「おおっ、貴女が静香ですか…。まさかあの時の少女が、源義雄の後を継ぎ、同じく数学者になるとは…。」
「私も父と親交のある、ご高名なクリシュナ教授がこの研究所の所長だったなんて…。」
周音夫さんが、骨川コンチェルンの社名より、私の名前を名乗れってのはこういうことだったのね。
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押し入り強盗を伸太さんとエムポパさんが撃退した後、研究所の白いワゴン車は、何事もなく私を迎えに来た。
伸太さんは屈託のない笑顔で、私が無傷だったことを喜んでいたが、平然とライフル銃を肩に担いでる姿を目の当たりにして、私は何も言葉をかけることが出来ないままに、迎えの車に乗ってしまった。
気になることは山ほどあるが、今は研究に打ち込みたい。
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「あの…クリシュナ教授。ホントに雲を掴む様な話ですが…。」
「缶詰工場での最適温度を見つけるためには、研究所で200回もテストがなされることもザラだよ。
それで『世界平和という雲』が掴めるならお安いご用さ。
概要は聞いてある。
必要と思われる機材は揃えてある。足りないなら言ってくれ。」
「ありがとうございます、教授!」
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数時間後
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「…結果はどうだったでしょうか?」
「素晴らしい、ミス静香!確かにドゥル芋を食べた直後には、脳の言語野と共感領域が活性化されている!
『ココロ芋』なんて、単なるお説教の材料と信じこんでいたよ。」
「では教授。次はこの芋に水酸化カルシウムを混ぜてみて、結果を比較したいのですが…。」
「あぁ、やってみなさい。」
ありがとうございます教授…。昔、群馬のおばあちゃんから、作り方を習ってて助かったわ…。
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「次の結果が出るまで、少しお聞きしたいことが…。」
「あぁ、何でも聞いてくれ。私が義雄に負けて数学者を諦めたエピソードかな?」
「いいえ、その…この地域でglass runner という団体とその活動を教授はご存知でしょうか?」
「…そうか…。日本人には理解に苦しむかもしれないが、私個人としては賛成している。
アメリカほどではないにしても、自衛の為の銃所持が認められてるインドでは仕方ない側面もあるんではないかと。
貧しい者や女子供ほど彼等の活動に感謝しているのも事実だ。」
「つまり、glass runner は、イギリスのガーディアンエンジェルやアメリカのブルージーンコップの様な自警団に過ぎないということですか?」
続