以前こちらの記事で、もしかしたら花城は謝憐に自分のことに気付いてほしかったのでは、と少し書きました。書いた当初はふと思った程度なのですが、今日は考察を含め、詳しく見ていきたいと思います。(ネタバレを含みます。)

上の記事でも書きましたが、八百年前、謝憐は牛車を使って子供の花城を皇極觀に連れていきました。八百年後、二人で一つの牛車に乗りながら、菩薺觀に向かっています。この時、どうしてここにいるか聞かれた花城は、「家族と喧嘩して追い出された。たくさん歩いたけど行くあてがなくて。」と八百年前、子供の頃に聞かれた時と全く同じ回答をしています。牛車での出会い、八百年前と同じ回答、もしかしたら花城の中でほんの少しでも思い出してくれるかな?という期待もあったのではないかと思うのです。

 

牛車で出会ってから、帰りがけに鬼達に出くわしますが、鬼と対峙する中で、少年が驚くこともなく、怖がることもなく、慌てることもなく、非常に冷静なことに気が付きます。普通、鬼に出くわしたら、普通の少年なら驚いたり、怖がったり、もっと別な反応をするはずなのです。謝憐と三郎と爺さんが鬼に出くわしてから、謝憐はその日が中元節であることに気が付き、若邪を使って三人の身を隠します。三郎は謝憐の後で、「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫じゃない。怖い。」と言いますが、その声は全く怯えているような声ではないのです。少年の態度も始終、落ち着いているのです。謝憐はこの時から三郎の正体を疑っていました。

 

その後、三郎は太子悅神図を見事に描きあげます。いくら三郎が博識であっても、仙楽太子の画像も神像も八百年前にほとんど破壊されてしまっているので、ほとんど残っていないのです。それなのに、細かいところまで見事に描きあげる事が、どれだけ不思議なことか、謝憐にもわかるはずです。牛車でも、仙楽太子について「もちろん知っている」と三郎は答えていました。

では、そのような状況を、どう説明するのが自然なのか?ただ花城の演技が下手なだけなのか?もちろんそんなことはありません。後半、君吾と対峙する時に、花城は君吾でさえ騙す事ができているので、本当に演技しようと思うなら演技力も悪くないのです。なので、それらは花城が謝憐にわざと出したヒントだと考える方が辻褄が合う気がします。つまり、花城は最初から身分を隠す気はさらさらなく、よって演技する必要もなく、どちらかと言えば謝憐に気付いてほしかったのではないかと思います。

 

そもそも、花城は何のために謝憐の前に現れたのか?を考えるとより理解しやすくなります。完璧に身分を隠して謝憐を騙すためではないですよね。徐々に謝憐に自分の正体について見当をつけてもらい、自分には悪意がないことを確認させ、一緒に行動を共にする中で、自然に自分を受け入れてほしかったのではないかと思います。

 

謝憐もそれに応えるかのように、三郎が普通の人間ではないと疑い始めてから、髪をじっくり観察したり、手を見ることで鬼かどうか確認しようとしました。しかしどちらも綻びがなく、本物の人間でないなら、「絶」等級の鬼でしかないと、確信させたのです。

 

最終的に謝憐は罪人坑の下で三郎が花城だと確信します。一瞬で数多くの鬼を始末したこと、靴についているチェーンの微かな音、蝎尾蛇が謝憐と花城だけに攻撃を仕掛けないことで、花城が蝎尾蛇を制御していると分かるし、花城は特徴的な赤い傘を開きます。

謝憐は勘が悪い人ではないので、ここまですれば気が付かないわけがないのです。でもこの時には、すでに謝憐は花城には悪意がないことも分かっていたし、絶等級の鬼だと気がついても、自然に受け入れることができています。

 

 

花城はどうして謝憐に直接、自分が八百年前に助けてもらった子供だと言わなかったのか?他の記事で書いたこともあるのですが、花城が人間として戦死した後、謝憐に魂を救われる場面があり、(謝憐は自分が助けた子供の魂だとは知りません)なかなか離れていかない魂を見て、「どうしてこの世を離れないの?」と尋ねます。「この世にまだ愛する人がいるから守りたい。」「その人がそれを知ると、きっと負担に感じると思うよ。」「それなら、その人に気付かれないように守る。」というような会話を交わしているのです。

 

そのため、花城は鬼火の姿の時も、無名の姿の時も、謝憐に自分自身があの時助けてもらった子供だとは言いませんでした。今回の再会もその時の約束を守って、自分がその時の子供だとも、無名という黒武者だったことも言わなかったのではないかと思います。

 

 

・・・いかがでしょうか?最初は気づいてほしかったというのは、少し深読みすぎるかな?とも思ったのですが、考察する中で一度そう思うと、どうしてもそんな気がしてきたのです。

 

ちなみに、この記事では、花城がなぜ神官ではなく鬼になるのを選んだのかについても書きました。考察が深まる中で、説得力のある理由がいくつか増えたので、付け足しました。もし良かったら、こちらも合わせて読んでみてください。

 

 

 

 

MAU SAC