決裂寸前だった交渉そっちのけで、電話口でお兄さんを宥めるクリスティーネさん。
会話の内容はよくわからないが、所属する隊の中で何かあったのは間違いない。
過度に落ち込もうとするお兄さんを、妹のクリスティーネさんが励まそうとしてる感じは何とかわかった。
****
「うん、うん。大丈夫だから、取りあえず落ち着いて!
そんな直ぐにクビにならないから大丈夫だって!
お兄ちゃんは総理を救った英雄でしょ!
しっかりしなさい!
あっ、丁度いいわ!今ね、誰と一緒に居ると思う?」
と、私に自分の携帯電話を向け、ボタンを操作すると…。
「おい、お前のネクラな漫画仲間なんか兄ちゃんはな…。」
聞き慣れた、低く、強く、大きく、でもどこか繊細な懐かしい声が響いた。
「武さん!私よ、わかる?」
「おぉ、俺のことを『武さん』なんて呼ぶ女の子といえば、我らのマドンナ静香ちゃんか!?」
「僕も居るよジャイアン!」
「周音夫(すねお)か!?あぁ、当の昔に捨てたそのアダ名でまた俺を呼ぶとは…心の友よ!」
「原子力潜水艦の任務はどうしたんだい?
こっちも源さんと妹さんと大事な話をしてるんだけど…良かったら剛田君も会えないかな?
今ドコに居るんだい?」
フリーハンドモードから聞こえてくる楽しそうな剛田さんの声。6、7年近くも会ってないはずなのに、たった一言の挨拶で小学生時代の親友に戻れるなんて、男の子っていいなぁ…。
「おぉ、聞いてくれるか心の友よ!
俺は『もっとカレーが食べたい』と言っただけで、上官反逆罪で横須賀の港で降ろされちまった…。」
「そんな理由で?」
「すまん、この電話じゃ詳しいことは言えない。
明日、合流しようぜ。」
****
その日、私はここで泊まることになり、クリスティーネさんは私達と離れた。
絵師仲間さんともう少し、狙撃手『glass runner 』について調べると言って。
社長秘書の河井さんの実家に泊まりたくなかっただけなのかもしれないけど。
地下室は近代設備が満載された会議室も、地上は昔ながらの日本家屋で、木材の薫りが落ち着く浴室にホッとした。
「…こういうものを残せなくて…何が未来や革新よ…!
気持ちよくお風呂に入れる時間…大切にしたきゃ…。
あの人も…何時如何なる時でも昼寝の時間は大切にしてるの…かな…?轟音なり響く中で昼寝してるなら、武さんよりも伸太(のびた)さんの方が兵隊さんみたいね♪」続