源静香がインド滞在中の同時刻。
東京。
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「いやぁ、よく来てくれたね、剛田海曹。」
「いきなり実家に黒い高級車が停まったと思ったら、『出来杉先生がお待ちです。』だもんな。
こんな赤坂の高級料亭なんて俺には場違いだっつーの!
お前もまだ一年生議員のクセに、どんどん胡散臭い政治家になってくなぁ」
「剛田君に場違いだからこそ、ここに呼んだんだよ。
言うなればホームアドバンテージだね。」
「用件はさっさと言え。
俺が原子力潜水艦をいきなり降ろされたのはおかしいと思ってたんだ。
英才、何を企んでる?」
「ご挨拶だね剛田君。
僕は君をとても評価している。
だからこそ艦内で起きたパワハラを見過ごすことは出来ないんだ。」
「潜水艦の中で『もっとカレーを食べたい』と言っただけで、潜水艦の任務を解かれで自宅待機だもんな。
最初からお前が圧力をかけた猿芝居っつーことか?」
「否定はしない。
率直に言おう。君には潜水艦任務ではなく、沿岸警備の任務を担ってもらう。
日本の海域を最前線で守り、国民に日本の安全と外国の脅威を知らせるには剛田君は適任なんだ!」
「票稼ぎのために『かつての小さな英雄・剛田少年』を担ぎ出したいわけか。
しかも青年議員の出来杉英才と、15年前のテロから当時の総理を守った剛田少年がかつての級友ということを公開すれば、お前の人気はうなぎ登りだな。戦争の肯定派も増えるってわけだ…。
だが…たかが一国会議員のお前に命令される筋合いはねぇぜ!」
「だからこそ…パワハラ問題が効いてくるんだよ。
進澤泉次郎(しんざわ せんじろう)総理には、現防衛大臣の辞職を進言した。
来週には僕が防衛大臣さ!」
「今の総理にはお前程度しか味方がいねぇってのが哀れだぜ…。
防衛大臣はいい。だが、パワハラ問題の筋を通すとすると、俺の先輩や艦長は…。」
「勿論、彼らも表面上は戒告処分を出すが彼らの老後は政府が手厚く保障するよ。」
「先輩はまだしも、俺の恩師である栗林艦長が、お前のそんな茶番に乗ると思うなのよ!」
「それで辞表を出すなら僕は止めやしないよ。」
「…お前…調子に乗るなよ、太郎…!」
「…何?今…なんて?」
「へへっ、大人になっても変わってなくて安心したぜ。鉄仮面のお前も『出来過太郎(できすぎだろう)』だけは禁句だったもんな。
こいよ、我を通したきゃ殴りあいで決めようぜ、太郎ちゃん!」
「言うなー!!」