「行こうか…。」
と、だけ言ってハンバーガーショップを後にした長秋とブリジット。
向かう先は勿論、長秋が勤務する総合病院。
会議室でのプレゼンの時間には10分遅れたが、そんな事は気にせず、長秋は力強く話しはじめた。
このプレゼンで自分の主張が全て通るはずがないことは百も承知だった。
医療の機械化を推し進め、医師の領域をより狭くしようとする連中は、ただ長秋を晒し上げたいに過ぎない。
アンドロイドのブリジットも十分に理解していた。
それでも秘書として長秋の支持に従い、自分の背中とケーブルで繋がれたスクリーンに、資料を映し続けた。
そして長秋は語った。
「私は何も機械の全てを否定してるわけではありません。
技術の進歩により、誤診、手術ミス、薬の処方ミスを防げるばかりではありません。ナースをはじめ、医療スタッフの過労や激務、それらが引き起こす作業クオリティの低下も軽減されることでしょう。
だが、私が憂慮するのは患者の治療方針をも人工知能を持つアンドロイドが判断するということです。
では誰が治療方針を決定付けるか?診断した人間の医師か?
違う!治療方針を決めるのは医師の説明を受けた患者様自身が決定することだ。
真の不幸とは人間の医師や人工知能を持ったアンドロイドに関係なく、己の大切なことを
『考えることを放棄して、誰かに決めてもらう』ということだ。
幸いにも、この病院、この国はおろか、世界にも完全なるアンドロイドドクターは誕生していません。
が、今の段階において既に患者からこの様な声が届いている。
ブリジット、音声サンプルの再生を。」
「はい、畏まりました。」
と、今度はお腹側に繋がれたケーブルの先のスピーカーから予め録音された声が聞こえた。
その合間に一息ついた長秋は、病院側が用意した水ではなく、テイクアウトしたコーラをストローで飲んでいた。
「はい、いいようにしてください。私はわかりませんから。」
「はい、先生がそう言うのでしたら、そのように手術してください。」
「どうしたらいいかなんて、それを決めるのが先生の仕事じゃないですか?」
ありがとう、ブリジット。
この患者様達の声はほんの一例です。
医師は宗教家ではない!
考えもせずに身体と魂を捧げることなど望んでいない!
治りたがらない患者を治すことは不可能だ!
今、私に拍手をした方は代わりに手を叩いて貰おうと思ったか?それが答えだ。」続