「おおっ、貴女が静香ですか…。まさかあの時の少女が、源義雄の後を継ぎ、同じく数学者になるとは…。」
「私も父と親交のある、ご高名なクリシュナ教授がこの研究所の所長だったなんて…。」
周音夫さんが、骨川コンチェルンの社名より、私の名前を名乗れってのはこういうことだったのね。
****
押し入り強盗を伸太さんとエムポパさんが撃退した後、研究所の白いワゴン車は、何事もなく私を迎えに来た。
伸太さんは屈託のない笑顔で、私が無傷だったことを喜んでいたが、平然とライフル銃を肩に担いでる姿を目の当たりにして、私は何も言葉をかけることが出来ないままに、迎えの車に乗ってしまった。
気になることは山ほどあるが、今は研究に打ち込みたい。
****
「あの…クリシュナ教授。ホントに雲を掴む様な話ですが…。」
「缶詰工場での最適温度を見つけるためには、研究所で200回もテストがなされることもザラだよ。
それで『世界平和という雲』が掴めるならお安いご用さ。
概要は聞いてある。
必要と思われる機材は揃えてある。足りないなら言ってくれ。」
「ありがとうございます、教授!」
****
数時間後
****
「…結果はどうだったでしょうか?」
「素晴らしい、ミス静香!確かにドゥル芋を食べた直後には、脳の言語野と共感領域が活性化されている!
『ココロ芋』なんて、単なるお説教の材料と信じこんでいたよ。」
「では教授。次はこの芋に水酸化カルシウムを混ぜてみて、結果を比較したいのですが…。」
「あぁ、やってみなさい。」
ありがとうございます教授…。昔、群馬のおばあちゃんから、作り方を習ってて助かったわ…。
****
「次の結果が出るまで、少しお聞きしたいことが…。」
「あぁ、何でも聞いてくれ。私が義雄に負けて数学者を諦めたエピソードかな?」
「いいえ、その…この地域でglass runner という団体とその活動を教授はご存知でしょうか?」
「…そうか…。日本人には理解に苦しむかもしれないが、私個人としては賛成している。
アメリカほどではないにしても、自衛の為の銃所持が認められてるインドでは仕方ない側面もあるんではないかと。
貧しい者や女子供ほど彼等の活動に感謝しているのも事実だ。」
「つまり、glass runner は、イギリスのガーディアンエンジェルやアメリカのブルージーンコップの様な自警団に過ぎないということですか?」
続
翌朝、私は農園とゾウ舎の全員から見送られていた。
最後の夜は女子の大部屋で大盛りあがりだった。
彼女達の言葉全部が理解出来たわけではなかったが、何が伝えたかったは十分にわかった。
私は手作りのアクセサリーを頂き、おそらく彼から教わった彼女達のあやとりの技を見せてもらった。
お返しに私は帰りの機内で食べるつもりの日本のスナック菓子を全部渡してしまった。
深夜まで大騒ぎしたおかげで、迎えの車が到着するまでに身支度を整えるのに大忙しだった。
「まる代さん、本当にありがとう。こんなにお芋を頂いて…。」
「『世界を救う可能性』なんでしょ?足りなかったら直ぐに連絡してよね!」
「うん、ありがとう。あの…伸太さんは…。」
「あぁ、『気になることがある』って朝から二階の部屋に閉じ籠りっきりよ。静香さんとのお別れが寂しいのかしら?」
「まさか…。」
と、私はまる代さんの手前で言ってしまったが、ホントにそうなら、嬉しさと寂しさが入り交じり、彼らしいなと少し安心するんだけど…。
うん、私はいいのよ。もう「充分に」お別れは済ませたから…ごめんなさい!
と、まる代さんの笑顔を正視出来ないで居た私の前に黒い普通車が停車した。
あれ?研究所からは白いワゴンで来るって、周音夫さんから言われてたのに…?
と、私が疑問に思った途端に、車から出て来たのは黒スーツにサングラスの男二人が…。
「キャー!」
いきなり私の口と手首を押さえ、もう一人の男が私から手提げ袋に入ったドゥル芋を奪おうとする。
「この日本人女の荷物を奪って、ライバルの研究所に持ち込めば謝礼がたんまりだって?楽な仕事ですね、アニキ。」
「バカ、世界戦争を終わらせるブツって話だ。お前はもっと慎重に…。」
「タン!!」
乾いた音が私の頭上から響いたと思うと、車の前輪から空気の抜ける音が聞こえた。
二階の窓には、身を乗り出してライフル銃のスコープを覗く伸太さんの姿があった。
「ガシーン!」
二発目の弾丸は、相手が構えるよりも早く、拳銃をはじき飛ばしていた。
傍らのエムポパさんも銃を構え、ようやく私は解放された。
男二人が、地面に臥せられた所で伸太さんが二階から下りてきた。
「荷物の中身はウチで採れた芋だ。欲しければ好きなだけやるよ。」
「但し、迷惑料として車は貰うぜ。お前らは幸運だな。俺達glass runnerを敵に回して無事なんだからな、なぁ伸太。」続
最後の夜は女子の大部屋で大盛りあがりだった。
彼女達の言葉全部が理解出来たわけではなかったが、何が伝えたかったは十分にわかった。
私は手作りのアクセサリーを頂き、おそらく彼から教わった彼女達のあやとりの技を見せてもらった。
お返しに私は帰りの機内で食べるつもりの日本のスナック菓子を全部渡してしまった。
深夜まで大騒ぎしたおかげで、迎えの車が到着するまでに身支度を整えるのに大忙しだった。
「まる代さん、本当にありがとう。こんなにお芋を頂いて…。」
「『世界を救う可能性』なんでしょ?足りなかったら直ぐに連絡してよね!」
「うん、ありがとう。あの…伸太さんは…。」
「あぁ、『気になることがある』って朝から二階の部屋に閉じ籠りっきりよ。静香さんとのお別れが寂しいのかしら?」
「まさか…。」
と、私はまる代さんの手前で言ってしまったが、ホントにそうなら、嬉しさと寂しさが入り交じり、彼らしいなと少し安心するんだけど…。
うん、私はいいのよ。もう「充分に」お別れは済ませたから…ごめんなさい!
と、まる代さんの笑顔を正視出来ないで居た私の前に黒い普通車が停車した。
あれ?研究所からは白いワゴンで来るって、周音夫さんから言われてたのに…?
と、私が疑問に思った途端に、車から出て来たのは黒スーツにサングラスの男二人が…。
「キャー!」
いきなり私の口と手首を押さえ、もう一人の男が私から手提げ袋に入ったドゥル芋を奪おうとする。
「この日本人女の荷物を奪って、ライバルの研究所に持ち込めば謝礼がたんまりだって?楽な仕事ですね、アニキ。」
「バカ、世界戦争を終わらせるブツって話だ。お前はもっと慎重に…。」
「タン!!」
乾いた音が私の頭上から響いたと思うと、車の前輪から空気の抜ける音が聞こえた。
二階の窓には、身を乗り出してライフル銃のスコープを覗く伸太さんの姿があった。
「ガシーン!」
二発目の弾丸は、相手が構えるよりも早く、拳銃をはじき飛ばしていた。
傍らのエムポパさんも銃を構え、ようやく私は解放された。
男二人が、地面に臥せられた所で伸太さんが二階から下りてきた。
「荷物の中身はウチで採れた芋だ。欲しければ好きなだけやるよ。」
「但し、迷惑料として車は貰うぜ。お前らは幸運だな。俺達glass runnerを敵に回して無事なんだからな、なぁ伸太。」続
「あぁ、源(みなもと)さんか!?インドでの暮らしはどう?」
「ごめんなさい、骨川さん。ゆっくり説明してる暇はないの。
私が今居る、ジャイプールから一番近い『食品化学研究所』ってありますか?骨川コンチェルンの名前を出せば、私が持参した食品サンプルを直ぐに分析が出来るような…。」
「わかった。理由は後でゆっくり聞くよ。直ぐに河井秘書に調べさせるから、電話はそのまま切らずにいて。」
****
私の中にある仮説が構築された。
勿論、荒唐無稽の域を出ないかもしれない、『だったらいいな』の理想論かもしれない。
だが私は、伸太さん達が育てるドゥルイモが「こころ芋」と呼ばれる意味が、単なる訓話ではなく、科学的根拠がある様に思えた。
そこで私はなりふり構わず、周音夫さんの財力を総動員してもらう様にお願いした。
「社長、一件該当する研究所が見つかりましたが…。これは我が社の名前よりも、源静香さんの名前を出した方がすんなり協力してくれるかもしれませんよ。」
「…って河井くんは言ってるんだ。
明日には現地に迎えの車を手配しておいたから大丈夫のはずだよ。
僕には難しいことは解らないけど、静香ちゃんのアイデアを信じるよ。」
「ありがとう…周音夫さん…。」
電話を切ってから、「しまった、伸太さんに電話を変われば良かった。久しぶりの話もあっただろうに。」
と気付いたのは、家に戻って晩ごはんの芋煮を出されてからでした。
私って一つの事に集中すると周りが見えなくなるから駄目ね…。
「明日帰るのかい、ミス・シズカ?君が居なくなると寂しいよ」
ゾウ使い見習いのエムポパさんが拙い英語で話してくれる。
とても親切な彼はアフリカ出身の元フランス軍人だ。つまりは伸太さんを鍛え上げたコーチの一人だ。
彼も伸郎さんの理念に共感して、ここで働くことを決断した一人だ。
彼等とのお別れは勿論寂しいが、私はそれよりも…。
「エムポパさん、お願いがあるの。
貴方の母国語で何か私に話しかけてくれませんか?」
「あぁ、お安いご用さ。ωψ£@◎〒※♂♀?」
聞いたこともない言語で話しかけてくる彼。でも、十分に芋煮を食べた私とエムポパさんは…。
「ええ、残念ながらまだ結婚の予定も相手も居ませんわ。エムポパさんも良いお相手が見つかるといいですね。」
「オイオイ!何でわかったんだよ!俺の出身の村は特に訛りが酷いんだぜ!?」
やはり…これがドゥル芋の力?続
「ごめんなさい、骨川さん。ゆっくり説明してる暇はないの。
私が今居る、ジャイプールから一番近い『食品化学研究所』ってありますか?骨川コンチェルンの名前を出せば、私が持参した食品サンプルを直ぐに分析が出来るような…。」
「わかった。理由は後でゆっくり聞くよ。直ぐに河井秘書に調べさせるから、電話はそのまま切らずにいて。」
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私の中にある仮説が構築された。
勿論、荒唐無稽の域を出ないかもしれない、『だったらいいな』の理想論かもしれない。
だが私は、伸太さん達が育てるドゥルイモが「こころ芋」と呼ばれる意味が、単なる訓話ではなく、科学的根拠がある様に思えた。
そこで私はなりふり構わず、周音夫さんの財力を総動員してもらう様にお願いした。
「社長、一件該当する研究所が見つかりましたが…。これは我が社の名前よりも、源静香さんの名前を出した方がすんなり協力してくれるかもしれませんよ。」
「…って河井くんは言ってるんだ。
明日には現地に迎えの車を手配しておいたから大丈夫のはずだよ。
僕には難しいことは解らないけど、静香ちゃんのアイデアを信じるよ。」
「ありがとう…周音夫さん…。」
電話を切ってから、「しまった、伸太さんに電話を変われば良かった。久しぶりの話もあっただろうに。」
と気付いたのは、家に戻って晩ごはんの芋煮を出されてからでした。
私って一つの事に集中すると周りが見えなくなるから駄目ね…。
「明日帰るのかい、ミス・シズカ?君が居なくなると寂しいよ」
ゾウ使い見習いのエムポパさんが拙い英語で話してくれる。
とても親切な彼はアフリカ出身の元フランス軍人だ。つまりは伸太さんを鍛え上げたコーチの一人だ。
彼も伸郎さんの理念に共感して、ここで働くことを決断した一人だ。
彼等とのお別れは勿論寂しいが、私はそれよりも…。
「エムポパさん、お願いがあるの。
貴方の母国語で何か私に話しかけてくれませんか?」
「あぁ、お安いご用さ。ωψ£@◎〒※♂♀?」
聞いたこともない言語で話しかけてくる彼。でも、十分に芋煮を食べた私とエムポパさんは…。
「ええ、残念ながらまだ結婚の予定も相手も居ませんわ。エムポパさんも良いお相手が見つかるといいですね。」
「オイオイ!何でわかったんだよ!俺の出身の村は特に訛りが酷いんだぜ!?」
やはり…これがドゥル芋の力?続