井浦新主演映画『光』 三浦しをん×大森立嗣が描くセックス&バイオレンス | シネマの万華鏡

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(井浦新・瑛太・長谷川京子・橋本マナミが織りなすセックス&バイオレンスの愛と破滅)

 

BLメンツそろいぶみ(これがすでにネタバレかもしれません)

25日から公開中。

『まほろ駅前多田便利軒』の三浦しをん原作、同監督の大森立嗣、同作で便利屋の多田を演じた瑛太と、『まほろ~』のメンツがズラリ。さらに『ピンポン』の井浦新!

これだけで、ビビビッと来るものが。もうBL好きに言わせれば観る前からゲイ映画です。

「もっと出してほしかった」というハセキョーのインタビューが出てますけど、う~ん、それは仕方ないですよね、だってこれはBLなんだもん。

ただし、公式サイトのあらすじではそこには全く触れられていません。

もしやそこはサプライズ要素の扱いなのかも? 

いきなり大きなネタバレをしてしまったでしょうか・・・滝汗ごめんなさい。

ちなみに、いつものことですが、以下もネタバレしております。

東京の離島、美浜島で暮らす中学生の信之は閉塞感のある日々を過ごしていた。彼の生活は恋人である美花を中心に回っていた。信之を慕う年下の輔(たすく)は父親から虐待を受けていたが誰も見て見ぬふりをしていた。
ある夜、信之は美花が男に犯されている姿を目撃し、美花を救うために男を殺してしまう。
そして島には天災が降りかかり全てを消滅させた。
生き残ったのは信之と美花と輔、そして数人の大人だけだった。
それから25年が経ち、島を出て妻子と共に父として暮らす信之(井浦新)と、芸能界で生きている美花(長谷川京子)のもとに、輔(瑛太)が過去の忌まわしい記憶とともに現れる。

(公式サイトより引用)

 

井浦新・瑛太・長谷川京子・橋本マナミという顔ぶれで、意外にもセックス&バイオレンス、それでいて純愛の物語。

コミカルで、松田龍平と瑛太というキャスティング自体にも独特の抜け感があった『まほろ~』と違ってともすれば重くなりがちな内容を、ミスマッチすれすれのアバンギャルドな音楽と斬新な構成で見せています。

その辺は、賛否両論ありそうですね。

 

女性共有は男性同性愛の代替表現

女優になり、離れていった美花に囚われ続ける信之、その信之に囚われ続ける輔。

3人は、今も報われない愛でつながれていました。

 

1人の女性を2人の男性が共有する構図は、一見1人の女性をめぐる三角関係のように見えますが、場合によっては男性2人の同性愛を暗示していることは、もう何度か書いたとおり。

そしてこの作品でも、信之と輔は一人の女性を共有しています。(この作品の場合には、暗示だけではなく輔ははっきりと愛情を口にしています。)

そういう意味では、典型的なゲイ映画の様式にはまる作品なんですよね。

信之を脅迫してくる輔の行動は、全て信之への屈折した愛ゆえ。根源にあるのは愛なのに、信之の憎しみを煽る形でしか愛を表現できない輔の不器用さがせつない。

 

信之と妻との関係や、輔と父親との関係にも場面が割かれているんですが、このあたりはちょっとキメが粗くて感情移入しにくいし、美花も美しいだけの冷たい女。

やはり一番ビビッドに描かれているのは、信之と輔の関係。なかでも輔の信之に対する想いです。

輔は信之に一体何を求めているのか――そこが、一番惹きつけられ、心に響いた要素だった気がします。

 

殺す愛・殺される愛

 

少年時代、美花のために殺人を犯した信之。ただ、

「人は(人や動物を)殺して生きているんだ」

と「生きるために殺す」という論理を主張する信之のセリフは、個人的にはこの作品の中での殺人の意味を濁らせてしまっている気がします。

(もっとも、この作品は多分そういう切り口で映画化されているし、「僕たちは人間のふりをして生きている」というキャッチもその意を汲んでのものだとは思うんですが・・・)

信之は美花を犯した男を殺した時、実は2人は合意の上だったことに薄々気づいていた、本当は男を殺す必要なんかないことを、彼は知っていたんです。

じゃあ何故殺したのか?――美花への愛を証明したかったから。

突き詰めれば、それだけだったんじゃないでしょうか。

そこには暗に、彼女に貸しを作って彼女を縛りたいというくらい計算も働いていたかもしれない。それを純愛と呼べるかどうかは別にして、それが信之の愛の形なんです。

 

一方、輔は信之に殺されることで愛を証明します。

ここもすごくBL的だなと思う部分。現実とは切り離された、記号としての殺人に限って言えば、愛する相手に殺されることは最高の愛の証明なんですよね。

 

大森監督の解釈とは少しズレているのかもしれませんが、個人的にはこの作品は「生きるための殺し」を問う話というより、「愛を証明するために殺し、殺される男たちの狂気の物語」として捉えたほうが、芯に突き当たった感触をつかめる気がします。

どちらも相手を縛る愛。かなしい愛のカタチです。

 

愛に溺れていく男たちに対して、女たちは冷静で利にさとくしたたか。決して愛のために自分の手を血で穢すようなことはしません。

男の愛を純愛として描き、女の愛を功利的に描くという、この構図もまたBL的です。

 

ただ、匂い系の『まほろ~』は絶妙なニュアンスでまとめ上げた大森立嗣も、ガチの男同士の愛にはちょっと照れがあったんでしょうか? 輔は信之への想いをはっきりと口にしているのに、信之の反応が映し出されず、さらしと流れてしまったのは、ちょっと残念でした。

 

それにしても、愛されていると知っていて輔を殺した信之はあまりにも残酷。

そこまで残酷になれたのも、20年ぶりに再会した美花への愛ゆえだとしたら、美花の魔性どんだけ・・・です。

 

人を狂わせる島の呪縛

一体、島を出て25年も経っているのに、何故信之は美花から、輔は信之から抜け出せないでいるのか――その理由を、輔は「美浜島の、人を狂わせる空気のせいだ」と言います。

たしかに小さな島には、何か特別な霊力がある気がすることがあります。

瀬戸内海に浮かぶ神の島・宮島や、世界遺産になった沖ノ島を見ても、島に宿る神は陸の神よりも強い霊気を備えているような・・・そう言えば、『リング』の貞子も伊豆大島の出身でしたよね。

 

ただ、信之や輔の愛の狂気を、島が放つ魔力に帰結させるなら、島の異様さを感じさせるエピソードがもっと必要だったのでは・・・どうも、彼らを縛り続ける島の妖気が伝わってこなくて。

25年前のシーンで、美浜島特有のけだるさ、かなしさが描写されていないのが、全体に響いてしまった感じですね。

 

瑛太の迫力・井浦新の色気が凄い

破滅的な愛に溺れる男たちの物語に生命力漲る岡本太郎の作品を配するミスマッチ感(これは敢えてなんでしょうけど)なんかも手伝って、個人的な好みには合わない部分もあったりするんですが、少なくとも絶対に推したいポイントは、井浦新の色気と瑛太の纏う狂気は必見もの!だということ。

 

特に瑛太の迫力が凄い。

『まほろ~』の多田役みたいな生活感のない雰囲気が似合うと思っていたのに、輔みたいな、生きづらくなるほどに純粋で危険な男も、凄くハマるんですね。

もともと細マッチョな体格と真っ黒に日焼けした肌が、肉体労働者という役柄にピッタリ。

粗暴さと繊細さが共存した輔という男が、リアルにそこにいる気がして、劇場を出てからも、どこかで彼とすれ違いそうな生々しい感覚が残りました。

 

(画像ではこのシーンの井浦新の色気が伝わらないのが超もどかしい)

 

そして主演の井浦新。

直近で観た井浦新出演作『ジ・エクストリーム・スキヤキ』では、ムサい無職男の雰囲気を思い切り前に出していたのに対して、今回はシャープで色っぽい井浦新が戻って来たことに狂喜!

美花と別れてからは抜け殻のように生きている信之、垢抜けすぎないように抑えた服装だったと思いますが、それでもボタンダウンのシャツとピンストライプのスーツが似合いすぎて、ノーネクタイですら洗練された佇まい。

でも、シュッとした井浦新が見たかった私には、何も文句は言えません(笑)

 

まるで女神に触れるようにおずおずと後ろから美花の肩を抱くシーンは、控えめに見えて殺傷力バツグンの井浦新の色気が炸裂する見せ場。

そう言えば『ピンポン』でも、ペコの斜め後ろあたりに立って彼を見つめる姿が一番萌えましたラブ

この映画では「足の親指を舐める」という行為が信之の愛の表現として登場するんですが、井浦新×瑛太でそのシーンを観たかった・・・いや百歩譲って井浦新×ハセキョーでもいいから(←)見たかった。

さすがにそこまでしたら『日曜美術館』に出演できなくなっちゃうかな(笑)

でも『日曜美術館』ではせっかくの色気が生かせないので、井浦新がエロティックにグルメするグルメ番組なんか、どこかの局でやってくれないですかね。