マーラーの交響曲第1番の若杉弘/シュターツカペレ・ドレスデンによる演奏の東独エテルナから出たオリジナルのLPについて、以前から疑問に思っていたことがあります。


 まず、何枚かの写真をご覧ください。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
これが東独エテルナから1988年に出たオリジナルのLPです。

7 25 119


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
番号部分の拡大です。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
ジャケット裏、左下の拡大です。

最終行には

Ag 511/01/88/A

という文字があります。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
番号もここで確認できます。

(7 25 119)

 ところで、これと全く同じで番号だけが違うものが私の手元にはあります。

 それが次のものです。


 
アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
ジャケットは全く同じです。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
ただし、レコード番号が異なっています。

7 29 119


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
ジャケット裏の左下の部分の最終行が、こちらは

Ag 511/01/89/B

となっています。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
でも、レコード本体にあるレコード番号はこの写真で確認していただけるようにこちらも

7 25 119

なのです。

写真ではあまりはっきりわからないかもしれませんが、レーベルの色は異なっています。


つまり、この2枚のレコードでは、ジャケット裏の右上にあるレコード番号が

一枚目は

7 25 119

二枚目は

7 29 119

ということになるのです。


また、左下の最終行が

01/88/A

01/89/B

と、異なっています。


同じもののCDも89年に東独エテルナから出されました。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
LPと同じジャケットです。

CD番号は 3 29 119です。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと
ブックレットの裏です。

Ag511/03/89/A とあります。


このCDのブックレットには Made in the German Democratic Republic とあります。

また、CD本体には Made in Czechoslovakia とあります。


これらは、東ドイツという国が存在したほぼ最後の時期に出されたものです。


この表記の不統一の理由は何なのでしょう。

このLPならびにCDが作られた背景には一体何があったのでしょう。


可能性としては

・最初の7 25 119という番号がそもそも間違っていた(エテルナの最後期のレコード番号は大体7 29 ○○○です)。

・何らかの理由で短期間の間に新しい番号で出すことになった。


などが考えられるのでしょうが、とても疑問です。


どなたか経緯についてなどご存じの方がいらっしゃいましたら、お教えいただきたく存じます。


なお、この演奏はとても素晴らしいものとしてよく知られていますが、現在は次のような形で出ています。



シュターツカペレ・ドレスデンの芸術/若杉弘
¥2,835
Amazon.co.jp

 フュロップさんの『マーラー・ディスコグラフィ』がどんなに素晴らしいものであり、また、どんなに便利なものであるかということをお伝えするために、マリア・フォシュストロームの歌曲集(MRSACD018)がどのように出てくるかということを書いてみます。


 前回の記事に書いたように、まず、第1部の中の交響曲第2番の部分、84ページに、■2.7410という項目で出てくるのですが、ここには、「交響曲第2番第4楽章のマリア・フォシュストロームとヨハネス・ランドグレーンによる歌とオルガンのための編曲」ということがまず書いてあります。

 そして、録音が2009年10月12~15日であり、録音場所がイェーテボリのヴァーサ教会であること、そしてMusica RedivivaレーベルからMRSACD018という番号で出ていること、さらにはDDDであり、SACDであること、発売年が2010年であることなどが書いてあります。さらに、同じディスクに「大地の歌」のある楽章と「リュッケルト歌曲集」と「亡き子を偲ぶ歌」の編曲版が収録されていることが、本書独自の略号を使って記されています(順に、L.5510、R.3510、K.5210 ですが、慣れてくると便利なものです)。

 それで、次に「大地の歌」の録音が並んでいるところ(p.222-p.236)を見てみると、p.235からp.236にかけて、「別の編曲」(つまり、マーラー自身によるピアノ版、シェーンベルクとリーンによる室内楽版以外の編曲ということですが)というものが並んでいます。その最後に、「オルガン伴奏による」(第6楽章のみ)として出てきます。もちろん、第2番第4楽章のところにあったデータはすべてここにもあります。

 

 次に、「リュッケルト歌曲集」ですが、これはp.288にあります。これも、R.3510という番号を手がかりにするとすぐにわかります(このページを見て私はいささかショックを受けてしまったのですが、「リュッケルト歌曲集」のオルガン伴奏版は、2001年に録音され2002年に出されたディスクが存在していたのでした。このディスクには「亡き子を偲ぶ歌」も収録されているようです)。


 p.288の「リュッケルト歌曲集」のところの記載は、「歌曲集全曲の編曲版」という分類の中の「オルガン伴奏による」という表現になっています。第2番や「告別」のところに書かれていた必要なデータは、もちろんすべてここにも書かれていますが、この「リュッケルト歌曲集」の項目にはもう一つ、特筆すべきことがあります。

 それは、(3、1、2、4、5)という数字が書いてあることです。これは5曲の歌をどういう順序に歌っているかを表しています。

 具体的には、3「僕の歌を……」、1「やさしい香りを……」、2「美しさゆえに……」、4「私はこの世から……」、5「真夜中に」の順に歌われているということです。

 このフュロップのディスコグラフィでは、このように歌われている順もすべて記載されています。それでわかるのですが、マリアがMRSACD018で歌った曲順というのは実はかなり稀なもので、オーケストラ版、ピアノ版を通して見ても、他には、ヴィオレッタ・ウルマーナがブーレーズ指揮のヴィーン・フィルで歌ったものがあるだけだということです(これはなかなか興味深い問題です)。


 ずいぶんと長くなってしまいましたので、第1部についての説明はここまでにします。


 次の第2部(p.353-p.479)は、演奏家別のアルファベット順索引です。指揮者、オーケストラ、合唱団、歌手、ピアニスト、その他から検索することができます。

 MRSACD018の場合でいうと、p.389にフォシュストローム,マリア(コントラルト)という項目があって、先の第1部のところで挙げた4つの項目が示されています。

 さらに、p.413には、ランドグレーン,ヨハネス(オルガン)という項目があって、マリアのところと同様になっています。

 演奏家のほうから検索できるということはとても便利なことで、思いもよらない見逃していた録音に出会うきっかけにもなって楽しいものです。


 次の、レーベルの索引になっている第3部(p.481-p.510)は、マーラーのレコードの歴史を調べている人にとってはたいへんに重宝するものです。Musica Redivivaはp.500に出てきます。


 最後の第4部(p.511-p.568)の「演奏時間」ですが、これがまた壮観です。

 第1部の年代順ディスコグラフィに載っているすべての録音(厳密にはフュロップさんが所有していないごく少数の録音以外)の、楽章ごとの演奏時間とトータルの時間、また、その曲全体とそれぞれの楽章の、最短と最長の録音がどれかということがわかるようになっています。

 マリア・フォシュストロームによるマーラー歌曲集の演奏時間は、「原光」がp.516に、「告別」がp.540に、「リュッケルト」がp.552に、「亡き子」がp.562に出てきます。また、それぞれのページにはすべて、この録音が、「マリア・フォシュストロームとヨハネス・ランドグレーンによるオルガンのための編曲である」という説明が書いてあります。


 この演奏時間の一覧のところに、第6番の中間楽章の順番や、カットがある場合はその指摘などが書かれています。


 さらに紹介したいことや、多少指摘しておきたいことなどもいくつかありますが、それはまた次にします。

 付録として付いているケンペン指揮による交響曲第4番の貴重な初めての復刻盤についてもいずれ触れたいと思います。




アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと


 


マーラー・ディスコグラフィ新版  (左矢印HMVの該当商品へリンク)

タワー・レコードはMahler: Symphony No.4 [CD+BOOK]左矢印商品へリンク)です。


 フュロップさんの『マーラー・ディスコグラフィ』がどのように素晴らしいものであるかということを、具体的に紹介したいと思います。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと


 1995年に出された旧盤でも基本的に同じ構成になっていたのですが、全体は次の4部に分かれています。

 1.作品別の録音年代順一覧(p.33-p.351)

 2.演奏家別の索引(p.353-p.479)

 3.レーベル別の索引(p.481-p.510)

 4.演奏時間一覧(p.511-p.568)


 第1部が最も重要な部分であるわけですが、この中も、まず、その曲のオリジナルな全曲の録音、全曲の編曲版の録音、特定楽章のみの録音、編曲された版による録音などに分けられています。


 例えば、交響曲第2番の場合には全体としては238の録音が挙げられているのですが、次のようになっています。


 159の全曲の録音。これは、言うまでもなく、オスカー・フリートによる録音から始まっているわけですが、演奏者、録音日時、場所などはもちろんのこと、SPの番号、1973年にワルター協会によって初めてLP復刻されたこと、その後、OpalからLPが出されたこと、また、CD復刻の主要なものについての情報などが記されています。

 普通の形での第2番の録音が159並んだ次に、ヘルマン・ベーンによる2台のピアノ版の録音。

 そして、その後は、楽章ごとの録音になりますが、この第2番の場合は、「第1楽章のみ」という項目の次に、「『葬礼』(第1楽章の1888年版)」という項目が並ぶことになります。さらに、「冒頭のチェロ・パートのみ」という項目があって、次に「第2楽章のみ」という項目に進みます。ここには、「ウリ・ケインによるジャズ・アンサンブルのための編曲」(2種ありますが、どちらもとても面白いものです)も挙げられています。


 と、この調子で書いていくときりがありませんので、「第4楽章のみ」というところを見てみましょう。


 p.80からp.84にかけて、オリジナル版が18種(この中には、モーリン・フォレスターが歌い、グールドが指揮をした映像についての情報も含まれています)、ピアノ伴奏版が19種挙げられたあとに、その他の形での編曲版の録音が10種ずらりと挙げられています。

 その、84ページに「マリア・フォシュストロームとヨハネス・ランドグレーンによる歌とオルガンのための編曲」という項目が、このディスコグラフィの中での固有の番号として、2.7410という番号を与えられて挙げられています。


 この84ページの2.7410という番号を与えられたマリアのアルバムがどのように本書の中で扱われているのかを説明すると、本書の特長を理解していただきやすいと思いますので、次にそれを試みてみましょう。


(つづく)


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

マリアのCDはHMV左矢印リンク)で取り扱っています。 


 トロントのピーター・フュロップさんのところから『マーラー・ディスコグラフィ』の新版が昨日届きました。

 1995年に、キャプラン財団のバックアップによって出された旧版は、1168の録音を記録していたのですが、それ以後、急速に膨大な録音が出てきているので、「書籍の形での新版を出すことは難しい」という趣旨のことをフュロップさんは書かれていたのですが、今回このような巨大な本として新版が刊行されたことは、この上もなく喜ばしいことです。


アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

上が今回出版された新版で下に一緒に写っているのが1995年に出された旧版です。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

かなり巨大な本です。

どれくらいかということは、レコード・ジャケットとの比較でおわかりになっていただけるでしょう。

縦30センチ、横21.5センチです。

厚みも相当なもので旧版は473ページで約3.3センチだったのですが、新版では568ページで約4センチという、さらに重みも増した1冊です。


フュロップさんおめでとうございます。

刊行にあたって全面的にバックアップしてくださったキャプラン財団の方々には心からのお礼を申し上げたいです。


 そして、この本の出版は、2年連続のマーラー・イヤーの中でも、特筆すべきすばらしいことであると思います。


 詳しくは、また、おいおい紹介していきたいと思いますが、マーラーの全作品、つまり、マーラーが作曲したものは当然のことですが、それだけではなく、マーラーによる改訂版や編曲、さらにマーラーの作品の他の人による編曲までも網羅して、それらの録音についてもデータ(録音日時、場所はもちろん、それらがどのようなフォーマットでいつ出されたかということ、さらにはそれぞれの演奏時間など)が詳細に記述されています。

 挙げられている録音の数は、ギルバート・キャプランが書いている序文によると、2774(うち、110はDVDまたはLD)ということです。

 たとえば、交響曲第7番の録音は87種類が挙げられていますが、調べてみたところ、そのうちの6種類がまだ手元にないので、何とか入手したいと思っています。ちなみに、挙がっているもの以外の2種類の歴史的録音を所有していたのは嬉しいことでした。


 また、この本のもう一つのうれしいところは、パウル・ヴァン・ケンペンによる1949年録音の交響曲第4番(SPで出されただけで、それ以後、LPにもCDにも一度も復刻されたことがなかったもの)のCDが付いていることです。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと


裏表紙の内側にCDがこのように収納されています。



HMVやタワー・レコードでは現在予約が始まっているようです。

ただ、どちらもケンペン指揮の第4番のCDに、付録としてディスコグラフィがついているという表現(扱い)になっています。実情とは全く違っていて誤解を招いてしまいかねない表現だと思うのですが、流通上の都合によるのでしょうか。しかし商品説明の仕方にはもう少し気をつかっていただきたいものです。

ともかく、少々値がはりますが、マーラー・ファン必携の1冊ではないでしょうか。



マーラー・ディスコグラフィ新版  (左矢印HMVの該当商品へリンク)

タワー・レコードはMahler: Symphony No.4 [CD+BOOK]左矢印商品へリンク)です。


なお、Fulop(uとoにはウムラウトがあります)のカタカナ表記をHMVはフュレプ(フューロップ)としていますが、ご本人の手書き(だと思いますが)によると「フュロップ」なので、その表記に私も従っています。



アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと

交響曲第4番はまだマーラーが今日のように広く聴かれていなかった頃にはマーラー入門に最も適した曲であると言われていたことが多かったように思います。

けれども、その後他の曲もさかんに演奏されるようになってくるにつれて、逆にマーラーの全交響曲の中では、どちらかと言えばあまり目立たない存在になってしまっているようです。

また、マーラーとしては異例なぐらいに「単純」「素朴」なように見える面があるだけによけいに何か複雑なものがある、一筋縄ではいかない曲であるといった穿った見方もなされることが多いのではないでしょうか。


本当のところはどうなのでしょうか。


まず、マーラー自身の考えを検証していきましょう。


交響曲第4番についてマーラー自身がどう考えていたかということは、なかなか興味深い問題だと思いますが、そのことを考えるためには次のような事実を押さえておくのがよいだろうと思います。


アルマ宛の手紙(1909年10月6日と推定されています)の中で、

「ニューヨークでは第7番はやらないことに決心した。ここで作曲家としての自分を紹介する最初の曲には第4番がいいと思う。私の音楽をまったく知らない聴衆にとって第7番はあまりにも複雑すぎると思うのだ(大意)」

というようなことを書いています。

実際にはニューヨーク・フィルとの演奏会では第1番をまず真っ先に2回(1909年12月16日、17日)取り上げています。

また、すでに1908年の12月8日にはニューヨーク交響楽団で第2番を演奏していて、第4番を指揮するのは最後のシーズンの1911年1月17日と20日の2回なのですが、ともかくこの手紙からは、マーラーが自分の交響曲の中で第4番が最も親しみやすい曲であろうと考えていたらしいことがうかがえます。


(まだ書きかけ)