ブルーキャット 第20話 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

『記憶』

それは『心』とも『魂』とも明らかに別物だった。

伸太さんの思いを伝えることも、ブルーキャットから返事を得ることも出来ない。
私達は伸太さんに酷な責任を押し付けたのだろうか?
淡々と話しながらゾウを操る伸太さんの急成長ぶりに私は言葉を失った。

「出来杉もジャイアンも…随分変わったみたいだね…。静香ちゃんと周音夫はそのままのようだけど。」

と、不意に先ほどのニュースの話を振られ、思わず私は…。

「一番変わったのは伸太さんよ!
武さんが副大臣に就任したのは、出来杉さんを止めたい一心だと信じたいわ!
その出来杉さんだって、今の戦争が世界を良くすると信じてるのよ!
みんな…ドラちゃんが居ない現実の中で必死やってるわ!
だから伸太さんの力を借りたくて私はインドまで来たのに!」

「僕が出来杉にしてやれることなんて…。」

「でも、何もしなければ、戦禍は広がって、それこそ平和な22世紀は訪れないし、ブルーキャットは生まれてこないわ!
伸太はそれでいいの?
インドの田舎で幸せに暮らしてたら、もうドラちゃんに会えなくてもいいの?私は嫌よ!」

「…世界を平和にすることと、ブルーキャットに再会すること。二つ別々の目的が一つに繋がってるんだもんね。しかも『平和な世界』なんて抽象的だもんね…。」

「そうだけど…。
インドで自分だけ安穏と暮らす伸太さんには解らないのよ!
じゃあ、末永く、まる代さんとお幸せになってればいいでしょ!
もう降ろしてよ!」

「……。」


「……。」

お互いに暫くの沈黙が続き、辺りを見回しながらゾウを操る伸太さん。ゾウを停車させれる場所を探してるみたいだった。
その時…。

「戦争の爪痕はこんな田舎町にも確実に来てるよ。
三年前にね、地方役人が開戦を理由に不当な名目の税を要求して来たんだ。
早い話が賄賂だね。」

「難癖をつけて私腹をって話?どこの国も同じね。」

「その時、伸郎叔父さんは断固拒否したんだ。」

「大丈夫だったの?」

「うん、賄賂を拒否しても、留置所という『別荘』に数日泊まらされるだけさ。叔父さんも何度か入ってる。
そして面子を潰された役人は村人から笑い者にされ、違う役人が配置されるってわけさ。」

「それで?」

「でも、当時まだ、事情を知らないまる代は、叔父さんが連行されると思って、台所の包丁で役人を刺そうとしたんだ。咄嗟に僕は、それより先に銃で役人を撃ったんだ」続