小説と未来 -76ページ目

新世界102-無職の暇人 23

冬の寒い一日だった。


何となく履歴書を送った会社から、何でだか通って面接を受けることになって、何となく雇われる事となった。


「ありがとうございます」と、僕は答えた。


「来週からでも来れるかな?」

と、声の張りがない社長は僕に聞いてくる。


「ええ、大丈夫です」と、僕は答える。


仕事は簡単なパソコン仕事のようだった。

パソコンが苦手な社長が言う言葉を打ち込んだり、お金の計算をしたり、そんな事務的な仕事だった。


「でも、どうして僕を?」

と僕は社長に尋ねた。


普通こういう仕事は女性が多い。なぜ僕のような男を取ったのかは疑問だ。


「まあ、そうね。女性は苦手でね。仕事においてだけど、いろいろと細かくてうるさくてね。それで、前任者は結婚していきりなり辞めたんで、男性がよかったんだよ。まあ、世の中やる気のある態度の人間は多いけど、あまり信用ならなくていね。君は何か穏やかそうで、あれこれ言わなそうだし」


そんなどちらかというと評価の低い適任者というご回答を頂いて、僕は晴れて職に就くことができた。

何の会社かというと、ヤスリとかの工具を売っている会社だ。

小さな会社だが、今でも職人がいて、手製のヤスリを作っている。それだけじゃやっていけないので、海外から色々な工具を取り寄せて売ってもいる。

従業員は六人だけの小さな会社だ。それでもやっと仕事ができそうだ。


「ああ、部長。新しいの入れたから」

社長は白髪頭だけどスーツを着て一番しっかりした格好に見える部長にそう言った。


「ええ?相談なしですか?また社長」

と、部長は怒ったように言う。


「いいじゃないか。駄目?」

社長なのに威厳が無い社長が、威厳のありそうな部長におねだりするように聞く。


「ちゃんとできる?」

度のきつそうな部長の眼鏡がキラリと光り、僕はそう尋ねられている。


「ええ、もちろんです」

と、自信はないが、そう答えざるを得ない。


「じゃあ、頑張って」

意外とあっけなく部長は僕を認めてくれた。


よくわからないが、いいらしい。世の中にはこんなアバウトな会社もあるわけだ。


無職の生活が終わる。

でも夢は続く。


2013年2月。僕は無事に職を見つける事ができた。

夢じゃない現実がここにはある。


新世界101-運命の幸雲 11

弁当工場の仕事は酷いものだった。


朝6時に仕事が始まると、昼の11時半まで休むことなく、弁当の詰め込み作業が続く。世の中にはこれほど多く弁当を食べる人間がいるのかと驚くほどである。

昼飯は弁当の余りで、夜も弁当の余りが貰えるから、喰うには困らない仕事だ。

午後は12時半から片付けの仕事が始まって、16時まで処理が続く。8時間の労働で、日給5千円という安い仕事だ。

何よりも嫌なのが、終ってからの反省会である。仕事は16時に終るのだが、そこから18時まで徹底した訓練としごきが始まる。


長の草野が声を張る。

「おまえらわかってんのか?全然おせ(遅)ええええんだよ。そんなんじゃ間にあわねえんだよ!!」

仕事は皆十分に早い。40人の作業員が一斉に動き出す。一人一人きっちり入れてゆく。でも草野は一日中怒鳴り散らしていて、終ってからも怒鳴り散らす。

「今日のミスは40!!客にこれが渡ったらどうなると思ってんだ!!大クレームだ!誰が責任と取んだよ!おめーらみてーな、下僕が取るのか?あああああああ」

最近狙われている大竹さんの顔の目の前で、草野は声を荒げる。

「てっめえええええだろ。おい、おっさん、おせえええええんだよ。くせえええええんだよ。わかってんの!」


「はい」と、震える声で大竹さんは答える。


「じゃあ、ほら、1、2、3、4、5ってやれよ!」

五つの弁当箱に順序良く入れる訓練である。ああも怒鳴られたら、まともにできる仕事も出来なくなってゆく。


「いっち、にっ、さんっ」と大竹さんはやってゆく。


「おめえええええらもだ!!」


そしてみんな同じように弁当に詰め込む練習をする。

この2時間が地獄だ。



「いや、うまく行って、金が増えて、よりいい仕事に就けるんならいいよ。でもさ、失敗が目立てば減給され、毎日怒鳴られる。普通仕事っていうのは徐々にできるようになっていくもんだろ?でもここは違う。単純作業だからさ、逆なのさ。最初は出来ても、徐々に嫌な気分になっていって出来なくなっていくんだよ。そうなって辞めていく。いや、そうなる前にそうなるのが恐くて辞めていく奴がほとんどだけどな。だからここで働いている奴はどんなに長くったって1年ちょっとだな。大竹さんだけは2年。あの人は駄目なんじゃねえ。駄目にされたんだ。本当は誰よりも出来がいい。駄目にされたら終わりだ。たとえ仕事がなくなっても、そうなる前に辞めるんだな。俺も後数ヶ月したら辞めるつもりさ」

と、田中という男は入りたての僕に教えてくれた。


でもニシキには沙希との暮らしがある。簡単に得た仕事を簡単に辞めるわけにはいかない。

今日で1週間、仕事はきつい。とても嫌だが、それを気にしていたら暮らしてはいけない。

『目を瞑るんだ。ここには当り前の生活がある。帰れば沙希が待っている』

ニシキは笑顔を見せる。

「いろいろ教えてくれてありがとうございます」

と、田中に答える。

「はは、笑ってられんのも、今のうちだな」

と、彼は笑顔のニシキに答えた。


2022年4月、ニシキには厳しくも普通の暮らしが訪れていた。半分の辛さと半分の楽しみがある。だからニシキは大丈夫だと信じていた。


新世界100-夢世界 29

夢の頂点はいかがなものだい?」

誰かが僕にそう尋ねる。


僕はその声を聞こうとしない。


茶色い毛皮に溢れた部屋の中にいる。

どこかのとち狂った猟師がやたらと毛皮を集めていた部屋だ。いつのまにか死んでしまって、ずっとここの主はいなかった。誰もが近づかない山の中にそんな部屋のある屋敷があった。僕らはそこをアジトと決めて住み始めた。

獣臭い部屋だが、僕は理由も無くこの部屋がやけに気に入っている。


毎日、僕はここで過ごす。

細い男が僕の付き人をしていて、僕が言う事は何でも聞く。

今日何が食べたいか?風呂は入れるか?今、世の中はどんな状況になっているか?

細い男はどんな要求にも、どんな質問にも必ず答えてくれる。


僕の生活でとくにしなくてはならないことなどない。何もせず寝ていたっていい。

でも僕は酷く退屈で、やる気に満ちているから何かをする。

大きな画面を出して、そこから金持ちの家を探す。データを管理しているサーファーっぽい男がいろいろと調べてくれるし、髭爺さんがいろいろな事を知っている。僕には不思議な勘があって、どんな金持ちそうな家でも、狙うべき家と狙わないべき家がある事を想像する事ができる。

その勘は当たる。だからここと決めた場所はたいてい馬鹿でどうしようもない人間が住んでいる。

僕はそのゲームを楽しむ。次にどこを狙うか。そのゲームが始まり、部下たちが力を注ぎ出す。


それでも暇な時間は体を鍛えている。時としてマッサージ師を呼んで、マッサージをしてもらう。どこかな可愛い女の子だ。


「これが頂点に立つものの生活だ」

と、僕は誰かに答える。


姿はどこにもない。

気配もない。

細い男はどこかにいて、僕の存在を守っている。彼は気配を感じるのが得意だ。だから誰かが来ればすぐにわかる。でもその声の主はここにいない。だから声だけが僕には聞こえる。


「一つだけ残念な知らせがある」


「何だ?」


「君の可愛がっていた少年だが、、、」


「何、コウキ、彼がどうした!」

僕は毛皮の上に寝転がっていたが、がばっと体を起こした。


「彼は正義感を持っているようだ。とても真面目なようだな」


「だから、それがどうした?」


「いずれ気づくだろう。君は今の生活に満足か?」


僕は満足だ。かつてない幸福を感じる。全てを司るものとなった。世の中を動かしている。

どこからともなく富を得た人間を処罰し、世の中の貧乏人に金をばら撒く。偉そうに理論で動く人間の財産を根こそぎ奪い、自由と楽しみに生きようとする人間に僅かな財を分ける。

小さな幸せが僕の下からたくさん生まれている。僕はその生活の頂点に立つ。聞いた話では我らが仲間は徐々に増えている。共に生きようとするものが僕の下に集まっている。


僕はこの夢の支配者だ。誰にもこのポジションを譲りはしない。譲れば、この夢を僕が終りにするまでだ。


「夢の終りまで、俺はここに生きる」


「そうか、ならばそうするがいい。だが君は君の育てた少年ともう二度と会うことができないだろう」


僕はそれでいいと思っている。コウキ君にはまっとうな生き方をしてほしいと思っていた。彼に会えないのは残念だが、それは当然の事だ。夢の中でもルールはある。僕はそのルールに従わなければならない。


「彼は無事なんだろうな」


「ああ、大丈夫。君が通っていた柔術師の男が面倒を見ている」


彼なら安心だ。それはよかった。


声はそこでふと消えた。その声がどこから来たものなのかはわからない。

まあ、夢だからそんな事もあるだろう。


2023年を迎えている。時の経つのは早いものだ。


新世界99-運命の幸雲 10

たくさん断られ、たくさんの書類を書いた。


仕事に就くために、何か必要な資格があればニシキはそのために努力を惜しまなかっただろうけど、ニシキに必要な資格は何もなかった。

今、ありのまま、沙希のために仕事をしたいという想いだけが強くあって、ニシキが仕事に就くにはそれだけあれば十分だった。

普通の仕事で構わない。だからニシキは何とか仕事に就くことができた。


弁当工場の作業員という仕事だった。

仕事というほど大したものじゃない。それでもろくに仕事をした事のないニシキにはそれだけで十分な仕事だった。


「よかったね」と、沙希は言った。


「ああ、これで沙希も学校の先生を辞めて、別の仕事を探せるね」

と、ニシキは答えた。


二人は二人の未来を祝して簡単なパーティーを開いた。何度目かのパーティー。いくつもの安らぎ。

『ここに幸せがある限り、僕はどんな試練も受け入れられるな』

と、ニシキは感じるのだった。


季節は春だった。

夜でも暖かい風が吹いていて、二人はまだ肌寒いけど、窓を開けてそんな風を感じていた。とっても幸せな時間が続いていた。



沙希は今持つクラスを最後に、小学校の先生を辞める準備を進めた。

全て予定通りに動いていた。ニシキと沙希の未来に明かりが燈されていた。


ニシキは信じていた。

きっと全てがいい方向に動いている。

そして今ある幸せが続けばいいと、ただそう信じているだけだった。


新世界98-孤島の物語 18

わたしは一年後にいたい。


そこは幸せに溢れた毎日の、ほんの僅かな一日っていう日なの。


海が静かで、空が穏やかで、目的のない遊びを繰り返している。


未来、わたしはこの島を楽園に変えたい。


グリーンエネルギーでお湯を沸かす。


果実の生る木をたくさん植えよう。


羊や馬を飼いましょう。


ここはノアの方舟。


たくさんの種が集まって、わたしたちはここから育ち直す。


きっといつか知らない内に世界は滅んでしまっているの。


今、わたしはユーカイスに頼っているけど、今度はわたしがユーカイスを助けるわ。


楽園になったらユーカイスもここで暮らすの。


貴方もここへ来るといいわ。


羊や馬の世話も大変だから、島には男手が必要でしょ?


貴方の力が必要なの。



いつもの一日に未来を夢見るハナがいる。


ずっと未来はきっとそうなっていると、信じてそうしようってする事が、未来だね。


きっと未来は生まれるでしょう。


少しでも望めば少しは近づけるから、なりたいイメージを今日も描きましょう。


明日は少しだけ実行しようって、ハナは自分にそう言い聞かせている。