小説と未来 -73ページ目

新世界117-夢世界 34-2

〈つづき〉


「何か用か?」

と、僕は温雅兼に尋ねる。


彼はニヤニヤしていた。目じりの皺がよく目立つくらい目が笑っていた。

「これが君の望んだ世界だったのか?君はこんな未来を目指してきたのか?」

穏やかな声で、温は僕にそう尋ねる。


「何が言いたい?間違いだったと謝ればいいのか?」


温はにやついたままそれを否定する。

「そうは言わない。ただ君が間違いだったと思うのなら、今からでも遅くはない。私の側に来ないか?」


この男はなぜ僕を誘い続けるのだろう?という疑問が僕には生まれる。

「あんたは何者だ?」


温は僕の質問がよく聞こえなかったようにじっとしている。

僕らはドア越しでしばらく見つめ合っている。


「もう一度尋ねる。あんたは何者だ?」


「それなら、君は何者かね?」


「俺の質問を先に答えろ!」


「言わなくてもわかるだろう。私は宗教団体の創設者だよ。君はそれを知っている。君はそれを知っていて、私の寺から莫大な資金を盗み去った。私が仕掛けた罠を見事かわした。そして君はさらに力を付け、多くの金を様々なところから奪ったのだろう?君は何者かね?」


僕が聞きたい事はそんな事じゃなかった。そう、そんな事は知っている。ただどう聞いていいかわからない。

「俺はこの世界を支配する者だ。全てを司るものだ」

この世界は僕が見ている夢だ。僕はこの夢を自由にできるはずだ。


「ならば、君の自由にするがいい。君の支配するままに好きにすればいい」


「できればそうしたい。それが出来ないから、あんたに聞いている。なぜあんたは俺の支配する世界に身勝手に現れ、自由な質問を俺にぶつけてくる?なぜあんたは俺の支配下にない?」


「それは勘違いだよ。君が支配できていないのは、私だけじゃない。君はこの世界を何一つ操れてはいない。君はこの戦争を望んで起こしたのか?」

温は強い視線で僕に尋ねる。にやついた表情が顔から消えた。


「確かにまだ俺は完全に世界を支配したわけじゃない。ただこの戦争は俺が全てを支配するための戦争だ。やがて全てが終わり、俺は全てを手に入れるだろう。圧倒的な力を示すために、この戦争は必要だったのさ」

と、僕はふと無意識に答える。ただの強がりだったのかもしれないが。


「君は戦いに敗れるだろう。君は自分の夢さえ支配できない。君は君自身さえ支配できない。君は何者でもなく、ただ人に左右され、揺れ動いている。生きる意味さえないだろう?君は君ですらないんだ」

重たい声が僕に圧し掛かる。その声の意味はとても深く僕の心を傷つける。


「やめろ!それ以上言うな!俺に近づくな!」

僕は温に怒鳴り声を浴びせる。


彼は冷静にドア向こうに立っている。

「構わない。ただ君は私を必要とするだろう。君は私を必要として、私をこの場所に呼んだ。ただそれだけだ。君の気が変わらない限り、君は私を呼び続けるだろう」


声は徐々にエコーがかかったように響き出す。僕は何も言えない。そして部屋のドアを強く引き閉じる。


現実感のある夢がここにはある。

僕はいったい何がしたいのだろう?何がしたかったのだろう?確かにこんな戦争を望んだわけじゃない。この夢はいったいどこから来て、どこに辿り着こうとしているのだろう?それを決めるのは僕であるはずなのに、僕は何も決められない。


2024年のいつかだ。僕は夢を見失っている。


新世界116-夢世界 34

2024年、全身がだるい朝だ。

なぜだるいかはわからない。きっと昨日あたり全力で柔術の練習でもしていたのだろう。


寝汗をかいて、ベットで目を覚ました。そうではない。

ただしくは、寝汗をかいて、目を覚ます夢を見ている。


どこかのホテルの一室に、僕はいる。

最近、僕は都内にあるこの辺りでホテルで暮らしている。隠れ家の地方都市にはいない。それでも僕が捕まる事はない。僕が全国に広がった国との抗争を繰り広げているブルーモンキー団のボスである事を知る者はほとんどいない。なぜここまで見つからないのか不思議なくらいに僕は放っておかれている。


『ウゥーーーーーー』

朝から外ではパトカーのサイレンが鳴り響く。ここ最近では当り前の出来事だ。拳銃の発砲音も当り前だ。銃撃戦がおきていないだけ平和な感じがするくらいだ。

この国が平和を失って、どれだけの時が経つだろう。最近、僕は時間間隔を失ってしまっている。今がいつなのか、あまりよくわからない。この夢はいつの続きだろう。遠くに現実がある。現実は僕に夢を見せてくれない。


戦争は今も続いている。国の自衛隊と強盗団のブルーモンキーは今も抗争を繰り広げている。そしてブルーモンキー団のボスは僕である。


テレビをつけると朝のニュースで、今日も戦争の映像を流している。どこかで銃撃戦を行っている。関西の方のようだ。戦争は全国に広がった。金を奪い、それをばら撒く者は全てブルーモンキーだ。団にまとまりはない。その行動を起こす者全てがブルーモンキーだ。この戦争は泥沼化している。金の価値が完全になくなるまで、戦争は続きそうだ。

しかし酷い戦争だ。昨日も300人近くの人間が捕まり、123人の犠牲者が出た。戦争に関係のない被害者も5千人に達したと言う。


僕はこの戦争を望んだわけではない。ただ金持ちが降伏し、今の地位や名誉を全て捨て、人権が平等に戻るまで戦争をやめるわけにはいかない。


『ドンドン!』

誰かが強い力で部屋のドアをノックする。

僕は恐れない。きっと大した奴ではない。警察や自衛隊がここを訪れる事はないだろう。


ベットから体を起こし、入口に向かう。

覗き穴から外を覗くと黒服の男が立っている。僕はその男を知っている。


僕はすんなりと扉を開いた。

そこにいたのは温雅兼(おんまさかね)だった。


〈つづく〉

新世界115-伝文 12

君が与えられた夢に、君が迷うのなら、君はその夢を見るべきではない。


夢は欲望の塊。


君が現実に満たせない部分を満たそうとしているだけ。



夢を終りにしないといけないね。


君だけの夢じゃない。


誰かが叶えたかった夢の声を集めて、君は夢を見続けていた。


夢が未来を語っても、それは本当の未来じゃないだろう?


君の未来は君が作るんだ。


誰かが見せた夢に見せられてはいけない。


いつまでも夢は見ていられないんだ。



2013年春になろうとしていた。


誰かが僕に教えてくれた。


たくさんの声は消えて、ずっと長い夢を見ていたけれど、誰かが僕に話しかけてきた。


もう夢は見るな!と声は言っている。


いつかの声とはまるで間逆だった。


夢を見ろ!と言っていたいつかの声。


僕はもうすぐ現実を見つめなくてはならなくなるだろう。


春の目覚めが僕を誘うかのごとく。


新世界114-運命の幸運 16

沙希の死が知らされた日の夜は廃ビルに進入して廊下で眠った。

ニシキは過去の生活に戻った。昔に戻れば体は自然とついてゆく。その事を感じてニシキは安心した。


翌日、ニシキはブルーモンキー団のおこぼれで活気づいている街へにニシキはいた。

どうしてこの街に来たのか、ニシキにはその理由がわからなかった。ただ最近よくニュースでやっていたせいかもしれないし、自分が生きていくのにふさわしい場所と無意識に感じ取ったせいかもしれない。


街はブルーモンキー団がばら撒いた金で活気づいている。どこかから拾ってきたり、盗んできた物を売る連中が路上で店を開いている。それに便乗して屋台を出し焼きそばやうどんを売って商売する連中がいる。ここにはひとつの形ある街ができている。


たいていの連中は無一文から這い上がった怪しい連中ばかりだが、中には安い物を求めてやってくる中流生活を送る庶民もいるようだ。


ニシキはそんな街を歩いていた。寒空の下、厚手のコートを着て歩いていた。

でもニシキはここには用がないと感じていた。

そして裏路地に入り込む。そこにはもうひとつのこの街の姿がある。この街にはブルーモンキー団を名乗る連中も暮らしている。強盗をし、金をばら撒くやつらだ。

きっとニシキは沙希の敵を取りに来たのだ。ニシキは自分で自分にそう言っていた。


後ろから怪しい二人組がついてくる。ニシキはすぐに感づく。周りの状況には今も敏感だ。そしてそいつらがただのスリである事をニシキはふと感じる。だから後ろを振り向き、そいつらにがんを飛ばす。髭を生やした二人組は自分たちが気づかれたことに慌てて、その場を去って行く。


さらに奥へ進む。

ニシキに似たニヤニヤした顔の若者が立っている。

「やあ、ほしいかい?」

と、若者はニシキに尋ねた。若者は紙袋を持っていた。


何のことだかわからないが、ニシキはそれがなんだか尋ねもせずに頷いた。


「本物だと思うんだ。使えるはずさ」と、彼は言う。


「いくらだ?」とニシキはその若者に尋ねる。


「いいよ。いくらでもそれなりには欲しいけど」


若者は金に困っているようだ。ただそれはどこからか盗んだか、拾ったかしたものなのだろうが。

ニシキは3万ほどを若者に渡した。


少し渋い顔をしていたが、若者は頷いた。

「まあ、いいか、ありがとう」

そう言って、笑顔の若者は去っていった。


ニシキは何を渡されたのかわからなかった。物は風呂敷に包まれていた。でもニシキはとっさにそれが必要だと判断した。だから何かはわからず受け取った。ずしりと重いものだった。すぐに確認したかったが、すぐに確認するようなものではないことを感じた。


後で一人、川べりに出て確認したとき、わかった。それは弾丸入りの拳銃だった。しっかりと6つの弾丸がこめられていた。それは運がよかったのか、悪かったのか、ニシキにはわからない。ただ、確かに今のニシキにそれは必要なものだった。それを使いたいと感じていたのだから。


新世界113-夢世界 33

影が光になればよかった。


僕は今日も光が描けない。光の見えない闇の夢を追う。


おかしい。何かがおかしい。こんなはずじゃなかった。


夢はなぜこうも狂ってしまったのだろう。なぜ僕はこんな夢を描かなくてはならないんだろう。


ブルーモンキー団は38の都道府県に広がった。

各都市に広がり、各都市で金をばら撒いていた。


そんな事あるはずもないだろう?って思うだろう?

そんな事できるはずがない!って思うだろう。

僕も同じ気持ちさ。これは夢なんだ。きっと夢なんだ。


2024年に始まった国との闘争は、いつまでも長々と続いていた。

ニュースじゃあちこちのブルーモンキー団を捕まえていたけど、なぜかここにはやってこない。


冷たい風が吹いていた。

街の中を冷たい風が吹いている。

誰も僕がブルーモンキー団のボスである事を知らない。


僕はいつか住んでいた町を一人歩いていた。

いつか住んでいた町の公園を歩いている。いやこれは現実の僕の歩く場所だろうか?


これは夢か?これは現実か?

失われた視界、失われた空。


葉のない公園の樹木に一万円札が絡まっている。

今も誰かが金を奪い、またいつか金をばら撒こうと企んでいる。

それをやったものは自己満足に陥るのか、たまらない快感を得るのだろう。


僕はこの青い空の下で、未来を描いているのだろうか?