小さな森の小さなお墓。
気が付けば、私も墓石に手を合わせていました。
名前も顔も知らない異国のお役人さん。
『親友』の銃弾に倒れたということは、恨みこそすれ、悲しみの気持ちは湧かないはずなのに、何故か私は大粒の涙を流していた。
「昔と変わらず優しいね…静香ちゃんは…。」
「…そんな…。伸太さんの優しさには敵わないわ。」
「…だから…ごめん。
『日本には行けない。』
今の僕にはここでの暮らしがあるんだ。」
…はっきりと言われて気持ち良かったです。
昔の彼なら、どっちつかずの態度で私をイライラさせてたでしょう。
昔からの優しさに、私由来じゃない逞しさを兼ね備えた彼は、この遥か異国の地で幸せな家庭を築いていくでしょう。
私と武さんと周音夫さんは戦争と向き合った。
伸太さんは自分が犯した罪と向き合っている。
どちらも目を背けてはいけない現実。
だからこそ時間はかかってもブルーキャットが無事に製造されるような22世紀が創られていくはずよ…。
「…明日、日本に帰るわ…。
今度来る時は、武さんと周音夫さんと三人で…本当にブルーキャットの鍵を開けることが出来るその日まで…。」
「まだこの地を離れられない。
まずは養女のプサディーが大人に…いや、せめて10歳くらいになるまでは…。」
「ドラちゃんも、そんなことで自分を優先してほしくないと思うわ。」
「ごめん、皆は世界を相手にしてるって言うのに…。」
「いいのよ。伸太さんの仕事も立派よ。世界中が伸太さんみたいな人なら戦争も起きないわ!
ありがとう、伸太さん。
…でも、たった一つ、私からのお願い。…」
ゾウが私達の一部始終を見ていたかと思えば恥ずかしいですが、私は構わず目を閉じました。
伸太さんは背も伸びていたので、私は少し上を向いていました。
お互いにぎこちなく重ね合う口唇に、不思議な安心感と少しの罪悪感を感じながらも、離れることを暫く許さなかったのは私の方でした…。
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「帰る前にまた芋煮を頂いていい?」
「うん、静香ちゃんは随分気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。」
「相手の気持ちが解る、心の芋なんてウソよね。食べて解ったのは、正直な私の本心よ!」
「ドゥル芋は、相手に食べさせても、自分が食べても気持ちが通じるとされてるからね。
出来杉が此処に来てくれたらご馳走するのになぁ。」
「うん、ついでに大統領と総理も呼んだら…それだわ!」続