「あぁ、源(みなもと)さんか!?インドでの暮らしはどう?」
「ごめんなさい、骨川さん。ゆっくり説明してる暇はないの。
私が今居る、ジャイプールから一番近い『食品化学研究所』ってありますか?骨川コンチェルンの名前を出せば、私が持参した食品サンプルを直ぐに分析が出来るような…。」
「わかった。理由は後でゆっくり聞くよ。直ぐに河井秘書に調べさせるから、電話はそのまま切らずにいて。」
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私の中にある仮説が構築された。
勿論、荒唐無稽の域を出ないかもしれない、『だったらいいな』の理想論かもしれない。
だが私は、伸太さん達が育てるドゥルイモが「こころ芋」と呼ばれる意味が、単なる訓話ではなく、科学的根拠がある様に思えた。
そこで私はなりふり構わず、周音夫さんの財力を総動員してもらう様にお願いした。
「社長、一件該当する研究所が見つかりましたが…。これは我が社の名前よりも、源静香さんの名前を出した方がすんなり協力してくれるかもしれませんよ。」
「…って河井くんは言ってるんだ。
明日には現地に迎えの車を手配しておいたから大丈夫のはずだよ。
僕には難しいことは解らないけど、静香ちゃんのアイデアを信じるよ。」
「ありがとう…周音夫さん…。」
電話を切ってから、「しまった、伸太さんに電話を変われば良かった。久しぶりの話もあっただろうに。」
と気付いたのは、家に戻って晩ごはんの芋煮を出されてからでした。
私って一つの事に集中すると周りが見えなくなるから駄目ね…。
「明日帰るのかい、ミス・シズカ?君が居なくなると寂しいよ」
ゾウ使い見習いのエムポパさんが拙い英語で話してくれる。
とても親切な彼はアフリカ出身の元フランス軍人だ。つまりは伸太さんを鍛え上げたコーチの一人だ。
彼も伸郎さんの理念に共感して、ここで働くことを決断した一人だ。
彼等とのお別れは勿論寂しいが、私はそれよりも…。
「エムポパさん、お願いがあるの。
貴方の母国語で何か私に話しかけてくれませんか?」
「あぁ、お安いご用さ。ωψ£@◎〒※♂♀?」
聞いたこともない言語で話しかけてくる彼。でも、十分に芋煮を食べた私とエムポパさんは…。
「ええ、残念ながらまだ結婚の予定も相手も居ませんわ。エムポパさんも良いお相手が見つかるといいですね。」
「オイオイ!何でわかったんだよ!俺の出身の村は特に訛りが酷いんだぜ!?」
やはり…これがドゥル芋の力?続