新世界-あとがき
「新世界」は140話をもって、終了とさせていただきます。
唐突な終了となりましたが、唐突な始まりだったので、唐突な終りにしてみました。
本当の所はもう少し先も考えていたのですが、ここで終らせるのいいと判断し、終らせました。場合によっては続編も考えようと思いますが、作者の気分次第な所もありますので、そのまま忘れ去られるかもしれません。
本物語は、ありたくない未来を描いた物語であり、こうはなりたくないなという物語を書いてみました。人は自分が思うよりどうにでもなりえるのではないのか?という思いもあり、とにかく流されてはいけないぞ!というような事を書いてみたつもりです。
さて、話は変わりますが、作者である私、こころもりょうちは仕事を辞め、日本を旅する事にしました。ほんの2ヶ月ほどになると思いますが、次回作としまして、この旅行で現代の日本をテーマに旅小説を書きたいと思っております。
それを始めたい点もあり、「新世界」の終了となった部分もあります。
いずれにしても、常に新しい物語を描き続けたいと思います。
最近、下手くそな文章がより一層下手くそになっている気もしますので、何かと改善できるように努めていきたいと思います。
本作、新世界を長々と読んでいただいた方がおりましたら、本当にありがとうございます。
たまにちらっと見ていただいた方も、ありがとうございます。
以上、こころもりょうちでした。
新世界-目次
新世界 目次
副題と年月をつけました。
主題 【副題】 〈年月〉
1. 伝文1 【まずはいいから夢を見ろ!〈 2011年〉】
2.夢世界1 【ゴミの山〈 2019年8月〉】
3.孤島の物語1 【黄色い花】
4.無職の暇人1 【青色のクマ(2012年秋)】
5.夢世界2 【家具だらけの家(2019年9月)】
6.無職の暇人2 【晴れの日のカフェテリア(2012年10月)】
7.伝文2 【夢が僕を呼んでいる】
8.孤島の物語2 【パイを焼く】
9.無職の暇人3 【ハロウィンのパンプキン(2012年10月末)】
10.夢世界3 【カラスの時代(2019年秋)】
11.伝文3 【もっと怒りはあるはずだ!(2012年初冬)】
12.孤島の物語3 【一眼レフカメラ】
13.夢世界4 【ホームレス急増( 2019年冬)】
14.無職の暇人4 【あほんだらソースのおっさん( 2012年秋)】
15.夢世界5 【上流消費者(2020年元旦)】
16.孤島の物語4 【金色花ラッキョウ】
17.無職の暇人5 【水色いも虫(2012年秋)】
18 -19 -21 夢世界6【たかたこうき(2020年1月末)】
20.無職の暇人6 【窓掃除】
22.伝文4 【君には現実が必要だ!(2012年春)】
23.孤島の物語5 【夏の太陽】
24.夢世界7 【食パン生活(2020年冬】
25.無職の暇人 7 【ハナとの関係(2011年9月~11月】
26.伝文5 【正しい世の中なんて作れない!(2012年春)】
27.夢世界8 【ニシキ嵐に舞う(2020年春)】
28.孤島の物語6 【ペンギンのぬいぐるみ】
29.無職の暇人8 【ハナとの出逢い(2011年3月末)】
30.伝文6 【夢は君を満たしてゆくよ(2012年4月)】
31.夢世界9 【結婚詐欺計画】
32.無職の暇人 9 【友人に会いに電車で】
33.孤島の物語7 【夏の星座】
34.伝文7 【その夢はただの夢じゃない(2012年春)】
35.夢世界10 【変わらないゴミの山生活(2020年春)】
36.無職の暇人 10 【ピンク色したウサギのきぐるみ(2012年秋から冬へ)】
37.孤島の物語 8 【父親の趣味は魚釣り】
38.夢世界11 【マッサージ】
39.伝文8 【夢があれば動けるのだ!】
40.孤島の物語9 【寂しさ】
41.夢世界12 【へぼ整体師じじい(2020夏)】
42.孤島の物語10 【大雨】
43.無職の暇人11 【一ノ瀬八重子】
44.伝文9 【夢は生まれてくるものだ(2012年春)】
45.夢世界13 【柔術(2020年夏)】
46.無職の暇人12 【緑色の扉】
47.伝文10 【夢の続きを求める(2012年5月)】
48.夢世界14 【左の男と右の男登場(2020年秋)】
49.孤島の物語11 【船着場】
50.伝文11 【心の力を取り戻せ!】
53.無職の暇人13 【力を抜いて星人(2012年12月)】
54.孤島の物語12 【傘を差す】
55.夢世界16 【雪が降った翌朝(2021年2月)】
56.無職の暇人14 【冷蔵庫を開けて】
57.夢世界17 【豪邸の門(2021年3月)】
58.運命の幸雲1 【ニシキ君の恋物語】
59.夢世界18 【ゴールデンウィークのビジネス街】
60.孤島の物語13 【お日様の下で踊る】
61.運命の幸雲2 【普通の女】
62.無職の暇人15 【ハプリボポセリ医院】
63.夢世界19 【強盗計画】
66.無職の暇人16 【赤唐辛子(2012年末】
67.夢世界20 【ブラジリアンキック(2021年10月)】
68.運命の幸雲4 【カウンセラー】
69.夢世界21 【ボスとの対面(2021年冬)】
70.孤島の物語14 【4日目の晴れ】
71 -72 -73 -74 -75 -76 夢世界22 【新興宗教団体総本部】
77.無職の暇人17 【低人類の歌】
78.運命の幸雲5 【騙す男と騙される女】
79.夢世界23 【大義名分(2022年冬)】
80.孤島の物語15 【カフェラテ】
81.無職の暇人18 【2013年の始まり】
82.運命の幸雲6 【左の男と呼ばれる男】
83.夢世界24 【理想(2022年7月)】
84.運命の幸雲7 【沙希との再会】
85.無職の暇人 【嘘つき大島君(2013年冬)】
86.運命の幸雲8 【沙希との生活】
89.孤島の物語16 【冬の雨】
90.夢世界26 【右の男の隠れ家(2022年9月)】
91.無職の暇人20
【面接不合格】
92.運命の幸雲9
【クリスマス(2021年12月)】
93.無職の暇人21 【シャベルナ療養所】
94.夢世界27 【自家用へり(2022年10月2日)】
95.孤島の物語17 【手紙】
96.夢世界28 【紙切れが舞う(2022年10月22日)】
97.無職の暇人22 【時間よ 止まれ(2013年2月)】
98.孤島の物語18 【ノアの方舟】
99.運命の幸雲10 【弁当工場(2022年春)】
100.夢世界29 【毛皮に溢れた部屋(2023年1月)】
101.運命の幸雲11 【反省会(2022年4月)】
102.無職の暇人23 【就職内定(2013年2月)】
103.孤島の物語19 【魔女の魔法】
104.夢世界30 【神社(2023年春)】
105.運命の幸雲12 【天国と地獄】
106.運命の幸雲13 【幸せな生活(2022年10月)】
107.夢世界31 【集会(2023年4月)】
108.運命の幸雲14 【ブルーモンキー団(2023年)】
109.夢世界32 【ブルーモンキー団について(2023年8月)】
110 -111 -112 運命の幸雲15 【平和の崩壊(2024年1月】
113.新世界33 【散歩(2024年)】
114.運命の幸雲16 【活気のある街】
115.伝文12 【夢は欲望の塊(2013年春)】
118.運命の幸雲17 【死に場を求めて】
119 -120 運命の幸雲18 【彷徨い歩いて辿り着いた場所】
121.夢世界35 【都市部のアジト(2024年5月)】
122.運命の幸雲19 【コウキ君との再会(2024年春)】
123.夢世界36 【決起集会】
124.運命の幸雲20 【残された道】
125.夢世界37 【醒めない夢(2024年8月)】
126.夢世界38 【温雅兼とは?(2024年9月)】
129.夢世界39 【細い男との会話(2024年9月)】
130 -132 -133 -134 夢世界 【その日(2024年9月25日)】
131.運命の幸運22 【馬込刑事とコウキ少年の会話】
135 -136 -137 運命の幸雲23 【銃口を向ける】
138 夢世界44 【夢であっても】
新世界140-夢世界 45-2
〈つづき〉
2024年9月26日午前7時19分、空はよく晴れ渡っている。
僕は人の5階建てのビルの屋上にいる。
東に大きな建物はなく、太陽の日差しは僕のいる屋上までしっかり届いている。
今日も暑い一日になりそうだ。
少年は銃口を向けられたまま、どうにもならない状態で突っ立っている。少年といっても、すでに僕より背が高いくらいだ。見た目だけならもう十分に大人だ。銃口を向けているのは僕だから、僕が銃口を外せば少年は逃げ出すかもしれない。でもこのまま少年に銃を向けていよう。やがて銃を撃つその瞬間まで。
ビルの周りにはいくつもの似たようなビルがある。僕は辺りのビルを見渡していた。少なくても3ヶ所くらいから僕の姿が見える。僕はその事を確認できる。
「コウキ君、刑事さんはどうしたんだい?一人でここにいるわけではないだろ?」
「きっとどこかに犯人がいないか探しているよ」
コウキ少年の声は酷く震えている。こんなに怯えた少年の声を聞くのは初めてだ。冬の雪山で遭難したような声だ。
「そうか、じゃあもうすぐここに来るだろうな。ここまで来るのはそんなに難しい事じゃない」
「おじさんはどうするの?僕を殺して逃げるの?」
「そうだな。そうするかもしれない。けど、それより、おまえはどうしたいんだ?」
と、僕は少年に尋ね返す。
少年は答えない。今も呆然としたまま、僕から目を逸らしている。
「聞こえないのか!!」
僕は出来る限り、大きな声で少年に怒鳴りつける。
「俺はおまえにどうしたいかって、訊いてんだよ!!」
少年の目から涙が流れ落ちた。はっきりとした涙だ。涙は頬をどくどくと伝い、顎から地表のコンクリートに垂れ落ちた。
「どうして、こんな事、するんだよ。どうして、こんな酷い事するんだよ!」
震える声が僕に伝わる。
僕はにやりと微笑んだ。
「俺はこれが正しいと思ったから、そうしたまでさ。何かいけないか?」
「いいわけないだろ!どうしてニシキ君を殺したのさ。どうしていろいろ酷い事をしたのさ?僕にはわからない。おじさんの言ってる事がわかんないよ」
そうさ。わかるはずがない。僕はコウキ君がそう言ってくれる事を信じていた。でも僕はこう答える。
「しょうがないガキだな。正しい事が何かさえわからないのか?おまえは何が正しいかわかんないんだな?」
「わかるよ!正しい事くらい。少なくても、人を殺しちゃいけない。そんな事していいわけないだろ?」
そう、それでいい。
知っている。間違えたのは僕だ。もうどうしようもないところまで、間違えた。知っている。僕は間違えに間違えて、取り返しがつかなくなった。
様々な意見が僕の心を揺さぶった。何もない空っぽな心に、いかにも正当な意見を突きつけられ、僕はそれが正しいと信じるようになっていった。いかにも正当な意見に突き動かされてしまった。
何も持っていない人間は、それが正しいと言われればそれが正しいと信じてしまう。今はその事に気づいている。
「俺が間違っているのか?」
と、僕はコウキ少年にわざわざ尋ねる。
「そうだよ!おじさんは間違っているよ」
「どこが、どう間違っている?ニシキはとんでもないダメ人間だったから殺したのさ。世の中は金持ちばかりが得をするから金を奪ったのさ。その俺の何が悪い?」
「誰だって、ダメなところはあるよ。でもニシキ君はいい奴だったでしょ?お金なんてどうでもいいんだよ。お金を気にする奴の事なんてほっとけばよかったんだよ。そうでしょ?どうしてそんな事をしたのさ」
僕はそうしろと誰かに言われた。そしてそれが正しいと信じきった。僕は空っぽの人間だった。だからそれが正しいと信じた。僕はその程度の人間だった。
でも目の前にいる少年は違う。何が正しいかを知っている。そして正しく生きようとしている。僕はその事にほっとしている。
「俺は俺がしたい事をしたまでさ。おまえはおまえがしたい事をしたいか?正しい事をしたいか?」
少年は僕の方をしっかりと見つめた。
僕は少年の涙を流しながらも意志のしっかりした強い顔を見ていた。何も言わなかったが、僕はその表情に少年の意志を感じた。
「そうか。それならおまえはおまえがしたい事をすればいい。
そうしたいままにそれを成し遂げろ!いいか!世の中はそんなに甘いもんじゃない!おまえは何者かの意見に揺らされ、世の中の意見に揺らされるだろう。それでもおまえがそこに正しさを感じないなら、世の中の意見になんて惑われされるんじゃねえ!おまえはおまえが一番正しいと思う道を選べ!
小さな間違えを犯す事もあるだろうよ。それでも大切な事を決めるときは自分の心に問え!何が正しいかを問い、自分が一番好きな答えを出せ!それがおまえの正しさだ!」
この世は少年に託す。
僕はにっこりと笑みを浮かべた。
そして銃の引き金をコウキ少年に向けて、ゆっくりと引いた。
発砲音が鳴り響き、僕の放った弾丸はコウキ少年の耳元をかすめ、後ろのコンクリートの壁にぶち込まれた。
別の発砲音が遠くからやってくる。同時にどこからか放たれた弾丸は僕の脳天を捕らえ、そこにめり込んでいった。
知っていた。すでに僕は警察に囲まれていた。全ては狙いどおりだった。
コウキ少年の意志の強いままの表情が僕の目に映る。
『少年よ。またいつかどこかで会おう。きっと僕らは出逢えるだろう。もっとよき世の中で、僕らは出逢う事ができるだろう』
僕は少年の目にそう伝えた。
2024年9月26日、僕は死んだ。
夢の中で僕は死に、もう二度と夢に戻ることはないだろう。
新世界139-夢世界 45
2024年9月26日の朝日が昇る。
僕はビルの屋上で一夜を明かした。眠れない夜になるかと感じていたが、僕の夢は飛んでいた。夢の中で眠り、夢の中で目が覚めた。一夜は明けた。現実に目覚める事もなく、夢の中で眠り、夢の中で目が覚めた。
東日はいつもより強く感じられた。
0.5階の家具だらけの部屋では一人の人が死んでいる。僕は殺したニシキ君だ。僕はその事を何よりも強く覚えている。
世間は昨日起きた全ての出来事など忘れてしまったかのように静かだ。
昨日見ていた夢と、今日見ている夢は全く別の夢かのようだ。普通の夢ならそれが当然なのだが、僕が今日まで見てきた夢はそれが全く当然ではない。全くの皆無なのである。
本来の夢は繋がらず、自由でやりたい放題だからいい。
たとえ恐い夢を見ても、翌日は楽しい夢を見ている。穏やかな夢を見た翌日は、戦争の夢を見ているなんて事もある。だから夢は自由でいいのだ。恐くても、楽しくても、夢は一日限りだからいい。
夢が続いたら、夢に生きなければならなくなる。
夢が続いたら、それはもはや夢ではない。生き抜かなければならない現実だ。見る夢を間違えたなら、一度目を覚まし、もう一度思い直して眠り、夢を見直せばいい。でも僕の見る夢は見直すことができない。夢で起こしてしまった出来事は次の夢にも続いている。僕は犯してしまった夢での罪を一生持って、夢の中で生きてゆかなくてはならない。
『ガガガッ』という音が辺りに響いて、屋上の扉が開いた。
そこには大きくなったコウキ少年が立っていた。
僕は壁にもたれかかり、今も眠ったふりをしていた。
「おじさん。こんな所にいたの?」
僕はそう尋ねるコウキ君に眠ったふりを諦めて頷いてみせた。
「ここで一日過ごしたの?」
「ああ、ここで眠った」
「昨日一日は大変だったんだよ。あの後刑事に呼ばれておじさんの事をいろいろ聞かれて、でもよく考えたら僕はおじさんが誰なのか、最初から最後までずっと知らなかったから大した答えができなかった。僕はずっとおじさんがどこで育ったどんな人かなんて知らなかったんだ」
「俺も、おまえがたかたこうきって名前の少年である以外は何も知らない。お母さんの事も聞いたことないしな」
「話す事なんて別にない。僕は父親のいない母子家庭で育った。そして仕事のなくなった母親が僕を捨てたってだけの事だ。そんなの今はあちこちにある話だよ」
「俺も、仕事となくなって、田舎にも帰るに帰れなくなった、ただの40代のおじさんさ。よくある話だ」
「それより大変なんだ。ニシキ君が、殺されたんだ。誰かに、銃で撃たれんだ。何ヶ月か前から僕の所にいたんだ。ニシキ君はブルーモンキー団を嫌っていた。だから左の男や右の男を捕まえようと僕と一緒にいた。でも僕が部屋に戻ったら玄関の入口に倒れていた。刑事さんは言っていた。もう少し早く見つけられれば助かったかもしれなかったって。それから犯人はまだそう遠くには言ってないんじゃないかって。だから僕はその犯人を捕まえようと探しているんだ。おじさん、犯人は…」
僕はポケットから拳銃を取り出した。そしてそれをコウキ君に向けた。
「それ以上は話すな。それ以上、話すな!」
僕は強面でコウキ君の言葉を遮る。立ち上がり、彼の頭に銃の照準をしっかり合わせた。
「知っているんだろう?本当は?殺したのは、俺だよ。俺がニシキを殺した。俺はあいつが嫌いだったんだ。それから言っただろ?ブルーモンキー団のボスは俺だって。それからブルーモンキー団は国内中の銀行を襲ったが、昨日ことごとく失敗に終っているんだ。俺にはもう先がないのさ。少年よ。俺はもうただのとち狂ったおじさんさのさ。わかっているんだろ?」
太陽の光が徐々に強さを増す中、僕は一歩二歩と後ろに後退する。僕の影が大きく西へと伸びている。
僕は感じていた。この時が来たんだと。もう、僕がやるべきことは決まっている。
少年はまだそれに気づいていない。呆然と僕の方を見つめている。
僕はにやりと微笑んだ。
〈つづく〉
新世界138-夢世界 44
夢であっても、人を殺すものではない。
殺されるのは、僕であるはずだったのに、ニシキ君は僕を殺してはくれなかった。全ては予定通りだった。もう一つの想像は着々と育っていた。僕はニシキ君に殺されるために彼の彼女を夢から消したのに、彼は僕に怒りを持って弾丸を放ってはくれなかった。いい拳銃だって彼に持たせてやったのに、彼はその拳銃の引き金を引き事さえしなかった。
僕の中に育ったボスの心はニシキ君に苛立ちを感じた。そして僕は銃の引き金を引いた。高性能な小型の拳銃から発した弾は確実に彼を死に追いやる急所に当たっている事だろう。
優しさは、時として、生きることの邪魔をする。
生きるか死ぬか、懸っているなら、我をも忘れ、生きるための行動を取らなくては生きられない。
辺りはとても静かだ。さっきまでの騒ぎが嘘のように、もしくは、世界は滅んでしまったかのように静かだ。
僕はビルの屋上にいる。天を見上げると、僅かに星が見える。現実のような嫌な夢が終るときはやってこない。夢の中で眠りたい。夢の中で現実に消えたい。
内ポケットに仕舞われた小型パソコンがカタカタ動いている。僕はそいつの存在を思い出し、ジャケットの外に取り出す。
画面を開くと、そこには『COMPLETE』という表示が浮かんでいる。どうやら全てが終わったらしい。国中の銀行は襲われた。成功したかどうかはわからない。実行された事実だけがここには浮かんでいる。
数秒後、パソコンから声がする。
「ボス、全て失敗に終りました。貴方の負けです。逃げる手立てはありません。もうすぐ貴方も終ります」
右の男の声だった。
何もかもがボロボロのようだ。僕は自分の夢を支配する力さえない。
『さ・よ・な・ら』
誰が打ったかわからないが、パソコンの画面に、その4文字がゆっくりと浮かんだ。きっと左の男だろう。彼はこの夢の中でこの先どう生きてゆくのだろう。彼ならどこかでどうにか生きてゆく事だろう。
もうどうにもならない状況にあるのに、夢は終ってくれない。現実には戻ってくれない。夢が現実になってしまったかのようだ。どうやら夢は現実を飲み込んでしまったみたいだ。
僕は現実で、世を壊した大泥棒となり、人を殺した。
これが現実か、これが現実なのか?
誰も僕に何も教えてくれない。温雅兼を消し去った僕にはもう誰も語りかけてきてはくれない。
とても孤独だ。孤独な夜の夢と現実の間。
夢であっても、人を殺すべきでない。
夢であっても、強盗なんてするべきでない。
夢であっても、小さな幸福を大切にするべきだ。