『何気ない毎にちを貴方に伝う』4ノ1
町の中心から西へと長く伸びる大通りの歩道を東に向かって歩いてゆく。
歩く人はほとんどおらず、自転車に乗った高校生が僕を抜いて通り過ぎてゆく。
道路には車が連なっていている。
この町の風景にもすっかり馴染んだ。
今じゃいつも道の邪魔をしている定食屋の看板の立てかけている位置が、今日は店のすぐ傍か、歩道に出すぎているかを気にするくらい見慣れた。いつもアバウトに置かれたその電光の看板は、今日は少し店寄りに控えめに置かれていた。
僕はその定食屋を過ぎ、いくつかのシャッターを過ぎ、いつもの立ち寄る新しい方の喫茶店に入る。
狭い喫茶店の入口側の椅子に座って、珈琲を飲む。
外の町行く高校生を眺めながら、特に意味のない時間を過ごす。時間は午後4時、最近はこうしている事が多い。珈琲代も勿体無いくらい、本当は貧乏なのだが、今は燃え滾る熱を冷ます時間が必要だ。ここでこうしていなければ、僕はもうこの町にいる事さえ出来なくなってしまうだろう。
2010年の終り、僕は自分の失っていたものを取り戻すことが出来た。
それはうまく説明の出来ないものだけれど、言うなればマッサージの後の疲れのない体の軽い状態が続いている感じとでも言おうか、今まで重かった体は異様に軽い。そして脳はすっきりとし、視界が5倍くらい広がって感じられる。
10年前、この町に来たとき、僕はこれに近い感覚を持っていた。そしてあの時、僕はこのとても生き生きとした感覚を失った。
僕の力は溢れていた。
『今、僕は大きな転換を考えなくてはならない』と、2011年が始まる頃には思っていた。
でもその感情を抑え、僕は春になった今もこの町で暮らす。
今日も春休みだけれど、登校拒否女子中学生の家へと家庭教師に行ってきた。
僕の取り戻されたみなぎりはその登校拒否の子に向けられ、いつか熱く語るうちに少女のやる気を起こさせてしまった。彼女は今では隣町の高校へ行こうと必死で勉強している。彼女の学力では厳しい学校だけど、彼女は今、真面目に勉強をし、僕はそれに付き合う、というか、全力を注いでいる。
そして今日も登校拒否子に数学を教えた。
今まで解けなかった問題を理解するようになった喜びが彼女と僕には溢れている。今もそのたまらない興奮に包まれて、僕はそのエナジーを解消できずにいる。
ゆっくりと深呼吸して、珈琲を飲む。
少しは気も落ち着けてきた。
やる気のない生活にやる気を起こすのも辛かったけど、やる気のありすぎる生活に心を落ち着かすのもまた大変な事だ。悩みは尽きる事がない。
でも僕は、今を生き生きと過ごすことができている。
(つづく)
『何気ない毎にち…』のここまで、等について
『何気ない毎にちを貴方に伝う』 4部 を始める前に、2部・3部の目次を作りました。
1部終了時に1部目次を作っていて、2部終了時は忘れていた(;^_^A
作品紹介 時は何気なく、書いてゆくつもりでいましたが、2部・3部となるにつれ、徐々にディープで、オモッ苦しい話になってきてしまいました・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
1部 は、『何気ない』という感じで、『主人公(僕)がある町に引っ越してきて、登校拒否中学生の家庭教師となって…』という話からスタートしました。
最初から明るい話題の話ではありませんでしたが、『何気ない』感じには描けていた気がします。
2部 は、1部の主人公(僕)と対称的な存在として、(彼)を主人公としてのストーリーで続きました。『人気小説家の主人公(彼)の何気ない生活を…』という感じですが、1部後半からこの物語はすでに『あり得ない』方向へと進んでいて、2部の(彼)の生活はだいぶ『あり得ない』に染まっていった感じです。
3部 は、また普通の生活に戻って、(君)という女性を主人公にしています。(君)は1部の主人公(僕)が語りかけていた(君)です。『主人公(君)の何気ないOL生活は…』でしたが、かなりネガティブな世界になってしまいました。
簡単に内容を要約しますと、1部から3部の内容は下記のとおりです。
(1部)
主人公(僕)は日々の生活に疲れ、ある町に引っ越してきた。
その町は(僕)が10年前に訪れた事のある(僕)のお気に入りの町だった。
↓
(僕)はそこで登校拒否女子中学生の家庭教師を始める。
(僕)にとっても、その中学生にとっても、日々やる気の起きない毎日が続く。
↓
ある日、(僕)は緑の男(全身緑色の服を着た男)に出会う。
緑の男は(僕)の事を知っていて、10年前にこの町で(僕)に起こった事を思い出させる。
↓
10年前、(僕)はある男と出会った。
その男と飲みに行き、酒代を騙し取られ、さらにその夜記憶を失わさせられた。
↓
その男は何らかの形で(僕)のやる気を奪った。(僕)はその事を確信する。
↓
ショッピングモールで、その男らしい男を見かけた。
(1部終り)
(2部)
(僕)からやる気を奪った男(彼)は4年前に小説家になった。
(彼)はカノジョである編集者の女と山の中の別荘に暮らしている。
↓
(彼)は小説の書き終わった日、南の島へ行き、口紅の濃い女を抱く。
そしてその女からエネルギーを奪う。
(抱くという行為の中で、自分が上の立場になる事と人は下になった者から力を奪う事ができる、
というこの物語の世界での思考)
↓
(彼)は山の中にある木の枝を折る事で、最大の力を得る事もできた。
(小説をおもしろく書く力になっている素。その他魅力等の力の素)
↓
東京にあるマンションに移る頃、(彼)は小説が書けなくなる。
↓
小説が休刊となり、カノジョも(彼)から離れていった。
↓
茶縁眼鏡のインテリ編集者が(彼)の小説を侮辱し、(彼)は完全に書けなくなり、連載中の小説が終了。
彼は山の中の家の別荘に引きこもる。
(彼)が書けなくなった理由は、(僕)にある事を、(僕)視点で描かれるストーリーで表している。
(2部終り)
(3部)
(君)は2年前、彼氏に振られてから心の病で、会社でもつらい目に会い、嫌な毎日を送っていた。
↓
(君)は「溝端」(彼)の小説がとても好きだったが、連載が終ってしまい、僅かな楽しみも失った感じであった。
↓
「溝端コミュ」というネット上のコミュニティーで、(君)は「あつし」に出会う。
そして「溝端」(彼)を探そうという話に乗るが、「あつし」に会う事は出来ない。
↓
(君)は「あつし」の指示に振り回される。
↓
仕事や様々な嫌な出来事に(君)は疲れ果て、「自分の生きている無意味を誰かの力に与えたい」
という自暴自棄な考えになり、それを「あつし」に伝える。
↓
ある日、(君)は「あつし」(緑の男)と会い、(君)の力を奪われる。
↓
君はやる気を失い、普段の生活も送れなくなってしまう。
(僕)は(君)の事が好きであり、(君)の助けになりたいと、(僕)視点で描かれるストーリーで表している。
(3部終り)
この流れで4部に繋ぎます。
ここ3ヶ月ほどは個人的に生活が変わり、また大震災等もあり、落ち着かない毎日でした。
ちょっと更新も悪い感じでした。
震災の件に関しましては、被災された方々に比べまして、僕自身には大きな影響があったわけではないので、その理由には当たらないかもしれませんが。
ただ今回の震災で感じた事は多くあり、この数週間、こころもりょうちとしてブログに描くべきことが何なのか、少し戸惑いを感じてはおりました。
今を続けれるべきか、大きく転換して何か別のものを描くべきか。
それは多くのブログを描く人たちが迷ったことかもしれません。また日々の生活を送る多くの人が感じたことだと思います。
僕は、今を続けることを判断しました。しかし一方で今と重ね合わせて描いていたブログ小説である『何気ない毎にちを貴方に伝う』という小説に、震災の影響を受けた「君」という登場人物を描かせていただきました。
僕に伝えられることはほとんどありませんが、ブログという記事、またネットという情報網を利用し、誰かが誰かに伝えるという大切な行為を、僕も日々僅かでも行っていきたいなとは思います。
なんだかよくわからないまとめになりましたが、引き続き、『何気ない毎にちを貴方に伝う』、またその後の小説を描いていきたいと思います。
こころも りょうち
「何気ない毎にちを貴方に伝う』3ノ14
君の瞳からは涙が流れる事さえなかった。
涙って感情に溢れて流れるけど、君はその感情を失っていたから涙を流す事さえできなくなっていた。
明け方の青い空に清々しさも感じない。
いつもは向かいの建物に阻まれる朝七時の朝日は君の家まで入り込むようになった。数年前の君なら喜べたはずの朝日も今はまるで無関心。いつもと変わらない朝と会社への通勤路が待っているだけ。
無防備な君はちょっとした痴漢にも合う。なんか面倒なんで無視している。
「気持ち悪さ」は感じていても、それにショックを受けるのも面倒くさい。「痴漢野郎なんてとっとと消えてなくなってしまえ!」という気持ちは溢れるけれど、もうどうでもいい気分になっている。一駅過ぎれば位置も変わり、またただの満員電車に押しつぶされているだけ。
悪魔は微笑むかのように、君を面倒事に巻き込んでゆく。会社での君のせいじゃないミスも君のせいにさせられて、君が少し間違えれば酷い攻められようだ。その営業マンの苛立ちはただの腹いせ、客に言われた怒りを君にぶつけているだけなのだから。
君は僕よりも失った。それが緑の男の儀式のやり方によるものなのか、君の性質によるものなのかはわからない。ただ、君は僕よりも遥かにやる気を失っていって、会社に行く気もなくなってしまった。
数日間休むと会社の業務に困った部長から電話があったけれど、本当は君の代わりが見つかるまでの繋ぎを君に頼んでいただけだ。
4月になり、君は全てを失おうとしている。今まであった全ての君を守っていた生活も消えてなくなってしまうだろう。しばらくは貯めこんだお金もあるから、静かに生活するのもいいだろう。だけど長続きはしない。君を奪う様々な存在が君を陥れてゆく。
木々の根元に植えられた君の生きる力を誰かが奪ってゆくだろう。
どうしてこんな事になったのだろう。
君の悲しむ声が響き続ける前に、僕は君の大切なものを取り返す事ができるだろうか。
君は家のベッドに眠る。
君の家族も知らない。君がいかに失いなくなってしまったか、今、僕に出来る限りの事をしようとしているんだ。それが僕の全てだから。
(第3部終り)