最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦 -43ページ目

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「うめぇ! 陸に上がった時のメシは一先ずカレーと決めてたけど、カレー屋のカレーじゃなくて、うどん屋のカレーライスもたまにはいいな。」

久しぶりの再会も、ムードも雰囲気もぶち壊す大食漢ぶりを発揮する武さん。
それが彼らしくて私は安心した。

「ありがとよ、静香ちゃん。
こんな美味ぇ店教えてくれてよ!
潜水艦のメシは直ぐに飽きるんだよ。」

「たまには僕のグループ傘下以外の店で食事をするのも悪くないね。」

「周音夫さんたら、またわざとそんな嫌味な自慢話しなくてもいいのに。激務の社長さんなんて、移動中の車内食と、交渉での会食ばかりなんじゃないの?」

「まぁね。極力、自分の時間を作るようにはしてるんだけど…ジャイアン、そろそろ本題に…。」

横須賀の裏通りにある小さなうどん屋さんは、「秘密の会合」に最適の場だった。
グローバル企業となった「骨川コンツェルンに関係ない店」を探すのはそれなりに苦労するからだ。

「あぁ、そうだな。
まずは俺の妹の無礼については謝る。
レジスタンスの英雄 なんて、外国に行きゃあ、腐るほど噂や伝説が溢れてるぜ。
妹はただ理想を重ねるだけと思いたい。」

「私もそう思うわ。
伸太(のびた)さんはきっと、英才さんが居るような窮屈な日本を飛び出して、海外で動物や植物に触れ合う仕事をしてるはずよ!
いくら昔から射撃が得意だからって、狙撃手だなんて…。」

「…これは別に静香ちゃんを安心させようなんて気はないが…三年くらい前に、一緒に訓練した米兵と話したんだが…。
『同期が眼鏡をかけた東洋人からアヤトリを習った。そいつは、以前はフランス外国人部隊に所属していたそうだ。
狭くて退屈な艦内でアヤトリは、電気を使わない良質な遊びだった』と話してたよ。
そしてその東洋人は、少年のような体格でも、抜群の銃の腕前だったってよ。
だが、傭兵はあくまで夢の軍資金稼ぎと言ってたそうだ。」

「ちょっと武さん、いくら何でも話を盛りすぎてない?伸太さんに限って外国人部隊だなんて…。」

「話を大きくするのは、小学生時代の僕の専売特許だったのにね。
ビジネスの世界ではシンプル、ストレートが一番だよ。」

「それで、その眼鏡のアヤトリを教えてくれた東洋人の夢って?」

「よくわからないけど、インドで親戚の家業を継ぐとかなんとか言ってたかな?」

「確かに、伸太さんにはインド在住の象をこよなく愛する伸郎叔父さんが居たわ。」
決裂寸前だった交渉そっちのけで、電話口でお兄さんを宥めるクリスティーネさん。
会話の内容はよくわからないが、所属する隊の中で何かあったのは間違いない。
過度に落ち込もうとするお兄さんを、妹のクリスティーネさんが励まそうとしてる感じは何とかわかった。
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「うん、うん。大丈夫だから、取りあえず落ち着いて!
そんな直ぐにクビにならないから大丈夫だって!
お兄ちゃんは総理を救った英雄でしょ!
しっかりしなさい!
あっ、丁度いいわ!今ね、誰と一緒に居ると思う?」

と、私に自分の携帯電話を向け、ボタンを操作すると…。

「おい、お前のネクラな漫画仲間なんか兄ちゃんはな…。」

聞き慣れた、低く、強く、大きく、でもどこか繊細な懐かしい声が響いた。

「武さん!私よ、わかる?」

「おぉ、俺のことを『武さん』なんて呼ぶ女の子といえば、我らのマドンナ静香ちゃんか!?」

「僕も居るよジャイアン!」

「周音夫(すねお)か!?あぁ、当の昔に捨てたそのアダ名でまた俺を呼ぶとは…心の友よ!」

「原子力潜水艦の任務はどうしたんだい?
こっちも源さんと妹さんと大事な話をしてるんだけど…良かったら剛田君も会えないかな?
今ドコに居るんだい?」

フリーハンドモードから聞こえてくる楽しそうな剛田さんの声。6、7年近くも会ってないはずなのに、たった一言の挨拶で小学生時代の親友に戻れるなんて、男の子っていいなぁ…。

「おぉ、聞いてくれるか心の友よ!
俺は『もっとカレーが食べたい』と言っただけで、上官反逆罪で横須賀の港で降ろされちまった…。」

「そんな理由で?」

「すまん、この電話じゃ詳しいことは言えない。
明日、合流しようぜ。」

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その日、私はここで泊まることになり、クリスティーネさんは私達と離れた。
絵師仲間さんともう少し、狙撃手『glass runner 』について調べると言って。
社長秘書の河井さんの実家に泊まりたくなかっただけなのかもしれないけど。

地下室は近代設備が満載された会議室も、地上は昔ながらの日本家屋で、木材の薫りが落ち着く浴室にホッとした。

「…こういうものを残せなくて…何が未来や革新よ…!
気持ちよくお風呂に入れる時間…大切にしたきゃ…。
あの人も…何時如何なる時でも昼寝の時間は大切にしてるの…かな…?轟音なり響く中で昼寝してるなら、武さんよりも伸太(のびた)さんの方が兵隊さんみたいね♪」続
※この物語はフィクションです。
作中の名称と、実在の組織、団体とは一切関係ありません。
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「お兄ちゃん?何で電話出来てるの!?原子力潜水艦の任務が終わるのは、まだもっと先でしょう?」

交渉が決裂しようかという席上で、突然鳴ったクリスティーネさんの携帯電話。
その相手はお兄さんの剛田武(ごうだ たけし)さんだった。
私と骨川さん、そして現在行方不明の「 彼」を含めて、私達四人はずっと一緒だった。
ブルーキャットを失い、封印することを選ぶまでは。
剛田さんは自衛隊員になることを選んだ。
それは限りなく、私達の為であり、ブルーキャットの秘密の為でもあった。
ブルーキャットの「未来の科学技術」を世間に知らせない為には、剛田さんが英雄になるしかなかったのだ。
確かにブルーキャットの封印は私達で四等分したが、世間からの注文逸らしを剛田さんだけに負担させたことを、私は今でも後悔している。
私は何度も謝罪したが、剛田さんは繰り返し、
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「お前達の苦しみは俺のモノ、俺の苦しみは俺だけのモノ。
だろ…?
小学生時代の、あの総理の晩餐会がなけりゃあ…って、そりゃバカな俺でもそう思うときはあるさ。
でも、悪いのはテロリストだっつーの!
『燃え盛る炎の中、血塗れの流宗首相を抱えて走った剛田少年』は国家の為に海上自衛隊員に入隊し、マスコミが騒ぎ続けた『小さな巨人伝説』を終わらせるしかないっつーの!
だから…ブルーキャットなんて最初から居なかった…。なぁ、そうだろ?」

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そう、僅か10才の少年達に重傷の人間を助けない理由はなかった。
私達は当たり前のようにブルーキャットに頼み、そのポケットから『お医者さんカバン』を出してもらい、降り注ぐ銃弾を『ヒラリマント』で避けたわ…。
でもその辻褄合わせに聡明なブルーキャットは自分を封印してくれと私達四人に懇願したわ。
あのテロ事件で本来は亡くなるべきだった流宗総理大臣を助けてしまった。
それによって歴史は変わり、ブルーキャットが帰るべき未来は改変されてしまった。

私達がこの世界戦争を止め、平和な未来の希望が見えた時、そう、その時になって漸く四人それぞれの鍵で封印を解けば…ドラちゃんを未来に帰せるはず…。
可能性を信じてるわ…。だから私はこの15年間で、一度も自分の鍵で『ポケット』を使わなかったわ。骨川さんは『身体』。 剛田さんは『動力源』。そして「彼」は『記憶』の鍵を。続