ひとつ前のかどはさよならサヨナラ -15ページ目
図書委員をしていた彼女は校則通りの三つ編みで
バスケ部で
僕はいつも遠くから
ふと目に入る存在だった



向こうは僕をどう思っているかなんて
考えた事もなかったけど
年がら年中
バンソウコウを顔に張り

ふてくされた顔で外を眺めている
僕とは
遠くなる事はあっても、友達になるなんて事もないと思っていたよ


事実、
図書室で本を借りる時に
図書カードの手続きをしてくれても
会話もなかったんだ


その彼女が
僕の隣で笑っていた

男女、数人で駅で待ち合わせして
花火大会の会場の土手につながる道を歩き向かった


土手に腰を下ろすと
風が気持ち良かった

ドキドキしていた

川の流れ行くスピードが速く感じて
【今日】は
いつまで続いてくれるのか
不安になった

いつも
嬉しい時間があると
【今】が
幸せのてっぺんなんじゃないかなんて心配をしていた
そしたら
その女の子が横に座った

何も話さない時間が
続いたよ

夕方近くの
シルバーオレンジの光が水面で凄く輝いているのに
眩しいとは感じなかったよ


最近、なに読んでんの?


僕は唐突に彼女に聞く


えっ?とだけ
聞き取れなかったのかその子は僕を見る


イヤ。。いつもさ
図書室でさカウンターの奥でさ
何か読んでんだろ?


僕は彼女の顔を見ないでもう一度訊く


あぁ。。。
今、【銀の匙】読んでるんだよ

彼女は微笑みながら答えた

え。。。

僕の胸の鼓動が高くなる

続く→
中学2年
夏の花火大会


僕は、頭上で咲く花火を見れず
ひたすらドキドキしていた


花火に追いつこうと
歓声と拍手があがるなか
あと10発、花火を数えたら…


好きだ


と、言おうと
頭の中で繰り返していた

隣にいる女の子に…


8月20日は、一学期最後の日でさ
朝から教室の賑やかだった


僕は窓際の後ろから二番目の席で
ぼーっと校庭を眺めていた


今日の花火大会楽しみだな


後ろから
クラスメートに話かけられた


うん…?あぁ…
いつもと変わらんだろ


僕は冷めた返事をしながら、ヤッパリ
校庭を眺める


僕の返事がつまんなかったのか
クラスメートは、後ろから僕の前にまわってくると

意地悪そうな笑いを顔に浮かべて言った

女も呼んでみんなで行こうって
さっきなったんだよ


え…


僕はあからさまに
戸惑いをみせた


その反応に合わせて
ヒヒヒ
と白い歯を見せ笑いクラスメートは話続ける


もちろん、アイツも来るってよ


【アイツ】は
僕が好きな同級生の女子だった


アイツが来るから何だってんだよ…

僕は
妙なドキドキを悟られたくなくて
また校庭に目を向けながらこたえる


僕の反応を見て
クラスメートは、またヒヒヒって笑うと話続けた


花火始まったらカップル同士、バラけてさ…



へ…!?バラけるって。。。

僕は声がうわずった
うわずってから
恥ずかしくなって
また校庭を眺めてた


クラスメートは、またヒヒヒって笑った


続く→
最後まで年齢は訊かなかったけど
運転手は50歳前後に見えた

東北の生まれ故郷の町で、長距離トラックの運転手をしていたと話す


家族。。。
奥さんと子供は今でもその町に住んでいる


長距離はさすがに身体が辛くなって、タクシーに職替えをしたんだと…

東京に来てまだ一年も経たない
単身赴任の運転手は
今は会社の寮に住んでいると…


そんでもさぁ。。。
寮に帰ったって何もねぇんだ


その短い台詞は僕に向けられて言ってるようには
聞こえなかった

寮に帰りたいと思った事など一度もない

帰って何もない誰もいない部屋にいるくらいなら
一晩中でも
こうして車を転がしていた方がまだましだと
運転手は言うんだ

かといって
休暇をもらって家族のいる町に戻るのも
さほど楽しみにはしていない
と、続けた


えっ!? そうなの?


僕は運転手の左後頭部を眺め、訊く

長いこと長距離トラックをしてきて
運転手はどうしても家をあけがちだった

2ヶ月
3ヶ月家にいないこともざらだったらしく

父親になりきれなった
と運転手は言った


だからさぁ
別に帰って来てとも言わねえし
帰ってみたとこで
なぁんか…よそよそしくてねぇ

自分のいるとこじゃないみたいで


味気なさは寮と似たり寄ったり
期待を抱いてしまう分
故郷の町の方が辛い
そんな口振りだった


運転手はどんな目で流れ行く
灯りを見ているのだろう…
そう思った


そして運転手は最後に呟いた

何のために働いてるんだかも、
もう判んねンなぁ…


楽しい事など何もないと言った運転手の言葉は
おそらく
ありったけの本音だったと僕は思った


タクシーを降りて
歩みを進めていくうちに頭の中で考えた


大切なのは
僕が誰かを知っているという事かも知れないと…

誰かが僕を知ってくれている事ではないかと

知るって
案外努力が必要だ

【判る】なんて尚更だ

偶然の繰り返しで
【判る】事なんて何ひとつ無いのかもしれない


ただお憶えていれば
大丈夫だと思った

触れた人やモノに対する関心

あった事
思った事
出会った人

ひとつひとつの風景
ひとつひとつの表情

お憶えていたいと思った

タクシーの窓から見えた灯りの数だけ
人は暮らしている

様々な灯りの下
色々な奴がいる


タクシーを降りた時
僕は妙にはっきり思い出していた
ひどく寂しい自分の姿を

運転手も
また
ひりつく様な寂しさを身体のどこかに抱えながら、
ハンドルを握るのかと
思った


相変わらず降る雨に
身を委ねた光は道行く車に跳ね上げられ舞う


僕はささずに手に持っていた傘を
勢いよく開き

空に紺色の大輪を咲かせた


今日のシルシをつけるように…