新世界127-運命の幸雲21
ニシキは左の男を探しに、その男が住んでいたアジトまでやってきた。
何気ない住宅街の中に左の男のアジトはある。ガラス張りの事務所はいつも中が見渡せたが、今日はカーテンが閉まっていて、中が見えない。ドアを開けようとするが開かない。辺りを見回すが、どこも全て仕舞っている。どうやら留守のようだ。
建物は3階建てになっていて、2階3階はマンションになっている。ニシキは脇にある外付けの階段を上ってみる。とくにオートロックのようなものはない。
2階には手前と奥側、2箇所に扉がある。居住スペースは二部屋だ。
インターフォンを鳴らす。何度も何度も。手前の部屋からは全く反応がない。どうやら留守のようだ。
奥の部屋に行く。同じように何度もインターフォンを鳴らす。反応はない。
3階へと上る。同じように2箇所に扉がある。
手前の部屋のインターフォンを鳴らす。
何度も何度も鳴らす。やはり誰も出ない。
諦めて奥へ、行きかけたところで、男の声が返ってくる。
「はい!」
何度も何度も鳴らしたので、少し不機嫌そうだ。
「すみません。お尋ねしたいのですが、一番下の階ってあいているんですかねえ?」
「え?」
「いや、もし空いていたら、一番下の階を使いたいなって思ったんですけど。空いてないのかなあ?」
「ああ、どうっすかねえ?たしかにずっと前から閉まったままだけど、どうだろ?貸し出しっては書いてないからね」
「あの、いつから閉まってるんですか?」
「さあ、ずっと前からだなあ。もう一年以上前じゃないか?」
「そうですか」
「あのさ、詳しい事が知りたいなら、駅前の西本っていう不動産屋に聞いてみてくれよ。そこが貸し出しているはずだからよ」
「ああ、どうもありがとうございます」
危険な行為である事とニシキは重々承知している。
左の男は恐らく簡単に正体を見せてはくれないだろう。下手に追えば何しに来たのか疑ってくる。いざとなったら、また仕事がしたいと言えばいいが、左の男はそれくらいの嘘を簡単に見破る力を持っている。ニシキはその事を知っている。
それでも追わないわけには行かなかった。ニシキは拳銃を向ける先を探していた。いつでも胸の内ポケットに仕舞われた拳銃をぶっ放そうとしていた。
ちなみにニシキは小奇麗な格好をしている。いつか盗み出したように、カズという男が住んでいた家具屋の上から閉店した服屋の服を盗んできたからだ。金もコウキ少年から借りている。今は何かと不便はない。
生活には困らなくなった。しかし不幸な気持ちは消えない。沙希のいない人生はニシキの生きる理由を失わせた。ただ一つ、運命のままに生きるのなら、与えられた拳銃を恨み晴らすべき相手にぶっ放すだけだ。今のニシキに生きる理由はそれしか残っていないだから。
新世界126-夢世界 38
僕はどこまで夢を描けるのだろう。温雅兼が言うように、僕はこの夢の中で負けるだろう。僕は激しく迷っている。心は強く揺らいでいる。
真夜中、一人で眠る事さえ出来ない。夢の中で眠りたい。僕は夢の中で眠れず、布団の上に座り込んで、時を過ごす。
暗闇の夢の中で、背にボスの亡霊がいる感じを受ける。ボスは僕じゃない。僕でない何者か、僕の夢の中に入り込んだ何者かだ。
「失い続ける心を失うままに、失うままなのは御免だ。もう僕は僕として生きたい」
僕はボスの亡霊にそう伝える。
亡霊は何も答えない。
「ならば君はこの夢をどうするのかね?」
声は別の方向からやってきた。それはボスの亡霊の声ではない。温雅兼(おんまさかね)だ。
「あんたはこの夢に意識を持って生きているのか?」
僕は目を瞑ったまま彼の質問に関係なく、質問を飛ばす。
「わからないのか?君は私だよ。そして私が君だ」
「違う!俺は俺だ!おまえは俺じゃない!」
「君は一人の人間が一つの人格で出来ていると思いすぎなんだ。一人の人間にはいくつもの人格が宿っている。君はその中で意識上に存在する意識にしかすぎない。君は私にもなれたし、別の誰かにもなれた。でも、君は最も危険な存在の誘いに乗った。それが何なのか、君は知っているはずだ」
「ボスは俺じゃない!俺は俺だ!どうして、俺をボスだと言う!右の男も左の男も俺をボスだと言う!」
「それは君がそう決めたからさ。そう決めた君に君のすぐ下にいるものは従わないわけにはいかないだろ?」
これは僕が見る夢だ。誰かの夢ではない。僕が描く、僕の夢。僕はその夢を続けたいと、意識深いところでそう望み、いつまでも夢を見続けている。
温雅兼はさらに話し続ける。
「君を君を抑えようとした様々な要求を無視して、どこまでも破壊に向った。君を捕えた存在は君の心を揺さぶり、君はその者の望むままにここまで来てしまった。もう止める事もできないところまで」
「その全ても俺だろ!?何か、悪いのか?」
「それもまた違う。君は君が君でしかないと思っている。君はいくつもの人間の想い詰まって出来ている意識の塊にしか過ぎない。たくさんの想いが君の中に込み入ろうとしている。そして君に望みを叶えてほしいと突き動かしている。君は君の意志で生きてはいない。誰かの意志に乗っ取られて、歩んでいる」
なら、俺はどうしたらいいんだ?ここまで来た俺に何をどうしろと言うんだろう?
そういいたい声は声にならない。僕は夢でなく、現実のように今を悩んでいる。
「あんただって、俺に入り込もうとしている別の存在なんだろう?」
自分の声かはわからない。僕は温雅兼にそう言っていた。
「あるいはそうかもしれない。私ももう私が何者かはわからない。ただ私は君の中で、私の意識と結合する事を望んでいたことは確かだろう」
「ならば今は負け惜しみか?」
「それはどうかな?私はただ君が君に戻る事を望んでいるだけさ。一つの別の意志に捕らわれてしまっている君が君に戻る事を望んでいる」
妬みや僻み、怒りが僕を包み込んだとき、僕は溜まらない感情に震え出した。その想いに落ち着かない心が僕をある一点に集中させた。
『金を奪え!金をばら撒け!』
そんな望みなんて、僕にはなかった。ただ行為による清々しさが僕の胸を弾ませた。僕はどこまでもそうしてしまいたかった。可能な限り、そうしてしまいたいと願ったんだ。世の中の妬みや僻みが集まって、僕はその想いを持つ全ての者の心に清々しさを与えてやりたいと感じていたんだ。
「消えるがいい。温雅兼。俺は恵まれない不幸な者共の全てに希望を与えた。あんたの幸福論に興味はない」
「どうして、頑なになる。君の望みはそこにはないはずだ」
「あんたの本拠地、その他全てのあんたが集めた金の在り処に俺の部下を忍び込ませた。あんたは全ての財産を奪われるだろう。そしてあんたは全ての地位を失う。あんたは俺に勝てない」
僕は目を開いた。温雅兼は僕の目の前で日本刀を持って立っていた。日本刀を自らの頭上に構え、今にもそいつを僕の頭上に振り下ろそうとしている。
「残念だったな。温雅兼。おまえは俺の全てを目覚めさせてしまった」
「私を消そうとするのなら、おまえの持つ意識そのものから打ち砕いてやるわ!覚悟せい!」
温はそう言って、日本刀を振り下ろす。
僕は瞬時に右手を左から右に振付ける。その手が温の手の甲を叩き、刀は温の手を離れ、右へと弾き飛んだ。
「消えるがいい!温雅兼!」
僕はその声と共に両手を温の胸にかざす。そこから光が生まれ、光は徐々に広がってゆく。温はその光に包まれてゆく。眩い光は僕の目さえも眩ませ、光の中心から再び闇が外へと広がってゆく。
光が全て闇に変わると、そこにはもはや温の姿はなくなっていた。
2024年9月、僕は叶えなくてはならない想いに捕らわれた。
もう僕は一つでしかない。僕を邪魔する僕はいない。
新世界125-夢世界 37
僕は嫌な気分になっていた。静かな部屋の中で、瞑想していた。
毛皮だらけの部屋にいる。僕の見えない所で、細い男が僕の事を見守っている。ここには他に誰もいない。左の男も右の男も最終計画の事前準備のために出かけている。僕はその事を知っている。
不安は尽きる事がない。いつも明日には何かが悪い起こるのではないかと不安に駆られている。僕の心は落ち着かない。感情はとても不安定だ。
先日のニュースで、決起集会をやった講堂が映された。中の映像は映されていないが、外の映像だ。誰かがあれを撮っていたのだ。僕と左の男がちらりと映っていて、誰かがそこにいる男こそがブルーモンキー団のトップだと密告したようだ。僕と左の男の映像はボケていて、はっきりとはしないが、僕らは少しずつ迫り来る国の軍隊に追われなくてはならなくなってきた。
最近のニュースで、アメリカ軍の活動が決定したそうだ。民間人の安全を確保するため、空爆など大型兵器は使わず、陸上部隊のみの参加に決定したそうだが、1,000人規模のアメリカ軍隊が動き出す。僕らは新たな恐怖と戦わなくてはならない。
なぜ、夢は僕の見たいままになってはくれないのだろう?
せめて夢なのだから、見たいままに見せてくれればいいのに。
静かな夢だ。こんな静かな夢も珍しい。誰もやってこないし、何も起こらない。僕は取り残されたかのようにぽつりと毛皮に覆われた部屋の中にいる。この森の中にある館は、世間と繋がっていないかのように、僕をぽつりとここに置いている。
テレビが付く。
『大変な事になりました。今、警官部隊が銀行の周りを覆っています。犯人はまだ中にいる模様です。彼はブルーモンキー団の一員であるとの情報も入ってきています』
どうやら、早まった奴が銀行を先に襲ったようだ。もしくは全然関係ない勝手にブルーモンキーの名を口にする奴が銀行強盗を行っているのか、それは定かではない。
『パーン、パーン』
『只今、銃声が鳴り響きました。犯人は本物の拳銃を持っている模様です。この場も大変危険で、緊迫した状況が続いていております』
リポーターが現状をそう説明する。
「消せ」と、僕は細い男に指示をする。テレビを勝手につけたのも細い男だ。
テレビは消える。
状況の悪化は続いている。この夢は悪夢だ。
夢は何も楽しくない。心の疲れが取れる事はない。
僕はこの夢を終りにしなくてはならない。
2024年8月、僕はこの夢の終らせ方を考える。
自ら見出した夢は自ら終らせなくては終らないだろう。
新世界124-運命の幸雲 20
ニシキはベットの上で眠り続けた。ほぼ丸1日、目を覚ます事はなかった。
路上生活に酷く疲れていたようだ。コウキはニシキがどのような生活をしていたか知らないが、自分以上に酷い生活をしていた事だけは想像できた。なんとか生きてきたのだろうと感じていた。
コウキにはカズおじさんが残してくれたお金がまだ残っていた。誰もこんなところに金があるとは知らないから、盗みに来るものもいない。それでもざっと数えて、百万以上の金が残っている。だからコウキは悠々自適の生活を送る事が出来ていた。
がばっと目を覚ましたニシキは辺りを見回した。家具だらけの部屋の中にいる。
少し考え、自分がなぜここにいるかを理解する。コウキが玄関から入ってきた。彼はカップラーメンを手に持っていた。
「やあ、目が覚めた。これ喰いなよ」
3分待って、ラーメンを啜る。ただのカップラーメンとはいえ、久々のまともな食事だ。とてもうまい。ニシキが一気にそれを平らげる。コウキはその姿をじっと眺めて待っていた。
「いろいろあったみたいだね」と、コウキはニシキに尋ねる。
「そうだな。いろいろあった」
「僕、実はカズさんとか、ニシキ君が何をやっていたのか、よくわかってないんだ。いろいろ悪い事やってたことは知ってるけど、それがどう悪いのか、何がどうなのか、よく知らないんだ」
「そうか、俺らは、女を騙して、金を稼いでいたんだ。結婚詐欺ってやつだよ。わかるか?結婚詐欺」
コウキは頷く。
「最初は俺の提案で、カズさんがいろいろアドバイスしてくれた。それで何となくうまく行って、いい儲けをしていた。でも、それをあの男に見られたんだ。おまえも知っているだろ?左の男を」
コウキはこくりと頷く。
「その後、俺たちはあいつの紹介する女を騙すことになった。そして稼いだ金の半分をあいつに渡した。まあ、騙す女の数は増えたからそれはそれでよかったんだ。金の持っている女もあの男はよく知っていた。でもやがて、カズさんと俺は別々になっていった。左の男を通して、俺は俺の仕事を続け、カズさんは何か別の事をやらされ始めた。俺もそれが何なのかは知らない」
「それで、ニシキ君はある日、その悪い仕事を辞めた。足を洗った。そうでしょ?」
「ああ、そうだな」
「そうか、なんとなくわかった。やっぱしわかってきた気がする」
と、コウキは少し興奮気味に言う。
「何が?」
「僕、思うんだけど、その左の男がブルーモンキー団の偉い奴だと思う」
「どうしてそう思うのさ。確かに左の男は金を集めていた。でも悪い事をやって金を集める奴らなんて、この世に数え切れないほどいるぜ」
「僕の所に、馬込っていう刑事がよく訪れてくる。そいつがいうんだ。ここにブルーモンキー団の手がかりになる何かがあるってね」
「ああ、あの刑事か」
「知ってるの?」
「まあ、あいつがちょくちょくここに来るのを俺も見ていたよ」
「ニシキ君、ずっとこの傍で、ここを見ていたの?」
ニシキは少し申し訳ない気分になる。
「俺もよくわからないが、ここにいるしか思いつかなかったんだ。どうしてか、俺もカズさんに会いたいと思っていた。その理由はよくわからないけど」
「そうか。じゃあ、話は早いかもしれない。僕のところにいつも刑事がやってくる。そいつはブルーモンキー団を追っている。そいつはここにその手がかりとなるものがあるって言う。ここで何かが起こるって言っている。僕も最近思うんだ。それがここで起こるんじゃないかって。きっとカズおじさんさんも巻き込まれている。僕はあの人が悪い事をやっていたとしても、あの人に世話になった。だからあの人が酷い目に遭うような事は避けさせたいんだ。ニシキ君、もしカズおじさんに悪気を感じているなら、あの人を助けてやってほしい。いいかな。しばらくここに住んでても構わないし」
コウキはニシキにそう伝えた。
ニシキは複雑な気分だった。コウキにはまだ沙希の話を何もしてないが、ニシキは確かにブルーモンキーを恨んでいる。拳銃は今もポケットの中にしまわれている。
殺すべき相手は、左の男だったのかもしれない。そう思うと、ニシキは自分が何をするべきかがはっきりしてきた。恨みを晴らすのは遠くの事だと諦めかけていた。でも遠い出来事ではない。もっと身近な出来事だったのだ。
「ああ、いいさ。カズさんを救おう。そして左の男を退治するのさ」
そう言って、ニシキは微笑んだ。
コウキもそれに対して、にこりと微笑んだ。
新世界123-夢世界 36
僕は壇上にいる。大講義室のような場所だ。青白い光が僕を照らす。客席は僕の一言目を待っている。
「2022年10月2日。俺の手配したヘリは地上に金をばら撒いた。世の中に嫌気の差した人間が大勢いる中、金は地表に降りそそがれた。
何のためなのか。世のため、人のため?そんなつもりはない。誰のためでもない。自己満足でもない。ただ、時の流れがそうさせただけだ。誰かがやるべき事を誰かがやらなきゃらならない。
時代は変わりつつある。変革の時に来ている。金に物を言わせてきた奴らを排除し、新しい時代を作る時が来ている。
俺は貧乏人に金をばら撒いたが、それは貧乏人のためじゃない。金の価値を失わせるためだ。
世の中ではいくら稼いでも強盗団が奪ってゆく。そうすれば金を稼ぐ事の意味がなくなる。金を持っていたって奪われるなら、金は稼がない方がいい。程ほどに稼いで、後は拾ったほうがいい。
拾った金で買い物をする奴がいる。拾った金なんかで買い物されても困る。だから金なんかいらねえ。物の方がよっぽど価値がある。
世界は徐々にそうなりつつある。全ての金の価値が崩壊する。俺はそこを目指してきた。
今日、おまえらに集まってもらった理由は、その最後を成し遂げるためだ。いいか、よく聞け。すでにやっている奴もいるが、俺の指示じゃない。俺が指示を出したとき、おまえらは一斉にそれをする。そうしたら世の中は完全から完全に金の価値が崩壊する。
簡単だ。いいか、2024年9月25日、一斉に銀行強盗を行う。俺ら全てだ。
まだ2カ月はある。俺らには時間がある。十分に調べておけ。どこを襲うかは好き好きにするがいい。ただし、日本銀行は俺ら中心の集団が狙う。全ての金を奪う。そして全ての金をばら撒く」
僕はそう言って、壇上を立った。
ざわめく声が室内に響き渡る。威勢のいい、活気に満ちた声ではない。そこにあるのはただのざわめきだ。
舞台袖には右の男が待っていた。右の男が僕に言う。
「金を奪っても、世の中の中心となる金は電子化されている。いくら奪っても、奪いきれる事はない。申し訳ないが、貴方のやろうとしている事がうまくいくとは思えない。集まった奴らもそう思っている。彼らはこの世を変えようなんて意志はない。ただ自分が偉そうに振舞えればそれでいいだけの奴らだ」
僕は眉をしかめ、右の男をにらむ。
「いや、貴方のやり方を嫌っているわけじゃない。俺は貴方の考えや意志が好きだ。だが、事実は事実。現実は現実だ。それをしっかり伝えなくてはならない」
「これは現実か?おまえはそう思うか?」
「そうだな。そうだ。確かに、これは現実なんかじゃないかもしれない。すでに十分現実離れしている。しかし、この先に来るのは現実かもしれない」
「おまえはどうする?この先」
「ここまで関わって、どうする事もできないさ。牢獄で冷や飯を食わされるくらいなら、あがくところまであがく」
「なら、おまえが日銀を襲え。おまえがリーダーだ」
右の男はしばらく答えずに黙っている。
「左の男には印刷局をやってもらう。反対がいいか?」
「いえ、結構です。できる限りのことはやらせていただきます」
僕は手を振り、右の男と別れた。
公園にいる。いや、ここはどこかの大学の敷地内だ。今日はどうしてこんな所にいるのかわからない。大学も夏休みに入ったのだ。静かな講堂をお借りしたってわけだ。何事もないかのような平穏な時間が流れている。講堂から下る階段の下に黒い車が置いてある。そこには一人の男が待っている。左の男だ。
僕は真夏の暑い日ざしを嫌いながら、階段を下りてゆく。
左の男が出迎える。
「予定通り行きましたか?」
「そうだな。全ては予定通りだ。おまえは計画通り実行できるんだろうな?」
「ええ、もちろん。ボスのいうとおりに動きますよ」
そしてにやりと微笑む。いつも思うが、右の男と違い、左の男は何を考えているかわからない。人間的な違いなのか、それとも夢の一部であるせいか、僕にはわからない。
しかし我ながらとんでもない事をしでかそうとしている。これは夢だが、夢であってもこんな事を考えている自分がいる。こんな事を考えているだけで逮捕されそうだ。これは夢だ。何度も自分に言い聞かす。これは夢だ。僕の言葉じゃない。これはあくまで夢の僕が勝手に話している勝手な言葉でしかないと。
2024年8月の夢にいる。
車の中のクラーが涼しく感じられる。