第217回国会(常会)質問主意書 質問第二四六号
令和七年六月二十日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する再質問主意書
私が提出した「高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する質問主意書」(第217回国会質問第九二号)に対する答弁書(内閣参質217第九二号。以下「答弁書」という。)において、高額療養費制度の見直し、特に、現役世代に対する自己負担上限額の引上げに関する改革工程、試算根拠、制度見直しによる影響推計並びに再分配効果の把握に関して、極めて不明確かつ整合性に欠ける答弁がなされている。
政府は「現時点で具体的にお答えすることは困難である」、「「学術的なエビデンス」の意味するところが必ずしも明らかではない」、「「推計したもの」ではない」、「「乖離はどの程度であったか」とのお尋ねについてお答えすることは困難である」などと繰り返し答弁しているが、これらの答弁は政策の信頼性と正当性を著しく損なうものであり、法治国家における説明責任を果たしているとは言い難い。特に、当該制度改正によって直接的な負担増となる中間所得層や就労世帯に対する財政影響、再分配の結果及び 制度的整合性の検証を行わないまま、財政効果や制度改革の必要性のみを根拠に負担増を進めることは、政策形成過程の適正性を大きく損なうと考える。
以上を踏まえて、以下質問する。
一】改革工程及び 検討状況に関する再確認について
答弁書の「二について」において、政府は「「現時点の検討状況」及び 「今後の検討スケジュール」については、現時点で具体的にお答えすることは困難である」と答弁しているが、このような姿勢は行政計画として不適切であると考える。現在検討中の項目、主要論点、検討体制(所管部局及び 構成)及び 次回の公表予定時期を最低限明示すべきと考えるが、前記事項の明示が不可能である理由を具体的に示されたい。
一について】お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、先の質問主意書(令和7/4/8提出質問第九二号。以下「前回質問主意書」という。)二でお尋ねのあった「薬剤保険給付の在り方の見直し」に関する質問と解すれば、先の答弁書(令和7/4/18内閣参質217第九二号。以下「前回答弁書」という。)二についてにおいては、御指摘の「主要論点」等の設定も含め、今後具体的な検討を進めていくこととしていたことから、「「現時点の検討状況」及び 「今後の検討スケジュール」については、現時点で具体的にお答えすることは困難である」と答弁したものである。
二】「長瀬効果」に関する説明責任について
⑴ 答弁書の「三の⑴及び ⑵について」において、政府は「長瀬効果」について「「学術的なエビデンス」の意味するところが必ずしも明らかではない」と答弁している。「長瀬効果」の概念が政策根拠として用いられてきた経緯、定義、数式及び 根拠文書の所在を明示されたい。
⑵ 「長瀬効果」は、どのような理論的前提又は 実証分析に基づいて導出されたものか、明確に説明されたい。
二の⑴及び ⑵について】お尋ねの「政策根拠として用いられてきた経緯」については、例えば、令和6/4/2の参議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりである。
お尋ねの「定義」及び 「どのような理論的前提又は 実証分析に基づいて導出されたものか」については、前回答弁書三の⑴及び ⑵についてで述べたとおりである。
お尋ねの「数式」については、平成23/11/9に開催された第四十八回社会保障審議会医療保険部会の資料五「高額療養費の見直しと受診時定額負担について」において、「医療費水準yを給付率xの関数として示す式(長瀬式)」として、「一般制度」については「y=0.475x2+0.525」、「老人保健」については「y=0.499x2+0.501」と示しているとおりである。
お尋ねの「根拠文書の所在」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「長瀬効果」は、長瀨恒藏著「傷病統計論」において示された研究に基づき、同資料に記載の「一般制度では平成9/9 改正の実績、老人保健は昭和58/2改正~平成9/9 改正の実績」から推定したものである。
⑶ 「長瀬効果」について、学会・研究機関での使用実績、査読付き論文での引用例等が確認できない場合、行政による恣意的な用語創出であると評価せざるを得ない。「長瀬効果」の政策根拠としての正当性の検証体制が政府内に存在するか明示されたい。
二の⑶について】お尋ねの「「長瀬効果」の政策根拠としての正当性の検証」については、厚生労働省において、例えば、令和5/9/29に開催された第168回社会保障審議会医療保険部会の資料五「後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について」、令和6/8/30に開催された第181回同部会の資料二「後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について」等により、患者負担の見直しの影響について、制度改正に向けた検討において試算した「長瀬効果」と実際に観測された「長瀬効果」とを比較することを通じて行っているところである。
二の⑷の前段について】御指摘の「医療経済学上のエビデンスレベル」については、例えば、令和7/2/21の衆議院予算委員会において、福岡厚生労働大臣が「長瀬効果の金額につきましては、個々の医療や見直しの内容を踏まえて分析されるものではなく、実効給付率が変化した場合に経験的に得られている計算式に機械的に当てはめて、単純に医療費の増減効果を試算したものです。」と答弁しているとおりである。
⑷ 「長瀬効果」が示すとされる医療費自己負担と受診行動との関係性について、医療経済学上のエビデンスレベル(例:観察研究・自然実験・RCT・システマティックレビュー等の区分)を明らかにされたい。その上で、米国のRAND Health Insurance Experiment(1970年代以降)や、OECD諸国における医療費の価格感応度研究等との整合性・一貫性に係る分析方法について、政府の見解を示されたい。
二の⑷の後段について】御指摘のように欧米諸国においては様々な研究等があるものと承知しているが、例えば、令和6/3/5の参議院予算委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「ランド実験、これ物すごく面白い実験ですけれども、1971~1982年までの間に、大体五つぐらいのグループで負担の割合を分けて、それでそれぞれについての受診行動を測定しています。それによって、その負担を増やせば確実に受診行動に影響が及ぼされて、それによってその受診が抑制されるということもはっきりそこの中で数字が出ております。しかし、問題は、日本は既にもう皆保険制度ができていて、そこで一定の負担の中で実際に受診行動というものが既に形成されている中で、そう簡単にそのランドの実験を日本の場合に当てはめて比較分析するということは実はかなり難しい」と答弁しているとおりであり、また、その他の研究等に関しても、同年4/2の参議院厚生労働委員会において、同大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりであり、御指摘のような「整合性・一貫性」において問題が生ずるものではないと考えている。
三】推計と実績の乖離に関する検証責任について
⑴ 答弁書の「三の⑶について」において、政府は「「乖離はどの程度であったか」とのお尋ねについてお答えすることは困難である」と答弁している。巨額の公的資源を伴う制度設計において、推計と実績の照合と再評価が行われていないとすれば、政策形成の信頼性が根底から揺らぐと考えるが、政府の見解を示されたい。
⑵ 前記三の⑴について、「どの推計がどの時期に用いられ、どのような乖離が生じたか」、「乖離要因の分析を行ったか」等、検証努力及び 記録(報告書、議事録等)の有無を示されたい。ある場合、当該詳細を全て示されたい。
三について】二で御指摘の「長瀬効果」については、二の⑶についてでお答えしたとおり、窓口負担割合の見直しの影響について、御指摘のように「推計と実績」の「検証」を行ってきており、また、令和6/4/2の参議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりであり、御指摘のように、特定の「検証」をしていないことのみをもって、「政策形成の信頼性が根底から揺らぐ」とは考えていない。
四】「試算」と「推計」の用語不整合について
答弁書の「四の⑴について」では、2,270億円の削減効果についての質問に対し、「「推計したもの」ではない」と答弁しているが、質問で引用した資料中には「推計」という文言が使用されている。この用語の不整合について、政府内における用語の定義基準及び 文書審査体制の有無を明らかにされたい。
四について】お尋ねについては、御指摘の「質問で引用した資料中」では、「高額療養費見直しによる財政影響と保険料軽減効果」を「推計」している旨示した一方で、前回答弁書四の⑴についてにおいては、前回質問主意書四の⑴でお尋ねのように「金銭的な理由による受診抑制」を「推計したもの」ではない旨答弁したものであり、「用語の不整合」との御指摘は当たらない。
五】引上げ率の算出根拠の不整合について
⑴ 所得階層別の引上げ率の設定に当たり、平均賃金伸び率を根拠とするケース(10%)と年金改定率を根拠とするケース(2.7%)が混在しているが、異なる指標を適用した理由を示されたい。
⑵ 前記五の⑴について、いずれの伸び率についても一貫して十年間の実績伸び率を採用しない理由を、政策的合理性を含め説明されたい。
五の⑴及び ⑵について】お尋ねについては、前回答弁書四の⑵の前段についてで述べたとおり、令和7/1/23に開催された第192回社会保障審議会医療保険部会の資料二「高額療養費制度の見直しについて」(以下「令和7/1/23医療保険部会資料二」という。)において、「平均的な収入を超える所得区分については、平均的な引き上げ率よりも高い率で引き上げる一方で、平均的な収入を下回る所得区分の引き上げ率は緩和するなど、所得が低い方に対して一定の配慮を行う。」と示した考え方について、同部会において確認された上で、この考え方に基づき、令和7/1/23医療保険部会資料二において、「十%」については「前回見直しを行った約十年前からの平均給与の伸び率が約9.5~約12%であることを踏まえ、平均的な所得層の引き上げ幅を十%に設定。」と、「2.7%」については「引き上げ率は年金改定率と同じ」と示したとおり、設定したものである。
⑶ 前記五の⑴について、所得階層別の引上げ率の設定に当たり、それぞれの数値の伸び率はどのような経済モデル・所得分布・再分配効果分析に基づいて妥当とされたのか、具体的な数値根拠・シミュレーション手法・使用データを示されたい。
五の⑶について】お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「所得階層別の引上げ率の設定」に当たっては、五の⑴及び ⑵についてでお答えしたとおり、社会保障審議会医療保険部会において確認された考え方に基づき、設定したものである。
六】所得区分別の支給額等を「把握していない」とする答弁について
⑴ 答弁書の「六の⑴及び ⑵の前段について」において、政府は「「所得区分別」の支給額は(中略)網羅的にお示しすることは困難である」と答弁している。所得区分別の支給額を把握していないことは財政再分配効果の評価や政策のターゲティングにおいて重大な欠陥があることを意味すると考えるが、政府の見解を示されたい。
⑵ 各階層別の支給実態・受給者分布等を把握していないとすれば、制度設計の前提が破綻していると考えるが、政府の見解を示されたい。
六について】お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「所得区分別の支給額」については、前回答弁書六の⑴及び ⑵の前段についてにおいて、後期高齢者医療制度に係るものについてお答えしたところであり、また、令和7/1/23医療保険部会資料二においては、「所得区分別」に「現行制度における高額療養費の受給者数」を示しているところであり、さらに、令和7/3/14の衆議院厚生労働委員会において、福岡厚生労働大臣が「今回の見直しに向けた議論の過程では、様々な立場の有識者で構成される専門の審議会医療保険部会におきまして、データ等に基づき四回の議論を行って決定をさせていただきました。」と答弁しているとおり、社会保障審議会医療保険部会において、複数のデータに基づき議論を行っていることから、特定のデータを把握していないことのみをもって、御指摘のように「重大な欠陥がある」及び 「制度設計の前提が破綻している」ことになるとは考えていない。
七】総括的見解について
前記のように、改革工程は不透明、政策根拠は不明確、用語の整合性が欠如し、負担の分布実態さえ把握していない状況において、国民に新たな財政負担を求める制度改正を進めることは、政策形成の正当性を著しく損なうものであると考えるが、政府の総括的見解を示されたい。
七について】御指摘のように「改革工程は不透明、政策根拠は不明確、用語の整合性が欠如し、負担の分布実態さえ把握していない状況」にあるとは考えておらず、したがって、御指摘のように「政策形成の正当性を著しく損なうものである」とは考えていない。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二四五号
令和七年六月二十日 浜田 聡参議院議長 関口 昌一 殿
薬剤師の業務規制及び 医療職種の人員配置基準等の見直しに関する質問主意書
調剤に従事する薬剤師に対する「処方箋一人一日四十枚規制」は「薬局並びに店舗販売業及び 配置販売業の業務を行う体制を定める省令」(昭和39年厚生省令第三号。以下「同省令」という。)第一条第一項第二号により、薬剤師の配置人数に関する計算基準として平成五年に制度化されている。また、処方箋受付回数が月二千回、四千回等を超える薬局に対しては、調剤基本料の減算措置が講じられている(以下「薬剤師業務に対する規制」という。)。
しかし、令和の時代を迎え、薬局におけるICT導入や業務分担、事務支援体制の整備等によって、薬剤師一人が担うことのできる業務の幅は広がり、業務の質は向上しており、現場からはこうした画一的な数値基準が現実に即しているのか疑問の声が多く寄せられている。また、処方箋受付回数による診療報酬上の減算措置についても、その政策的意図と実効性に関して検証が求められる時期にあると考える。
以上を踏まえ、以下質問する。
一】薬剤師に対する「処方箋一人一日40枚規制」等について
⑴同省令において、「薬剤師一人当たりの一日平均取扱処方箋数が40を超えない」旨規定されているが、「四十」という数値基準が定められた経緯、根拠及び 決定までに要した検討資料について全て示されたい。
一の⑴について】お尋ねの「「40」という数値基準が定められた経緯、根拠」については、「薬事法施行規則及び 薬局及び 一般販売業の薬剤師の員数を定める省令の一部改正について」(平成5/4/30付け薬発第410号厚生省薬務局長通知。以下「平成五年通知」という。)において、「患者本位の良質な医薬分業を推進するため、薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師の員数の算定方法を、調剤業務により重きを置いた形に改める等現行の薬局 及び 一般販売業の薬剤師の員数を定める省令等を見直すものである」としているとおりであり、当該見直し後の薬局並びに店舗販売業及び 配置販売業の業務を行う体制を定める省令(昭和39年厚生省令第三号)第一条第一項第二号の規定については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び 安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第五条第二号の規定に基づき、薬局(医薬品医療機器等法第二条第十二項に規定する薬局をいう。以下同じ。)における薬剤師の業務の実態を踏まえ、また、患者等との対話、薬歴管理、服薬指導、疑義照会などの薬剤師としての業務量を織り込んで、薬局において調剤に従事する薬剤師の員数の最低基準を定めているものである。また、お尋ねの「決定までに要した検討資料」については、保存期間が経過していることなどから、お示しすることは困難である。
⑵同省令への違反が確認された場合に、保健所等による指導・是正命令・営業停止・保険指定取消し等の行政処分を行った事例はあるか示されたい。ある場合、それぞれの件数及び 詳細について、全て示されたい。
一の ⑵ について】御指摘の「保健所等による・・・保険指定取消し等の行政処分」の意味するところが明らかではないが、いずれにせよ、都道府県等においては、医薬品医療機器等法等の規定を踏まえながら、薬局開設者に対する薬事監視を行うなど、必要な対応を行っていると承知しており、政府として、お尋ねのような「件数及び 詳細」を把握していない。
⑶薬剤師業務に対する規制は、薬剤師の業務の質・安全性を担保することを目的とするかあるいは診療報酬配分上の合理化手段であるか、立法趣旨及び 保護法益も含めて、政府の見解を明確にされたい。
⑷ 診療報酬制度においては、「処方箋受付回数が月二千回・四千回・六千回を超える薬局」に対して調剤基本料を減算する仕組みがあるが、当該減算の趣旨、保護法益及び 法的根拠(通知・告示等)を明示されたい。
一の ⑶ 及び ⑷について】御指摘の「立法趣旨」、「保護法益」及び 「減算」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「処方箋一人一日40枚規制」の「趣旨」については、一の⑴ についてで述べたとおり、平成五年通知において、「患者本位の良質な医薬分業を推進するため、薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師の員数の算定方法を、調剤業務により重きを置いた形に改める」としているとおりであり、また、御指摘の「処方箋受付回数が月二千回、四千回等を超える薬局に対して」の「調剤基本料の減算措置」の意味するところが必ずしも明らかではないが、特掲診療料の施設基準等(平成20年厚生労働省告示第63号。以下「特掲診療料基準」という。)第15第一号(二)イに掲げる「処方箋の受付回数が一月に四千回を超えること」等、同号(二)ロに掲げる「処方箋の受付回数が一月に二千回を超えること」等の「調剤基本料の施設基準」に基づき算定することを意味するのであれば、この「趣旨」については、平成28/2/10の中央社会保険医療協議会の答申において、「大型門前薬局の評価の適正化のため、医療経済実態調査に基づく薬局の収益状況、医薬品の備蓄等の効率性等も踏まえ、規模の大きい薬局グループであって、特定の保険医療機関に係る処方せんによる調剤の割合が極めて高い等のいわゆる大型門前薬局については、調剤基本料の評価を見直す」とされているとおりである。
二】他の医療職種における人員配置・業務制限規定の体系的整理について
⑴医師・看護師・歯科衛生士・診療放射線技師・理学療法士等の医療職種に関し、診療報酬上の施設基準、医療法・薬機法その他の法令、省令、通知等によって人員配置基準や一人当たりの業務量制限が明示的に定められている事例があれば、職種別に概要、根拠規定及び 数値目安を全て示されたい。
⑵前記二の⑴ の規定について、①医療の質や患者安全の担保を目的とする規定、②診療報酬上の配点調整や医療機関の集約化を意図する政策的手段としての規定のいずれに該当するか示されたい。いずれにも該当しない場合、当該規定の目的を示されたい。
⑶前記二の ⑵ について、それぞれの規定の目的がいずれの目的に該当するか、どのような基準で判断したか示されたい。
二について】御指摘の「医師・看護師・歯科衛生士・診療放射線技師・理学療法士等の医療職種」、「診療報酬上の施設基準、医療法・薬機法その他の法令、省令、通知等」及び 「一人当たりの業務量制限」の具体的に指し示す範囲が明らかではないため、お尋ねについて網羅的にお答えすることは困難であるが、例えば、お尋ねの「医師」の「人員配置基準」については、「診療報酬上の施設基準」においては、例えば、令和4/2/9の中央社会保険医療協議会総会の答申(以下「令和四年答申」という。)において、「術後患者に対する質の高い疼痛管理を推進する観点から、術後疼痛管理チームによる疼痛管理について、新たな評価を行う」とされたことを踏まえ、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「算定告示」という。)別表第一区分番号A242―2に新設された「術後疼(とう)痛管理チーム加算(一日につき)」について、基本診療料の施設基準等(平成20年厚生労働省告示第62号。以下「基本診療料基準」という。)第八第35号の二の二(二)に基づき、「手術後の患者の疼(とう)痛管理を行うにつき十分な体制が整備されていること」とし、「基本診療料の施設基準等及び その届出に関する手続きの取扱いについて」(令和6/3/5付け保医発〇三〇五第五号厚生労働省保険局医療課長及び 歯科医療管理官連名通知)により、「麻酔に従事する常勤の医師」等を配置することとしている。また、医療法(昭和23年法律第205号)においては、例えば、病院については、同法第21条第一項第一号の規定において、「当該病院の有する病床の種別に応じ、厚生労働省令で定める員数の医師」を有しなければならないこととされているところ、同号の規定による病院に置くべき医師の員数の標準は、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第五十号)第19条第一項第一号において、「精神病床及び 療養病床に係る病室の入院患者の数を三をもつて除した数と、精神病床及び 療養病床に係る病室以外の病室の入院患者(歯科、矯正歯科、小児歯科及び 歯科口腔(くう)外科の入院患者を除く。)の数と外来患者(歯科、矯正歯科、小児歯科及び 歯科口腔(くう)外科の外来患者を除く。)の数を2.5(精神科、耳鼻咽喉科又は 眼科については、五)をもつて除した数との和(以下この号において「特定数」という。)が52までは三とし、特定数が52を超える場合には当該特定数から
を減じた数を16で除した数に三を加えた数」と定められている。
お尋ねの「看護師」の「人員配置基準」については、「診療報酬上の施設基準」においては、例えば、令和6/2/14の同協議会総会の答申(以下「令和六年答申」という。)において、「高齢者の救急患者をはじめとした急性疾患等の患者に対する適切な入院医療を推進する観点から、高齢者の救急患者等に対して、一定の体制を整えた上でリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に提供することについて、新たな評価を行う」とされたことを踏まえ、算定告示別表第一区分番号A304に規定する「地域包括医療病棟入院料(一日につき)」(以下「地域包括医療病棟入院料(一日につき)」という。)について、基本診療料基準第九第六号の四(一)ロに基づき、「当該病棟において、一日に看護を行う看護職員の数は、常時、当該病棟の入院患者の数が十又は その端数を増すごとに一以上であること。ただし、当該病棟において、一日に看護を行う看護職員の数が本文に規定する数に相当する数以上である場合には、当該病棟における夜勤を行う看護職員の数は、本文の規定にかかわらず、二以上であることとする」としている。また、同法においては、例えば、病院については、同法第21条第一項第一号の規定において、「当該病院の有する病床の種別に応じ、・・・都道府県の条例で定める員数の看護師」を有しなければならないこととされているところ、同条第三項の規定に基づき、都道府県が条例を定めるに当たって従うべき基準として、同令第19条第二項第二号において、「看護師及び 准看護師」は、「療養病床、精神病床及び 結核病床に係る病室の入院患者の数を四をもつて除した数と、感染症病床及び 一般病床に係る病室の入院患者(入院している新生児を含む。)の数を三をもつて除した数とを加えた数(その数が一に満たないときは一とし、その数に一に満たない端数が生じたときは、その端数は一として計算する。)に、外来患者の数が30又は その端数を増すごとに一を加えた数」と定められている。
お尋ねの「歯科衛生士」の「人員配置基準」については、「診療報酬上の施設基準」においては、例えば、令和六年答申において、「質の高い在宅歯科医療の提供を推進する観点から、歯科訪問診療料の評価を見直すとともに、歯科訪問診療の後方支援等を行う病院について新たな評価を行う」とされたことを踏まえ、算定告示別表第二区分番号C000に規定する「歯科訪問診療料(一日につき)」等に新設された「在宅療養支援歯科病院」について、特掲診療料基準第三第六号の四(三)に基づき、「歯科衛生士が一名以上配置されていること」としている。また、同法においては、例えば、病院については、同法第21条第一項第一号の規定において、「当該病院の有する病床の種別に応じ、・・・都道府県の条例で定める員数の・・・従業者」を有しなければならないこととされているところ、同条第三項の規定に基づき、都道府県が条例を定めるに当たって従うべき基準として、同令第19条第二項第二号ただし書において、「歯科、矯正歯科、小児歯科又は 歯科口腔(くう)外科」においては「看護師及び 准看護師」「のうちの適当数を歯科衛生士とすることができる」と定められている。
お尋ねの「診療放射線技師」の「人員配置基準」については、「診療報酬上の施設基準」においては、例えば、令和四年答申において、「安心・安全で質の高い医療の提供を推進する観点から、病院全体の医療安全の一環として行われる、画像診断報告書や病理診断報告書の確認漏れによる診断又は 治療開始の遅延を防止する取組について、新たな評価を行う」とされたことを踏まえ、算定告示別表第一区分番号A234―5に新設された「報告書管理体制加算(退院時一回)」について、基本診療料基準第8第29号の五(四)に基づき、「医療安全対策に係る研修を受けた専任の臨床検査技師又は 専任の診療放射線技師等が報告書確認管理者として配置されていること」としている。また、同法においては、例えば、病院については、同法第21条第一項第一号の規定において、「当該病院の有する病床の種別に応じ、・・・都道府県の条例で定める員数の・・・従業者」を有しなければならないこととされているところ、同条第三項の規定に基づき、都道府県が条例を定めるに当たって参酌すべき基準として、診療放射線技師は、同令第19条第三項第一号において、「病院の実状に応じた適当数」と定められている。
お尋ねの「理学療法士」の「人員配置基準」については、「診療報酬上の施設基準」においては、例えば、令和六年答申において、「高齢者の救急患者をはじめとした急性疾患等の患者に対する適切な入院医療を推進する観点から、高齢者の救急患者等に対して、一定の体制を整えた上でリハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に提供することについて、新たな評価を行う」とされたことを踏まえ、地域包括医療病棟入院料(一日につき)について、基本診療料基準第九第六号の四(一)ニに基づき、「当該病棟に常勤の理学療法士、作業療法士又は 言語聴覚士が二名以上配置されていること」としている。また、同法においては、例えば、病院については、同法第21条第一項第一号の規定において、「当該病院の有する病床の種別に応じ、・・・都道府県の条例で定める員数の・・・従業者」を有しなければならないこととされているところ、同条第三項の規定に基づき、都道府県が条例を定めるに当たって参酌すべき基準として、理学療法士は、同令第19条第三項第二号において、「療養病床を有する病院にあつては、病院の実状に応じた適当数」と定められている。
その上で、例えば、同法第一条の目的規定において、「この法律は、・・・病院・・・の・・・管理に関し必要な事項・・・を定めること等により、医療を受ける者の利益の保護及び 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与すること」と定められているところ、御指摘の「医師」等に係るこれらについてのお尋ねの「規定の目的」についても、これと同様であり、また、これらの規定は、令和5/11/16の参議院厚生労働委員会において、政府参考人が「衛生規制として医療機関が有するべき最低限の人員の基準を示したもの」と答弁しているとおりである。
三】今後の医療効率化と制度規制の関係について
医療従事者不足が深刻化する中、AIやICTを活用した医療提供体制の効率化は喫緊の課題とされている。一方、現在の「一人当たりの業務量上限」等の各種規制が医療の効率化・省力化に対する制約となっているとの指摘もあるが、政府の見解を示されたい。また、今後の規制見直しの可能性について、政府の見解を示されたい。
三について】御指摘の「「一人当たりの業務量上限」等の各種規制」の具体的に指し示す範囲が明らかではないが、例えば、御指摘の「処方箋一人一日40枚規制」については、必ずしも御指摘のような「医療の効率化・省力化に対する制約」とは考えていないところ、いずれにせよ、「規制改革実施計画」(令和4/6/7閣議決定)において、「薬局並びに店舗販売業及び 配置販売業の業務を行う体制を定める省令・・・に規定する薬局において配置が必要な薬剤師の員数に関する規制について、調剤業務の機械化や技術発展による安全性及び 効率性の向上を踏まえ、薬剤師の対人業務を強化する観点から、規制の在り方の見直しに向け、課題を整理する」とされたことを踏まえ、厚生労働省医薬・生活衛生局長(当時)が参集を求めて開催していた、薬剤師の業務等に関する専門的知見を有する有識者により構成される「薬剤師の養成及び 資質向上等に関する検討会薬局薬剤師の業務及び 薬局の機能に関するワーキンググループ」が令和4/7に取りまとめた「薬局薬剤師の業務及び 薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ~薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン~」において、「現状の診療報酬の体系が処方箋受付時の評価が中心であることを踏まえれば、単純に40枚規制を撤廃又は 緩和すると、処方箋の応需枚数を増やすために、処方箋受付時の対人業務(服薬指導等)が軽視される危険性がある。・・・このため、処方箋の40枚規制の見直しを検討する場合は、厚生労働省においては、診療報酬における評価等も含めて、対人業務の充実の方向性に逆行しないように慎重に行うべきである」等とされているところであり、これらを踏まえ、厚生労働省において、引き続き、必要な検討を進めてまいりたい。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二四四号
令和七年六月二十日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
地方自治体と台湾の関係に係る政府の認識及び 日台関係の在り方に関する質問主意書
鈴木史朗長崎市長は、令和7/8/9開催予定の平和祈念式典において、台湾は招待や案内の「対象にはならない」と記者会見で明言した。台湾を排除する従来の方針を維持する意向が示されたことで国内外に大きな影響が及んでいると考える。これに対し、広島市は、同年8/6 開催予定の平和記念式典に際し、これまで対象外としていた台湾へ通知文を送る方針を示しており、誠実な対応として評価されている。長崎市の対応は、自由と民主主義を尊重する台湾の人々に対して大きな失望と不信感を与えるものであり、日台関係に悪影響を及ぼしたことは否めない。
本件について、台湾の「中央通訊社」は、令和7/5/17付の報道中、上畠寛弘神戸市会議員のX(旧Twitter)上の発信を取り上げた。上畠議員は、長崎市長による台湾排除の方針について、「国連に加盟していないことを理由に台湾を冷遇するのは、被爆地の市長として恥以外の何ものでもない。中国の顔色をうかがう者に平和を語る資格はない」旨厳しく批判している。地方議員の発信が台湾メディアに報道されるなど、当該問題は台湾側においても極めて高い関心を呼んでいる。
台湾は、我が国にとって自由、民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有する極めて重要なパートナーである。また、台湾は、東日本大震災を始めとする災害時や感染症危機の際、官民を挙げて我が国に対し多大な支援を行ってきた。こうした経緯を踏まえ、今後更なる日台関係の強化と友好の深化を図ることが我が国の国益にも資するものと考え、以下質問する。
一】地方自治体である長崎市が主催する式典に、台湾政府の高官や官僚、台北駐日経済文化代表処の関係者を招待することは、法令、条約、政府方針又は 日中共同声明上可能か示されたい。可能である場合、台湾政府の高官が式典に出席するに当たって日本政府は適切な入国許可を与えるのか、政府の見解を示されたい。
一について】台湾との関係に関する我が国の基本的立場は、昭和47年の日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(以下「日中共同声明」という。)第三項を踏まえ、非政府間の実務関係として維持するというものであり、御指摘のような「地方自治体である長崎市が主催する式典」に誰を招待するかについては、これまでも主催者たる地方自治体が判断してきているものと承知している。また、御指摘の「長崎市が主催する式典に、台湾政府の高官や官僚、台北駐日経済文化代表処の関係者を招待すること」を前提としたお尋ねについては、政府としてお答えすることは差し控えたいが、いずれにせよ、我が国の入国管理については、出入国管理及び 難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)に基づき、引き続き適切に判断していく。
二】これまでも、地方自治体が台湾と接触することについて、駐日中華人民共和国大使館又は 総領事館が、外務省を通さずに直接神戸市や鎌倉市を始め地方自治体へ抗議を行ってきた例があるとされるが、政府はその実態を把握しているか示されたい。また、これまでに地方自治体からこのような中国側の抗議に関して相談を受けた事例はあるか示されたい。ある場合、政府としてどのような対応を行ったのか、具体的に示されたい。
二について】政府として、御指摘のような「駐日中華人民共和国大使館又は 総領事館」が「地方自治体へ抗議を行ってきた例」が複数あることは把握しており、当該地方自治体とのやり取りを含めて、政府として適切に対応しているが、これ以上の詳細については、事柄の性質上、お答えすることは差し控えたい。
三】これまで日本政府は日中共同声明には法的効力を有しないとの見解を示しているが、現在も外務大臣、国土交通大臣も含め政府として同様の認識を有しているか示されたい。また、日中共同声明には法的効力がないという政府の立場を、地方自治体、国民、国際社会が誤解しないよう、明確に発信すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三について】お尋ねについては、先の答弁書(令和7/3/11内閣参質二一七第四九号)三について等で答弁したとおりであり、国会等の場において、こうした考え方について説明してきているところである。
四】台北駐日経済文化代表処を始めとする日本に駐在する台湾日本関係協会の職員等(以下「当該職員等」という。)に対して、日本政府は、在留許可など何らかの便宜供与を行っているか示されたい。行っている場合、その具体的な内容を明らかにされたい。また、今後、これら実務機関の公用車に関して、駐日外国公館の車両と同様に、外務省による登録やナンバープレート発給に準じた措置を講ずるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
四について】お尋ねの「在留許可など何らかの便宜供与」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難であるが、政府としては、出入国管理及び 難民認定法に基づき、御指摘の「台北駐日経済文化代表処を始めとする日本に駐在する台湾日本関係協会の職員等」に対し、必要な在留資格を付与している。
また、お尋ねの「外務省による登録やナンバープレート発給に準じた措置」の意味するところが必ずしも明らかではないが、外交官等が所有する車両のナンバープレートについては、令和4/10/26の衆議院外務委員会において、林外務大臣(当時)が「国土交通省が発給する一般のナンバープレートと異なり・・・、外交のナンバープレートは、外交関係に関するウィーン条約、領事関係に関するウィーン条約、特権免除条約・協定で規定されました財産の不可侵及び 課税の免除を担保するために、外務省が、外務省設置法に基づいて、外交使節団、領事館及び 国際機関の駐日事務所に対してナンバープレートを発給しているもの」であり、「台湾について」は、「非政府間の実務関係として維持していくということが我が国の基本的立場でございます。」と答弁しているとおりである。
五】当該職員等が、各省庁の庁舎内に入館すること、我が国の大臣、副大臣、大臣政務官、事務次官以下の職員が建物内外で接触することについて、政府として制限又は 抑制を指示・通知しているか示されたい。また、指示・通知が存在する場合、当該文書の内容及び その理由や法的根拠も示されたい。
五について】お尋ねの「指示・通知」は存在していない。
六】NHKは、令和7/5/8 18:15に「長崎市長 被爆八十年の平和祈念式典にすべての国・地域を招待へ」とのタイトルの記事を掲載した。実際には台湾は招待対象から除外されていたにもかかわらず、「すべての国・地域を招待へ」と表現したことは事実に反し、公共放送として極めて不適切であり、台湾の存在と尊厳を無視した表現と言わざるを得ない。外務省でさえ台湾を「国」としては扱わない立場を取りつつも、独立したウェブページを設け「地域」として明確に取り扱っていることに照らしても、NHKの表現は不自然かつ一方的である。この件について、NHK長崎放送局や記事作成記者のみならず、編集責任者やNHK会長が訂正・謝罪を行うべきと考えるが、政府としてはNHKの対応に何ら問題はないと考えるか。政府の見解を示されたい。
六について】個別の報道の内容を前提とするお尋ねについて、政府として逐一お答えすることは差し控えたい。
七】日本政府は、現状は中華人民共和国政府を「中国唯一の合法政府」として承認しているが、台湾が中国の主権下にある、あるいは、台湾が中国に帰属するとの主張については、条約上も日中共同声明においても一切言及しておらず、日本政府としてこれを認め、法的保証については与えているものではないと理解してよいか。政府の明確な見解を示されたい。
七について】お尋ねの「法的保証」の意味するところが必ずしも明らかではないが、台湾に関する我が国政府の立場は、日中共同声明第三項にあるとおり、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」との中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するというものである。
八】外務省が令和四年度に台湾をめぐる課題を担当する「企画官」ポストを新設したことについては評価できるが、今後の台湾との関係に鑑みれば、一層の実務的連携の強化と友好の深化が必要であると考える。したがって、企画官よりも高位のポストを新設すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、日本政府は当該企画官ポストについて、現時点でどのようにその効果・成果を評価しているか示されたい。
八について】お尋ねの個別具体的な役職の設置の要否を含め、今後の外務省の機構に係る政府内部の検討について、予断をもってお答えすることは差し控えたいが、御指摘の「企画官ポスト」の設置については、台湾関連の問題に関する業務が著しく増加している中で、情報収集・分析、政策立案、対外発信等をより機動的に行えるようにしたものであり、引き続き、当該「企画官ポスト」は必要なものであると考えている。
九】現職の自衛官が日本台湾交流協会に出向している事実があるか明らかにされたい。また、日本政府の各省庁から日本台湾交流協会に出向している人数及び 出身省庁の内訳を示されたい。さらに、日本政府と日本台湾交流協会との間における職員出向や人事交流に関する取決めがある場合、その内容を明示されたい。
九について】公益財団法人日本台湾交流協会においては、昭和47年の同協会の設立以降、休職した我が国の国家公務員が複数勤務していると承知しているが、お尋ねの「現職の自衛官が日本台湾交流協会に出向している事実があるか」及び 「出向している人数及び 出身省庁の内訳」といった同協会の組織体制の詳細については、民間の団体の運営に関する情報であり、同協会として、これまで対外的に明らかにしていないと承知していることから、政府としてお答えすることは差し控えたい。
また、お尋ねの「取決め」は存在しない。
十】グローバル化により犯罪に国境がなくなっている状況である。そのような中、国際刑事警察機構(ICPO)に台湾は加盟していないが、WHOと同様にオブザーバーとしてのICPOへの参加など、台湾の参画を政府は支持すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、台湾と日本の警察当局間において、ICPOにおける協力とは別に実務的な協力関係を構築すべきと考えるが、警察庁の見解を明らかにされたい。
十について】我が国は、令和7/2/7(現地時間)付けの日米首脳共同声明や同年3/14日(現地時間)付けのG7外相声明等において、「国際機関への台湾の意味ある参加への支持」(仮訳)をしてきており、我が国の台湾に関する基本的立場を踏まえつつ、国際刑事警察機構を含め、それぞれの国際機関に台湾が参加することの意義等を総合的に踏まえてこれに対応していくとの立場である。
また、お尋ねの「ICPOにおける協力とは別に実務的な協力関係を構築」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、警察においては、台湾との間で、国際刑事警察機構事務総局を通じて必要な捜査協力を行っている。
十一】我が国が主導して成立した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び 先進的な協定(以下「CPTPP」という。)」への台湾の参加については、CPTPPが全会一致原則を採用しているため、中国の政治的圧力により困難が予想される。しかし、そのような状況にあっても、日本は台湾のCPTPPへの参加実現に向けて主導的な立場を取り、最大限の努力をすべきと考えるが、政府の見解と具体的な行動方針を示されたい。
十二】CPTPPに関しては、中国が参加条件として求められる法制度や透明性の整備を満たしていないとする指摘が国際的にも多数存在する。したがって、日本政府としては中国のCPTPP加盟を認めるべきではないと考えるが、政府の見解を示されたい。
十一及び 十二について】お尋ねについては、例えば、令和6/12/18の衆議院外務委員会において、岩屋外務大臣が「加入要請を提出したエコノミーの扱いについては、他の締約国ともよく相談する必要がございますので、我が国としては、戦略的な観点、それから国民の理解、そういったことも踏まえながら適切に対応していきたいと思っております。」と答弁しているとおりである。
十三】日本政府は昭和47年に中国との国交を樹立したが、その際に台湾との国交を「断交した」とされる法的根拠は何か。いかなる法的行為に基づいて台湾との国交が消滅したと認識しているのか示されたい。
十三について】お尋ねの「台湾との国交を「断交した」とされる法的根拠」及び 「いかなる法的行為に基づいて台湾との国交が消滅したと認識しているのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねについては、昭和47/9/2の記者会見において、大平外務大臣(当時)が「日中関係正常化の結果として、日華平和条約は、存続の意義を失い、終了したものと認められる、というのが日本政府の見解でございます。」と述べているとおりである。
十四】台湾の国籍を有する者、すなわち台湾人が日本国籍を取得することは可能か。政府は、台湾人については「国籍を有する者」として取り扱っているのか、それとも「無国籍」として取り扱っているのか。また、台湾人が帰化申請を行った際に、台湾の国籍を放棄することなく日本国籍を取得することは、戸籍法その他の関係法令上問題ないか。以上に対する政府の実務的対応と見解を示されたい。
十四について】台湾に関する我が国政府の立場は、日中共同声明第三項にあるとおり、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」との中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するというものであることから、御指摘の「台湾の国籍を有する者、すなわち台湾人」に関するいずれのお尋ねについてもお答えすることは差し控えたい。
なお、一般論として申し上げれば、国籍法(昭和25年法律第147号)第四条第一項の規定により、「日本国民でない者・・・は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。」とされ、また、原則として、同法第五条第一項第五号の規定により、「国籍を有せず、又は 日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべき」場合でなければ、帰化を許可することができないとされている。
十五】外務省ホームページに掲載されている「日本と台湾との協力年表」については、台湾との実務的関係の可視化という観点から高く評価できるものである。しかし、当該年表の作成以降、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会との間では、例えば法務・司法分野における交流と協力に関する覚書の締結など、新たな協力関係の構築が行われている。このような新たな進展を適切に反映するためにも、当該年表の更新を早急に行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
十五について】お尋ねの「年表」を含む外務省ウェブサイトの「国・地域別に見る日本の国際貢献データ」の項目については、平成28年に、当時の政策遂行上の必要性等を総合的に考慮した上で作成した「日本の平和国家としての歩み」という項目の中に掲載したものであるが、現時点においては、お尋ねの「年表」を含め、「日本の平和国家としての歩み」を更新することは予定していない。
十六】共同通信社は令和7/3/20、台湾の蔡英文前総統が退任後の令和6/7、安倍晋三元内閣総理大臣の三回忌に合わせて来日を調整したが、当時の岸田政権が中国による日本産水産物の輸入停止措置の解除など、日中関係の改善に注力していた状況に鑑みて、蔡英文前総統の来日は中国側の反発を招き関係改善に悪影響を及ぼす可能性があると判断し、最終的に日本政府がこれを認めなかったと報道した。当該報道は事実か明らかにされたい。
十六について】御指摘の報道のような事実はない。
十七】石破内閣の台湾に対する評価を示されたい。また、東日本大震災に際して台湾が官民を挙げて行った多大なる支援及び 新型コロナウイルス感染症の世界的流行時において、我が国に対して実施された物資提供等の支援について、政府はどのように評価しているか、具体的に示されたい。
十七について】台湾は、我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、東日本大震災に際しての台湾からの多大な支援及び 新型コロナウイルス感染症の流行に際しての台湾からの時宜を得た支援に対しては、我が国として深く心から感謝しているところである。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二四三号
令和七年六月二十日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較に関する質問主意書
内閣官房ウェブサイトには「人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(未定稿)」(以下「当該資料」という。)が掲載されているが、当該資料の名称には(未定稿)と付記されており、極めて異例である。当該資料は、我が国が諸外国に比して「公的部門職員数が少ない」とする主張の根拠として、識者や報道機関、地方自治体の政策資料等において引用されているが、その前提条件や統計手法の整合性について、政府は明確に説明していない。「未定稿」と銘打ちながら政府公式サイトに掲載されている当該資料は根拠が不明確であるにもかかわらず、政策議論や報道等で多用されている。以下にその一部を例示する。
・令和6/3、一般財団法人地方自治研究機構が公表した報告書「地方公務員は足りているか」において、当該資料を引用し「日本の人口千人当たりの公務員数は諸外国の半分以下」と記載している。
・令和5/11、日本経済新聞の社説において「公務員数を減らすよりも効率化を進めるべき」とする論調の中で、日本の公的部門職員数の少なさが指摘された。
・令和5/8、朝日新聞において、日本の公務員数が国際的に少ないとする主張が紹介されている。
・令和5/5/20、日本政策投資銀行が発行した「日本における政府部門職員数の国際比較」において、当該資料を引用し「日本の公的部門職員数は他国の半数程度」と明記されている。
・令和2/2/1、日本国家公務員労働連合会が発行した報告書「公務員削減は公務・公共サービスの低下を招く」において、「日本の公的部門の職員数は、人口千人当たり32人とフランスやアメリカ、イギリスなどの半分以下です」と記載している。
・平成23/12/15、ある地方自治体労働組合連合会が作成した「財務省資料に基づく国際比較と地方行政の課題」において、各国との比較表を掲載し、日本の低水準を強調している。
前記事例のほか、当該資料を引用し「我が国の公務員数は他国よりも少ない」と論じた資料は様々に見受けられる。統計的信頼性や行政の説明責任の観点からも、誤認を誘発しかねない資料の取扱いについて、厳格に検証すべきと考える。当該資料の制度的な正統性、比較手法の妥当性及び 誤認を招く可能性のある公表形態について明らかにすべく、以下質問する。
一】当該資料について、「未定稿」であるにもかかわらず、政府公式サイト上に掲載されている理由を示されたい。また、当該資料の作成経緯及び 取扱い方針を明らかにされたい。
五】当該資料の根拠となる法令、制度、会議体及び 閣議決定等について示されたい。また、当該資料の作成の根拠、目的及び 所管部局を明示されたい。
一の前段について】各国における中央政府、地方公共団体等の範囲等には差があり、職員数の比較のために設定する条件については様々なものが考えられるところ、内閣人事局が公表している「人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(未定稿)」(以下「本件資料」という。)については、各国の公的部門における職員数の比較を目的として、一定の共通的な条件を設定した上で当該職員数について整理したものである。本件資料は、当該条件に係る制約があること等から「未定稿」と付記しているところ、そのことを踏まえてもなお国民の利便に資すると考えるため、公表しているものである。
一の後段及び 五について】本件資料は、従来から外部から各国における公的部門における職員数について問合せがあること等を踏まえ、内閣法(昭和22年法律第五号)第12条第二項第十三号の規定に基づき、内閣人事局が作成し公表しているものである。
二】当該資料は、将来的に「確定稿」あるいは正式な政府統計資料として公表される予定があるか示されたい。予定がある場合、公表時期及び 所管機関を示されたい。予定がない場合、当該理由を示されたい。
二について】一の前段についてで述べたとおり、各国における中央政府、地方公共団体等の範囲等には差があり、職員数の比較のために設定する条件については様々なものが考えられるところ、本件資料については、各国の公的部門における職員数の比較を目的として、一定の共通的な条件を設定した上で当該職員数について整理したものであるところ、当該条件に係る制約があること等を踏まえて「未定稿」と付記した上で経年比較等が可能となるよう同様の条件設定で作成してきたことから、お尋ねの「「確定稿」あるいは正式な政府統計資料」が当該条件を変更することを伴うものを指すのであれば、お尋ねのような「予定」はない。
三】当該資料における「国際比較」について、各国の「公務員」の範囲や制度(中央地方の区分、軍人準公務員の扱い等)等の前提条件は統一されているか示されたい。統一されていない場合、当該資料のように異なる前提条件で公務員数を比較し提示することは、国民の誤解を招くおそれが極めて高いため、各国制度の相違点を補足する資料が必要であると考えるが、政府の見解を示されたい。また、今後、当該資料の公表の見直し若しくは誤認を防ぐため、各国の公務員制度の比較資料を付すべきと思料するが、政府の見解を示されたい。
三について】一の前段についてで述べたとおり、本件資料については、各国の公的部門における職員数の比較を目的として、一定の共通的な条件を設定した上で当該職員数について整理したものである。また、このような目的で作成していることから、お尋ねの「各国の公務員制度の比較資料を付す」ことは考えていない。
また、二についてで述べたとおり、当該条件に係る制約があること等を踏まえて「未定稿」と付記した上で経年比較等が可能となるよう同様の条件設定で作成してきたことから、お尋ねの「見直し」が当該条件を変更することを伴うものを指すのであれば、「見直し」を行うことは考えていない。
四】各国の公務員制度(職階制、採用制度、任期の有無、民間委託比率及び 非正規職員の制度的取扱い等)を比較分析した資料を把握しているか示されたい。把握している場合、資料の名称、作成年月日、所管部局及び 公表状況を明らかにされたい。
四について】人事院事務総局が同院のウェブサイトにおいて公表している「諸外国の国家公務員制度の概要(令和7/2更新)」等の諸外国の公務員制度に関する資料については承知している。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二四二号
令和七年六月二十日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
FIT・FIP制度による市場のゆがみ及び 再エネ賦課金による国民負担に関する質問主意書
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下「FIT制度」という。)及び 市場連動型制度(以下「FIP制度」という。)については、当初設定された高価格や事業者内部収益率(IRR)の水準が、現在に至るまで国民の大きな負担要因となっている。特に、FIT制度導入初期に認定された案件については、高利回りでの長期にわたる固定価格買取が保証されており、再エネ賦課金の総額は令和七年度に過去最高の3.1兆円に達すると見込まれている。また、FIP制度については、効率的な事業運営を前提としてコストと適正な利潤を反映するとされながら、実質的にはFIT制度と同水準の基準価格が適用されており、国民負担軽減や市場競争促進の観点から実効性に疑問が生じている。電気事業連合会「FEPC INFOBASE 2024」(以下「当該資料」という。)や資源エネルギー庁「「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス」においても、FIT制度の課題として、需給調整インセンティブの欠如や事業規律の低下が指摘され、FIP制度導入の目的が「再エネの自立化と市場統合の促進」であると示されている。
こうした背景を踏まえ、再エネ補助政策の目的、運用の妥当性及び 国民負担の構造的問題について、以下質問する。
一】再エネ賦課金について、制度開始当初の2012年度には約千三百億円であったが、2025年度には約3.1兆円に達する見込みとなっている。
⑴ 再エネ賦課金の総額の増加推移について、FIT制度設計当初の見込みとの乖離はあるか示されたい。ある場合、どの程度乖離しているか示されたい。
一の⑴について】お尋ねの「見込み」については、令和7/4/23の衆議院経済産業委員会において、武藤経済産業大臣が「賦課金の水準の想定につきまして、2012年の制度の導入時点では、FIT制度によって再エネがどの程度増えるか予測が困難だったということ、これは定量的な将来見通しは持っていなかったものと承知をしているところです。」と述べているとおりである。
⑵ 再エネ賦課金の増加推移について、FIT制度設計当初から増加することが見込まれていたと思料するが、再エネ賦課金総額の増加は国民負担の増加と同義である。この点について、制度設計当時、政府はどのように評価していたか示されたい。また、FIT制度設計当初から現在に至るまでの再エネ賦課金の実績の推移を踏まえ、再エネ賦課金の国民負担額が経済に及ぼす影響について、政府の評価を示されたい。
⑶ 当該資料においては、FIT制度に起因する累積的な国民負担の増大が課題として示されているが、政府も同様の見解か示されたい。また、当該課題に対する政府の取組について示されたい。
一の⑵及び ⑶並びに九の⑵について】お尋ねの「制度設計当時、政府はどのように評価していたか」については、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法等の一部を改正する法律(平成28年法律第59号)による改正前の電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第百八号。以下「旧法」という。)第三条第四項において規定されていたとおり、経済産業大臣が同条第一項に規定する調達価格等を定めるに当たっては、旧法第16条第一項に規定する賦課金の負担が電気の使用者に対して過重なものとならないよう配慮しなければならないものと認識していたところである。
また、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律第百八号。以下「法」という。)第36条第一項に規定する賦課金(以下「賦課金」という。)が、再生可能エネルギーの導入拡大を促進するため、法に基づき、再生可能エネルギーの導入拡大のメリットを受ける電気の使用者に御負担いただいているものであるところ、お尋ねの「経済に及ぼす影響」及び 「国民負担の増大」については、抑制を図るべきものであると認識しており、法に基づく入札制度の導入、法第八条の九第一項に規定する価格目標(以下「価格目標」という。)の設定等の再生可能エネルギー発電設備の効率的な導入を促す仕組みの活用等を通じ、引き続き、国民負担の抑制を図りながら、再生可能エネルギーの導入拡大を促進してまいりたい。
二】FIT制度導入当初、非住宅用太陽光発電の調達価格は10㎾以上のものについては1㎾当たり40円に設定されるなど、極めて高利回りであった。
⑴ FIT制度導入当初、高利回りとした理由を示されたい。
⑵ 前記二の⑴について、高利回りとする方針を検討した際に、国民負担が高まることに対する経済的な悪影響などの懸念点について、どのように評価したか示されたい。
四】FIT制度では、一度認定された価格で10年~20年間にわたる固定買取が保証されているため、価格が見直されたとしても過去の高利回りであった時代に起因する国民負担が長期にわたり継続することとなっている。当該構造が市場競争に与える影響及び コスト最適化を阻害している可能性について、政府の評価を示されたい。
二及び 四について】お尋ねの「当該構造が市場競争に与える影響及び コスト最適化を阻害している可能性」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねの「理由」については、旧法附則第七条の規定に基づき、旧法の施行の日から起算して三年間は、旧法第3条第二項に規定する特定供給者が受けるべき利潤に特に配慮して同条第一項に規定する調達価格を定めていたためであり、また、お尋ねの「国民負担が高まることに対する経済的な悪影響などの懸念点」についての考えについては、一の⑵及び ⑶並びに九の⑵についてでお答えしたとおりである。
なお、例えば、法第14条は、法第2条第五項に規定する認定事業者(以下「認定事業者」という。)が法第九条第四項の認定(法第十条第一項の変更又は 追加の認定を含む。以下「認定」という。)を受けた日から起算して一定の期間内に再生可能エネルギー発電事業を開始しなかったときは、当該認定は、その効力を失う旨を規定しており、政府としては、国民負担の抑制を図るため、当該規定に基づき厳格に対応しているところである。
三】高利回りであった時代において、多数のメガソーラーを含む発電事業者が一斉に設備認定を受けたことで、結果的に大量の高額案件が制度に残存する構造となっている。発電事業者の設備認定数推移について、制度設計当初の想定どおりか否か示されたい。また、当該実績に対する分析及び 評価について、政府の見解を示されたい。
三について】お尋ねの「制度設計当初の想定」については、定量的な「設備認定数」を設定していたものではないが、「実績に対する分析及び 評価」については、例えば、令和7/2/27の衆議院予算委員会第七分科会において、武藤経済産業大臣が「FIT制度が導入された2012年度からこれまで約十年で再エネ発電量を倍増させており、平地面積当たりの太陽光発電の導入量は既にドイツやイギリスよりも大きく、主要国最大となっております。」と答弁しているとおりである。
五】FIT制度導入当初に設定された買取価格の根拠の一つとされるIRRについて、制度創設時から令和六年度までの実績ベースでの年次推移は把握しているか示されたい。把握している場合、IRRの年次推移を全て明らかにされたい。把握していない場合、把握すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
五について】経済産業大臣において、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則(平成24年経済産業省令第46号)第五条第一項第六号及び 第七号の規定に基づき、認定事業者から、再生可能エネルギー発電設備の設置に要した費用に関する情報等について提供を受けているところであり、現時点において、お尋ねの「IRR」の「制度創設時から令和六年度までの実績ベースでの年次推移」について把握すべきとは考えていない。
六】FIP制度における基準価格は、「事業が効率的に行われた場合、通常必要となるコストを基礎に、価格目標や適正な利潤などを勘案して定め」るとされている。にもかかわらず、現行のFIP基準価格がFITの買取価格と実質的に同額に設定されている。
⑴ 市場競争を促すためのFIP制度がFIT制度と同様の補助効果を有することにより、事業者の収益構造が固定化されていると思料するが、政府の見解を示されたい。
⑵ FIP制度におけるプレミアム単価(補助額)がFIT制度と同様に高価格で長期にわたり支払われ続けることによる国民負担への影響について、政府の評価を示されたい。
⑶ 現行のFIP制度については、発電事業者の投資インセンティブが働いておらず、電力市場への統合につながっていないおそれがあると思料するが、政府の見解を示されたい。
⑷ 電気事業連合会「2022年度からFIP制度開始 再エネの「自立化」を促進」において指摘されているように、バランシング義務やアグリゲーター制度の実効性が低い場合、FIP制度が本来の目的を果たせないと考えるが、政府の見解を示されたい。
⑸ 再エネを電力市場に定着させ競争を促すというFIP制度の目的を達成するために、今後、政府が行うことを予定している取組を全て示されたい。
六について】お尋ねの「事業者の収益構造が固定化されている」、「発電事業者の投資インセンティブが働いておらず、電力市場への統合につながっていないおそれがある」及び 「バランシング義務やアグリゲーター制度の実効性が低い場合」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「FIP制度」においては、一の⑵及び ⑶並びに九の⑵についてで述べた「FIT制度」と同様に、賦課金が、再生可能エネルギーの導入拡大を促進するため、法に基づき、再生可能エネルギーの導入拡大のメリットを受ける電気の使用者に御負担いただいているものであるところ、「国民負担への影響」については、抑制を図るべきものであると認識しており、法に基づく入札制度の導入、価格目標の設定等の再生可能エネルギー発電設備の効率的な導入を促す仕組みの活用等を通じ、引き続き、国民負担の抑制を図りながら、再生可能エネルギーの導入拡大を促進していくことが重要であると考えている。
その上で、お尋ねの「今後、政府が行うことを予定している取組」については、現在、具体的な検討を進めているところであり、網羅的にお示しすることは困難であるが、政府として、引き続き、電気事業法(昭和39年法律第170号)第2条第一項第十五号の三に規定する特定卸供給事業の促進等を通じ、必要な事業環境の整備に取り組んでまいりたい。
七】再エネ政策の目的は、本来、技術開発を支援し電力市場に定着させることであるが、現行制度は既に市場競争力を持つ太陽光発電等にも長期的に補助が続いている。
⑴ 再エネ政策において補助されている各エネルギーについて、現在の市場競争力ないし電力市場への定着状況について、政府の評価をそれぞれ示されたい。
七の⑴について】お尋ねの「電力市場への定着状況」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、例えば、政府として、各電源の発電コストについては、令和七年二月に総合資源エネルギー調査会基本政策分科会発電コスト検証ワーキンググループが取りまとめた「発電コスト検証に関するとりまとめ」において試算を行っている。この中で、令和五年における各電源のキロワットアワー当たりの発電コストは、「政策経費あり」において、事業用太陽光発電➡ 10.9円、 住宅用太陽光発電は14.5円、陸上風力発電➡ 16.3円、 着床式洋上風力発電➡ 30.9円、 地熱発電➡ 16.1円から16.8円まで、 中水力発電➡ 13.0円、小水力発電➡ 26.6円、 バイオマス発電➡ 32.9円、 原子力発電➡ 12.6円以上、 LNG火力発電➡ 19.1円、石炭火力発電➡ 24.8円、 石油火力発電➡ 43.8円、 天然ガスコージェネレーション➡ 15.8円~16.9円まで等と試算している。
また、令和6年12月末時点における、認定を受けた再生可能エネルギー発電事業計画のうち、当該再生可能エネルギー発電事業計画に係る再生可能エネルギー発電設備が法第二条の二第一項に規定する交付対象区分等に該当するものの件数については、太陽光発電➡ 1,563件、風力発電➡ 54件、地熱発電➡︎ 零件、水力発電➡ 44件及び バイオマス発電➡︎ 40件である。
⑵ 前記七の⑴について、電力市場に定着していないと評価されるエネルギーについて、定着する時期の見込み及び 補助を行う時期について、政府の見解を示されたい。
七の⑵について】お尋ねの「電力市場に定着していないと評価されるエネルギー」の具体的に意味するところが明らかではなく、「定着する時期の見込み及び 補助を行う時期」をお答えすることは困難である。
八】令和五年度においては、電気料金高騰対策として再エネ賦課金の一部を国費により肩代わりする措置が講じられ、国民負担は一時的に軽減された。このような一時的補助の是非と今後の財政支出との関係について、政府の見解を示されたい。
八について】政府として、御指摘の「電気料金高騰対策として再エネ賦課金の一部を国費により肩代わりする措置」は講じておらず、これを前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。
九】令和七年度の再エネ賦課金総額が過去最大の3.1兆円とされる中、現行のFIT制度及び FIP制度の構造的な見直しが必要との意見もある。
⑴ 制度全体の見直しや段階的縮小の必要性について、政府の検討状況を示されたい。
九の⑴について】お尋ねの「制度全体の見直しや段階的縮小の必要性」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「FIT制度及び FIP制度」の在り方については、例えば、関係審議会において、再生可能エネルギーの発電コスト等を踏まえ、法に基づく支援の在り方を検討するなどしているところであり、引き続き、必要な検討を行っていく考えである。
⑵ 再エネ賦課金の総額が増加することによる国民負担の増加が懸念されるが、国民負担増加に対し、政府は何らかの対応を採る考えはあるか示されたい。ある場合は、当該対応について、具体的に示されたい。
九の⑵について】一の⑶ と同回答
217回国会(常会)質問主意書 質問第二一七号
令和七年六月十九日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
医療・福祉の非営利性に関する質問主意書
我が国の医療制度においては、医療機関の非営利性が重視されている。私が提出した「営利法人に病院等の開設が認められない法的根拠に関する質問主意書」(第217回国会質問第84号)に対する答弁書(内閣参質217第84号)では、病院の開設について、「営利を目的とする者には許可を与えない」としている。また、特別養護老人ホームは福祉系の施設でありながら非営利法人のみが運営を許可されている。一方、訪問看護のように医療系のサービスでありながら営利法人の参入が認められている事例も存在する。
このように、医療・福祉分野において、営利法人の参入可否の基準が一貫していないように見受けられる。また、過去の国会答弁においても、株式会社の参入により医療の質の低下や不必要な診療の増加を招く可能性が指摘されているが、これらの懸念は非営利法人においても同様に発生し得るものであり、必ずしも営利法人の参入を制限する理由にはならないと考える。
現行制度における当該矛盾を明確にし、医療機関の運営形態に関する政府の方針を明らかにするため、以下質問する。
一】営利を目的とした病院の開設を認めていない理由を示されたい。参議院厚生労働委員会(平成29/6/1)において、塩崎元厚生労働大臣は、「医療では、医師の裁量が大きく、また、患者が十分な情報を持っていない、いわゆる情報の非対称性」があり、「適正な医療が提供されないおそれがある」と答弁している。非営利法人であっても情報の非対称性は存在すると考えるが、政府の見解を示されたい。
一の前段について】お尋ねの「営利を目的とした病院の開設を認めていない」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、医療法(昭和23年法律第205号)第七条第七項において「営利を目的として、病院・・・を開設しようとする者に対しては、・・・許可を与えないことができる」と規定している理由等については、先の答弁書(令和7/4/15内閣参質217第八四号。以下「前回答弁書」という。)一~三までについてでお答えしたとおりである。
一の後段について】平成29/6/1の参議院厚生労働委員会において、塩崎厚生労働大臣(当時)が「医療では、医師の裁量が大きく、また、患者が十分な情報を持っていない、いわゆる情報の非対称性と呼ばれているものですが」と述べた上で、「こういう中で、株式会社等の営利を目的とした経営主体による医療機関の経営への参入につきましては、まず第一に、患者が必要とする医療と株式会社の利益を最大化するという場合の医療とが一致をしないということがあり得て、適正な医療が提供されないおそれがあるというのがまず第一点にございます。・・・それから、利益を上げるために不必要なあるいは不要な診療が行われて、患者さんにとってもプラスにならず、・・・こういうような懸念が指摘をされている」旨述べているとおりであり、「非営利法人であっても情報の非対称性は存在すると考えるが、政府の見解を示されたい」とのお尋ねの趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。
二】訪問看護について、医療系のサービスであるにもかかわらず、営利企業の参入が認められている理由を示されたい。病院においては営利法人の利益最大化が医療の質の低下につながるとされているが、訪問看護においては当該懸念が生じないという見解か示されたい。前記見解の場合、訪問看護と病院の経営形態の違いにより、懸念の有無が異なる理由を具体的に説明されたい。
二の前段について】お尋ねについては、「規制緩和推進三か年計画」(平成10/3/31閣議決定)において、「各種参入規制を緩和・撤廃、国際的整合化等の方向で見直しを行う」とされたことを踏まえ、御指摘のように「訪問看護」に「営利企業の参入が認められている」ところ、その「理由」については、例えば、「規制改革についての第二次見解」(平成11/12/14行政改革推進本部規制改革委員会公表)において、「多様なサービス提供主体の参入を促し、介護サービスの供給量を増加させる」等としているとおりである。
二の後段について】お尋ねに関しては、一の後段についてで述べたとおり、平成29/6/1の参議院厚生労働委員会において、塩崎厚生労働大臣(当時)が「医療では、医師の裁量が大きく、また、患者が十分な情報を持っていない、いわゆる情報の非対称性と呼ばれているものですが、こういう中で、株式会社等の営利を目的とした経営主体による医療機関の経営への参入につきましては、・・・適正な医療が提供されないおそれがある」旨述べているところ、指定訪問看護(健康保険法(大正11年法律第70号)第88条第一項に規定する指定訪問看護をいう。以下同じ。)については、指定訪問看護の事業の人員及び 運営に関する基準(平成12年厚生省令第80号)第16条第二項の規定において、「指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない」等としていることから、当該「株式会社等の営利を目的とした経営主体による」指定訪問看護への「参入」であっても、その実施に当たっては、必ずしも指定訪問看護事業者(同法第88条第一項の規定により厚生労働大臣の指定を受けた指定訪問看護事業者をいう。以下同じ。)の「裁量が大きい」とは言えないことから、御指摘の「病院」への「参入」と単純に比較することは適当ではないと考えている。その上で、御指摘の「営利法人」が指定訪問看護を実施する場合も含め、必ずしも御指摘のような「懸念が生じない」というわけではないことから、御指摘の「営利法人」が指定訪問看護事業者として指定を受けるためには、同法第89条第四項第一号、指定訪問看護事業者の指定を受けることができる者(平成四年厚生省告示第32号)第十三号等の規定に基づき、厚生労働大臣の認定を受ける必要があるところ、当該認定に際しては、「指定訪問看護事業者の指定を受けることができる者について」(平成12/3/31付け保発第73号・老発第399号厚生省保険局長・老人保健福祉局長連名通知)において、「申請者の定款又は 寄附行為等の目的、資産・収支の状況、当該申請に係る訪問看護等の事業を行う事業所の概要、併設施設の状況等からみて、指定訪問看護等の事業を健全に永続的に運営できると認められる者についてのみ認定する」ことと示しているほか、指定訪問看護が利用者の個別の状況に応じて適切に提供されるよう、地方厚生局等を通じて指定訪問看護事業者に対して、「指定訪問看護の提供に関する取扱方針について」(令和6/10/22付け厚生労働省保険局医療課事務連絡)において、「訪問看護ステーションの看護師等が利用者の個別の状況を踏まえずに一律に訪問看護の日数等を定めるといったことや、利用者の居宅への訪問に直接携わっていない指定訪問看護事業者の開設者等が訪問看護の日数等を定めるといったことは認められない」と示しているところである。
三】特別養護老人ホームについて、福祉系のサービスであるにもかかわらず、非営利法人のみが運営を許可されている理由を示されたい。衆議院本会議(平成29/3/28)において、塩崎元厚生労働大臣は、「病院や特別養護老人ホーム等については、高い公益性を有する事業であり、利用者の保護を図るため、株式会社などの営利法人に対しては参入を認めて」いない旨答弁している。病院や特別養護老人ホーム等について、その他の医療・介護事業と比較して「高い公益性」を有する具体的な根拠を明らかにされたい。
五】政府は、病院・特別養護老人ホームを「高い公益性を有する事業」と位置付け、株式会社等の営利法人の参入を認めていないが、その他の医療・介護事業は「高い公益性を有する事業」ではないのか示されたい。「高い公益性を有する事業」との位置付けでない場合、当該根拠を示されたい。また、営利法人の参入が認められている訪問看護のような事業と病院・特別養護老人ホームの違いについて、具体的な事例を示して説明されたい。
三の前段について】お尋ねについては、令和5/5/10の参議院決算委員会において、政府参考人が「特別養護老人ホームにつきましては、重度の方が入居するついの住みかという側面がございましたり、低所得の方が入居しているという実態がございます。また、市町村による措置入所の受入先という側面もございますので、こういった事情を総合的に踏まえまして、その設置主体を地方公共団体や社会福祉法人等に限定されているところでございます」と答弁しているとおりである。
三の後段及び 五の前段について】御指摘の「病院」に関しては、御指摘のように「その他の医療・・・事業と比較して「高い公益性」を有する」及び 「その他の医療・・・事業は「高い公益性を有する事業」ではない」とは述べていないため、このことを前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。また、御指摘の「特別養護老人ホーム」に関しては、三の前段についてで述べたとおりである。
五の後段について】お尋ねの「訪問看護」と「病院」の「違い」に関しては、二の後段についてで述べたとおりである。
また、お尋ねの「訪問看護」と「特別養護老人ホーム」の「違い」については、その趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。
四】前記厚生労働委員会における大臣の答弁では、病院や特別養護老人ホーム等に関して、株式会社等の営利法人による運営を認めない理由として、以下の点が挙げられている。
○患者が必要とする医療と株式会社の利益を最大化するという場合の医療とが一致をしない。
○利益が上がらない場合の撤退によって地域などでの医療の確保に支障が起きる。
○利益を上げるために不必要なあるいは不要な診療が行われて、(中略)医療費の増大も招く。
これらの懸念は、非営利法人であっても生じるものであると考える。むしろ株式会社であれば、株主からの資金調達が可能であり、ガバナンスもより明確であることから、持続可能な経営が行われやすいと考えられるが、政府の見解を示されたい。
四について】お尋ねについては、例えば、平成25/10/30の衆議院厚生労働委員会において、田村厚生労働大臣(当時)が「株式会社は、利益を出して株主に還元する、それが使命で、それをやらなければ経営者自体がかわってしまう、そういう使命を帯びているんですね。ですから、そういう意味からしますと、やはり、非営利であるところよりかは、利益を何としても、それが例えば、完全に悪いことではない、違法ではない、しかし、こういうやり方をやれば利益がとれるんだということになれば、いろいろな方法を合法的にお考えになられる」と答弁し、また、前回答弁書五の⑶についてで述べたとおり、平成27/3/25の衆議院厚生労働委員会において、塩崎厚生労働大臣(当時)が「医療は、税金を払っているけれども非営利を追求するということになっています。株式会社の参入というのがよく言われますが、・・・株式会社の本質はやはり株主が配当を受けるということ」と答弁しているとおりである。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二一六号
令和七年六月十九日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
特定健康診査・特定保健指導に係る費用と効果の検証及び 制度見直しに関する質問主意書
平成20年度に開始された「特定健康診査・特定保健指導」(以下「特定健診等」という。)は、生活習慣病予防を目的として40歳~74歳の被保険者・被扶養者に義務化された制度である。これまでに数千億円規模の公的支出がなされているが、その効果及び 妥当性に関して十分に検証されているか疑問である。令和二年に公表された京都大学・福間真悟氏らの研究(Fukuma S, Iizuka T, Ikenoue T, Tsugawa Y, Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men,全国土木建築国民健康保険組合の男性健診受診者七万五千人の分析)では、特定保健指導の介入による肥満度の改善は軽微であり、血圧・血糖・脂質といった心血管リスクの指標には有意な改善が認められなかったと報告されている(以下「当該研究」という。)。特定健診等が当初目指した「糖尿病等の発症・重症化を予防し、医療費適正化に資する」という目標が実現されていないのであれば、限られた公的財源の適正配分の観点からも、不要な健診の縮小又は 廃止を検討する必要がある。
以上を踏まえ、以下質問する。
一】費用構造及び 支出の妥当性について
⑴ 特定健診等に係る国全体の年間支出額の総額及び 保険者ごとの内訳をそれぞれ示されたい。
⑵ 平成二十年度の開始以降、公的財源の累積支出額を示されたい。
一の⑴及び ⑵ について】お尋ねの「特定健診等に係る国全体の年間支出額の総額」及び
「公的財源の累積支出額」の具体的に指し示す範囲が必ずしも明らかではないが、
第216回国会提出の「令和五年度各省各庁歳出決算報告書」における「支出済歳出額」は、
「警察共済組合特定健康診査・保健指導補助金」が358万3千円、
「全国健康保険協会特定健康診査・保健指導補助金」が19億7641万1千円、
「健康保険組合特定健康診査・保健指導補助金」が27億1743万7千円、
「国民健康保険組合特定健康診査・保健指導補助金」が5億7329万8千円、
「国民健康保険特定健康診査・保健指導負担金」が129億3599万5千円であり、
これらを合計すると182億672万4千円である。また、平成20年度~令和5年度までのこれらの合計額は、3309億5122万円である。
⑶ 特定健診等の費用対効果の検証及び 政策評価が実施された時期を示されたい。また、費用対効果の検証及び 政策評価の方法及び 結果を明示されたい。
一の ⑶ について】御指摘の「費用対効果」及び 「政策評価」に関しては、例えば、令和六年度行政事業レビューシートにおいて、「特定健康診査・保健指導に必要な経費」について、「点検・評価」を行い、「点検結果」として、「特定健康診査・特定保健指導の実施の推進は、加入者の健康の保持・増進及び 医療費適正化の観点から重要な施策であり、国民や社会のニーズを反映している。実施主体である保険者に対して、国が各法に基づき特定健康診査・特定保健指導に要する経費の負担(補助)を行う。第四期医療費適正化計画等における特定健康診査・特定保健指導の実施率等の目標値を達成するために必要な事業であり、優先度が高い。高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、40歳以上75歳未満の被保険者等に対する特定健康診査・特定保健指導に直接的に必要な費用に限定している。各法に基づき保険者に対する負担(補助)率を一/三(一/三相当)に設定し、各保険者と各健診機関との契約状況から健診に係る費用を算定しており効率的である」等としているところである。
⑷ 特定健診等の費用について、一人当たりの全国平均を示されたい。
一の ⑷ について】御指摘の「特定健診等の費用」の具体的に指し示す範囲が明らかではないため、お答えすることは困難である。
二】効果検証及び 科学的根拠について
⑴ 当該研究では、保健指導による心血管リスク指標の改善が認められなかったとされているが、政府は当該研究を把握しているか示されたい。把握している場合、当該研究の結果に対する政府の見解を示されたい。
二の ⑴ について】御指摘の「当該研究」については把握しているが、個別の研究に関して政府として見解を述べることは差し控えたい。
⑵ 特定健診等が、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中等の個別疾患の発症予防に寄与していると明確に評価した科学的根拠(エビデンス)は存在するか示されたい。存在する場合、当該資料を具体的に提示されたい。
二の ⑵ について】お尋ねについては、例えば、平成26年度の厚生労働科学研究費補助金による政策科学総合研究事業「特定保健指導の費用対効果の評価に関する研究」(以下「本件研究」という。)において、「特定保健指導による将来的な医療費および健康状態への影響を推計するために、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病性腎症による人工透析導入の発症抑制に関して、マルコフモデルを用いた推計方法を開発し、二十年間の推計を試みた。その結果、特定保健指導の実施はこれらの疾患の発症を抑制し、介入の費用を考慮しても費用対効果に優れることが示唆」されたところである。また、「予防・健康づくりに関する大規模実証事業(特定健診・特定保健指導の効果的な実施方法に係る実証事業)」(以下「本件事業」という。)においては、「特定健診・保健指導の効果的な実施方法に関する調査研究一式 仕様書」に基づき、「NDBに含まれる2008~2018年の39~75歳の約四千四百万人分」を対象として分析を行っており、厚生労働省健康局長(現在の厚生労働省健康・生活衛生局長)及び 保険局長が参集を求めて開催している、医療保険者や特定健診(高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「法」という。)第18条第一項に規定する特定健康診査をいう。以下同じ。)及び 特定保健指導(同項に規定する特定保健指導をいう。以下同じ。)に関する専門的知見を有する有識者等により構成される「第四期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」において、特定健診及び 特定保健指導の在り方についての検討が行われてきたところ、令和3/12/9に開催された第一回同検討会の資料二―二「予防・健康づくりに関する大規模実証事業(特定健診・特定保健指導の効果的な実施方法に係る実証事業)」において、本件事業の効果分析の結果、「我が国の特定保健指導の効果分析」に、「体重・HbA1cについては統計学的に有意な減少が認められた」ことが確認されているところである。
⑶ 前記二の ⑵ は、当該研究と比較して、科学的根拠(エビデンスレベル、研究デザインの妥当性や統計的信頼性)がより高いものか、根拠と併せて政府の見解を示されたい。
二の ⑶ について】お尋ねについては、二の ⑴ についてで述べたとおり、個別の研究に関して政府として見解を述べることは差し控えたい。なお、政府としては、二の ⑵ についてで述べた本件研究及び 本件事業を始め、二の ⑵ で御指摘の「発症予防に寄与している」ことの確認に当たっては、他の様々な研究を参照しながら、研究結果の妥当性を検証しているところである。
⑷ 特定健診等の実施により、医療費が統計的に有意な水準で削減されたとする実証研究は存在するか示されたい。存在する場合、当該研究のエビデンスレベル(観察研究、RCT、メタアナリシス等)を明らかにされたい。
二の ⑷ について】御指摘の「実証研究」に関しては、例えば、令和三年度に厚生労働省が委託して実施した「第四期医療費適正化計画に向けた特定健診・特定保健指導に係るエビデンス評価のための分析等業務」(以下「本業務」という。)に係る「第四期医療費適正化計画に向けた特定健診・特定保健指導に係るエビデンス評価のための分析等業務一式 調達仕様書」に基づき、「特定保健指導が必要とされた対象群において、実施群と未実施群間での比較」をし、「実施群」の医療費と「未実施群」の医療費とを比較しており、本業務の結果については、令和4/6/28に開催された第四回第四期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会効率的・効果的な実施方法等に関するワーキング・グループの参考資料三「特定健診・特定保健指導の効果検証」において、「未実施群」と比較して「実施群」の医療費が相対的に減少していることから、「「特定保健指導対象者とすること」や「特定保健指導を実施すること」が医療費を抑制する可能性を示唆している」と示しているところである。
三】見直しの必要性について
⑴ 科学的根拠に乏しく、医療資源の有効活用が見込めない場合、特定健診等の縮小又は 廃止を検討すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三の ⑴ について】お尋ねについては、二の ⑵ についてで述べたとおり、二の ⑵ で御指摘の「発症予防」に寄与していることが確認されており、御指摘のように「科学的根拠に乏しく、医療資源の有効活用が見込めない」とは考えておらず、現時点において、「特定健診等の縮小又は 廃止」をすべきとは考えていない。
⑵ 低リスク群への画一的健診ではなく、高リスク群・医療未受診者への健診に対して重点的に投資すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三の ⑵ について】お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、特定健診については、法第20条及び 特定健康診査及び 特定保健指導の適切かつ有効な実施を図るための基本的な指針(平成20年厚生労働省告示第百五十号)の規定に基づき、「糖尿病等の生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的として、メタボリックシンドロームに着目し、生活習慣を改善するための特定保健指導を必要とする者を、的確に抽出するために行う」ことを目的として、「40歳以上の加入者」に対し実施しており、御指摘のように「低リスク群への画一的健診」ではなく、また、厚生労働省が医療保険者等向けに作成した「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第四・二版)」(令和七年六月厚生労働省保険局医療介護連携政策課医療費適正化対策推進室作成)において、「本人同意のもとで保険者が診療における検査結果の提供を受け、特定健康診査の結果データとして活用する」こと等と示しているとおり、既に医療機関を受診している者について、診療における検査と特定健診が重複して行われないよう働きかけを行っているところである。
⑶ 高齢者健診、がん検診、自治体独自健診など、複数制度の統合・効率化による見直しについて、政府の検討状況を示されたい。
三の ⑶ について】お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、御指摘のような「見直し」の「検討」は行っていない。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二一五号
令和七年六月十九日浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
ストレスチェックの対象拡大に伴う予算措置及び 政策効果に関する質問主意書
令和7/5/14、「労働安全衛生法及び 作業環境測定法の一部を改正する法律」が公布された。本法により、ストレスチェックについて、当分の間努力義務となっていた労働者数50人未満の事業場に対しても、実施が義務化された。当該改正により、対象事業場が大幅に拡大することから、ストレスチェックの実施体制や予算措置、政策効果の検証が一層重要となる。
以上を踏まえ、以下質問する。
一】ストレスチェックの対象拡大に伴う予算措置について
⑴ 労働者数五十人未満の事業場に対してストレスチェックを義務化することにより、新たに必要となる予算措置の見込額を示されたい。
一の⑴について】御指摘の「労働者数50人未満の事業場に対してストレスチェックを義務化すること」については、労働安全衛生法及び 作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号。以下「改正法」という。)の公布の日(令和7/5/14)から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日の施行に向けた準備を進めているところであるため、現時点においてお尋ねについてお答えすることは困難である。
⑵ 小規模事業場におけるストレスチェック実施に対する支援策(助成金、外部委託支援等)の具体的内容及び 予算規模を示されたい。
二の⑴及び ⑵について】お尋ねの「労働者のメンタルヘルス不調の予防」「に寄与しているとする科学的根拠(エビデンス)」及び 「エビデンスの研究デザイン(ランダム化比較試験、観察研究等)」については、平成30年7月発行の「Journal of Occupational Health」に掲載された論文「Effect of the National Stress Check Program on mental health among workers in Japan: A 1-year retrospective cohort study」において、ストレスチェックの受検と労働時間の短縮、働き方の改善、職場内のコミュニケーションの改善等の職場環境の改善について両方経験した労働者は、いずれも経験していない労働者に比べて心理的ストレスが低下したことがコホート研究により確認されている。また、御指摘の「エビデンスの信頼性」の意味するところが必ずしも明らかではないが、当該論文の結果においては、統計的に有意差があることが示されている。一方、「医療費の削減」「に寄与しているとする科学的根拠(エビデンス)」及び 「エビデンスの研究デザイン(ランダム化比較試験、観察研究等)」については、政府として把握していない。
⑶ ストレスチェックの実施に関する過去五年間の国費支出額を年度別に示されたい。
一の⑶について】お尋ねの「ストレスチェックの実施に関する」「国費支出額」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、産業保健活動総合支援事業等の「支出額」に関する御質問であるとすれば、これらの「支出額」のうち、ストレスチェックに関する「支出額」は、
令和元年度が約50億円の内数、
令和2年度が約51億円の内数、
令和3年度が約51億円の内数、
令和4年度が約61億円の内数及び
令和5年度が約45億円の内数である。
二】ストレスチェックの政策効果に関するエビデンスについて
⑴ ストレスチェックの実施が労働者のメンタルヘルス不調の予防や医療費の削減に寄与しているとする科学的根拠(エビデンス)は存在するか示されたい。存在する場合、その仔細(具体的な研究成果)を示されたい。
⑵ 前記二の⑴に関連して、エビデンスの研究デザイン(ランダム化比較試験、観察研究等)及び エビデンスの信頼性について、それぞれ明示されたい。
一の⑵について】御指摘の「小規模事業場におけるストレスチェック実施に対する支援策(助成金、外部委託支援等)の具体的内容及び 予算規模」については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の十第一項の規定に基づく心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」という。)に関連する事業として、地域産業保健センターにおいて、ストレスチェックの結果、心理的な負担の程度が高い者に対する医師の面接指導等を行っている産業保健活動総合支援事業等(以下「産業保健活動総合支援事業等」という。)があり、産業保健活動総合支援事業等の予算額のうち、ストレスチェックに関する予算額については、令和7年度は約52億円の内数である。なお、今後の「支援策(助成金、外部委託支援等)の具体的内容及び 予算規模」については、一の⑴についてでお答えしたとおり、改正法の施行に向けた準備を進めているところであるため、現時点でお答えすることは困難である。
⑶ ストレスチェックを導入後、労働者の自殺率やメンタルヘルス関連の労災請求件数に有意な変化があったか、統計データを示されたい。
二の⑶について】お尋ねについては、御指摘の「労働者の自殺率やメンタルヘルス関連の労災請求件数」の「変化」には様々な要因が影響するものと考えており、お尋ねの「有意な変化があったか」については、一概にお答えすることは困難であるが、お尋ねの「統計データ」については、例えば、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は 葬祭を行う者の同法に基づく請求のうち、精神障害に係る請求件数は、「ストレスチェックを導入」する前の平成26年度において1,456件、令和5年度において3,575件であり、このうち自殺に係る請求件数は、平成26年度において213件、令和五年度において212件であることを把握している。
三】ストレスチェックの実施体制及び 今後の見直しについて
⑴ 労働者数50人未満の事業場においてストレスチェックを実施するに当たり、外部機関の活用やプライバシー保護の観点から、どのような実施体制を想定しているか示されたい。
三の⑴について】お尋ねについては、令和7/1/17の労働政策審議会において、「今後の労働安全衛生対策について(報告)」の建議が行われ、同建議において「労働者のプライバシー保護の観点から、原則として、外部委託を推奨することが適当である」「50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施については、その円滑な施行に資するよう、国においては」「50人未満の事業場に即した、労働者のプライバシーが保護され、現実的で実効性のある実施体制・実施方法についてのマニュアルの整備(特に十人未満等の小規模な事業場については、その実情を考慮した取り組み可能な実施内容を示す)」「高ストレス者の面接指導に無料で対応している地域産業保健センターの体制整備」「など、50人未満の事業場に対する十分な支援策を講じるべきである」とされたところであり、これを踏まえ、御指摘の「外部機関の活用やプライバシー保護の観点」も含め、お尋ねの「実施体制」について今後検討してまいりたい。
⑵ ストレスチェックの効果が限定的である場合、見直し(任意制度化、民間主導への移行等)を検討する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
三の⑵について】御指摘の「ストレスチェックの効果が限定的である場合」の「見直し(任意制度化、民間主導への移行等)」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、二の⑴及び ⑵についてでお答えしたとおり、ストレスチェックの受検と労働時間の短縮、働き方の改善、職場内のコミュニケーションの改善等の職場環境の改善について両方経験した労働者は、いずれも経験していない労働者に比べて心理的ストレスが低下したことがコホート研究により確認されており、また、令和7/4/8の参議院厚生労働委員会において福岡厚生労働大臣が答弁したとおり、「ストレスチェック制度は、高ストレス者に対する医師の面接指導と相まって、労働者が自身のストレスの状況への気付きを得る機会となるものでございまして、こうした機会は小規模事業場の労働者であっても与えられることが望ましい」ことから、改正法により、一の⑴で御指摘のように「労働者数50人未満の事業場に対してストレスチェックを義務化すること」とされたものである。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二一四号
令和七年六月十九日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
政府が行う推計と実績の乖離要因分析の必要性に関する質問主意書
内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省は2018年5月に公表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」において、団塊の世代が後期高齢者となる2025年度における「社会保障給付費の見通し」(以下「当該推計」という。)を示した。当該推計中、経済:ベースラインケースかつ計画ベースの場合、医療給付費は①47.8兆円(GDP比7.4%)、②47.4兆円(同7.3%)、介護給付費は15.3兆円(同2.4%)であった。しかし、2024年度の社会保障給付費(予算ベース)では、医療給付費は42.8兆円(同6.9%)、介護給付費は13.9兆円(同2.3%)にとどまり、当該推計との差はそれぞれ数兆円規模となっている。
当該推計は、消費税増税や各種保険料の引上げなど、国民に対する負担を正当化するための根拠として用いられてきたため、実績との差異がある場合、その妥当性や検証体制の在り方を見直す必要がある。以上を踏まえて、以下質問する。
一】当該推計と実績の乖離に関する事実確認について
⑴ 当該推計(経済:ベースラインケース、計画ベース)と2024年度の社会保障給付費(予算ベース)との金額及び GDP比における差異を明示されたい。
⑵ 前記の差異が生じた主な要因(医療・介護単価の伸び率、診療報酬・介護報酬改定、人口構造の変化、受診行動の変化、制度改正等)について、政府の公式な分析結果は存在するか示されたい。存在する場合、当該概要を示されたい。存在しない場合、分析を行っていない理由を明らかにされたい。
二】推計と実績の乖離の検証に関する方針について
⑴ 医療・介護給付費に限らず、当該推計と実際に計上された予算額や決算額との乖離について、体系的な検証・評価(レビュー)を行ったか示されたい。行った場合、当該概要を示されたい。行っていない場合、検証・評価を行っていない理由を明らかにされたい。
一及び 二の⑴について】「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(平成30/5/21日経済財政諮問会議提出。以下「社会保障の将来見通し」という。)においては、御指摘の「経済:ベースラインケースかつ計画ベースの場合」、令和七年度においては、社会保障給付費が「140.2~140.6兆円」、社会保障給付費の対GDP比が「21.7~21.8%」と示している。
また、御指摘の「2024年度の社会保障給付費(予算ベース)」(以下「2024年度社会保障給付費」という。)は137兆8千億円、2024年度社会保障給付費の対GDP比は22.4%である。
その上で、社会保障の将来見通しについては、「留意事項」として、「本見通しは、一定の仮定をおいて行ったものであり、結果は相当程度の幅をもってみる必要がある。特に、長期の推計であるため、長期間の人口変動の動向とこれが経済社会に与える影響、経済、雇用の動向、給付単価の伸び率の動向等が、給付費の総額や対GDP比等の結果に大きな影響を与える可能性があることに留意する必要がある」としており、また、「将来見通しの位置付け」として、高齢者人口がピークを迎える「2040年頃を見据え、社会保障給付や負担の姿を幅広く共有するための議論の素材を提供する」とし、国民的議論を喚起することを目的としたものであるため、両者を単純に比較することは適当ではないと考えており、お尋ねの「差異」の算出は行っておらず、また、御指摘のような「分析」及び 「検証・評価」は行っていない。
⑵ 推計が政策の根拠となる以上、推計と実績の乖離を定期的に検証し、次回以降の推計精度の向上につなげる必要があると考えるが、政府として「推計と実績の乖離のレビュー制度」や「外部評価の導入」を制度化する方針があるか示されたい。
二の⑵について】御指摘のように「定期的に検証」することについては、一及び 二の⑴についてで述べたとおりであり、考えておらず、また、例えば、社会保障の将来見通しにおいては、「人口・経済の前提、方法等」として、「人口前提」は、「国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位(死亡中位)推計)」、「経済前提」は、「2027年度までは、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(平成30/1)等、2028年度以降は、公的年金の平成26年財政検証に基づいた前提値」を用いるとともに、「将来見通しの作成方法(全般的考え方)」は、「公的年金」、「医療、介護」、「子ども・子育て」及び 「上記以外」ごとに、各制度における適宜の内容等を基に推計しているところ、御指摘の「次回以降の推計」についても、こうした適宜の客観的な推計等を用いながら推計することが適切であると考えており、御指摘のような「制度化」は考えていない。
三】政策的前提の妥当性及び 今後の対応について
⑴ 前記のように、推計と実績との間に大幅な乖離が確認される場合、当該推計を基に導入・実施された政策(例:消費税率引上げ、子ども・子育て支援金制度、各種保険料の引上げ等)について、再評価や財政的再設計の必要性があると考えるが、政府の見解を示されたい。
三の⑴について】お尋ねの「当該推計を基に導入・実施」及び 「再評価や財政的再設計」の意味するところが必ずしも明らかではないが、社会保障の将来見通しは、一及び 二の⑴についてで述べたとおり、「一定の仮定をおいて行ったものであり、結果は相当程度の幅をもってみる必要があり」、また、高齢者人口がピークを迎える「2040年頃を見据え、社会保障給付や負担の姿を幅広く共有するための議論の素材を提供する」とし、国民的議論を喚起することを目的としたものであるところ、各政策については、この社会保障の将来見通しのみをもって企画立案されるものではなく、また、各政策の評価や再検討等は個別具体の課題に応じて適切に行われるものであると考えている。
⑵ 今後の社会保障給付費に関する推計において、統一された前提条件の明示(医療・介護単価、制度改革の影響、経済成長率など)や、予測誤差の可能性も含めた不確実性の注記など、推計の信頼性・透明性を高める取組を行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
三の⑵について】社会保障の将来見通しにおいては、御指摘の「前提条件の明示」に関して、「人口前提」、「経済前提」等の「前提条件」を「明示」し、また、御指摘の「不確実性の注記」に関して、一及び 二の⑴についてで述べたとおり、「留意事項」として、「本見通しは、一定の仮定をおいて行ったものであり、結果は相当程度の幅をもってみる必要がある。特に、長期の推計であるため、長期間の人口変動の動向とこれが経済社会に与える影響、経済、雇用の動向、給付単価の伸び率の動向等が、給付費の総額や対GDP比等の結果に大きな影響を与える可能性があることに留意する必要がある」としているところであり、引き続き、御指摘の「今後の社会保障給付費に関する推計」に当たっては、こうした「明示」等を行い、「推計の信頼性・透明性を高め」ながら取り組んでまいりたい。
第217回国会(常会)質問主意書 質問第二一三号
令和七年六月十九日 浜田 聡 参議院議長 関口 昌一 殿
子ども・子育て関係費の推計における人口前提の妥当性に関する質問主意書
厚生労働省等が2018年に公表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」では、子ども・子育て関係費について、「2020年度以降給付の対象となる子ども数を固定した形で推計」されている。つまり、2020年度以降、子ども数は減らない前提の下で推計がなされている(以下「当該政府推計」という。)。しかし、出生数は年々減少しており、2023年には75万人を割り込む水準となった。人口減少、とりわけ少子化の進行は極めて確実性の高い予測可能事象である。そのため、「子ども数を固定」した仮定に基づく将来推計は、財政支出の過大見積りを招くおそれがある。当該政府推計は、子ども政策に関する予算措置や財源構成(保険方式・拠出金方式等)の設計に一定の影響を及ぼしてきた経緯があるため、前提の妥当性及び 制度的影響を検証する必要がある。
以上を踏まえて、以下質問する。
一】子ども数を固定する前提に関する事実関係について
⑴ 当該政府推計について、「子ども数を固定」した理由(推計において、子ども数が今後減らないことを前提とした理由)を示されたい。
⑵ 前記一の⑴について、「子ども数を固定」することを前提条件の一つとして決定するまでの経緯の詳細について、検討プロセスを含めて具体的に説明されたい。
一の⑴及び ⑵について】「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(平成三十年五月二十一日内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省作成。以下「社会保障の将来見通し」という。)における社会保障給付費のうち「子ども・子育て」分の将来見通しの前提条件として、御指摘の「「子ども数を固定」した理由」は、出生数が減少している中で、少子化対策として平成29/6/2に厚生労働省が公表した「子育て安心プラン」等による各種政策の効果も相まって、将来における「給付の対象となる子ども数」の推計が困難であることから、関係府省庁において、令和二年度以降一定と仮定して推計したものである。
⑶ 「子ども数を固定」する前提が、直近の実績(出生数の大幅な減少)と推計の乖離を拡大させている主な要因であると考えられるが、政府の認識を示されたい。
一の⑶について】お尋ねの「「子ども数を固定」する前提が、直近の実績(出生数の大幅な減少)と推計の乖離を拡大させている」の意味するところが必ずしも明らかではないが、一般的に、将来の人口や経済状況を見通すことには不確実性を伴うため、御指摘の「乖離」の「要因」について一概に特定することは困難である。
二】推計の妥当性及び 影響の検証について
少子化が進行しているにもかかわらず、子ども数が今後減らないことを前提として「子ども数を固定」して推計したことによって、当該政府推計が本来よりも高い水準の支出を正当化する根拠となるおそれが高い。
⑴ 子ども数が今後減らないことを前提として政府が行った試算又は 推計はあるか示されたい。ある場合、当該試算又は 推計を全て示されたい。また、当該試算又は 推計を根拠として予算編成された政策等がある場合、当該政策等(例:こども保険構想、支援金方式など)を全て示されたい。
二の⑴について】御指摘の「子ども数が今後減らないこと」の意味するところが必ずしも明らかではなく、また、調査に膨大な作業を要することから、お尋ねに網羅的にお答えすることは困難であるが、御指摘の「子ども」が子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第六条第一項に規定する「子ども」を、御指摘の「今後減らないこと」が複数年にわたる「試算又は 推計」の対象とする期間において一定であると仮定することを指すのであれば、政府において把握している限りにおいては、例えば、国の審議会等に提出された「政府が行った試算又は推計」及び 「当該試算又は 推計を根拠として予算編成された政策等」はないものと認識している。
⑵ 将来推計が制度設計や国民負担の前提となる場合、子ども数等の前提条件の妥当性を外部有識者等がレビューする制度を設ける必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
⑶ 前記二の⑵について、制度を設ける必要がないと考える場合、少子化という我が国の主要な課題さえ前提条件に入れられない現在の政府の試算又は 推計の妥当性を担保するためには、何らかの措置を講じる必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
二の⑵及び⑶について】御指摘の「将来推計」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにしても、政府における各種の「試算又は 推計」については、その目的と性格に応じて、適切な手法が採用されていると考えており、一律に、「外部有識者等がレビューする制度」等の「何らかの措置を講じる必要」があるとは考えていない。
三】今後の見直しの方針について
⑴ 当該政府推計は、今後の新たな推計において修正される予定があるか示されたい。ある場合、当該時期及び 修正方針を示されたい。ない場合、当該理由を示されたい。
⑵ 子ども数の推移に応じて、自動的に子ども・子育て関係費も見直される制度的仕組み(スライド制等)を導入する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
三について】お尋ねの「今後の新たな推計」及び 「子ども数の推移に応じて、自動的に子ども・子育て関係費も見直される制度的仕組み(スライド制等)」の意味するところが必ずしも明らかではないが、社会保障の将来見通しにおいては、留意事項として、「本見通しは、一定の仮定をおいて行ったものであり、結果は相当程度の幅をもってみる必要がある。」としており、一般的に、将来の人口や経済状況を見通すことには不確実性を伴うため、将来見通しの前提と実績値の間に違いが生じたことのみをもって、社会保障の将来見通しの「見直し」をすることは現時点で考えていない。