ブルーキャット 第19話 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

ニュースを見終わった伸太さんは無言で立ち上がり、ふいに私に向かって「来なよ」とだけ言った。
思わず私は「はっ、はい。」と言ってしまい、拒否することも質問することも出来なかった。
ゾウ舎に着いた伸太さんは、観光用の衣装を着けずに、鞍?座席だけを背に固定したゾウを引き出した。
舎内の梯子のある所まで誘導され、私達を優しい目で待つゾウ。
伸太さんは無言で数段梯子を昇ると、振り返り、私を見て静かに頷いた。
私も黙って梯子を昇り、ゾウの背に乗った。
思えば餌やりや掃除の手伝いはしたが、観光客の様にゾウに乗ったことはまだなかった。
星空を眺めながら、伸太さんのこれまでの経緯や今の気持ちを聴けるかな?なんて想像したことはあったが、夕暮れ時のゾウの背の上とは意外だった。

「…母さんが倒れた時にね…」
と、切り出した伸太さん。
直ぐに出来杉さんと剛田さんのニュースに言及しないことは少し嬉しかった。

「そりゃ、悲しかったし、何度も『こんな時ブルーキャットが居てくれたら』って思ったさ…。」

「ごめんなさい!『ポケット』は私が持っていたから…。」

「いや、そうじゃないんだ。
あの時の皆には感謝している。
僕だったら我慢出来なかったと思うから。
問題はそれよりも、僕に取っての『母親役』ってのを考えさせられたってことだよ。」

伸太さんは「お母さん」ではなく「母親役」と言った。それは伸太さんだけでなく、ブルーキャットのを示しているのは直ぐにわかった。
でも私は直ぐに、伸太さんの傍らでインド人の女の子を育てるまる代さんが浮かんだ。

「母さんはいつも僕を心配してくれた。僕がお腹を空かせないように美味しいご飯やおやつを用意してくれ、僕が困らないように、部屋を散らかしたり、悪戯が過ぎた事を叱った。
何よりも僕が勉強出来ないことを叱った。
それは将来、僕が困らない為に必要だったことは十分にわかってる。
ただ…今になって、母さんは『立派になってるであろう理想の僕』を思い過ぎてたのかなぁ?って。インドと伸郎叔父さんから学ぶ内にそう思うようになった。
そして、母さん以上に…その時は『親友』と思ってたけど、ドラ…いや、ブルーキャットはいつも母親の様な気持ちで『今の僕』を見てくれてた。
見て、静香ちゃん。このパソコンに接続出来るメモリースティックがブルーキャットの『記憶』さ。でもこれは僕が10歳までの過去のあいつとの思い出だ。未来には接続しない。」続