本能寺の変と宇治茶と千利休のつながり からの、利休映画四選 | シネマの万華鏡

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コカ・コーラのお茶・綾鷹を作った茶舗・上林春松本店と千利休との深い関係

先週末、小旅行で仕入れたお話をひとつ。

日本コカ・コーラのペットボトル茶「綾鷹」にまつわるお話です。

綾鷹はコカ・コーラの自販機にはたいてい入っているので、見たことがある、飲んだことがあるという人も少なくないんじゃないでしょうか?

でも、綾鷹と戦国史とのつながりは、あまり知られていない事実かもしれません。

 

 

綾鷹のペットボトルには商品名の横に「上林春松本店」と書かれていますよね。(恥ずかしながら、私はこれまで気づいてなかったんですが。)

綾鷹の商品開発には上林春松本店が協力しているんだそうです。

この会社、お茶の世界では大変なブランド力を持つ会社だということ、今回宇治で上林記念館に立ち寄って、初めて知りました。

 

(平等院参道にある上林記念館)

 

何と言っても歴史が古い! 

上林家は室町時代から足利将軍家のお抱え茶師だった家柄なのだそう。

さらに驚いたのは、なんと本能寺の変の際家康を救ったエピソードが伝わっているということ!

みなさんご存知のとおり、本能寺の変の際、徳川家康は信長の招きで堺に逗留していましたが、本能寺で信長が討たれたことを知り、江戸に逃げ帰ります(いわゆる「家康の伊賀越え」)。

そのとき木津川堤から信楽への道案内役を務めたのが上林家はじめ宇治の茶師たちだったというんです。

平等院参道にある「宇治代官所跡」の説明書きには、その時の功績によって上林家はのちに徳川幕府の天領となった宇治の代官に任命されたのだと書かれています。

(もっとも、上林記念館で伺ったお話によれば、宇治の茶師たちは戦国時代から各地の大名家のお抱え茶師になっていたことから、自然宇治の茶師は大名家の内部情報に通じた存在になり、家康は情報のキーマンである茶師たちを重く用いた、ということなんだそうです。)

 

つまり、室町時代以降、多くの天下人たちが上林家の茶を飲んでいたということですよね。

秀吉の北野の大茶会でも、上林家の茶「極上」が用いられたとか。

当然千利休のお気に入りの茶でもあり、利休の養女が上林家に嫁ぐなど、両家には密接な関係があったようです。

 

江戸時代には、宇治から江戸の将軍家に茶葉を献上する行列は「お茶壺道中」と呼ばれ、お茶壺は大名行列よりも格上の扱いを受けていたと言います。

わらべうたの「ずいずいずっころばし」はお茶壺道中を歌ったもの。あの歌に秘められた意味を考えただけでも、いかにお茶壺道中が庶民に恐れられていたかがよく分かります。

時代劇では、お茶壺の権威をかさに着た茶坊主たちが、宿場の悪代官とつるんで悪事をはたらく・・・という、ろくでもないイメージでお茶壺道中を描いたものも多数。

高級茶が人間よりはるかに価値がある時代があった・・・そんな時代、お茶や茶道にかかわる人々と政治権力とは、深く結びついていたんですね。

 

秀吉の茶頭だった利休が、一体何故秀吉に切腹を申し付けられることになったのか? 

茶道=趣味の世界というイメージのある現代の私たちから見ればとても謎めいた話で、その理由については今もさまざまな憶測を呼んでいますが、古い時代の茶と権力者との深い結びつきを考えると、利休のような立場の人間が、独裁者に近づきすぎ、知りすぎたが故に失脚する悲劇は、当時は意外にありがちだったのでは・・・とも思えてきます。

 

ということで、今日は秀吉の茶頭で彼に切腹を命じられた千利休が登場する映画をピックアップしてみました。

 

(平等院鳳凰堂と境内の紅葉)

 

映画『利休』(1989年)

 

勅使河原宏監督。

三國連太郎が利休を、山崎努が秀吉を演じています。

墨衣を纏った三國連太郎の佇まいが侘茶の利休そのもの。私生活では華やかな人だったのに、三國利休の醸し出す不思議な静けさに魅せられて、何度か観た作品です。

 

信長が破竹の勢いで天下布武を目指していた時代、信長の茶頭だった利休を憧れの眼差しで見ていた秀吉。

本能寺の変後秀吉の天下となってからは、利休は秀吉の茶頭となりますが、2人の間には次第に冷ややかな空気が生まれ始めます。

秀吉と利休の好みの違い、利休の弟子・山上宗二が秀吉に惨殺された事件や、ただ一人秀吉に意見できる人間だった豊臣秀長(秀吉の弟)の死など、さまざまな要因が積み重なって、少しずつ追い込まれていく利休。

利休の悲劇だけでなく、栄華を極めれば極めるほど秀吉の狂気と一族の不幸な死が滅亡への暗い影を落としていく豊臣家の悲劇も、平行して進行していきます。

 

秀吉の人なつこさと表裏一体のところにあるゾッとするような暗さ、茶の湯が政治に利用される中で深く謀略に巻き込まれていく利休の立場の危うさなど、原作(野上弥生子著『秀吉と利休』)があるだけに深みのある作品。

 

終盤、午後の傾いた陽が射し込む座敷で、秀吉が幼い秀頼と地球儀で遊ぶシーンは、2人を包む光の色がいましも斜陽の翳りを帯び始めようとする絶妙な一瞬を捉えていて、何とも言えない哀しみを掻き立てられる印象的な場面です。

 

『千利休 本覺坊遺文』(1989年)

 

 

熊井啓監督。

『利休』と敢えて時期を合わせるように、奥田瑛士主演の『千利休 本覺坊遺文』も公開されています。

こちらは奥田瑛士演じる本覺坊が利休の死後27年経って利休の死の謎を解き明かそうとする、という内容。

利休を演じたのは、三船敏郎。『利休』の三國連太郎と名優の利休対決ということで話題になりましたが、三船敏郎の出番が少なかったこともあり、利休ばかりは三國連太郎が圧倒的にハマリ役でしたね。

ただし、『利休』は無冠だったのに対して、こちらはヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を受賞。

 

(平等院の帰りにいつも立ち寄る黄檗の万福寺)

 

『利休にたずねよ』(2013年)

 

田中光敏監督。

利休を市川海老蔵(現市川團十郎)、武野紹鴎を父親の故市川團十郎が演じた親子共演作。

利休役の海老蔵が若いこともあり、茶人になる前の若かりし日の利休も描かれているのが大きな目玉になっています。

若き利休は大店の放蕩息子、そんな中で出会った朝鮮王族の女性とのかなしい恋の顛末が、利休の美への強い執着と、のちに見せる国際感覚や侘びサビの精神につながっていく・・・という流れ。

一般に定着している枯れた佇まいの利休とは少し違った、瑞々しく野心家の利休が魅力的です。

 

利休は自刃した際69歳。晩年のシーンはさすがに海老蔵では若すぎる印象はあったものの、そこは歌舞伎で鍛えた所作の美しさでカバー。

卓抜した演出家であり、パフォーマンスの才能もあった利休は、歌舞伎役者が演じるとやはり映えます。

利休の妻・宗恩役の中谷美紀・利休の娘役の成海璃子とも時代劇にハマる女優、朝鮮王族の女性を演じたクララも美しくて、利休ものにしては女性も華やかなキャスティング。

秀吉役は大森南朋。普段似てるとは思ったことがないのに、秀吉に扮すると大森南朋も竹中直人系列に見えてくるから不思議です。

 

花戦さ(2017年)←12/6レンタル開始

 

篠原哲雄監督。

こちらは未見ですが、三國連太郎の息子・佐藤浩市が父と同じ利休役を演じているということで、DVDがリリースされたら観たいと思っていた作品。

いよいよ12/6からDVD販売・レンタル開始だそうです。

佐藤浩市のほかにも、秀吉役に市川猿之助、信長役に中井貴一、前田利家役は佐々木蔵之介など、豪華キャストが話題。

 

主人公は利休ではなく、野村萬斎演じる初代池坊専好(戦国-江戸時代の実在の華道家元)。

「秀吉ギャフン!」

というキャッチコピーから想像するに、独裁色を強めていく秀吉に対して、主人公の専好が生け花を通じて物申していくコメディ・タッチのストーリーみたいですね。

専好主人公とは言え、利休の出番も少なくないようで、この作品では利休の死はどう描かれているのか、興味津々です。

 

 

(万福寺で売っていたミニだるま)