はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、岡田英弘さんの「世界史の誕生」を読んだので、それについてです。歴史の中身だけでなく、その概念自体を、改めて考え直してみましょう。
各作品についているリンクからは、私がこのブログの中で書いたそれぞれの作品の感想に飛ぶようになっています。そちらもよろしければご覧ください。
「世界史の誕生」岡田英弘(ちくま文庫)
世界には、歴史のある文明と、ない文明がある。歴史がある文明は、ヨーロッパと中国の二つと、それらに対抗して派生した文明だ。そして、このヨーロッパと中国の二つを一つに結びつけ、「世界史」として扱えるようにしたのはモンゴル帝国だった。モンゴル帝国は、現在の情勢にも深く関わってきており、またそれを分析することで、従来の歪んだ歴史観に振り回されない、事実を正確に投影した歴史を完成させることができる。
というのが、おおまかなこの本の概要だろうか。つかみ切れていない部分もあるので、不安は残るが、おおよそこんな感じである。
どうしてこの本を手に取ったのかという話から始めよう。私は、上橋菜穂子さんの「精霊の守り人」に始まり、荻原規子さんや十二国記、それから銀河英雄伝説など、異世界での歴史を感じさせる物語が好きだった。そして、銀英伝から、現実の歴史にも興味を抱き、塩野七生さん(「海の都の物語」 「わが友マキアヴェッリ」など)などの作品を読むようになったのだ。このあたりのことは、また詳しく語ろうと思っているが、だいたいそんなところである。
塩野七生さんの作品は、どれも面白く、実に楽しんで読んでいるが、問題は、それらの本が世界史のどこに位置しているかわからない、ということである。歴史が局所的なのだ。細かい事実をたくさん知ることはできるのだが、その代わり、当時の世界全体の観点が私には欠けている。それを解決したいと思い、この本を手に取った。
大きな視点は、かなり手に入ったと思う。固有名詞が覚えられていないので、まだまだ不正確なものではあるが、読む前に比べれば格段に世界史というものが見やすくなった。ただ、塩野さんとこの「世界史の誕生」の狭間にあるところが分からないので、そこをこれから埋めていきたいと思った。
ところで、歴史というものは、この本にもある通り、事実だけでは成立しえない。ヨーロッパ史においては変化が、中国史においては正統性が重視される。そのような歴史観を軸として、今まで歴史は研究されてきたということらしい。だから、筆者はこう言う。
単なる東洋史と西洋史のごちゃ混ぜでない、首尾一貫した世界史を叙述しようとするならば、とるべき道は一つしかない。文明の内的な、自律的な発展などという幻想を捨てて、歴史のある文明を創り出し変形してきた、中央ユーラシア草原からの外的な力に注目し、それを軸として歴史を叙述することである。(中略)これを実行するためには、二つの歴史ある文明が、これまでに自己の解釈、正当化のために産み出してきて、歴史家が自明のものとして受け入れてきた概念や術語を一度捨てて、どちらの文明に適用しても論理の矛盾を来さない、筋道の通った解釈を見つけだすことが必要である。
感心した。つまり筆者は、歴史の解釈の歴史、つまり「歴史の歴史」を捨てるべき、と論じているのだ。概して、私たちは歴史を理解するためには、現代の時流というものをなくせない。
たとえば、民主主義などが良い例だろう。民主主義の中に生きる私たちは、それを絶対的な善として見て、君主主義を悪として見ざるをえない。それを大半の人は自覚せずに享受している。私も、このことに気づいたのは最近読んだマキアヴェッリの「君主論」のおかげなのだが、それは一旦置いておくとして、私たちの知っている歴史は、現代の目というものなくしては学べないものなのだ。大事なのは、それを認識することだと思う。
さて、先ほど言及した十二国記だが、世界観としては中華に近い、というようなことを何度も聞いてきた。しかし、名前が漢字であること以外に、それらしいものが今までよく分からなかったのだ。だが、この本を読んで、中国の歴史観をそのまま事実として扱っているから、中華ものとして扱われるのだということがよくわかった。天命が革まる、などはまさにそれである。今まで知らなかったので、ずいぶん新鮮に感じられた。
それから、歴史についての違和感が、払拭された。ヨーロッパも日本も封建制、ということを不思議に思っていたのだが、なるほど、それは誤訳なのである。こういうことは、学校ではまず学べない。こういうものが、読書の醍醐味なのかもしれないと思った。
新たな解釈による、古い歴史。それを自分の中に構築できるように、歴史の本を読んでいきたいと思う。
おわりに
というわけで「世界史の誕生」についてでした。次回は、同じく岡田英弘さんの「歴史とは何か」を読みたいと思っています。時間と空間の理論についても、ホーキングの本がある気がするので、それも手をつけてみたいです。歴史自体についてが終わったら、三国志でも読みたいと思っていますが、どうなることやら……。
それでは、また。最後までご覧いただきありがとうございました。