小説と未来 -78ページ目

新世界92-運命の幸雲 9

たとえばクリスマスという行事があって、それが誰のための何なのかを考えたとき、それはクリスマスを祝う誰かのための大切な日であって、クリスマスを祝わない人間には何の関係もない、ただの12月25日なわけである。ニシキにとって、その誰かは自分でない事を27年間ずっと感じて生きてきた。


でも2021年のクリスマスは違った。ニシキもその誰かの一人となった。クリスマスとキリストの関係はわからない。とにかくクリスマスという日が来るので、浮かれてパーティーをする。そしてそのクリスマスという日を祝う。それは全く意味不明だが、日本に住む世の中の多くの人間がその意味不明なお祝いをしている。


毎日毎日日々が過ぎてゆく。ニシキにとってはクリスマスに限らず、全ての何かの日が意味不明な他人の行事でしかなかった。

でも2021年は違った。2021年後半は行事だらけになった。


「もうすぐクリスマスだね」なんていう女の子がニシキの傍にはいる。


それはクリスマスだけじゃない。

「ニシキ君、もうすぐ誕生日だね」もあったし、「わたしたちが会ってから今日で半年経つね」もあった。


最初はニシキにとって、その全てはどうでもいい事だった。でもニシキは沙希がなぜそんな事をいうのかという理由に気づいたときにはその色々な行事を大切にしたいと感じるようになった。


「明日も明後日もやなことばかり。あれも嫌だし、これも嫌!」

沙希はいつもそう言っている。

「だけど、クリスマスはパーティーがしたいの」って言う。


つまり、沙希にとって、何かの日は何もない毎日に作られる未来の楽しみなのだ。何もなかったら、ただ嫌な毎日が続くだけだから、いつか楽しみがある事を教えてくれる。そんな記念日が沙希は好きなのだ。


だから2021年、ニシキは日付を意識し出した。そしていつまでに何をやるかを決めた。そうしたらいろいろな事が進んだ。面倒事ばかりだったが、その全てはクリアになっていった。

左の男と呼ばれる男にも会った。結婚詐欺師を辞める事を告げた。

「いいさ。好きにするがいい。君は俺にとって稼ぎになった。これ以上はお互い何もなしだ。君が借りていたマンションもこちらで処分しておく。どうしても必要な物があったら、1週間以内に全て持ち出しておくんだな」

ニシキには特別必要な物がなかった。必要な衣服や何やかんやはすでに全て沙希の家に運ばれていた。だから結婚詐欺師を辞めるのはニシキが悩むほど難しい事ではなかった。


色々な物がなくなった。

世話になったカズさんという男にも会いにいったが、あいにく彼は留守だった。ニシキはそれでも一緒に住んでいた子供にその事を告げた。


いろいろな事が離れてゆく。

そして新しい記念日が増えてゆく。


「来年はちゃんと働こうと思う」

クリスマスの日にニシキは沙希にそう言った。


「それはいいと思う。だけど、そうしたら、いつもいる時間にニシキ君はいなくなっちゃうのか(残念)」


「大丈夫だよ。そうしたら、沙希は学校の先生を辞めたらいい。そうしたらいい」


「でも…」


「大丈夫。きっと大丈夫」

ニシキにはよくわからない自信があった。いろいろと日を決めて進めてゆく中でうまくいった事がニシキに自信をもたらしている。


「そうだね。そうだよね」と言って、沙希は微笑んだ。


もうすぐ2022年を迎える。新しい年の始まり、それもまた記念日で、その先にある色々な行事もまた記念日だ。


ニシキの未来に楽しみに溢れていた。未来はいい事ばかりあると、この時のニシキは信じていた。それがニシキの知る幸せだった。


新世界91-無職の暇人 20

2013年、今日も僕は敗れ去った。


最初から生まれてこなければよかった、と思えるくらい、今日は人生打ちのめされている。

34歳、駄目人間のレッテルを貼られる。



もういいじゃないか。34年間生きてきたんだ。どうにもならないなら仕方ない。どうにもならないなら諦めるしかない。


青色のクマ。ああ、青色のクマ。貴方はどこに居られるの?

どうかわたしを救ってほしい。

私は生き疲れてしまったの。


そんな泣き言を言っても、誰も助けてはくれない。

心の疲れを癒す方法を探している。



生きる事には真っ平ゴメンだ。


明日死んでやる!


もう二度と面接になんて行くものか!



仕事がなかったら、人は死ぬのだろうか?


どう生きる事が出来るのだろうか?


僕は生きる事に切羽詰っている。

切羽は詰まっているが、やる気はまるで生まれない。


冬の寒さは続く。

僕はお家のベッドでぬくぬく過ごす。

もうすぐダンボールハウスになる日も近い。


人間はこうして落ちぶれてゆくのか、と僕は感じ始めている。


新世界90-夢世界 26

世界を変える事はできるのか?


もし出来ないというのなら、僕の生まれた意味はない!



僕は苛立っていた。かつてない苛立ちが心の奥底から溢れてくる。僕の脳の芯に訴えかける想いはどこからともなく膨らんでゆく。


右の男が僕の所にやってくる。

そしてこう尋ねる。

「ボス、これからどうするつもりですか?」


「君はそんなくだらない事を僕に聞くのか?少しは自分の頭が使えないのか?小さい事に悩んでいる暇があったら次にどう動くかを考えろ!それが出来ないんなら、ここを去るんだな」


右の男は僕の声に震える。

「はあ、しかし、今、我々はサツに追われている。このままここにいても、奴らはやがて押し寄せてくる」


僕は右の男の隠れ家にいる。川を二つ越えた場所にある小さな一軒家だ。

ここには僕らが貯めたたくさんの金がある。ここが見つかれば、僕らの計画の全てはおじゃんだ。

誰かが僕らを通報した。そのせいで僕らは追われている。いつ誰が僕らの姿を見つ出したのかはわからない。しかし僕らは何者かに見つかった。何者かが警察の力を借りて、僕らを追い詰めてきている。


「俺には未来が見える。それは確かな夢だ。もうすぐ俺らは大金を世界にばら撒く。その時、多くの人間が我らの仲間となる。俺はその力を借りて、城を築く。俺の存在を知っていようが、俺はサツに捕まる事はない。もちろんおまえもだ。俺らは警察に負けない大勢力をつける。そうなったら、俺らを通報した奴も探してぶっ殺してやればいいさ」


右の男は唖然とした表情をしている。


「俺の事が信じられないのか?いいから、信じろ!おまえがすべきことは唯一つだ。左の奴がもうすぐ金を持って、帰ってくる。それが俺らの最終資金だ。ヘリを買え。そしたら俺らは残りの金をヘリからばら撒く。世の中に金の雨を降らせるんだ。いいな」


「ボス!本気でそんな事を言ってるんですか?」


「おまえはまだ俺を信じていない。信じろ!俺がなぜこの立場に就いたか」


右の男は僕をまだボスとは認めていない。左の男とは正反対だ。左の男は前ボスが消えた瞬間、僕をボスと認めた。しかし右の男はまだ認めていない。そして前ボスがいなくなった事で、守られていた安全がなくなったように怯えている。

『右の男よ。恐れる事はない。なぜならこれは俺の夢なのだから』

僕は彼にそう言って、やりたい。


2022年9月、僕は夢の中で、ボスを演じている。

人は誰もが自分の立場を演じているのかもしれない。僕はこの場に立って、別人になった。僕は偉い人間を見事に演じきっている。それはこれが僕の夢で、僕は何が起きても夢に過ぎない事を知っているせいかもしれない。


やるだけの事はやっている!

新世界89-孤島の物語 16

わたしの冬は雨だ。



木の葉の舞い散った、ちょっとしたいざこざの後だ。


島の雨はざあざあ来て、去ってゆく。

しとしとでもなく、さらさらでもなく、風に舞い飛んで去ってゆく。


こんな雨の日に、家の外に出たって何もないでしょう。でも傘差して、

島を一周ぐるりと巡りましょう。



何もなくはないんだよ。

そこには雨の日の風景があるからね。



灰色空、水色風景の事。

鳥は木の下で雨宿り。

ビジャビジャの土の道をハイヒールを履いて歩いている。

白いスーツを着て、黒いコートを羽織って、ちゃんと化粧をして、長く伸びた髪を後ろで結んで整えている。

青い傘を差して歩いてゆく。


消えない感情の揺れが続く。


どこをどう立って、どう歩いているんだろう。


水溜りを蹴っ飛ばす。

泥水が飛び散り、ハナは汚れた。



やがて雨は止みそうだ。

クリーニング屋みたいに、綺麗に服を洗おう。


そんな一日ですね。

新世界88-夢世界 25-2

〈つづき〉


2022年7月、僕はボスとなった。


マンションはすでに警察が囲んでいる。


僕は左の男と共に804号室を出る。

マンション8階の通路にはまだ誰もいない。僕は右手に銃を握る。使った事は無い。でもこいつを持ってここから脱出しなくてはならない。ここで捕まるわけにはいかない。僕は前ボスの意志を引き継ぎ、目的を達成しなくてはならない。


「エレベータは危険だ。階段で行く」

左の男は僕にそう言う。


非常階段に通じる重い扉を左の男は強く引き開ける。

『ガッ、ガガッ』

と言って長い間使われていなかった扉は開く。

外から強い風が吹いてくる。闇夜の空が街明かりに照らされている。


僕は暗闇の外を眺めるが、その場に人はいない。

「誰もいない」と、僕は言う。


「よし!」

そう言った左の男は外へと飛び出す。僕もすぐにその後を追う。


「顔を隠せ!」

左の男はそう言って、パーカーのフードをかぶる。僕も持っていたニット帽を深々とかぶり、顔を隠した。


ずっと下に人がいるのが見えた。何かを持っている。その何かが光輝く。


「気をつけろ!あの光に当たってはいけない」


僕らは階段に伏せて、隠れる。

「あれは何だ?」


「カメラだ」


「カメラ?俺らを写すだけか?」


「あれは警察の新型カメラだ。あのカメラに撮られると、俺らのいろいろな情報が分析される。顔の形や身長、体重、様々な情報だ。そしてカメラで撮られた情報は犯罪者リストに登録される。国のあちらこちらに付いている防犯カメラにその情報は流され、俺らはどこにどう逃げようと常に監視され続ける事になる」


「面倒だな。一層の事捕まえにきてもらった方が楽そうだ」


「ふふっ、そのとおりだ」


僕らはゆっくりと低い姿勢で階段を降りてゆく。あちこちでフラッシュの光が輝く。やつらは遠くから写真を撮るばかりでこっちに近づいてこようとはしない。気持ち悪いやつらだ。


2階と3階の踊り場まで降りたところで、左の男は立ち止まる。

「これ以上先は危険だ!ここで待て」


「どうするつもりだ?」


時がゆっくりと過ぎてゆく。

遠くから何かがやってくる音がする。

「ウゥー、ウゥー」

パトカーのサイレンだ。


「増員か?」

と、僕は左の男に尋ねる。


左の男は笑顔を浮かべている。

僕はハテナだ。


パトカーのサイレンは近づいてきて、僕らの下で止まる。

「飛び降りろ!」

左の男は僕に言って、踊り場から下に飛び降りる。

僕は心臓がバクバク言ったが、体は踊り場の防護壁を飛び越えていた。


僕の体は大きなマットの上に落ちた。

そしてそのままマットは動き出した。


「顔を上げるな!奴らがシャッターを焚いている」


どうやらここはトラックの上のようだ。走り出したトラックはどこに行くのか?

いや、僕は知っている。このまま右の男の住処に逃げるのだ。

このままうまく逃げ切るだろう。僕はその予感を感じている。これは僕の夢だ。だから僕はうまく行く。やつらのカメラに僕が写る事はない。僕の夢で、やつらが僕より優位に立つことはない。


車はマンションを離れてゆく。僕は激しく動き出した車の中でその事を感じる。

トラックの前部の頭にはパトランプが付いている。そいつがさっきの音だった。やつらは素直に騙される。僕の夢はよくできている。