「おベンツさまに笑われる」怯えるアクア。
「たぶん・・・・着いたと思う・・・・」アクアの中。華子に電話する。「着いた???今出てくね」きゃはははは・・・・華子の笑い声が聞こえる。コンクリートの塀。中が見通せる、パイプのシャッターのついた邸宅。・・・・中には、車が3台停められるスペースがある。停まってるのは、ベンツが1台だけ。その後ろには「白亜の城」ってな邸宅がドドンとひかえていた。・・・・しっかし・・・・なんだよ、この家・・・いや、まぁ、この辺、こんな家ばっかりだけど・・・「田園調布」恐るべし。華子がシャッター脇から出てきた。薄いピンクのマスク姿。真黒なパンツルック。真白なニット。・・・・・「The・宝塚」そのまんま。いつもながら、「男前」ってな出立ちだ。洋服には疎いボクでも、けっこーなブランドなんだろう想像はつくオーラがある。家が家だ。・・・たぶん、このニットだけで、ボクの、シャツから・・・・スニーカーまでが買えちゃうんじゃないかと思った。・・・・で、何が入ってんだか、大きなバッグを持っている。・・・・なんだか、ボクの知らないブランドの、ごっつい金具がシルバーに光っている。2泊くらいできそうな荷物だ。貧相なアクアから降りる。きゃはははははは。華子爆笑。「なーにーこの車???」指差し爆笑。なにが、「なーにー」だ。こいつは、トヨタが誇るハイブリッド車。名車「アクア」って車だ。「ハイブリッド・・・???ハイブリッドってプリウスなんじゃないの???」うるせー。トヨタのハイブリッドってのは、いっぱいあるんだよ。・・・・・ボクだって、前はプリウスに乗ってたんだ・・・・これは口には出さない。「そうなんだぁ~~~~~」きゃははははは。物珍しそうに、アクアの周りを一周する。アクアが、尚一層、恐縮してるような感じがする。怖いおねーさんを目の前に、怯えた子犬みたいに小さくなっている。どうにも、場違いな感じ。・・・・さらには、シャッター奥からは、眼光鋭く、猟犬さながらに、「おベンツさま」がアクアを射貫いている。・・・・ま、いいっか・・・・って感じで、華子が、アクアの助手席を開けた・・・・・・・・・固まった・・・・「・・・・・うう・・・汚い・・・・」華子の心の声が聞こえた。ざざざ~~~~~~っと掃除はしたんだけど・・・・確かに、埃っぽい・・・・華子の、「真白」ニット、「真黒」パンツに埃がつきそうだ・・・「カズくん・・・・・」開けたドアを持ったまま言った。「カズくん、左ハンドル大丈夫だよね・・・・??」上目遣い、キリリとした眼力でボクを見る。・・・・・はぁ~~~~ぁ・・・・???「シューちゃんで行こう」・・・・シューちゃん???「私のシューちゃんで行こう」華子が示した視線の先。おベンツさまが鎮座していた。ヤツは、ボクを見て、鼻で笑ってるような気がした。「・・・・おまえ・・・・オレを運転しようってのかい・・・・???・・・フフンのフン・・・」