「あら出来杉先生、暫く見ないうちにまた一段と男前になりましたなぁ。」
と、料亭の女将は傷だらけになった二人の青年の顔に絆創膏を貼った。
その言葉と真意がどれだけ乖離してるか悟らせないのは、その道のプロたる所以だろうが…
「先生も少しくらい人間臭い所がありませんと、世の中の女から見向きされんようになりますぇ。」
手荒な治療に顔を歪める英才はなおも憮然そうに
「女将、これは他言無用だぞ。」
「はいな、承知しております。巷では閨の話を平気で口外する水商売の女が居てますが、明治創業の老舗のウチを場末のきゃばくらと一緒にしてもらっては困ります。」
「おい、英才!男の約束だぞ。
わかってんだろうな!」
「うん、剛田君…。総理に進言はするさ。
だが正式決定には官僚と閣僚の会議が…。」
「それを何とかするのがお前の仕事だろうが!
素直に『はい』と言えねのか!」
「剛田先生の方は昔とちっとも変わりませんねぇ。
世の母親連中からしましたら、出来杉先生とはまた違った安心感がありますねぇ。」
「女将、誉める時は俺の頭でも解るような言葉を使えっつーの!
いや、それより女将は俺が直ぐに誰か解ったのかよ?」
「お得意様の顔を憶えるのは、この商売の鉄則ですけど、それとは別にウチは『英雄・剛田少年』のファンでしたわ。年甲斐もなく、連日のワイドショーの視聴率に協力させて頂きましたわ。」
「チェッ、女将みたいなのが居るから、俺はプロ野球選手もアイドル歌手の夢も諦めたっつーの!『英雄・剛田少年率いるチームは無念の二回戦敗退!』『英雄・剛田少年はオーディション失格』とかさ!」
「…そのイバラの道を進んでも…守りたいと思ったものがあったんだよね。僕はそれを…。」
「英才、お前だって俺の心の友だ。骨川と源さんのことは俺が取り持つ。」
「でも、剛田君の条件はホントに…。」
「うるせぇ、勝ったものの勝ちだ。」
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インドで伸太さんに言いたいことも言えないまま一週間。
私はゾウの世話と農作業を手伝い、たくさんのスタッフと仲良くなれた。
まる代さんとはお互いの胸の内をホントに語らないまま『良いお友達』になれたかもしれないと思った時、そのまる代さんからテレビのニュース直ぐに見に来て!と呼ばれた。
インド人キャスターが『好戦派議員の出来杉が遂に防衛大臣に就任。副大臣に同級生を起用の私的人事!』と告げた。剛田副大臣?どうして!?続