の者達は、満月の日に活性化するからだ。


だから人間達はその日が過ぎるのをじっと待つ。


一部を除いては。



「イナバー…」


ウドンゲの耳で遊ぶ輝夜。

その声色には退屈の二文字が浮かんでいる。


「なんですか姫様?いつもなら月見ダァーッ!って盛り上がるのに」


ウドンゲが鋭いツッコミをかますが、輝夜は答えない。

「ウドンゲ。姫はシロ君が居ないから、寂しいのよ」


永琳が苦笑いで言うと輝夜はあらかさまに動揺してしまう。

「ななななにを言ってるのよ!?そんな訳ありませんの事よ!?」

「シロですか…。あの人間風情が……」


ウドンゲが露骨に嫌な顔になる。

一方の永琳は苦笑いのままため息をついた。


「人間。しかも将来有望のいたいけな少年が、姫に惚れてしまうのは頷けます」

しかし、と永琳が一息入れる。


「好きになるのが急過ぎではないかと。シロ君は来てまだ5日ですし」

「……それは」


確かに変だ、とウドンゲは永琳の言葉を反芻する。

一目惚れを除く、恋愛の始まりから恋と自覚するまでは、多少なりともラグがある物。


しかしシロは今じゃ輝夜にゾッコンラヴだ。


何かあるとウドンゲは勘繰る。


「姫様。まさかあの人間と変な事してませんよね……?」

「…………」


輝夜の肩がピクリと震え、目に光が消える。





後編に続く。
始まりは突然にやって来る。


↓本編。





「おはようございます!」

「あぁ。おはようシロ君」


早朝、と呼ばれる朝5時。

永遠亭内部を掃除中の僕は、寝起きの永琳さんに挨拶をしていた。


どうやらこの時間まで薬の研究をしていたらしく、目の下にはうっすら隈が見える。

「大丈夫ですか永琳さん?随分辛そうですけど」


「いやね…?私の能力で薬を作るのは簡単なのだけど、細かい調整が難しいの」

そういって大きな欠伸をする永琳。


それを見ていたシロが言う。

「もう少し寝てて貰って結構ですよ。家事は僕がやりますから」


女性が苦手なシロだが、無意識の内に気遣いをする所が憎い奴である。

「う~ん…。じゃあお言葉に甘えて少し寝るわね」


「はい。ごゆっくり~」

部屋に戻って行く永琳を見送った後、シロは台所に向かう。


永遠亭の台所はかなり広い上、材料や器具など完璧に揃っている。

料理をする身には有り難い場所だ。


「さてさて…。いつも通り始めるか……」

割烹着へフォルムチェンジした僕は、姫様や永琳さん達に食べさせる朝ご飯、とは別の物を作り始めた。


昨日作った料理の余りや、簡単に作ったキュウリの浅漬け、豆腐の味噌汁等をお盆に乗せる。

ご飯がないのはご愛嬌だ。


お盆に乗るギリギリまで料理を乗せたシロは、お盆を片手にある場所に向かった。



そこは永遠亭の縁側。

目の前が竹林に面しているのが目印だ。


シロが行儀良くお盆を運んで、縁側に座る。

すると、一羽の兎が竹林から飛び出してくる。


「早く飯よこせェ人間!」


竹林に住む兎の代表者、因幡てゐだ。

「手ェぐらい洗えや。兎野郎」


飛び出てくるや否や、料理に飛びついてバクバク食べるてゐにシロはジト目。

しかしてゐは知らぬ存ぜぬ。


我が物顔で料理をがっつく。

「味付け濃くねぇか?ちょっとしょっぱいぞ」


「そりゃどーも。嫌なら食わなくて良い」

噛み合っている様で噛み合っていない会話を交わす二人。


永遠亭に住み込み始めてまだ間もないが、これがシロの日課になりつつある。


「お前が台所から食べ物を持っていくの、見たのが僕でよかったな」

「ほっとけ人間。どうせ気付かれないんだ」


お互いにキツイ言葉を交わす。

これが二人のコミュニケーションだ。


「お代わり」

「ねぇよ」




続く…。
この作品はE★エブリスタに絶賛連載中の東方無給録の改編となっております。


疑問に思った人は実際に読んでみよう!!



↓本編。







僕はシロ。

苗字も無ければ、名前も本当の名前じゃない。


何もかもを失い、真っ白になった僕に付けられた名前がシロ。

わかりやすい上に単純極まりないネーミングセンスだ。


しかし不満はない。

姫様が付けてくれた名前に文句をつけるほど、僕は礼儀知らずじゃない。


永遠の時を生きる姫様に、僕は救われた。

だから僕は生きている間は姫様に尽くすと決めた。



これは僕が記録する最初で最後の物語。





東方無給録 Another

     始動






この物語はフィクションであり、実在する企業、団体、その他固有名称とは一切関係ありません。



この物語は二次創作であり、東方Project様は関係ございませんのであしからず。






・原作:卍黒猫卍

・アメブロ用編集、構成:水瀬三月


・添削、確認作業:水瀬三月

・企画:卍黒猫卍


・感謝すべき人々:読者様方





注:水瀬三月と卍黒猫卍は同一人物です。