もうすぐって…いつ? -6ページ目

◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十五話


リナは元々・・・というか、今も。新人類でも何でもなかった。

そして、同時にここにいる人々が本当に「新人類」とやらなのかどうかも、彼女にとっては疑わしかった。
普段はモビルスーツに身をまとっているため、素顔を見ることはない。しかも言葉は通じる。

一体彼らは何なのだろうか・・・。なぜ自分はここにいるのだろうか・・・。

1986年、両親のもとに生を受けた普通の人の子であった。
・・・とはいうものの、両親の記憶は3歳でここへ来たときに、消されてしまった。変なイスに座らされて、ヘッドギアを被らされ、そして、記憶を奪われたのだ。

どうやってここへ連れてこられたのかも、わからない。

皆は「君は捨てられていて、ボスが助けてくれたのだ」というが、何か引っかかるものがあった。
助けた人が、わざわざ記憶をうばったりするであろうか?
なにより、彼女以外の隊員たちは、本当はいったい何者なんだろうか?
彼女には知らないことが多すぎた。ほかの人が知っているのかさえもわからなかった。

しかも彼女の右腕(とはいっても、普段はモビルスーツで隠れているが)には、小さな象のような、アザがあった。これがいつ入れられたものなのか、もしくは生まれつきなのか・・・。何の意味があるのか、彼女には分からなかった。

(まぁ。いいわ。いつか逃げ出してやる。)


そう思い始めてから何年がたっただろう。一向にそれを実行できる日は来ない。
しかも今はこれまでにないほど皆が興奮して「少年探し」をしている。この少年に罪などないのに・・・。

彼女のこころの中は、日に日にこの少年の未来を助けたいという気持ちが強くなっていた。

気づくとリナは、ボスのいる部屋の目の前にいた、話がしたい。ボスと。

「何の用だ?」

門番が怪訝な顔をする。

「話がしたい。ボスと。時空の鍵についての大切な話だ。開けてくれ。」

(こうでも言わないと開けてもらえないのはわかってるのよ・・・。)


ギィィイイイイイイ・・・


予想通り、ボスとの面会が許された。
ここのやつらは本当に、「時空の鍵」という言葉に弱い・・・。

「どうした?」


葉巻をくわえながら、ウイスキーを愉しんでいるボスが、ゆっくりとこちらを向いた。
笑っているが、目は死んだ魚のように濁っている。
何年振りだろう、この醜い顔を、直接目にしたのは・・・。


リナはふと、鳥肌が立っている自分に気づいた。






ー詩ー もぐらたたき



                           ( アート クレイ シルバー )
                            
ぼくはもっているんだ。ゲーム機を。
それは 「 モグラたたき 」。

そのモグラたちは。叩いても叩いても。
おわることをしらない。
そのモグラたちは。「心配」で、できてる。

ぽこっ。
  ぽこ、ぽこ。

「えっへっへ。こっちだよーぃ。」


やになるなあって、僕は苦笑。

モグラくん。
なんだろ、なんだろ。
キミたちなんなの?


ぼくはお墨付きの「心配ショウ」。
そうなっていたんだ。


モグラくん。
仲良くしてみたら。

ぼくの心配ショウ。

かわいいもんに、おもえてきた。

あいきょう、あいきょう。
        ってね。







◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」 第十四話


「ボス、あいつに間違いありませんでした!!
象ごと時空のプレートに乗って行ったものと思われます・・・。」


「ほっほ~う、行き先は分かっているのか?」

POLICEの基地。太陽系から10億光年離れた場所・・・。
ここではこんな会話がなされていた。
彼らは時空のプレートを自由に操ることはできない。「鍵」となる首飾りはケルマーンが持っているのだから。
しかし、彼らは、ある地点に出向いたときそこから基地に帰る技術は確立していた。出向き時が少し厄介なのだ。時空のプレートが気まぐれにズレ、隙間ができた瞬間にそこに飛び込んでいかねばならないのだから。

「行き先はまだ調査中です。
研究部隊に、昨晩のあの地盤がどの時代へつながっていたのか、調べさせています。」


「ふん・・・」

ボスと呼ばれる男の姿は、扉越しに声が聞こえるだけ・・・。
彼の姿は重役の者意外、見たことがないと言われている。年齢も、素性も不詳。
フフン・・・と、鼻で笑っているのが分かる。

「まぁいい。とっとと、時代を探りだして、あの少年を連れて来い。象に用はねぇ。ま、実際は聞くうの鍵だけあればいいんだがな。ハッハッハ!!」

「は、了解いたしました!」

こんな会話が繰り広げられる中、例の女性POLICEは何やら苦い顔つきをしていた。

「おい、リナ。何暗い顔してんだ?あ?やる気ねぇのか?!
もとはと言えば、1986年に捨てられて死にかけてたお前を、ボスが育ててくださったんだろうが!
恩返ししろよな?」

「え・・・ええ。わかっています。」

他のPOLICEにそう言われ、リナというその女性隊員は、ぼそっと応えた。

「まぁいい。今度の遠征はお前も核となって動いてもらうからな!
ボスの命令だ!」

「は?」

それだけ言うと、その男性隊員は廊下を無言で歩いて行ってしまった。
リナには、・・・いや、ここでは誰にでも、上の言うことは「YES」以外の返事をしてはならないのだ。
上の言うことは、ゼッタイ、なのである。


(はぁ・・・)


リナは深く重い、ため息をついた・・・。







ストレス性胃痙攣

ー詩ー こわれたくない。耐えて・・・耐えるほどに。壊れるこころ。





まぶた。
蓋がわり。

こぼれないで。ティアー・ドロップス。
かなしいかお。見せたくない。


でもね、
のどを通るワイン。とろり。


体は温まろうとも。

むり。
こころの温度。

マイナス。



こわれて しまいそうなんだ。

キミは笑うかもしれない。
でもほんとうなんだ。


音が聞こえる。ミシミシ、パリ。

壊れかけている。
聴こえる?


会いたい。ってわがまま。わかっているけど。
力すら、入らなくなっている。お人形。


つらい。


こんなつらさは。

こんな脱力は
何か月、もしくは何年振りだろう。。。


こわれないで。
あたし。



ワイン、紅く 映している。 

KOKORO.



◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十三話


「とにかく、助けなきゃ、な。」

なかば、今の状況が理解しきれていなかったが、とにかく前田は、急いで象と少年に駆け寄った。

「お、おい?大丈夫か?」

少年は軽く脳震盪を起こしているようだ。気絶している。
象は・・・というと、すでに脈はなく、少年を乗せたまま、冷たくなっていた・・・。


(まるでこの象が、この子を助けたみたいだ・・・。)

前田は象の穏やかな顔を見守りながら、そう思った。

(しかしなぁ、象の埋葬は落ち着いてからにしよう。今は残った命を助けることが先決だ。)

自分の肩に、少年を担ぐと前田は先日から張ってあるテントの中に、少年を運びこむことにした。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「くっそう、時空のプレートに乗りやがったか?!」
「やっぱりあいつだったんだ、時空の鍵を持っているのは・・・。」

POLICE集団は、あたりを散策していたが、「時空のプレート」がどう、とか・・・こう、とか、言っている。

「あの子はところでどんな重要人物なんですか?」

新米と思われる一人の女性「POLICE」が尋ねた。
まわりのPOLICEたちは「そんなこともしらねぇのか」というような顔でその新米を見ると、軽く説明し始めた。

「俺たちが時空のプレートを独占するには、あいつの持ってる「時空の鍵」を手に入れなきゃなんねぇんだ。
あれは代々象使いの長が持っていたものでね、あいつらはあれを「家宝」みたくしているけれど、その価値がわかってねぇんだ。
一度あいつの父親から奪えそうになったんだが、
・・・あいつは体を張って守りやがったんだ。


俺らは時空のプレートが開く場所を発見し、そこが自然にずれたりして開く瞬間を狙って、今みたいな時代に来ている。めんどくせぇけど、今はそれしか手段がない。
操る鍵がねぇんだから・・・。

しかし、あの鍵を手に入れたら!
地球にかかわらず、時代の行き来が自由になるんだ。時代の流れを行ったり来たりして、いろいろいじるわけよ。キーマンの暗殺とかな。ま、今のターゲットが地球だからさ、ひとまずそこからってわけさ。
「現代」として動いている2008年の地球をごろっと過去から変えちまうんだ。
そうしたら、俺たちが肩身を狭くして住んでいる、いわゆる未来。「3000年」はまるまる変わり、すべては俺たち新人類のものになるだろう。

まぁ、地球制服だな!!・・・いや、地球だけじゃねぇから、「ひとまず」地球征服だ!
後々は、太陽系はすべて俺たちのものだ。
俺たちの科学は、太陽系から10億光年離れた場所にある宇宙ステーションで行われているのは知ってるよな?
だから、酸素がなくても、気温の変化があろうとも、生きていけるモビルスーツを着ているわけだ。」

「そ、そうだったんですか・・・。」

この新米は唯一の女性「POLICE」である。
色々と考え込んでいる様子だったが、皆が撤収する様子だったので、彼女もそのあとに続いた。








◆詩&short film◆ はしる。雨の商店街♪傘が咲く。ランランラン。

 きのうね。
はしろうか迷ったんだけど。
ちょっと二日酔い・・・でもね。
曇天模様が、走るのにはさ、ちょうどよさそうだったんだ。

よし、はしろ。

40分のコース、走ることにした。


ACIDMAN -www.public-image.org-

商店街のひとびと。自転車。
追い抜いてみる。
ハッと走るわたしに気づいてさ。必死に自転車、こぎ出しちゃう人もいて。
なかなかおもしろいよ。みんな息があらい。

雨が降ってきた。
みんな走りだした。
おばさんも、おじさんも、小学生も、中学生も。
傘の花、咲かせる人も。ぽつ。 ぽつ。

不意の雨、だからね。

でも思ったよ。
みんなで走るって、いいもんだね。

っていっても・・・
あれれ?
みんなは楽しそうでもないなぁ。「ずぶぬれ」の商店街。
ま、いっか。・・・て、いうか、「アタリマエ」かもね(笑)

すでに汗でずぶぬれのわたし。
雨はトモダチさ。


いつも40分の道、35分で走れたよ。


それだけで雨も、たのしくなる。


全然走ってる人なんていなかったんだ、このへん。
けれど。

見たら今日。いた。増えてた。ランニング仲間。
きょう私ははしらなかったけど。

増えてる増えてる。

ランニング人!
イイ感じ。
恥ずかしくないもん。さわやかだよ。きっと。





◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十二話


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「えっと、警察は・・・と。」

携帯のボタンを押そうとする手が、震えている。まだ気持ちが落ち着いていないのだ。

(・・・しかたないじゃないか、こんな場面は初めてだ。)

ふぅー、っと深くため息をついた前田は、今度は落ち着いてボタンをプッシュし始めた。
それとほぼ同時の出来事だろうか。





・・・ドッカーン!!!


前田は、すさまじい砂煙と突風で、モバイルフォンを吹き飛ばされてしまった・・・。

(な、な、ななななんだ?!)

まるで隕石でも落ちたかのようだ。

「げほっ・・・げほぉ・・・。なんだ?!げほっ・・・」


彼の後方10数mのところに、「何か」が落ちてきたようである。

(隕石か?!・・・いや、でも隕石なら相当上空からくるわけだろ。気づくよなぁ。
しかも俺は生きてないかもしれないし。)

砂煙が徐々におさまっているのを見計らうと、彼はペッと唾を吐いて、口の中の砂利っぽさをなくした。目が痛い。涙が出て景色が滲んでいる。
そんななかも、彼はぼんやりと、「何か」が落ちてきた方向に、目を向けた。


「ん?・・・俺の目が、おかしいのか?」


「目をこすってはいけない・・・」と思いながらも、彼は腕で両目をこすり、再びその方向を眺めた。
見えないはずのものが、見えた気がしたから・・・。
しかし、何度目をこすっても、何度瞬きを繰り返しても、そこにあるものは変わらない。




象と・・・その上に乗った・・・少年。




「最近俺、どうかしてるのかも・・・」


前田は、驚きすぎて逆に絶叫する気力もなくなってしまっていた。
しかも先ほど「象とその子宮に入った少年」を見たからか、前田にとって、それはもう、ありえないとは言えない光景に思えてきていた。





◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十一話



「これは・・・け、警察に届けた方がいいのかな・・・」

困惑しつつも、前田は落ち着いて考えることにした。

(殺人事件かもしれないしなぁ。この子を、こんな場所に隠した・・・とか?
もう少し、象やヒトの体を詳しく調べたら分かるかもしれないけれど、ヒトが絡んでいるとなると、事件性が高い・・・気がする。
これまでの勝手な発掘作業が何か問題になるかもしれないけれど、たとえ俺におとがめがあったって、ほっとくわけにはいかねぇもんな。)

一呼吸おくと、彼はポケットを探り、携帯電話を取り出した。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


POLICE集団の宙に浮くバイクは、やはり速い。
ケルマーンと彼らの距離は、もうあと10mほどにまで迫っていた。

「くそう・・・、なんて奴らだ!父さん、ジッグラド!神よ!お助けください!!」

ケルマーンは涙ながらに叫ぶ。
ファイはファイで、持久力が尽きかけているだろうに、必死で前へ前へと突き進み、自分とケルマーンの命を護ろうという気持ちがひしひしと伝わってくる。

それなのに、ああ・・・、もう彼らに先はないのだろうか。POLICEのひとりはファイの真横まで詰め寄った。かけっこを楽しんでいるかのようだ。
モビルスーツから伸びる腕が、高笑いが響く中、ケルマーンを掴みかける。

「やめろぉぉぉ!!」

叫ぶケルマーン。ファイは渾身の力で方向転換を試みた。60度ほど、ファイの体が右にそれた
その時・・・・・


POLICEの一人が掴んだのは、ケルマーンではなく、空気だけであった。


消えたのだ。ケルマーンも、ファイも。


目にもとまらぬ現象だった。落とし穴に落ちたのではないかと思えるほど唐突に、彼らは・・・消えてしまった。
それはファイの体が右にそれた、まさにその瞬間の出来事であった。



◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十話


ケルマーンの何百メートル後方からは、宙に浮くバイクが、何台も追いかけてきていた・・・。
ジッグラドが追われていたのと同じ状況である。


「なんだぁ、あいつら、宙に浮いてるよ!?人間か?!」

ケルマーンは声を裏返して叫んだ。
彼の弟、ジッグラドが追われた時もそんなことを言っていたっけ・・・。
それもそのはず、2008年現在でも、空に浮くバイクだなんて発明されていないというのに、彼らの時代にこんなものが想像できたはずもない。飛行機だって飛んでいない時代なのだから・・・。

そう、何を隠そう彼らの生きる時代は、14世紀後半、ティムールがティムール朝のTOPとして、モンゴル帝国の西側やインドの首都デリーを征服していた時代(※注1) なのである。


ティムール朝の版図
(ティムール朝の版図:クリックで大きくなります。)
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「さ、さてさて。」

前田は覚悟を決めると、象の腹部にスッとメスを入れた。

(この象は明らかに雌だ。
・・・となると、この腹の膨らみは、消化器官だけでなく、生殖器官が原因なのかもしれない。んー、でもこの位置だと、子宮の可能性が高いな。)

身体自体の鮮度が良いので、それぞれの臓器の確認はしやすい。前田は、まるで獣医にでもなった気分であった。

「あー、やっぱ子宮だな。かなり膨らんでる。
・・・んでも、ほんっと乳の張りがねぇんだよなぁ・・・不思議だよ。
着床位置がよくなかったのかなぁ。不完全妊娠とか?!専門じゃねぇもん、わっかんねぇ。。」

ぶつぶついいつつ、彼は子宮を開けてみた。ほうほう、たしかに何かある。

・・・・・と・・・?!



(うぎゃあああああああ!!!!」

気持ちとしては、空にも反射されそうな大声で叫んだつもりだった。・・・が、あまりの驚愕からか、混乱からか、前田はまったく声が出せなかった。

「ああああ・・・、うそ・・・だろ・・・?!」

手の力が抜け、メスが足元に落ちる。全身はがくがくと震えていた。

「なんで、な、なんで人間が・・・象の子宮に入ってんだよ!!!」

象の子宮から現れ、前田の目に飛び込んできた物体は、まぎれもなく10歳~15歳くらいの「ヒトの子供」であった・・・。


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~脚注~

注1・・・ティムール(تيمور Tīmūr/Taymūr, 1336年4月9日 - 1405年2月18日)は、中央アジアのモンゴル=テュルク系軍事指導者で、ティムール朝の建設者(在位1370年 - 1405年)。


(バヤズィトのもとへ訪れるティムール)

ペルシア語による綴りにより忠実にティームールとも表記される。また、この名は中世モンゴル語では Temür、現代ウズベク語では Temur であり、テムルと表記することもある。語義は「鉄」を意味し、この名を持つテュルク系、モンゴル系の人物は少なくなかった。


◆生い立ち
モンゴル部族の一分枝バルラス部の出自で、言語的にテュルク化し、宗教的にイスラム化したモンゴル貴族の家系に属する。系譜によれば5代前の先祖カラチャル・ノヤンはチンギス・ハーンの次男チャガタイに仕えた有力な将軍であったが、ティムールがシャフリサブズの近郊で生まれたころには零落し、わずか数人の従者を持つに過ぎない小貴族であった。

◆有力者へ
若い頃のティムールはチャガタイ・ハン国の東西分裂と混乱に乗じて、従者を率いて家畜の略奪を行う盗賊のようなことをしていたという。しかし徐々に優れた軍事指揮者としての才能をあらわして次第に人望を集め、西チャガタイ・ハン国の有力者へとのし上がっていった。

1360年、東チャガタイ・ハン国のトゥグルク・ティムールが侵攻してくると、ティムールはこれに従属してバルラス部の旧領を与えられた。しかし、すぐに東チャガタイ・ハン国から離反し、カラウナス部のアミール・フサインと結んで勢力を拡大し、本拠地としてサマルカンドを手に入れた。

この間、戦場で片足を負傷し、「跛行のティムール」を意味するTīmūr-i Lang というあだ名で呼ばれたことが欧米で彼の呼び名として知られるタメルラン(またはタメルレーン、Christopher Marloweの芝居では綴りがTamerlane)になったと言われる。

ティムール朝の確立
その後、覇権をめぐってフサインと対立し、1370年にフサインの本拠地バルフを攻撃。フサインを殺害してトランスオクシアナの覇権を確立した。これまでにティムールはバルラス部以外の有力部族を傘下に収めており、チンギス・ハーンの三男オゴデイの末裔であるソユルガトミシュという王子をハンに擁立。さらに同年、フサインの寡婦でチンギス・ハーンの子孫にあたる王女を妃に娶って、「チンギス家の娘婿(キュレゲン)」を称した。

チンギス・ハーンの子孫ではないティムールとその後継者たちは自らハンに即位することはなく、他の遊牧部族の将軍たちと同じアミールの称号を名乗るのみであり、名目上はハンであるチンギス家の娘婿にしてハンのもとにあるアミールの最有力者として振舞った。しかし現実には1370年に中央アジアにティムール家の権力が確立し、ティムール家による支配が行われたので、これをティムール朝(ティムール帝国)と呼ぶ。

ティムールはチンギス・ハーンの築き上げた世界帝国の夢を理想としていたといわれる。また自己の権威を確立するためには戦勝を続け、戦利品を配下の諸部族に分配する必要もあったため、外征を繰り返した。

トランスオクシアナを統一後の10年間に東チャガタイ・ハン国の支配するモグーリスタン(東トルキスタン)に遠征を繰り返し、コンギラト部族の支配するホラズムを併合し、ジョチの末裔トクタミシュを支援してトクタミシュをジョチ・ウルスのハンに据えて、周辺の諸勢力を自己の影響下に置いた。1380年からはイルハン朝解体後分裂状態にあるイランに進出してホラーサーンを征服、1386年から始まる3年戦役でアフガニスタン、アルメニア、グルジアなどまで支配下に置いた。

1388年、トクタミシュがティムール朝領を攻撃したのをきっかけに3年戦役を終了したティムールは、トクタミシュを破ると再びイランへの遠征を再開し、1392年から始まる5年戦役でムザッファル朝を滅ぼしてイラン全域を支配下に入れ、バグダードに入城してマムルーク朝と対峙した。ティムールはさらに北上してカフカスを越えトクタミシュを破り、ヴォルガ川流域に至ってジョチ・ウルスの都サライを破壊し、ルーシ諸国まで侵入し、1396年に帰還した。

1398年、ティムールはインド遠征を決行し、デリー・スルタン朝を破ってデリーを占領した。1399年に始まる7年戦役では、アゼルバイジャンで反乱した三男ミーラーン・シャーを屈服させ、グルジア、アナトリア東部からシリアに入ってダマスカスを占領し、さらにイラクに入ってモースルを征服した。1402年、中央アナトリアに転進したティムール軍はアンカラの戦いでバヤズィト1世率いるオスマン朝軍を破ってオスマン朝の拡大を挫き、アナトリアのオスマン領をバヤズィトに領土を奪われた旧領主に返還して帰還した。この遠征でかつてのモンゴル帝国の西半分がほぼティムールの支配下に入り、オスマン朝、マムルーク朝がティムールに名目上服属して、ティムールの支配地域は大帝国に発展した。

1404年末、ティムールは20万の大軍を率い、明を破り、元の旧領を奪還することを目指して中国遠征を開始した。しかし、ティムールは遠征途中にわかに発病し、1405年2月、オトラルで病没した。

◆ティムール朝の評価
ティムールは軍事にかけては天才的で、生涯に交えた戦いではほとんど負けたことがなく、また都市のもつ経済的重要性をよく理解してその保護につとめた。彼が都としたサマルカンドには様々な施設が建設・整備されて繁栄をきわめ、チンギス・ハーンと比較して俗に「チンギス・ハーンは破壊し、ティムールは建設した」と言われる。しかし、敵が抵抗した場合には、デリーを占領したとき捕虜数万人を処刑した、バグダードを占領したとき徹底した略奪、破壊を加えた、など外征先では冷酷な破壊者でもあった。
ティムール一代で築かれたティムール朝は、その支配もティムールの個性に大きく拠っており、ティムールの生前に確固たる支配体制が築かれることはなかった。そのため、ティムールの死後その帝国は急速に動揺し、分裂してゆく。