「じゃあ、気をつけてね。…としか言えないけど…。
インドのニューデリー行きで、一番安全な便を選んだから。
これくらいしか出来なくてごめん。
本当はチャーター機で送迎したいんだけど…。」
「十分よ、骨川さん。
戦時下で英才さんの監視も厳しいから…。
もしも『彼』が静かな生活をしてるとしたら、私のせいで平穏を乱したくないわ…。
骨川さん、剛田兄妹を宜しくね。
武さんが潜水艦の任務を解かれた途端に、英才さんが表に出なくなったのだけ気がかりなの。」
「わかってるよ。二人は僕に任せて。
源(みなもと)さんは、その目で現地で確かめてきなよ。」
****
「…当機は成田空港発、ニューデリー行き…。」
アナウンスが機内の平常運転を告げる。
戦時下で最も警戒するのはテロだ。
20世紀こそ、資源争奪戦争であり、大量殺戮戦争だったが、第三次世界大戦は、「経済戦争」であり「情報戦争」であり「特許権争奪戦争」そしてそれらに共通するのは「イライラ神経戦争」だった。無理矢理連れてこられた兵隊と兵隊がヨーイドンで戦うなんてのは非常に非効率であり、そんなことをするならテロハッカーがライフラインを麻痺させたり、資本家が資本と労働者を撤収させる方が遥かに痛手だからだ。
だからこそ、直接的な戦死者こそ少数だが、緊張状態による警戒警備で兵隊さんは疲弊し、国民とメディアと政府は偽情報に翻弄されるのだった。
だからこそ私みたいな女性が、単身で観光の名目で飛行機に乗れている。
勿論、目的地のインドは近代戦争の様相を象徴するかのような国だった。
IT先進国であり、広大な国土と人口は豊かな国の代表であったが、格差社会による若年貧困層は貧しい国の代表でもあった…。
****
秘密道具「たずね人ステッキ」は観光地のジャイプールから少し離れた郊外を示した。
ここからの2キロ圏内以降は自分の足で調べるしかない。第一、行き違いで彼が移動してる可能性もある。
まずは現地での聞き込みよ…。「日本人」「眼鏡」「ゾウの叔父さん」「あやとり」「射撃」そして15年前の彼の写真。頼りない手がかりだけど…。
と、思った時、拙い英語で客引きする女性の声を聞いた。
『観光名物ゾウタクシーは如何ですか~?』
ゾウ?やったわ!同業者とかの繋がりで彼を知ってるかも!
駆け寄った私を見るなり、ガイドの彼女の方から日本語で…。
「貴女日本人?私もよ。貴女、鍵と錠前のペンダント持ってますか?」
河井秘書が私の背中をそっと押してくれたおかげで、私の迷いはなくなった。
私はインドへ行く。
肌身離さず首飾りにしていた鍵と錠前を開ければ、自室の空間が湾曲する。光さえも吸い込もうとする漆黒の空間に右手を伸ばせば、「それ」はそこにあった。
これこそ私に託されたブルーキャットの封印の一つ
「四次元ポケット」だ。
与党好戦派の出来杉英才さんが手に入れようと画策していた「ブルーキャットの未来テクノロジー」とは具体的にはこれそのものだ。
ドラちゃんの心も身体もエネルギーもない今現在だけど、未来の秘密道具を私だけが使える…。電話の子機のように、ドラちゃん自身から離れたこのポケットのエネルギーには限界がある。
私の計算が正しければ、この状態で使える回数は僅かに三回。
どの道具を出すかって?
「独裁スイッチ」で邪魔者を全て消す?
「もしもボックス」で戦うことさえ知らない世界を作る?
ううん、それじゃあ駄目。そんな力を使ってしまったら、今度は22世紀でドラちゃんは生まれてこなくなる。
ドラちゃんが生まれてくる未来という
「これから始まる過去」
を私の手で握り潰しちゃ駄目。
伸太さんの孫の孫のセワシさんが暮らす22世紀を作る為に、私達が礎にならなきゃ…。
使うとしたら何を選ぶか?
それはもう何年も前から決まってたわ。
「たずね人ステッキ」
よ。

倒れた方向に探したい人物が居るという夢のような道具よ。
でも、悲しいけど、このステッキの的中率は70パーセント。
闇雲にステッキを倒しても広大なインドを徘徊するだけだわ…。
だから私はもう何年も前に、このたずね人ステッキの可能性を広げるパソコンソフトを開発した。70%で的中するということは、残り30%の不確定要素を分析すればいい。更に地面に倒せば、ステッキの倒れた場所の位置情報に対しての方角を示すだけだが、パソコンの地図情報をケーブルでステッキと繋ぐ。徒歩基準で方角を示すだけだから誤差が大きく絞れないなら、マップの拡大と縮小を繰り返せば…半径2km圏内に99. 99%の確率で居るわ。
私には不安が一つある。
クリスティーネさんが見せてくれた暗殺写真は、違う方向か近距離で二種類の銃弾で撃たれていた…。

伸太さんは2丁拳銃が得意なのよ…。
続
私はインドへ行く。
肌身離さず首飾りにしていた鍵と錠前を開ければ、自室の空間が湾曲する。光さえも吸い込もうとする漆黒の空間に右手を伸ばせば、「それ」はそこにあった。
これこそ私に託されたブルーキャットの封印の一つ
「四次元ポケット」だ。
与党好戦派の出来杉英才さんが手に入れようと画策していた「ブルーキャットの未来テクノロジー」とは具体的にはこれそのものだ。
ドラちゃんの心も身体もエネルギーもない今現在だけど、未来の秘密道具を私だけが使える…。電話の子機のように、ドラちゃん自身から離れたこのポケットのエネルギーには限界がある。
私の計算が正しければ、この状態で使える回数は僅かに三回。
どの道具を出すかって?
「独裁スイッチ」で邪魔者を全て消す?
「もしもボックス」で戦うことさえ知らない世界を作る?
ううん、それじゃあ駄目。そんな力を使ってしまったら、今度は22世紀でドラちゃんは生まれてこなくなる。
ドラちゃんが生まれてくる未来という
「これから始まる過去」
を私の手で握り潰しちゃ駄目。
伸太さんの孫の孫のセワシさんが暮らす22世紀を作る為に、私達が礎にならなきゃ…。
使うとしたら何を選ぶか?
それはもう何年も前から決まってたわ。
「たずね人ステッキ」
よ。

倒れた方向に探したい人物が居るという夢のような道具よ。
でも、悲しいけど、このステッキの的中率は70パーセント。
闇雲にステッキを倒しても広大なインドを徘徊するだけだわ…。
だから私はもう何年も前に、このたずね人ステッキの可能性を広げるパソコンソフトを開発した。70%で的中するということは、残り30%の不確定要素を分析すればいい。更に地面に倒せば、ステッキの倒れた場所の位置情報に対しての方角を示すだけだが、パソコンの地図情報をケーブルでステッキと繋ぐ。徒歩基準で方角を示すだけだから誤差が大きく絞れないなら、マップの拡大と縮小を繰り返せば…半径2km圏内に99. 99%の確率で居るわ。
私には不安が一つある。
クリスティーネさんが見せてくれた暗殺写真は、違う方向か近距離で二種類の銃弾で撃たれていた…。

伸太さんは2丁拳銃が得意なのよ…。
続
「…私、その方が彼らしいと思うな…インドでゾウと一緒に暮らす日々…。
私の願望としては植物学者になっててほしいと思ってたけど…。」
「いいや、ブルーキャットが未来から来なかったら、正史では会社を立ち上げてたそうだから、きっとまだ国内に居て、ベンチャー企業で細々とやってんじゃないの?
僕に言ってくれたら、融資の相談に乗るのに。利子は高いけどね♪」
「何言ってんだよ!あいつは情に熱いところがいいんだよ。
きっと病院や施設で人の心を治す仕事をしてるはずだっつーの!」
****
私達全員が緊迫した状況のはずなのに、再会した私達の話題は伸太さんの現在と過去で持ちきりだった。
武さんの言う「心理療法士」になってる彼もいいなあと思いながらも、最も治療を必要としてるのは、ブルーキャットを失った彼なんだろうなと思った。
「じゃあ、これからも連絡取ろうぜ。
俺は任務のお呼びがかかるまで暇だから、妹が暴走しないように監視をしとくぜ。」
「ジャイアン、十分に気をつけてね。
ジャイアンが解任されたのと、最近の英才の動きが気になるんだ…。」
****
楽しい食事から数日、誰からも連絡がなく私の周囲だけは平穏な様相だった。
武さんと周音夫さんとの再会。
そして公人である出来杉英才さんの豹変ぶり。
それが私に一歩踏み出す後押しとなったのは事実だ。
****
「…社長ではなく、私個人に相談とはどういうことでしょうか?」
「一人の女性として、秘書の河井さんと話したかったの。
私ね、二人の話を聞いて、伸太さんを探しに行きたくなったの」
「『ゾウと暮らす東洋人』って情報を頼りにインドまで?雲を掴むような話ですわね?」
「だから、ブルーキャットの『鍵』を使うべきか悩んでるの。私の鍵は『ポケット』よ。
15年間使わずに苦しんできたわ。
四次元ポケットに残されたエネルギーでも、3つくらいまでなら秘密道具を出せる計算なの!
その気になれば私だけ裕福になるのも可能だったわ!辛い葛藤の日々よ…。
『私が独裁者になっちゃ駄目』と言い聞かせてきたけど…もう限界!
でも武さんと周音夫さん、それにドラちゃんとの誓いを裏切りたくないのよ!
ねぇ、河井さん、私ってワガママですか?」
「…社長も…『身体』の鍵を使って、動かなくなったブルーキャットを抱きしめ続け、涙を流していた時もありました。
と、だけ言っておきましょう。勿論、固く口止めされてましたが」続
私の願望としては植物学者になっててほしいと思ってたけど…。」
「いいや、ブルーキャットが未来から来なかったら、正史では会社を立ち上げてたそうだから、きっとまだ国内に居て、ベンチャー企業で細々とやってんじゃないの?
僕に言ってくれたら、融資の相談に乗るのに。利子は高いけどね♪」
「何言ってんだよ!あいつは情に熱いところがいいんだよ。
きっと病院や施設で人の心を治す仕事をしてるはずだっつーの!」
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私達全員が緊迫した状況のはずなのに、再会した私達の話題は伸太さんの現在と過去で持ちきりだった。
武さんの言う「心理療法士」になってる彼もいいなあと思いながらも、最も治療を必要としてるのは、ブルーキャットを失った彼なんだろうなと思った。
「じゃあ、これからも連絡取ろうぜ。
俺は任務のお呼びがかかるまで暇だから、妹が暴走しないように監視をしとくぜ。」
「ジャイアン、十分に気をつけてね。
ジャイアンが解任されたのと、最近の英才の動きが気になるんだ…。」
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楽しい食事から数日、誰からも連絡がなく私の周囲だけは平穏な様相だった。
武さんと周音夫さんとの再会。
そして公人である出来杉英才さんの豹変ぶり。
それが私に一歩踏み出す後押しとなったのは事実だ。
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「…社長ではなく、私個人に相談とはどういうことでしょうか?」
「一人の女性として、秘書の河井さんと話したかったの。
私ね、二人の話を聞いて、伸太さんを探しに行きたくなったの」
「『ゾウと暮らす東洋人』って情報を頼りにインドまで?雲を掴むような話ですわね?」
「だから、ブルーキャットの『鍵』を使うべきか悩んでるの。私の鍵は『ポケット』よ。
15年間使わずに苦しんできたわ。
四次元ポケットに残されたエネルギーでも、3つくらいまでなら秘密道具を出せる計算なの!
その気になれば私だけ裕福になるのも可能だったわ!辛い葛藤の日々よ…。
『私が独裁者になっちゃ駄目』と言い聞かせてきたけど…もう限界!
でも武さんと周音夫さん、それにドラちゃんとの誓いを裏切りたくないのよ!
ねぇ、河井さん、私ってワガママですか?」
「…社長も…『身体』の鍵を使って、動かなくなったブルーキャットを抱きしめ続け、涙を流していた時もありました。
と、だけ言っておきましょう。勿論、固く口止めされてましたが」続