長秋が運転するポルシェの助手席で、ブリジットは覚悟を決めていた。
アンドロイドの自分を「医者に診せる」と言って連れ出したのは、つまりはそういうことだと。
ただでさえ旧型なのに、こんな嫉妬深く常駐不安定でコンプレックスの塊のアンドロイドなんか誰が必要とするだろうかと。
最期の挨拶の言葉を思案してる内に…。
「着いたぞ。」
と車を降ろされた。
「ここは…?」
廃棄処理をするには小綺麗で、廃棄手続きを申請する役所にしては小さな建物だった。
「迷ったんだが…、お前を診て貰うにはやはり専門家が良いと思ってな!
おい、柿本、柿本ー!」
店?の扉を小さく開け、長秋は叫んだ。
「だぁ~れ~?日曜は早く閉めたいんだけど~」
奥から出てきたのは、ショートカットが可愛いボーイッシュな女の子が出てきた。
彼女は長秋の姿を見るなり…。
「もしかして、あっきー?」
「よっ、変わってないねー、樹乃(きの)ちゃん」
「ちょ、全然連絡くれないクセに、いきなり来て…!兄貴ー!兄貴ー!」
樹乃という女の子の言葉遣いや振る舞いに戸惑いを憶えたブリジットであったが、その男っぽさに不思議な安堵を感じた。
やがて彼女に呼ばれ、肩幅が広く無精髭を生やした体格の良い男性が現れ…。
「長秋!何しに来た?金ならねーぞ?」
「期待してねーよ。それより執事型アンドロイドのブリジットだ。彼女を診てくれ。」
「ほう、よっぽど急ぎのようだな。入んな。」
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「で、俺はこの娘をどう改造すりゃいい?」
「改造?ここはアンドロイドの修理工場なんですか?」
「あぁ、柿本は今でも世界一のロボット工学者だ。なんせ、僕の父さんの助手だったんだからな。」
「長秋様のお父様こそ、『自動アップデート機能』を開発した科学者ではありませんか?その助手の柿本様が何故、この様な小さなお店で?」
「今は、俺よりもブリジットちゃんのことだろ?俺は何をすれば?」
「柿本、まずは彼女の話を聞いてあげてくれ。
ブリジット、自分の気持ちを話してみるんだ。俺の親友の柿本直哉(かきもと なおや)の腕なら、君の望みを叶えてあげられる。」
「あの…私は…。」
「アンドロイド自身に選択させるなんて、お前も罪だな。
ここの客の大半は、自分のアンドロイドを好みの容姿を変えてくれだの、人間の女性のようにアレを付けろだのナニが出来るようにしろだのと厄介な連中さ。国に申請もせずにな」