大串正樹オフィシャルブログ「ぐしろぐ-大串まさきの活動のキセキ-」Powered by Ameba
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デジタル・ニッポン2024 【解説・後編】

前回からの続き

 

第3章では、仮説的にデータ戦略のモデルを提示しています。ナレッジマネジメントの研究をしていた頃に、知識を固定的に捉えずに自己革新プロセスとして再定義して論考をまとめた経験があります。この時の知見を基に、データ戦略も固定的に捉えずに、技術とともに革新する二つのプロセスの連携、それ自体を戦略として捉えました。意識的な転回が若干必要で腑に落ちるまで時間を要すかも知れませんが、「制度ベースの戦略プロセス」と「技術ベースの戦略プロセス」が相互に影響を及ぼしあうインタラクティブな「プロセス指向のデータ戦略」を仮説モデルとしました。以降の章立ても、このプロセスに従って構成されています。

 

 

第4章ではインフラ整備の進展と課題について論じています。これまでのデジタル庁の取組をさらに進めて行くとともに、能登半島地震から得られた教訓も生かしいかなくてはなりません。これは防災DXのプロジェクトチームでも丁寧に論じてくれています。

 

続く第5章では、AIやweb3などのデジタル分野の技術の進化のスピードにふれつつ、技術ベースの戦略プロセスの意義を解説しています。先に成立したセキュリティクリアランス法にも触れデータ戦略の安全保障面についても論じています。根底には“Need to know”から“Need to share”へ意識的に転回していく重要性をお伝えしています。データ戦略のメタレベルの戦略とも言えますが、社会的な価値創造の前提ともなる重要な議論です。

 

第6章では、データの利活用において課題が指摘された個人情報保護法の見直しについて、かなり深く掘り下げています。ヒヤリングでも明らかになりましたが、行き過ぎた規制を改めるためにも、個人情報保護委員会の体制の見直しまで含めて提言をしています。この点については、これまでデータヘルス・ゲノム医療政策(次世代医療基盤法)に取り組んできた経験から、どうしても踏み込みたかったポイントです。

 

第7章は、ここまでのデータ戦略の議論を受けて、戦略的に制度を見直していく必要性に言及しています。国と地方のデジタル化をさらに進めていくわけですが、その前提として、まだまだ脆弱なデジタル庁の体制を強化する必要性、さらに政策立案機能とデジタル基盤の開発・運用を担う機能の分化を意図するGov Tech Japan 構想を示しつつ、これを地方でも展開する必要性を示しています。後半ではトラストサービスを含む、国際的なデータ連係基盤構築の必要性を示していますが、これらが来年の大きな政策課題にもなると考えています。

 

 

第8章はシステム信頼についての考察です。章のタイトルはジンメルの「社会はいかにして可能か」をオマージュしつつ、正統性の概念に触れ、最後に「複雑性の縮減」という言葉を使っているようにルーマンの論考を少し取り入れた社会学的な視点で論じています。マイナンバーカードの経験からも、政府はシステム信頼というテーマに正面から取り組むべきだと思いますし、この提言で示したプロセス指向のデータ戦略がアジャイルに機能して、新たな価値を創造するためには、ガバナンスそのものへの信頼が不可欠となります。ある意味で、この提言でもっとも伝えたかったことであります。

 

 

 

デジタル・ニッポン2024 【解説・前編】

先日、私が事務局長を務めます自民党のデジタル社会推進本部の年次提言書「デジタル・ニッポン2024」を取りまとめて、総理に申し入れをおこないました。

 

デジタル・ニッポン2024―新たな価値を創造するデータ戦略への視座―【本文】

 

昨年までの提言は、おもにデジタルインフラ整備に軸足が置かれていましたが、今回は議論の末「データ戦略」をテーマとしました。なかなか見えにくいテーマですが、政策的にデータ利活用の方針を定める上で戦略は不可欠です。

 

 

サブタイトルはいろいろ迷いましたが「新たな価値を創造するデータ戦略への視座」としました。全編にわたって「新たな価値の創造」が中心的なテーゼとして読み取れる内容になっています。ちなみに「~の視座」や「~に向けて」という表現は昭和の時代に論文のサブタイトルによくあったフレーズですが、令和の時代に、あえて使ってみました。

 

全体の構成も役員の了承を得て「仮説検証型」スタイルを踏襲することにしました。政策提言は一般的に断片的な議論の集大成という形をとるとことが多いですが、「データ戦略」という曖昧なテーマは散漫な議論になりかねません。その懸念から新たな仮説に基づいて検証を進めながら、まとめていくという方法をとりました。

 

イントロ部分は平井本部長が自ら書かれたもので、我が国が置かれた状況やデジタル化の必要性などが「デジ道」のメッセージに込められています。

 

続く提言の冒頭には、アンダーソンのmore is different やボストロムのsuperintelligence の論考をレビューして(先人への敬意を込めて)、価値意識の変遷からデータ戦略の重要性が高まっている点に触れて議論をスタートしています。

 

続く第2章では、デジタル庁がまとめた包括的データ戦略を概観することでこれまでの議論を総括しています。各国とも、データ戦略の実用的な定義には苦戦している様子がわかると思います。ここでの反省的な考察が、次章のモデルへと繋がります。

 

つづく

 

 

 

消費者法の社会学

令和四年から一年近く議論され、先月、議論の整理がまとまりました。

 

「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/

 

 

消費者法は消費者と事業者の情報の質や量・交渉力の格差が、消費者の自律的な選択を歪めないように支援・保護することを目的としていました。しかし、近年、高齢化だけでなく、情報化・デジタル化の進展もあり情報活用能力や脆弱性への対応能力の格差が拡大しています。AI技術の活用も含めて法そのものを見直さなければならない事態となっています。

 

また、金銭を支払うという消費者概念も変わりつつあります。情報や時間、関心・アテンションを提供する生活者という概念にまで広がっていて、今後、それぞれの役割や規律、制度の見直しが進められることになります。

 

こういった議論は、社会学的な視点からも興味深いのではないかと思います。社会学は古来、貨幣やコミュニケーションなど、さまざま切り口で議論されてきましたが、デジタル時代の消費という視点で社会を眺めてみると、いろんな発見があるはずです。

 

法や制度といった多様なルールによる新たな規律を作り得るのか、また、デジタル化の中で保護と自律性とのバランスをどのようにとるのかなど、法の限界にまで言及した議論は政府の検討としても興味深いものです。

 

来年以降、議論が本格的・具体的になりますが、最終的な取りまとめが楽しみでもあります。

 

 

 

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