新世界137-運命の幸雲 23-3
〈つづき〉
ニシキは拳銃を放つ事ができなかった。引き金を引こうとする。人差し指に力が入らなかった。怒りはあったはずなのに、どうしてもその怒りを弾丸に込める事ができなかった。
『殺されるのは、俺か。それならそれで構わない』
ゆっくりと目を閉じると、沙希の笑顔が浮かんだ。たった一つの幸せだったはずだ。もう二度はない。天国は僕ら二人の生活を永遠に与えてくれるだろうか?
『でも俺みたいな奴は地獄だな』とニシキは思う。
カズは弾丸を放たなかった。ニシキは弾丸が自分の心を突き抜けるのを待っていた。でもそれはいつまで経っても来なかった。
「どうした!怖気づいたか?ニシキ。俺を恨んでいるんだろ?さあ殺せよ」
と、カズはニシキに吹っかけてくる。
「俺が悪いんだろ?それなら俺を殺せばいいだろ?どうした?そんな事も出来ないのか?ほんとに何も出来ねえやろうだ。俺がいなけりゃ、おまえは何も出来ないな。結婚詐欺もうまくなんていかなかったさ。おまえは何一つ出来ない野郎だ」
辺りはすっかり闇に包まれていた。外には先ほどのような荒れた音が消えていた。僅かな街頭の明かりが二人のいる0.5階の部屋まで入り込んでくる。その僅かな光を頼りに二人は互いの姿を確認している。
ニシキは何も言わない。言葉さえも発せない。
カズは言葉を投げ続ける。
「おまえは自分の彼女を失ったと言った。俺はおまえの彼女を生き返す事もできるだろう。俺はこの世界の全てを支配する人間だからだ。最初からおまえは勘違いしていたのさ。冥途の土産に教えてやるよ。この世界は俺のためにある。左の男も右の男も俺の使いにしか過ぎない。そしておまえも俺が作り出した弱い心の固まりにしか過ぎない。おまえを支えていたその彼女が俺には邪魔だったんだ。おまえみたいな奴が幸せに生きようとする事が嫌だったんだ。俺はおまえがとっとと死んでくれると信じていたよ。ブルーモンキー団を使って、おまえの彼女を殺したのは俺さ。わかったろ?殺したのは俺なんだよ!」
ニシキは多くの部分で理解できなかった。でも沙希を殺したというカズの声がニシキのリミッターを外してゆく。脳に全ての感情が集まってくる。あるはずの落ち着きは消されてゆく。
怒りは理性を突破しようとしていた。
だけど、それでも引き金を引くことはできなかった。
目の前にいる男はニシキがかつて知っていた男ではなくなっていた。ニシキが好きだった地位や名誉や財産なんて気にしない気楽な男ではなくなっていた。目の前にいる男はニシキが嫌いな地位や名誉や財産を口にする男になっていた。
でもそれは自分とて変わらないと感じた。沙希に会わなければあのまま結婚詐欺に溺れ、たくさんの財産に囲まれて生きていた事だろう。そう思えば、ニシキは目の前にいる男が自分と差して変わらない男である事が理解できた。
小さな同情心がニシキの怒りを消してゆく。本当に心から何も知らない男が相手なら引き金を引く事はできたかもしれない。でも目の前にいる自分が知っている部分を持つ男に弾丸を放つことはできそうになかった。
「どうして、カズさんは沙希を殺したんだ?俺にはわからない。あなたにはそんな事ができないはずだ」
「俺はこの世界を支配している。何だってできるさ」
「そうであっても!あなたは、そんな事をする人間じゃない!そんな事をする事には何の意味もなかったはずなんだ!あなたは嘘を付いている!全部嘘ばかりだ!」
「弱い!弱すぎる!くだらない!さよならだな。ニシキ君」
そして銃声は響いた。静まり返った世界に一発の発砲音が響いた。
ニシキは男の影が2階へ抜ける隠れ口から消えてゆくのを見ていた。弾丸は自分が放ったものでない事を知っている。弾丸は自分に向けられて発砲されたものだ。弾は、どこへ行ったのか、ニシキにはわからなかった。ただわかった事は自分のどこかから血が流れ落ちていて、自分の意識が少しずつなくなってゆくという事だけだ。とても体中が痛く、痛みが体中を麻痺させていた。もう動く事はできそうになかった。
自分はこのまま死んでゆく。死ぬとはこういうものなんだな。
沙希が死ぬときもこんな感じだったのだろうか?死ぬときは走馬灯のように過去を思い出すというが、ニシキは何も見えなかった。沙希の事でさえうまく思い出せそうになかった。
あなたは幸せですか?
幸せを感じて生きていますか?
幸せのない人生なら死んでしまったほうがいい。
それでも、死ぬ事は、悲しく、寂しいものだ。
できることならずっと死にたくはない。
できることならずっと君と一緒に生きていたかった。
新世界136-運命の幸雲 23-2
<つづき>
薄暗い部屋の中で、ニシキはソファーに座るカズに拳銃を向け続けた。その手は緩むことなく、しばらく時が流れた。外から入り込んでいた僅かな明かりも弱まり、部屋は少しずつ暗闇が増してゆく。外は相変わらず騒がしいが、部屋の中は別世界のように静かな雰囲気を作り出している。
「カズさん、一つ聞いていいですか?」と、ニシキは口を開いた。
「何?何が言いたいの?一つと言わずにいくつでも聞いてくれ。話そうじゃないか」
カズは拳銃を向けられていても、全く余裕のままに聞き返す。
「カズさんは、今も左の男や右の男に指示に従って仕事をしているんですか?」
「いや、あいつらはもう俺の下だ。従わせているのは俺さ」
憤りを感じるような強い震えが体の内から溢れてくる。ニシキの喉には何かうまく言い表せない塊が詰まっている。そいつを吐き出したい気持ちが溢れる。
でも、もう一度冷静に次の質問を投げかける。
「カズさん。質問しますよ。ブルーモンキー団をご存知ですよね?」
「ああ、もちろん」
「カズさんや左の男は、ブルーモンキー団と関わっているんですか?」
部屋に笑い声が響き渡る。高々とした笑い声だ。
「そりゃあ、そうさ。俺がいなければ、ブルーモンキーは存在しないと言っても過言でないくらいの関係さ」
ニシキは笑顔を消す。暗闇が増し、二人はもはやお互いの表情を確認できない。
「俺の彼女は、ブルーモンキー団に殺されました。俺は許せないんです。ブルーモンキー団のやつらが」
カズはその言葉を聞くとソファーから立ち上がった。大きな影が天井を覆い、部屋中がカズの影に包まれたかのような感じだった。それがニシキの意識のせいか、光の加減のせいかは、ニシキにはよくわからなかったが、瞬間の不気味さにニシキはおののいた。
「嫌いなんだよ。俺はおまえが!」
その声はカズの声だった。カズがニシキに向けて発した言葉だった。ニシキは完全に動揺した。思いもよらない言葉が飛んできた事にニシキは呆然とした。
「おまえなんて、嫌いだ!いつもうじうじしてやがって。不満ばかり言ってんじゃねえよ。すぐに人のせいにする。守れなかったのはおまえだろ?おまえが何も出来なかっただけさ。俺はそういう事を言うおまえが気に入らないんだ。俺はおまえに会いたいと言った。けど、俺はおまえが好きでおまえに会いたかったわけじゃない。俺はおまえがいつも周りを不幸にする。俺はおまえを殺すため、おまえに会いたかったんだ」
ニシキがふとカズの手を見ると右手に小さな拳銃を構えている。ニシキは焦ったが、それ以上に我慢ならなかった想いが口から先に出て行った。
「俺は周りを不幸になんてしない!俺の周りを不幸にしたのは、ブルーモンキー団、つまりあなたですよ。カズさん。あなたが世の中を、全てを不幸にしたんだ!」
「それは違うな。俺は世の中の不幸な奴らのために金をばら撒いた。世の中の楽観的な貧乏人はそれによって富と幸福を得た。でもおまえのようなどうしても不幸な奴はいつまで経っても不幸だ。それはおまえがうじうじしていて、何がどうなろうとあれやこれやを否定し続けるせいさ。おまえはネガティブになって周りを不幸にしてゆく。不満や怒り、妬みや僻みをいつまでも持ち続け、それを消せない。だからいつまで経っても世界に幸福はもたらされないのさ。おまえのようなどうしもうもない人間がいるから、この世は永遠に不幸を生み出し続けるんだ」
二人は激しく憎みあう。すれ違い、食い違い、憎みあう心が生まれた。そこから生まれた怒りは治まる場所を失ってしまった。憎悪が止まるには行き着くところまで行き着くしかないのかもしれない。
『さあ、拳銃の引き金を引くんだ!』
互いに自らの脳にそう命令を促す。
煮詰まった想いが右手に命令を与える。
<つづく>
新世界135-運命の幸雲 23
2024年9月25日だった。
ニシキは薄暗い家具だらけの部屋に、二階から通じる梯子を下りて戻ってきた。
部屋は騒然としていた。あちこちでパトカーのサイレンが鳴り響いている。ニシキは何かが起こった事を感じ取っていた。
部屋に戻った理由は特になかった。ただどこで何が起きているが、どこで何がおきているかわからないので、慌てて動くような真似をせずに部屋に戻ろうと思ったからだ。
0.5階の入口の下で、ニシキは何か事が始まるのを待っている。ジャンパーの内ポケットに忍ばせた拳銃を握り、安全装置をいつでも解除をできるように親指に掛けて待つ。
入口の扉は開いた。
強い西日が部屋の中に入り込む。ニシキは目をくらませるが、瞬時にそこに立つ人間に向けて安全レバーを引きおろした銃の先っぽを向けた。
目はやがて慣れ、ニシキはそこに立つ男の姿を確認した。
知っているような、知らないような男がそこには立っている。いや、ニシキはその男をよく知っているはずだ。だけどなぜか、ニシキにはその男が知らない男のように見える。老いたせいか?そうとも言えない。見た目が変わったのだろうか?僅かにそれはあるかもしれない。でもそれだけではない。雰囲気の違いをニシキは感じる。だけどニシキは微笑み、その男に挨拶をする。
「カズさん。お元気でしたか?」
カズと呼ばれるその男は笑顔を見せずに、部屋の中に入ってきて、入口のドアを閉めた。
「やあ、ニシキ君じゃないか。君に会いたいと思っていたよ。ちょうど会えてよかった」
「そうですか。俺も会いたかったです。いったい今までどこへ行っていたんですか?」
ニシキはカズと距離をおいた状態で尋ねる。
「そうか。君はあれから何も知らなかったな。俺はあれからボスに会った。そして絶対的な任務を与えられた。俺はその任務を果たすため、必死になっていた。今日でその任務も終りそうだ。やっとここへ戻ってこれたよ」
平坦な感情のない声で、カズはニシキにそう話す。
「そうですか。それはよかったですね。俺もしばらくここにいたんですが、カズさんがどこへ行ったのかはずっと気になっていたんですよ」
カズはにやりと微笑んだ。そしてニシキの前を通り過ぎ、ベッドのある奥の方へと向った。
「外が騒がしいですね。何かあったんですか?」
と、ニシキはカズに尋ねる。
「ああ、世の中はとても騒がしい。問題だらけさ」
カズはベッドには寝ずに、その傍にある白いソファーに腰を下ろした。
「ところでニシキ君、拳銃を持っているのは、こんな時代だからまあいいが、どうしてその銃口を俺の方に向けたままでいるのかね?」
確かにニシキは銃口をカズに向けたままだった。自分でも気づかなかった。まさかそんな状態で何気ない話をしているとはニシキ自身も自分で思っていなかった。
「ハハ、どうしてですかねえ?ちょっとびっくりしてそのままに」
そう笑って答えて、ニシキは銃口を下に向けようとするが、それができない。その銃口を下に向けることをニシキの体が拒んでいる。そこにいる男から銃口を逸らせてはいけないと、体はニシキに言い続ける。
<つづく>
新世界134-夢世界 40-4
<つづき>
「あんたがブルーモンキー団のトップか?」
さっきぼこぼこにした刑事は僕にそう尋ねる。
僕はその問いに答える気がない。面倒くさい。どうでもいい。
「俺はあんたには興味がない」
「このおじさんは、違うんだ。勘違いだよ。馬込刑事。だからこの人を逮捕しちゃダメだ。近くに悪い奴は別にいるんだ」
コウキ少年はまだ僕の場所を離れようとしない。いつまでも僕の事をかばい続けようとする。
夢の力は現実を勝る。変えられない事も多くあるが、奇跡を起こす事だってできる。
警官たちが囲む外側から何かが投げ込まれた。それは小さな小石のような何かで、僕を取り囲む警官の前にいくつも投げ落とされた。それが何なのか、警官たちは何もわからなかった。せいぜいただの小石くらいにしか見えなかった。
でも次の瞬間彼らはそれを察知した。
大きな音を立て、小石は一つ一つ爆発し、煙を立てた。小石は小型の粉塵爆弾だった。あちこちでパンパン音を立て、それらは爆発する。彼らは手間取って何もできない。
僕自身も煙に巻かれる。その事は分かっている。この場を抜け出さなくてはならない。僕は胸ポケットから防塵眼鏡を取り出す。なぜかそんなものを持っている。
辺りでは怒鳴り声が聞こえる。
「きさま、何をする!」「うわーー」「くそお」だのなんだの。
ブルーモンキー団員が僕のピンチに駆けつけたのだ。
「俺を甘く見るな。簡単にきさまらにはやられやしないさ」
僕は煙に目を傷めている馬込刑事の横を通り、そう言って去ってゆく。
コウキ少年も当然現状が見えていないが、僕の後を付いてこようとする。周りでは防塵眼鏡を掛けた団員が警官隊を襲っている。
「コウキ。ここから動くな。ずっとここにいろ」
「おじさん」
「すまんがここでお別れだ。俺には会わなくてはならない奴がいる」
僕はコウキ少年にそう伝える。
「ここを切り抜けられるな。鍛えた技でここを切り抜けるんだ」
少年は目を瞑っている。僕はコウキ少年の頬に手をあて、最後のお別れをする。
「じゃあな」
「おじさん。僕はまだ何もわからないよ」
なぜなのか。なぜこうしたのか。僕は自分でもわからない。いや、答えはもうすぐ近くで見つかるはずだ。
僕は煙の中を一目散に駆け抜けてゆく。誰も僕の姿を追うものはいない。僕は誰もいなくなった家具屋の方に向けて走り出した。僕を追うものは誰もいない。
新世界133-夢世界 40-3
<つづき>
大人になった少年は、僕が休むベンチまでやってきて、僕に冷たい缶コーヒーを渡してくれた。
少しずつ夕暮れは近づいていたが、まだ街は明るく、この国で今起こっている出来事は全て嘘のように平和な時間がやってきたように暖かさが辺りを包み込んでいた。
少年は僕の隣に腰を掛けた。彼はすでに僕より背が大きく、僕よりしっかりした体つきをしていた。怠けていた僕の体はすっかりただのおじさんになっていた。
僕は貰ったコーヒーの缶を開け、それを一気に飲み干した。
それから少年に尋ねた。
「柔術は続けているのか?」
「そうだね。今も変わらず続けている」
大人になって声変わりしたコウキの声を感じる。しかしその声は昔と変わらない優しさに包まれている。
「そうか、それはよかった。今も先生に習っているんだな。勉強もしてるか?」
その質問にコウキ少年は首をぶるぶる横に振った。
「あまりしてないよ。学校にも行ってない」
「そうか、それはよくないな。ちゃんと勉強しないと、いろいろと後々苦労するぞ」
「今は一人で住んでいるんだ。僕はしっかり一人で生きてゆけるよ。大人になったら警察官にでもなって、悪い奴を捕まえたい。そのために強くなる事が一番だよ」
少年はそう言う。夢を語るわりには、その声はどこかとなく元気がない。
「んなら、なおさら勉強しておかないとな。警官になるのだって、試験があるんじゃないのか?」
大きな少年はまたぶるぶると首を振った。
「そんなのはいいんだよ。警官じゃなくても、悪人をやっつける事はできる」
僕は安堵の笑みを浮かべる。少年は優しく育っていた。きっと僕には関係なく、柔術の先生の教えをしっかりと受けたのだろう。僕の夢の中で、コウキ少年は最も僕の思うように生きてきてくれた。こんな安らぎない薄っぺらな夢の中で、幸せを与えてくれる唯一の存在だ。
僕は少年の顔を見つめる。少年はうつむいたまま顔を上げようとしない。いつまでもコウキ少年はコウキ少年だ。大きくなった。どこまで大きくなる姿を僕は見ていたい。
『君が立派になってゆく姿を追い続けたい』
僕は心の中でそう望むけど、この夢は終りにしなくてはいけない事を知っている。
『いつまでも、見つめ続けられる夢もあったのかな?いつまでも見つめていたい夢があるだろう?』
今、僕は激しく後悔している。どうして心無く何に流されしまったのだろう。金か名誉か地位か、恨みか妬みか、僕を大きくしていった存在は僕が一番大切にしたかった時間を失わせた。
「おじさんは、悪人になってしまったの?」と、コウキ少年が小さな声で僕に尋ねる。
ふと、コウキ少年の顔を見つめると、少年は泣きそうな顔で僕を見つめていた。
僕は何も返す言葉が浮かんでこなかった。
「さっき、僕は見ていたんだ。家具の家の窓から、おじさんが警官の男を投げつけるのを見ていた」
僕の体から血の気がすっと引いていった。
「あの家に今も住んでるのか?柔術の先生の所にいるんじゃないのか?」
少年は首をまたぶるぶると横に振る。
「言っただろう?一人で住んでいるって。立派になるために、一人で生きているって。ちゃんと聞いてた?」
涙を浮かべて、少年は僕の方を見つめる。涙をぬぐって、崩れそうな表情をしっかり保とうとする。
僕は何も言えず、二度頷いた。
「左の男と、右の男はどうしたのさ?あいつらに騙されて、おじさんも悪人になってしまったの?」
「何も騙されちゃいないさ。きっと俺はこうなりたかったんだ。俺はこうなりたくて、こうなった。左の男も右の男も今は俺の指示で、大きな銀行を襲っている。今、世の中を騒がしているブルーモンキー団のボスは俺さ」
僕は少年にその事を伝えた。
少年は信じていないようだった。
「それじゃあ、困るよ。僕は、左の男や右の男、あいつらを捕まえるような大人になりたいんだ。おじさんを捕まえたいんじゃない。おじさんとは…」
そこで声は止まった。僕はその先に何が言いたいのかを感じた。感じたというより、そう言って欲しいと思いたかった。僕と同じ思いである事を信じたかった。
とても悲しい時間だった。とても辛い時間だった。それでも僕は今が少しでも長い時間続いてくれないかと願った。
夢を見直すことはできるのだろうか?もし可能なら、全てを嘘にして、もう一度ここからやり直したいと願った。この夢の続きをやり直させて欲しいと願いたかった。
でも、夢は僕を許してはくれなかった。
「包囲せよ!」
大きな声が響き渡った。一斉に制服を着込んだ警官が僕らの周りを囲っていた。周囲30mほどの範囲を僕はすでに包囲されていた。
「違うんだ」少年は僕に言う。「違うんだよ。おじさん。僕はおじさんを助けようと思ったんだ。おじさんが縛った馬込刑事にも言ったよ。おじさんは使われているだけだって。そうだろ?おじさん」
僕はコウキ少年の肩に手を当てた。鍛えられがっちりしているが、どことなく優しさのある肩だった。
「おまえは間違っちゃいない。いつだって間違っているのは大人さ。俺や、君を置き去りにした母親、おまえはそんな大人になっちゃいけない。立派に育つんだ」
僕はそう言って、立ち上がった。たくさんのライフルが僕の方に向いていた。
いつだってこの夢を終りにする事は出来そうだった。僕は両手を上げて、降参のポーズを取った。
「少年がいる。解放するまで、銃は撃つな!」
僕は辺りにそう伝えた。
コウキ少年は僕から離れようとしない。
「おじさん!嘘だと言ってよ!おじさんは騙されているんだろ!自分の意志なんかじゃないだろ!」
僕が殴り倒した刑事が僕らの方へとゆっくり近づいてくる。
ゆっくりと時は動き出している。時は止まってはくれない。同じ時間は二度とやってこない。
<つづく>