最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦 -12ページ目

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

俺、火依深 聖児(ひよりみ せいじ)。

このファンタジーに転生して、勇者セイジとして大魔王を倒す直前まで踏み込んだんだけど…。

俺は「世界の半分を貰うことにした。」

勇者の役目は世界に平和をもたらすこと。
大魔王を倒すことが全ての目的じゃない。
まずは勇者の俺と女騎士のオメガが生まれ育った漁村「滅びの村シオン」を勇者一行と魔法軍の混成部隊で復興出来るかだ。

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「セイジ様、見てください、この鉢植えを!」

王族出身でシスター見習いのネハン=サラ=ソージュは回復呪文が得意だ。

復興計画の骨子「回復呪文と防御呪文による緑化計画」は、このサラが居てこそだ。

「遂に蕾をつけたんだね、花を咲かせるのが楽しみだよ。」

「…ホントに申し訳ございません、セイジ様。
セイジ様の崇高な志も理解せずに疑ってしまい…。」

「いいってことよ。あの状況なら誰だって欲に目が眩んだと思うさ。」

「戦い勝ったとしても、また新たな戦いを生むことを考えれば、美しき村を作ることの方が真の終止符が打てるかと思います。
その日が来るまで私は付き従います!」

「サラ、お前の気持ちは凄く嬉しいよ…。
ただ覚悟しておいてくれ。俺の計画の第二段階は、王族のお前には酷な…。」

素直で従順なサラ。
彼女を伴侶として選び切れなかったのは、幼なじみのオメガの存在もあるが、サラが王族出身ということだ。
そう、俺が次にやろうとすることはきっと彼女の可憐で清楚な心を傷つける。
理解はしてくれるだろうが時間はかかる。
そんな中でオメガよりもサラを選ぶなんて自己欺瞞だ。

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「大変です!王国の兵士を名乗る男達が才蔵さんの娘さん達を…!」

復興が進むにつれ、シオンの村にも人が戻ってきた。
最初は魔王軍の復興事業に疑いの目を持ってた人も輝きを取り戻そうとしる村と献身的に働く勇者一行と魔王軍に惹き付けられてきた。
その矢先にこの王国の兵士だ。

畜生どもが…!復旧しだした途端に噂を聞きつけて権利を振りかざしてきやがったか…!
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「やめろ!才蔵!人間に手を出すな!」

「お言葉ですが大使、こいつらは俺の大切な娘達に…。」

「シオンの村が怪物の村になったと聞いたから調査に来てみれば、化け物の娘がお出迎えしてくれたんでね。
お近づきの印にちょ~とスキンシップをしただけじゃないか。
お前がオヤジか。いいぜ、王国の兵として怪物村を討伐する理由になる」
「遅れて申し訳ございません、セイジ様。
熟考の末に私達はやはりセイジ様にお付き従うことを選択致します。」

「ありがとう、サラ。それにフィーネにアビスも!
仕事は山ほどある。
まずはこのシオンの村を、美しかった漁村の姿を取り戻せるように力を貸してくれ。」
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村の中でも一際目立つ大木に手をかざす少女。
暖かい光に包まれ枯れた大木に「命」が吹き込まれていく。

この世界に抱く疑問の1つとして

「何故、戦闘に使う魔法を日常生活に応用しないのか?」

ということだ。

ファンタジーなこの世界では魔族と魔法を除いては中世から近世にかけての文明に過ぎない。
だが、肉体を強靭にする魔法や、物質を凍らせる魔法は、21世紀の日本よりも遥かに優れている所もある。
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「…素晴らしい志ですわ…。
たった一本の樹から生命を育む…。
大魔王を倒すよりも遥かに尊い行いですわ…。
私が師事したシスターも、きっと今のセイジ様の行いを褒め讃えることと思います。」

「サラ、村の緑化はお前に任せる。」

「はい、喜んで!
回復呪文とは生命エネルギーを促進させる魔法。
戦いの傷を治すよりも、草花を元気にすることに使う方が…。
私に似合ってると思います。」

「そうだな、王宮に閉じ込められてる時よりもずっと輝いてるぜ、サラ!」

「そんな…お恥ずかしいですわ…。」


「ふ~ん、サラちゃんは女のコらしくて可愛くて王族出身で、回復呪文が得意で、おまけに素直で従順で!あたしなんかよりずっ~と勇者セイジ様のパートナーに向いてるんじゃな~い?無理にあたしみたいなガサツで乱暴な女を選ばなくてもいいんですよ~?」

「オメガ、俺はサラに仕事としての役目をだな…。」

「へぇ~それにしてはあたしより随分優しいこと。」
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このRPGのもう一つの目的は、誰をパートナーとして選択するかだ。

勿論、俺は幼なじみの女騎士オメガ=カタストロフィ(18)が一番だが、他に…。

王族出身でシスターに師事し、奉仕活動の際に俺の仲間となった
ネハン=サラ=ソージュ(16)

天才的な魔力を持ち、その才能を忌み嫌われ居場所無くした孤独な少女、フィーネ=クライマクス(12)

ぱふぱふ屋の看板娘兼用心棒から俺達と旅をすることになった武道家・アビス=エデン(24)の4人のヒロインから誰をメインとするか?なんだが…俺には4人とは限らないのでは?との疑いがある。
俺にはこの世界に対して幾つかの疑問がある。
「世界の半分」の選択は勿論だが、この「滅びの村シオンの惨状」も俺の疑問の1つだ。

物語のエンディングでは、大魔王を倒した勇者が『仲間の一人を連れて』故郷のシオンに凱旋する。
そして4人の仲間の内、自分が選んだ「最愛のパートナー」と村を立て直す為に新しい生活が始まる所でハッピーエンド…のはずだが…。

疑問はここだ。
村が襲撃されたのは10年前だ。

何で…ほんの少しも復興してないんだ?

王様は勇者の仲間や王国の兵士や騎士にあらゆる支援をした。
それには感謝している。
お陰で旅費や武器代が出たんだからな。
冒険者の資金不足が死に直結するのは、ファンタジーも現実世界も同じだ…。

今このシオンの村に「魔王軍のセイジ」として来てみたが何も変わっていない。

別に村人が入れない魔法の結界が貼ってあるわけでもなく、王国の兵士が勝てない怪物に蹂躙されてるわけでもない。

何が「滅びの村シオン」だよ。これじゃただの「見捨てられた村」じゃないか…。

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「屈強な1つ目巨人のサイクロプスを呼べ!
瓦礫の撤去を命ずる。
そしてタートルドラゴンには港の整理をさせろ。」

「へへへ、確かに前線基地を作るには瓦礫をどかさねぇといけませんわな。力仕事ならこのサイクロプスの才蔵(さいぞう)にお任せを…。」

「期待してるぞ。
俺は大魔王閣下と違い、部下の氏素性は問わぬ…。働きの良い者は早く出世出来ると思え!
但し…。」

「『決して人間には手を出すな』でゲスよね。わかってまさぁ。」

ふむ…最も屈強かつ、最も規律を守れる怪物達を厳選してきたのは正解だったな。

勇者セイジとしての俺の役目と目的を考え直してみた。
勇者とは結局の所は

「世界に平和をもたらす者だ。」

大魔王を倒しても、こんな廃虚の村が溢れていたら意味があるのだろうか?

まずは、このシオンの村を10年前のような、市場に新鮮な魚が溢れる風光明媚な漁村に戻せるかが直近の課題だ。
これで無理なら魔王の部下になった意味がない!


取り除かれた瓦礫の下から土が露出する。
農業も土木もド素人の俺だが、この土に栄養が無いことくらいは解る。
ふと、回復呪文を大地の柔肌にあててみた。
ただの酔狂と言われたらそれまでだが、殆どの体内の魔力を殆どを使い果たしても、僅かな雑草が芽を出すのが精一杯だった。
サラなら俺より上手くやれるだろうか?続