翌朝、私は農園とゾウ舎の全員から見送られていた。
最後の夜は女子の大部屋で大盛りあがりだった。
彼女達の言葉全部が理解出来たわけではなかったが、何が伝えたかったは十分にわかった。
私は手作りのアクセサリーを頂き、おそらく彼から教わった彼女達のあやとりの技を見せてもらった。
お返しに私は帰りの機内で食べるつもりの日本のスナック菓子を全部渡してしまった。
深夜まで大騒ぎしたおかげで、迎えの車が到着するまでに身支度を整えるのに大忙しだった。
「まる代さん、本当にありがとう。こんなにお芋を頂いて…。」
「『世界を救う可能性』なんでしょ?足りなかったら直ぐに連絡してよね!」
「うん、ありがとう。あの…伸太さんは…。」
「あぁ、『気になることがある』って朝から二階の部屋に閉じ籠りっきりよ。静香さんとのお別れが寂しいのかしら?」
「まさか…。」
と、私はまる代さんの手前で言ってしまったが、ホントにそうなら、嬉しさと寂しさが入り交じり、彼らしいなと少し安心するんだけど…。
うん、私はいいのよ。もう「充分に」お別れは済ませたから…ごめんなさい!
と、まる代さんの笑顔を正視出来ないで居た私の前に黒い普通車が停車した。
あれ?研究所からは白いワゴンで来るって、周音夫さんから言われてたのに…?
と、私が疑問に思った途端に、車から出て来たのは黒スーツにサングラスの男二人が…。
「キャー!」
いきなり私の口と手首を押さえ、もう一人の男が私から手提げ袋に入ったドゥル芋を奪おうとする。
「この日本人女の荷物を奪って、ライバルの研究所に持ち込めば謝礼がたんまりだって?楽な仕事ですね、アニキ。」
「バカ、世界戦争を終わらせるブツって話だ。お前はもっと慎重に…。」
「タン!!」
乾いた音が私の頭上から響いたと思うと、車の前輪から空気の抜ける音が聞こえた。
二階の窓には、身を乗り出してライフル銃のスコープを覗く伸太さんの姿があった。
「ガシーン!」
二発目の弾丸は、相手が構えるよりも早く、拳銃をはじき飛ばしていた。
傍らのエムポパさんも銃を構え、ようやく私は解放された。
男二人が、地面に臥せられた所で伸太さんが二階から下りてきた。
「荷物の中身はウチで採れた芋だ。欲しければ好きなだけやるよ。」
「但し、迷惑料として車は貰うぜ。お前らは幸運だな。俺達glass runnerを敵に回して無事なんだからな、なぁ伸太。」続