俺にはこの世界に対して幾つかの疑問がある。
「世界の半分」の選択は勿論だが、この「滅びの村シオンの惨状」も俺の疑問の1つだ。
物語のエンディングでは、大魔王を倒した勇者が『仲間の一人を連れて』故郷のシオンに凱旋する。
そして4人の仲間の内、自分が選んだ「最愛のパートナー」と村を立て直す為に新しい生活が始まる所でハッピーエンド…のはずだが…。
疑問はここだ。
村が襲撃されたのは10年前だ。
何で…ほんの少しも復興してないんだ?
王様は勇者の仲間や王国の兵士や騎士にあらゆる支援をした。
それには感謝している。
お陰で旅費や武器代が出たんだからな。
冒険者の資金不足が死に直結するのは、ファンタジーも現実世界も同じだ…。
今このシオンの村に「魔王軍のセイジ」として来てみたが何も変わっていない。
別に村人が入れない魔法の結界が貼ってあるわけでもなく、王国の兵士が勝てない怪物に蹂躙されてるわけでもない。
何が「滅びの村シオン」だよ。これじゃただの「見捨てられた村」じゃないか…。
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「屈強な1つ目巨人のサイクロプスを呼べ!
瓦礫の撤去を命ずる。
そしてタートルドラゴンには港の整理をさせろ。」
「へへへ、確かに前線基地を作るには瓦礫をどかさねぇといけませんわな。力仕事ならこのサイクロプスの才蔵(さいぞう)にお任せを…。」
「期待してるぞ。
俺は大魔王閣下と違い、部下の氏素性は問わぬ…。働きの良い者は早く出世出来ると思え!
但し…。」
「『決して人間には手を出すな』でゲスよね。わかってまさぁ。」
ふむ…最も屈強かつ、最も規律を守れる怪物達を厳選してきたのは正解だったな。
勇者セイジとしての俺の役目と目的を考え直してみた。
勇者とは結局の所は
「世界に平和をもたらす者だ。」
大魔王を倒しても、こんな廃虚の村が溢れていたら意味があるのだろうか?
まずは、このシオンの村を10年前のような、市場に新鮮な魚が溢れる風光明媚な漁村に戻せるかが直近の課題だ。
これで無理なら魔王の部下になった意味がない!
取り除かれた瓦礫の下から土が露出する。
農業も土木もド素人の俺だが、この土に栄養が無いことくらいは解る。
ふと、回復呪文を大地の柔肌にあててみた。
ただの酔狂と言われたらそれまでだが、殆どの体内の魔力を殆どを使い果たしても、僅かな雑草が芽を出すのが精一杯だった。
サラなら俺より上手くやれるだろうか?続