医師の在原長秋(ありはら ながあき)が感じる閉塞感は、仕える旧型アンドロイドのブリジットと同調していた。
「ありがとう、美味しかったよ、キャサリン。」
「お褒めに預かり光栄です、長秋様。
長秋様の好みに合わせ、最高の食材を、最新のレシピで調理した甲斐がありましたわ。」
調理型アンドロイドのキャサリンが有能なのは理解している。ただ美味しい料理を作ってくれるだけでなく、自分の好みも加味してくれている。
だがそれも最新型アンドロイドにのみ備わった『自動アップデート機能』というプログラムの延長だということを考えれば、長秋の心は底から晴れることはなかった。
「貴重な意見をありがとう。参考にさせて頂き検討するよ。」
と、病院の理事長も医局長も社交辞令で返すだけ。
機械化推進の波は止まらない。
患者と病院に尽くした自分なんかよりも、最新の医療アンドロイドを医療機械を売り付けたい業者の接待の方が重要なことは理解していた。
ブリジットも旧型の自分の能力の低さに悩み、同じく悩める主に力添え出来ないことに苦しんでいた。
あのプレゼンから数週間が過ぎた日曜日に…。
「長秋様、お見せしたいものがあります。庭に来てくれませんか?ブリジット、君も一緒に。」
呼んだのは庭師のアンドロイドのグレース。
案内された場所でグレースは得意げに…。

「今朝、一斉に花が咲きましたので直ぐにお見せしたく…。」
「グレース、君が全て独りで?」
「はい、私は屋敷内外の警備を任されていますが、そちらの方は現在問題ありません。しかし、本来のガーデニング能力を何も使ってませんでしたので…。自分に出来ること、長秋様のお力になれることと思い…。」
「アサガオを選んだのは?」
その聞き方で長秋の気持ちが高揚しているのをブリジットは直ぐに察した。
「ええ、成長速度が早いからわかりやすい。それだけです。」
「お前らしいな、グレース!」
沈みがちな主を自らの努力と工夫で喜ばせたグレース。
その姿はブリジットに強烈な劣等感を与えた。
だが長秋もブリジットの気持ちを察し…。
「ブリジット、大丈夫じゃなさそうだな…。よし、お前を医者に診せる、来い」続