「僕は人を殺した。
引き金を引いたから。」
淡々と話す伸太さんに寒気を感じた。
既に私から遥か遠くに行ってしまった彼が、もう二度と私の傍に戻ってこないんじゃないかという不安から来る寒気だ。
「で、でも、町の役人を撃ったなんて…。だったら何故、今も伸太さんは平時と同じ生活を!?」
「本当の苦しみはその後からだったよ。
誰も僕を責めなかった。叔父さんとまる代は勿論、村のみんなも。亡くなった彼の同僚でさえもだ!」
「同じお役人さんまで?つまり罪に問われなかったってこと!?」
「うん、役所の連中からすれば、出世レースのライバルが消えて喜ばしいことだったそうだ。
その日を境に、職業の表裏を問わず、『スカウト』が押し寄せたよ。静香ちゃんが来る前日にもね。」
「伸太さんの射撃の腕を欲しがったのね。」
「殺し屋や用心棒をやるつもりはなかったけど、軍隊には入隊したい気持ちはあったよ。
僕は…あの日の自分の弱さが心底嫌になったからね。自分を叩き直したい気持ちはあった。」
「伸太さんが弱い?大切なまる代さんと叔父さんを守って、十分に強いわよ!」
「でも、あの男の命を守れなかったんだ。
二発も撃ってしまってたんだよ。眉間と心臓にね…。
足や手に撃っておけば…と今も夜中にうなされることはあるよ。」
「そ、それは、まる代さん『だから』守りたかったのかしら!?」
「……。」
「……。」
「や、やだ…ごめんなさい、失礼よね、こんな質問。何年も会ってないのに私なんかがいきなり…。」
「…農場には、元軍人もたくさん手伝いに来てくれてる。
イモ作りとゾウの世話が、戦場での辛い経験を癒してくれるらしい。」
「聞いたことがあるわ。心理療法の一環ね。」
「僕は彼らに鍛え上げてもらうことにした。本当の強さがわかるまでね。
そして去年、ここで僕はプサディーに出会ったんだ。」
話の途中で静かな森に入っていたことに今、気付いた私。
そこには長細い石が土に埋められていた。
「…お墓?まさか…?」
「うん、日本流のこの埋葬が正しいか解らないけど、僕らなりに彼をここに葬ったんだ。そして去年、ホントにここに、プサディーが捨ててあったんだ。
まる代は僕以上に歓喜したよ。『遂に私達は神に許された』ってね。
お互いの気持ちを確かめ合う前に、あの子を授かったから…好きとか…正直わからないんだ…。」
「嫌いな人はやっていけないと思うわ。」続