『死六臣(サユクシン)』南北共同制作ドラマ | 三匹の忠臣蔵

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今では考えられない、韓国KBSが企画し、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の国営・朝鮮中央テレビが制作、韓国KBSで放送された時代劇。
朝鮮でも放送されたと思われるので、南北が一緒に観た時代劇になると思う。
しかも出演者は、全員が朝鮮の俳優さんたちで雰囲気も南北融合してて面白い。

タイトルの『死六臣』を韓国の発音では「사육신(サユクシン)」だが、朝鮮は漢字発音なので「사륙신(サリュクシン)」になる。
これは韓国と朝鮮の言葉のルール(頭音法則)の違いによるもので、本作でも字幕と発音は違うことから、「朝鮮の発音→韓国の字幕」になっていて、極めて珍しい作品だと思う。

死六臣とは、首陽大君(後の世祖)が引き起こした癸酉靖難(계유정난:キユジョンナン)によって、王位を追われた端宗(タンジョン)の復位を図ろうとして処刑されたが、死後230年後に名誉を回復した忠臣6人のことを指す。
成三問(ソン・サンムン)
朴彭年(パク・ペンニョン)
河緯地(ハ・ウィジ)
李塏(リ(イ)・ゲ)
兪応孚(リュウ(ユ)・ウンブ)
柳誠源(リュウ(ユ)・ソンウォン)
※()の中が韓国による発音になるが、せっかくなので朝鮮の発音で書いてみる。

首陽大君というと多くの映画やドラマで扱われる、李氏朝鮮時代でもっとも有名な悪役ではないかと思う。
だから韓国時代劇を観る人なら大まかなストーリーはご存知なはずで、簡単にまとめるとこんな感じ。

李氏朝鮮第4代国王・世宗の長男、第5代国王の文宗(ムンジョン)が死去したことで、その長男・端宗(タンジョン)が第6代国王に即位したが、文宗の弟で後の世祖(セジョ)首陽大君が王位を簒奪した癸酉靖難から、これに異を唱えた忠臣6人の物語を描いてる。
死六臣は癸酉靖難のクライマックスに登場する人物にすぎないが、この6人をメインに扱ったドラマは初めて観た。

登場人物は多く、ドラマの『龍の涙』『大王世宗』や『インス大妃』『王女の男』そして『韓明澮』などに登場するが、それぞれ作品によってキャラクターとしての役回りは違ってくる。
ここに今回、朝鮮の脚本が割って入ったわけで、楽しみに観た。

 

 


 

 

当然ではあるが、誰が誰か分からんので、登場のたびに字幕が出るのは助かった。

しかしお互いの呼び名が「字(あざな)」になるので、前半は字幕が出ないと誰か分からんことが多くあった。

本作のメインは癸酉靖難のクライマックスになるわけで、観ていて気づいたのは、ここに至るステップがこれまでの作品では無かったような気がする。
『インス大妃』はそうでもないが、多くの作品は「首陽大君=悪」という描き方から始まる印象がある。

首陽大君が王位を目指すきっかけと、ハン・ミョンフェの権力への執着は序盤でこの様に描かれてる。
・首陽大君が警戒されるきっかけ(1話)
・領相(リョン(ヨン)サン)ファン・ヒの進言によりキム・ジョンソを迎えた理由(2話)
・ハン・ミョンフェが何故殺生簿まで作ったのか(3話)
・首陽大君と兄・世子(文宗)との確執のきっかけ(4話)
・首陽大君とキム・ジョンソとの確執(5話)

そしてハン・ミョンフェはクォン・ラムをダシにして首陽大君に近づく。

 

 


 

 

慣用句やことわざをセリフに織り交ぜてるのは南北共通で、F音やB音を含まない朝鮮独特のメロディーラインと、八拍子の民謡のリズムは、いかにも朝鮮らしかった。
この企画そのものも面白いが、改めて南北が同じ民族だと実感した。

 

そして劇中に出てくるあの小さな馬こそが「本来の朝鮮の馬」の姿で、韓国の時代劇で見かける競走馬のようなスラリとした大型馬は、当時の朝鮮半島には存在していない。
朝鮮半島の伝統的な馬は、モンゴルから伝わった馬がルーツで、今の感覚だと「ポニー」や「ロバ」を一回り大きくした程度のサイズ感らしい。

しかし、言葉を聞いていると朝鮮の言葉はなめらかで中国語に近く、韓国は角張った印象で福井弁に似てるような気がした。
これは言語形態・ルールを南北それぞれで廃止・改編した結果だと思う。

そして音声はすべてではないと思うけど、撮影後の吹き替えのような感じがした。

どうも声の遠近感がなく、会話が平面に聞こえ、効果音ともかぶって聞こえたので。

あと困ったのが、名前の呼び方。
同僚同士でよび合う時は字(あざな)で呼び合う、韓国ドラマでは名前で呼ぶので誰が誰かこんがらがった。
ただ字幕には「役職:名前と号・字」の表記があったので助かったが、慣れるまでは大変だった。

これに関しては朝鮮の方が正しいんやろうな、最近の韓国ドラマはこのあたりがいい加減になってきて炎上したりしてるので。
ドラマ『大王世宗』でもチョン・インジとチェ・マルリと名前でよび合ってたしね。

そして、本作にはストーリーに華を添える二人の女性がいる。
一人はチョン・ソヨン。
朝鮮の女優キム・リョナが演じた架空の登場人物で、劇中では、朝鮮王朝初期の忠臣・鄭夢周(チョン・モンジュ)の庶孫という設定で物語では、ソン・サンムンとハン・ミョンヘの確執と復讐の中心人物。

もう一人はソルメ
北方の女真族の長であった彼女の父親が、キム・ジョンソ率いる朝鮮軍と「和睦の交渉」を行っていた交渉がまとまりかけていたのに、そこに突如として軍隊が襲撃を仕掛け、父親は殺されるが、コトの真意を理解したキム・ジョンソが養女にする。

この二人だけは最後まで物語に馴染めず、やってることは「伏線かな?」と思ってたらとんでもない展開になり、作品全体の完成度を下げてしまってる。

 

 


 

 

『大王世宗』ではいいイメージで描かれていたチョン・インジが、本作では裏切り者の内通者で、それこそ悪の権化。
そしてソン・サンムンは、ソヨンとの未練から忠臣を貫いたようにも見えたので、恋愛要素は入れない方が良かったと思う。

『王女の男』でも描かれていたと思うが、負傷したキム・ジョンソが城門を回るシーンや、首陽大君がキム・ジョンソを訪ねて殺害する際、「紗帽(サモ)の飾り」の件も一緒だったので、史実なんやろうな。


もう一つ、自分を訪ねてきたギョンヘ王女に対して、ソン・サンムンは正面ではなく、横を向いてクンジョル(目上の人に対するお辞儀)をする、これは『龍の涙』でもやってた。
今の韓国時代劇では省略されがちな所作も丁寧に描かれていて、そういう意味では昔の素朴なドラマに見えた。


21話だったか、首陽大君がシン・ソクチュとリゲ・ジョンとの揉め事を仲裁する形で罰を与え和睦させ、一緒に舞うシーンがある。
首陽大君がいかに民衆を気にかけていて、だからこそ忠臣同志の団結を必要としていたことが分かる。
ソン・サンムンとハン・ミョンフェもわだかまりを捨て、和睦しろと言ってたが、首陽大君はもっとすんなり王座につけると思ってたのではないかな。

しかし最期はキム・ジルの密告でバレる。

焼きごてを当てられるリュ・ウンブがソン・サンムンに言った、「お前は義理堅い人間だが事を謀る人間ではない」という言葉がすべてで、結局「위대한 지도자가 없었다」ってことかな。


そしてリュ・ウンブが言った「武人は士人と共に志を遂げられぬ」という古人の言葉を忘れ騙されたことが残念で、「もし言ってたら」「もしやってたら」というのは実際にそうだったんだろうと思う。

最終回のエンドロールを見ると、ソヨンやソルメのキャラクターは韓国側のアイデアだったのかと思ってたが、2007年制作のドラマなので両国の撮影事情も似ていたのかもしれない。

 

この作品を観た後に、色々と調べたら面白い事が分かったので『死六臣外伝_お墓が7つある不思議』として書きました。

良かったらどうぞ。

 

 

『死六臣(サユクシン)』南北共同制作ドラマ