「ええ、ですから私は…キャサリンに恨みがあるわけではありません。彼女の能力は素直に素晴らしいと思いますし、羨ましいと思います。
ですが、キャサリンの様になりたいかと言うと決して…でも、現状に満足してるわけではなく…。」
真正面から自分の「悩み」を初対面の柿本直哉に話そうとすると、途端に纏まりがなくなるブリジット。
柿本は呆れた表情で長秋の方を向き…
「長秋、お前はこうなるのをわかってたのか?」
「いや、ここまで酷いとは流石に僕も…。」
「ブリジットちゃん、ウチの店は『改造屋』であって、悩み相談所じゃないんだ。
どうしたいかを決めてくれないと改造のしようがねぇよ。
おい、樹乃(きの)!ラチがあかねぇから休憩だ!コーヒーを淹れてくれ!」
「あいよ~!って、兄貴もあっきーも堪え性がないわねぇ~。
女が結論の無い話を延々とループさせるのなんて当たり前じゃない!
だから二人とも独身なんでしょ!」
「うるせぇ、三十路過ぎて兄妹で暮らしてる独身女が言うなよ!」
「まぁ、しかしあれだ。ブリジットちゃん。
自分で決断出来ないのは『自動アップデート機能』が自分に備わってないからと思うかい?」
「勿論ですわ、柿本様。
私にもその機能があれば迷うことなく…。」
「じゃぁ決まりだ。俺が自動アップデート機能をブリジットちゃんに付けてやるよ。」
「そんなことが本当に出来るんですか?こんな旧型の私に…。」
「出来る!この俺ならな。但し、ブリジットちゃんの体型が多少大きなフォルムになっちゃまいそうだがな。」
「私の…この標準的な一般女性を模した身体が大きなデザインに変更されるんですか?確かにモデル型アンドロイドの様に長身だと嬉しいですが…。」
「縦じゃなくて横に…。」
「横って…ふっくら体型ですか?」
「いや関取だな。すまん旧型に合わすには大型の内蔵バッテリーが複数必要だから…。」
「それじゃ困ります!お仕事に差し支えます!」
「いいね、実にいい。
長秋、いいアンドロイドだな。
こんなに感情豊かなアンドロイドは初めて見たよ。
よし、決まった。
樹乃!ティアドロップのオペだ。それと防塩コーティングだ。」
「あいあいさー!可愛く仕上げちゃうよ~。」
「あの、ティアドロップとは?長秋様よろしいのでしょうか?」
「お、おい柿本…。」
「瞳のレンズ洗浄液を、感情メーターとリンクさせる。これで気持ちが高ぶれば泣ける」
長秋が運転するポルシェの助手席で、ブリジットは覚悟を決めていた。
アンドロイドの自分を「医者に診せる」と言って連れ出したのは、つまりはそういうことだと。
ただでさえ旧型なのに、こんな嫉妬深く常駐不安定でコンプレックスの塊のアンドロイドなんか誰が必要とするだろうかと。
最期の挨拶の言葉を思案してる内に…。
「着いたぞ。」
と車を降ろされた。
「ここは…?」
廃棄処理をするには小綺麗で、廃棄手続きを申請する役所にしては小さな建物だった。
「迷ったんだが…、お前を診て貰うにはやはり専門家が良いと思ってな!
おい、柿本、柿本ー!」
店?の扉を小さく開け、長秋は叫んだ。
「だぁ~れ~?日曜は早く閉めたいんだけど~」
奥から出てきたのは、ショートカットが可愛いボーイッシュな女の子が出てきた。
彼女は長秋の姿を見るなり…。
「もしかして、あっきー?」
「よっ、変わってないねー、樹乃(きの)ちゃん」
「ちょ、全然連絡くれないクセに、いきなり来て…!兄貴ー!兄貴ー!」
樹乃という女の子の言葉遣いや振る舞いに戸惑いを憶えたブリジットであったが、その男っぽさに不思議な安堵を感じた。
やがて彼女に呼ばれ、肩幅が広く無精髭を生やした体格の良い男性が現れ…。
「長秋!何しに来た?金ならねーぞ?」
「期待してねーよ。それより執事型アンドロイドのブリジットだ。彼女を診てくれ。」
「ほう、よっぽど急ぎのようだな。入んな。」
****
「で、俺はこの娘をどう改造すりゃいい?」
「改造?ここはアンドロイドの修理工場なんですか?」
「あぁ、柿本は今でも世界一のロボット工学者だ。なんせ、僕の父さんの助手だったんだからな。」
「長秋様のお父様こそ、『自動アップデート機能』を開発した科学者ではありませんか?その助手の柿本様が何故、この様な小さなお店で?」
「今は、俺よりもブリジットちゃんのことだろ?俺は何をすれば?」
「柿本、まずは彼女の話を聞いてあげてくれ。
ブリジット、自分の気持ちを話してみるんだ。俺の親友の柿本直哉(かきもと なおや)の腕なら、君の望みを叶えてあげられる。」
「あの…私は…。」
「アンドロイド自身に選択させるなんて、お前も罪だな。
ここの客の大半は、自分のアンドロイドを好みの容姿を変えてくれだの、人間の女性のようにアレを付けろだのナニが出来るようにしろだのと厄介な連中さ。国に申請もせずにな」
アンドロイドの自分を「医者に診せる」と言って連れ出したのは、つまりはそういうことだと。
ただでさえ旧型なのに、こんな嫉妬深く常駐不安定でコンプレックスの塊のアンドロイドなんか誰が必要とするだろうかと。
最期の挨拶の言葉を思案してる内に…。
「着いたぞ。」
と車を降ろされた。
「ここは…?」
廃棄処理をするには小綺麗で、廃棄手続きを申請する役所にしては小さな建物だった。
「迷ったんだが…、お前を診て貰うにはやはり専門家が良いと思ってな!
おい、柿本、柿本ー!」
店?の扉を小さく開け、長秋は叫んだ。
「だぁ~れ~?日曜は早く閉めたいんだけど~」
奥から出てきたのは、ショートカットが可愛いボーイッシュな女の子が出てきた。
彼女は長秋の姿を見るなり…。
「もしかして、あっきー?」
「よっ、変わってないねー、樹乃(きの)ちゃん」
「ちょ、全然連絡くれないクセに、いきなり来て…!兄貴ー!兄貴ー!」
樹乃という女の子の言葉遣いや振る舞いに戸惑いを憶えたブリジットであったが、その男っぽさに不思議な安堵を感じた。
やがて彼女に呼ばれ、肩幅が広く無精髭を生やした体格の良い男性が現れ…。
「長秋!何しに来た?金ならねーぞ?」
「期待してねーよ。それより執事型アンドロイドのブリジットだ。彼女を診てくれ。」
「ほう、よっぽど急ぎのようだな。入んな。」
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「で、俺はこの娘をどう改造すりゃいい?」
「改造?ここはアンドロイドの修理工場なんですか?」
「あぁ、柿本は今でも世界一のロボット工学者だ。なんせ、僕の父さんの助手だったんだからな。」
「長秋様のお父様こそ、『自動アップデート機能』を開発した科学者ではありませんか?その助手の柿本様が何故、この様な小さなお店で?」
「今は、俺よりもブリジットちゃんのことだろ?俺は何をすれば?」
「柿本、まずは彼女の話を聞いてあげてくれ。
ブリジット、自分の気持ちを話してみるんだ。俺の親友の柿本直哉(かきもと なおや)の腕なら、君の望みを叶えてあげられる。」
「あの…私は…。」
「アンドロイド自身に選択させるなんて、お前も罪だな。
ここの客の大半は、自分のアンドロイドを好みの容姿を変えてくれだの、人間の女性のようにアレを付けろだのナニが出来るようにしろだのと厄介な連中さ。国に申請もせずにな」
「医療現場に人間の領域を残し続けてほしい」と力強くプレゼンをしたところで、人間社会や職場環境どころか、自分の家の中すら変えられない現実。
医師の在原長秋(ありはら ながあき)が感じる閉塞感は、仕える旧型アンドロイドのブリジットと同調していた。
「ありがとう、美味しかったよ、キャサリン。」
「お褒めに預かり光栄です、長秋様。
長秋様の好みに合わせ、最高の食材を、最新のレシピで調理した甲斐がありましたわ。」
調理型アンドロイドのキャサリンが有能なのは理解している。ただ美味しい料理を作ってくれるだけでなく、自分の好みも加味してくれている。
だがそれも最新型アンドロイドにのみ備わった『自動アップデート機能』というプログラムの延長だということを考えれば、長秋の心は底から晴れることはなかった。
「貴重な意見をありがとう。参考にさせて頂き検討するよ。」
と、病院の理事長も医局長も社交辞令で返すだけ。
機械化推進の波は止まらない。
患者と病院に尽くした自分なんかよりも、最新の医療アンドロイドを医療機械を売り付けたい業者の接待の方が重要なことは理解していた。
ブリジットも旧型の自分の能力の低さに悩み、同じく悩める主に力添え出来ないことに苦しんでいた。
あのプレゼンから数週間が過ぎた日曜日に…。
「長秋様、お見せしたいものがあります。庭に来てくれませんか?ブリジット、君も一緒に。」
呼んだのは庭師のアンドロイドのグレース。
案内された場所でグレースは得意げに…。
「今朝、一斉に花が咲きましたので直ぐにお見せしたく…。」
「グレース、君が全て独りで?」
「はい、私は屋敷内外の警備を任されていますが、そちらの方は現在問題ありません。しかし、本来のガーデニング能力を何も使ってませんでしたので…。自分に出来ること、長秋様のお力になれることと思い…。」
「アサガオを選んだのは?」
その聞き方で長秋の気持ちが高揚しているのをブリジットは直ぐに察した。
「ええ、成長速度が早いからわかりやすい。それだけです。」
「お前らしいな、グレース!」
沈みがちな主を自らの努力と工夫で喜ばせたグレース。
その姿はブリジットに強烈な劣等感を与えた。
だが長秋もブリジットの気持ちを察し…。
「ブリジット、大丈夫じゃなさそうだな…。よし、お前を医者に診せる、来い」続
医師の在原長秋(ありはら ながあき)が感じる閉塞感は、仕える旧型アンドロイドのブリジットと同調していた。
「ありがとう、美味しかったよ、キャサリン。」
「お褒めに預かり光栄です、長秋様。
長秋様の好みに合わせ、最高の食材を、最新のレシピで調理した甲斐がありましたわ。」
調理型アンドロイドのキャサリンが有能なのは理解している。ただ美味しい料理を作ってくれるだけでなく、自分の好みも加味してくれている。
だがそれも最新型アンドロイドにのみ備わった『自動アップデート機能』というプログラムの延長だということを考えれば、長秋の心は底から晴れることはなかった。
「貴重な意見をありがとう。参考にさせて頂き検討するよ。」
と、病院の理事長も医局長も社交辞令で返すだけ。
機械化推進の波は止まらない。
患者と病院に尽くした自分なんかよりも、最新の医療アンドロイドを医療機械を売り付けたい業者の接待の方が重要なことは理解していた。
ブリジットも旧型の自分の能力の低さに悩み、同じく悩める主に力添え出来ないことに苦しんでいた。
あのプレゼンから数週間が過ぎた日曜日に…。
「長秋様、お見せしたいものがあります。庭に来てくれませんか?ブリジット、君も一緒に。」
呼んだのは庭師のアンドロイドのグレース。
案内された場所でグレースは得意げに…。

「今朝、一斉に花が咲きましたので直ぐにお見せしたく…。」
「グレース、君が全て独りで?」
「はい、私は屋敷内外の警備を任されていますが、そちらの方は現在問題ありません。しかし、本来のガーデニング能力を何も使ってませんでしたので…。自分に出来ること、長秋様のお力になれることと思い…。」
「アサガオを選んだのは?」
その聞き方で長秋の気持ちが高揚しているのをブリジットは直ぐに察した。
「ええ、成長速度が早いからわかりやすい。それだけです。」
「お前らしいな、グレース!」
沈みがちな主を自らの努力と工夫で喜ばせたグレース。
その姿はブリジットに強烈な劣等感を与えた。
だが長秋もブリジットの気持ちを察し…。
「ブリジット、大丈夫じゃなさそうだな…。よし、お前を医者に診せる、来い」続