小説と未来 -60ページ目

「何気ない毎にちを貴方に伝う」1ノ2


今日もまたいつもの繰り返しだった。 と言いたいが、じゃっかんサボった。

クラーに冷えすぎて、胃腸を痛めてダウン。電話で連絡して、「午後から行きます」、と伝えた。


だらけすぎだ。



この町に来て、僕は家庭教師を始めた。

自営で勝手に始めたわけではない。それなりの親会社があって、そこに登録している。

一応、教師の免許を持っている。


そして紹介されたのは、登校拒否をしている中学生だった。


住み着いたアパートから一駅離れたところに、その中学生は住んでいる。古い木造家屋の二階が僕の仕事場だ。ほぼ一日中、僕はそこでその中学生の勉強を見ている。

大した事はしていない。教科書を開いて、それを読むだけ。知っている事があったらその知識を話す。彼女は何も聞いてこないから、特に困ることはない。いつも母親がお昼を作ってくれるし、3時には3時のおやつが出てくる。飲み物も飲み放題。給与は安いが、今のところ不満という不満はない。


毎日、楽チンな生活を繰り返している。



今日も暑い一日だった。帰りには駅傍のカフェに寄る。アパートから職場まではいつも交通費をケチって歩いていっているが、暑くて歩くと喉が渇く。だから一駅歩くといつもカフェに寄ってしまう。おかげで電車賃はチャラになってしまうけど、運動だと思ってまあよしとしよう。

午後5時、僕は目の合う事のない客にまぎれて、しばらく冷房に涼んでいた。


暑い夏は終わらない。


僕の夏は何一つ盛り上がりのないまま過ぎてゆく。

二学期が始まっても学校にまるで行く気のない中学生を相手に、似たような日々を繰り返す。

20年近く前に戻ったかのように、僕は中学生と同じ勉強をしている。



(かつて)教室の窓辺、前から二番目の席に座る僕がいた。


いじめっ子の安田が僕の頭に意味もなく拳骨を落とし通り過ぎてゆく。周りを見渡せば、あちらこちらから昼休みを楽しむ話し声や笑い声が聞こえてくる。僕は一人で机に座っていた。安田も湯浅も田野も外に遊びに行ってしまったから、いない。天敵がいない時間は平穏だ。


僕だっていつ登校拒否児童になっていたか、わからない。


友達もいない、いじめられてばかりのつまらない中学生活だった。ただ、あの頃の僕には未来への希望があった。未来には何かが変わると信じていた。



でも夢は夢にしか過ぎない。

夢は夢のままに、現実が夢を塗りつぶしていった。


そんな事に気づいたのは、極最近になってからだ。そしてその現実が、この町に僕を連れてきた。普通の生活をこの町で送ろう。教室の窓辺、前から二番目の席、ここには安田も湯浅も田野もやってこない。


今日もそんな平和な生活の一日が過ぎ去ってゆく。


今は、漂う珈琲の香りだけがここちよく、僕を幸せな気持ちにさせてくれている。


(つづく)

「何気ない毎にちを貴方に伝う」1ノ1


薄っぺらい日本地図で見ればその町は小さな町だ。

でも、実際に暮らせば町は広い。

町には多くの人が住んでいる。

引っ越してきたばかりの僕は、この町のほとんどの人を知らない。

そしてこの町で僕を知る人は、それ以上に僅かしかいない。

人間関係が希薄な世の中だからそんなの普通だろう。


でも君に知ってほしい。僕はこの町に来て、この町で暮らしている。



僕はその町へやってきた。今までの生活を全て捨てて。

大げさな事のように言ってみたけれど、大したことじゃない。一人暮らしで結婚の予定もない僕は仕事を辞めて、僅かな友達とも別れて、知り合いの一人もいない町へと引っ越してきた。ただそれだけの事だ。


理由は、ない。あるとしたら、何もなさ過ぎる、ということ。


僕の人生には何もない。退屈な仕事と付き合う毎日しか僕にはなかった。

君は「何もないのは、何もしないからだ!」と僕を責めるかもしれない。僕は何の否定もできない。毎日仕事が終って、コンビニで弁当とビールを買って帰る。土日は家でテレビを見て過ごす。その生活からは何も生まれない。

責められて当然。僕はそんな駄目な生活を何年も送っていた。


31歳。この夏が終わり、32歳になる。



僕がその町へやってきた理由。

学生時代に旅した思い出から拾い上げた町だ。あの夏、ふと立ち寄った町の風景を僕は覚えている。どことなくその街並みに懐かしさを感じ、この町へ住むのも悪くないなあ、なんて思ったことを思い出す。そんな感覚的記憶だけで、僕はこの夏、その町へやってきた。


前よりはずっと都会っぽくなっていた。

中心の駅は建て替えられていて、ゴミゴミしていた構内はすっかり整理されていた。駅を出るとロータリーが広がり、駅前中央のビルにはどこにでも見るチェーン店のレストランやインターネットカフェの看板が見られた。どこかの町と同じようにこの町も現代に合わせた発展を遂げている。郊外にはショッピングモールも出来たらしい。


月日は流れ、世間は変わってゆく。僕はまるでその変化に追いつけない老いぼれのように辺りを見渡した。



町に来てから1ヶ月が経つ。

この時代の中で、僕に出来ることなどあるだろうか?

いや、何もない。何もありはしない。


君に伝う。

僕は新しい町で新しい生活を始めた。


空を見上げると、まるで春の日のような白の雲がふわふわ流れていった。

何気ない緩やかな時の流れを美しい。


(つづく)

作品紹介「何気ない…伝う」 

新しい物語をスタートさせます。


題名は「何気ない毎にちを貴方に伝う」

     なにげないまいにちをあなにつたう


という事で、題名の通りの内容です。


1.主人公である「僕」は、ある町に引っ越し、そこで何気ない毎日を送ります。

  そんな生活を、「君に伝える」風に描いてゆきます。


2.物語はやがて、「彼」という人物を描き出します。

  「彼」の何気ない生活を描いてゆきます。


3.そして次に、「君」の物語が始まります。


4.その全てがまとまったところで最終章がスタートし、THE ENDとなります。


そのような流れになりますが、細かい点はまだ決定していません。

今回の物語も、構想段階でスタートさせますので、最終的にどうなるかは筆者もまだ不明です。

おもしろく完成できれば、と思います。


「何気ない」日々の物語ですので、「何気なく」見てみてください。



こころもりょうち

こころもりょうちのJFJ もくじ

こころもりょうちのジャパニーズフリージャーニー  もくじ



0-1.はじめに



1-1.東京出発


1-2.神奈川の海


1-3.小田原災難


1-4.静岡の海


1-5.静岡の街から東京へ



2-0.再スタート前夜


2-1.御前崎


2-2.遠州灘


2-3.愛知にて


2-4.伊勢湾


2-5.伊勢志摩


2-6.南伊勢


2-7.熊野


2-8.本州最南端


2-9.和歌山の海



3-0.再々出発前朝


3-1.和歌山西岸


3-2.徳島市


3-3.お遍路さんの道


3-4.高知室戸間


3-5.高知市10年の月日


3-6.高知足摺間


3-7.九州へ


3-8.宮崎の現在


3-9.宮崎南部


3-10.大隈半島・薩摩半島


3-11.鹿児島番外編


3-12.桜島一周


3-13.奄美大島の自然


3-14.徳之島の現在


3-15.観光地沖縄


3-16.アメリカ軍基地沖縄


3-17.沖縄の平和



4-0.おわりに

こころもりょうちのJFJ-おわりに

旅も終り、今はもう。


何もなかったかのような…


空っぽの毎日。



家があって、お店があって、買い物に行って、食品を冷蔵庫に入れて、洗濯機を回して、エアコンをつけて、ソファーでのんびりして、テレビをつけて、


幸せだろう?


当り前に与えられるものが揃っている。


日々の生活。



ざわわ ざわわ 広いさとうきび畑は♪


ふと、沖縄を思い出す。


僕はあそこまで逃げていったのかな?


ずっと、殺伐とした世の中のようだった。


南に行けば行くほど、どことなく縛り付けられた世間の出来事から解かれてゆくような気が…


ああ、南の街はいいなあ。どこまでもそう思わせてくれた。



僕はこんな時代の、こんな世界に生きているんだね。


過去がいいか悪いかは知らない。ただ、僕は、今、この時代の、この社会が好きじゃないんだ。


もっといい生き方もあったのかもしれないのにね。



スペインのカサレスは綺麗な町だった。そこを故郷とし、そこを出てゆく少年がいた。


メキシコのグアナファトでは幼い少年がガムを売りまわっていた。教会で結婚式を挙げる新婚さんもいた。


みんな生まれ故郷があり、生まれた環境があり、それぞれに想い、それぞれに生きていた。


いつも感じるんだ。みんな、生まれ故郷があって、好んだり、嫌ったり、するんだよな。


僕はいつも旅人で、いつも知らない人しかいない土地を訪れて、小さな出会いがあって、でも小さな出会いでしかなくて、またさようならって…。



だから人がいっぱいいる東京に戻ってきたけど、、、意味があるのかな?


旅に出てたって、携帯電話やメールで、連絡を取っていて、むしろいつもよりも連絡多いんですけど、みたい事もあったりして、、、


だって、飛行機で行けば、2~3時間で会えるじゃん。


遠い場所はなくなったね。どんなに遠くても、遠くはない。そしていつだって電話で話が出来る。



この日本に、たくさんの日本人が住んでいて、たくさんの外国人が遊びに来ていて、僕は、何千何万の人とすれ違った事だろう。


牛もいたし、馬もいた。蛇もいたし、猪もいた。猿もいた。蝶々にトンボ、どれだけの生物が住んでいたかな?


世界情勢も、今日のニュースも関係なく、みんなそれぞれの今日を生きている。


こんなに人がいるのに、知り合える人は極僅かしかいないんだね。


そして長く付き合える仲はもっと限られていて…



小さくて、一人の存在はとても小さくて、でも、誰だって、「俺はここにいるんだ!」って言っている。


僕も小さく生きている。


君はありのままに、一生を生き抜けばいいさ。


だから僕もありのままに、一生を生きてゆくさ。



この日本のどこか、、、地球のどこかで、今を、未来に向って先へ行く。


今日も明日も変わらない。


僕も、君も変わらない。


生きてきたんだ。生きているんだ。生きてゆくんだ。


とても近く、すぐに触れ合える場所で。


(END)